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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第56話 10年前



~10年前~

 今、過去の記憶が鮮明に蘇る。幼い頃だと言うのに、まるで昨日の事の様に思い出せる。

 リュウキがいたそこは、あらゆる分野で突出した能力を持つ少年達が集められていた施設。

《能力開発研究所》

 そう呼ばれている場所。

 そこでリュウキは育った。もう、物心ついた時には既に両親はいなくて、そしてその施設も 所謂通常の学校の様な活気が溢れているような場所ではない。それぞれが通常の歳の子供より遥かに知能の高い子供達。決して 馴れ合いはせず、ただ自分たちの能力を伸ばすだけの事しかしていなかった。

 そして、それが不自然だとか、おかしいとは思う子供は誰一人としていなかった。
 何故なら、それが当然で当たり前であり、自分達の小さな現実世界の中でも、当然の事 当たり前の事だと解釈していたからだ。


「さてとっ!」

 幼き日のリュウキは、目の前のコンピュータの前にある椅子に飛び乗ると、メインスイッチを入れた。
 自身の突出した技能は、多項目あったが、その中でもコンピュータ関係が飛び抜けていた。
 プログラミングを最も得意としているが基本的に何でも問題ない。
 システムエンジニア、サポートエンジニア、システム、セキュリティ、ネットワーク関連、そして 最近では、フルダイヴ技術も少々、オールマイティと言う言葉がこれ程まで当てはまる子供は居なかった。判らない事は直ぐに自らが調べて身に付ける故に、指導者も必要最低限しか要らなかったのだ。


「こんな感じ……かな。うんっ、ばっちりっ!」

 それはある会社に提供するシステム防御プログラムを解析した、ある程度の欠点と穴を潰し終えた所だった。 所要時間は、1時間程だった。だけど、その膨大なシステムの大波を、いとも容易く渡りきった手腕。ベテランプログラマーでも、半日は掛かりそうな筈なのに、彼はあっという間に終わらせてしまった。

「流石だ……。そこらのプログラマーとは比べ物にならないな」

 目を見張らせながらリュウキの事を見ているのは、ここの所長である狭山。
 その仕事は主に所長がもってくるものだった。その出来具合を確認するのも所長だった。

「そうですね。坊ちゃんは、……彼はすばらしい。亡きご両親もきっと……」

 その隣にいるのは、リュウキの日常生活の世話をしてくれる人がいた。

 名を、《綺堂源治》。

 そう、後のリュウキが爺やと慕う人だ。その2人をよそに、再びコンピュータの操作を始める。確かに1つの仕事がが終わっただけで、今ある仕事が全て終わった訳じゃないから。


 その後数時間、…ぶっ通しで作業を続けた。


「……そろそろ、休憩にしてはどうでしょう?」

 時折様子を伺いに来ていたのは綺堂だ。いつまでも手を休めないリュウキを見かねて、肩を叩いた。確かに知能が高いとは言え、まだ 育ち盛りな子供には代わりない。無理してるとは思えないけれど、自覚症状が出ていないのであれば、危険だから。

「ん~。そうかな? ……うん、そうだね、わ、もうこんなに時間、経ってたんだ?」

 リュウキは、今の時間を確認して、驚きつつ 頷いた。
 この施設の中で、リュウキは綺堂だけには凄く信頼をしているか。この施設において彼だけが沢山自分の話を聞いてくれる、話をしてくれる。……そして、色んな世話をしてくれる。

 そして、何より笑顔で接してくれる。

 リュウキ自身は、初めは邪険をしていた時もあった。でも……それでも、離れずに自分に構ってくれていた。だんだん、リュウキの心の中に入ってきてくれたんだ。だからこそ、リュウキも心を開くことが出来た。

「うんっ。言うとおりにするよ! こーんなに、時間経ってたんだねー」
「はい。そうですよ。一度お戻りしてはどうでしょう? ……美味しい料理を振舞いましょう」

 綺堂は、リュウキに向かってニコリと笑みを見せた。リュウキは、その顔が一番好きだったんだ。

「え! ほんとっ!? うんっ! 帰るよっ!」

 リュウキはそれを訊くと、ピョンっと立ち上がり その手をつかむ。

 その光景は、子が親に飛びつくそれと全く違わない。

「ははは。はい。帰りましょう」

 綺堂は、手を握り返すとこの施設を後にしたのだった。






~深夜 能力開発研究所~



 夜も更けり、この施設で活動をする者は誰もいなくなった深夜の事。

「くくく………。やはり素晴らしいな……彼は。おっと電話か」

 施設の所長室にて、そこに一本の電話がかかってきた。

「はい……。例の件ですか? ……はい。大丈夫です。期限までには 絶対に」

 ニヤリと笑みを浮かべながら話を続けた。それは、綺堂の笑みとはまるで違う笑みだ。

「……はい。そうですね。彼の能力の高さはご存知でしょう……? はい。……確かに」

 所長の表情は更に一段階増した。禍々しい笑みに。

「その件は大丈夫……。もう一人……彼と彼女なら、大丈夫でしょう。強力な防御システム、そしてその完成も……。はい。大丈夫でしょう。ハッキング・プログラムにも……。強力なコンピュータ・ウイルスにも……。全てに転用できます。そして……何よりも……あの研究にも、多いに役立つでしょう」

 途中からの言葉。不穏な気配がする言葉だ。

――ハッキング、ウイルス。

「大丈夫です。お任せください……。はい。それよりも例の件……大丈夫ですよね?」

 その後、表情がは歓喜のものに変わっていた。どうやら望み通りの結果が得られたのだろう。

「……おおお。それは良かった。はい……。ええ」

 そして……その後5分程たって。

「ありがとうございます……。例の口座によろしくお願いします。……では、後ほど」

 それを最後に電話を切った。

 


「くくく………。とんでもないモノになったものだ。」

 ニヤリとしながら椅子に腰をかける。そしてタバコを取り出し咥え、火を着ける。

「だがしかし……これ程大きな商談になるとはな……。まぁ 研究の内容を考えたら……当然だが」

 笑みが、全く崩れない。どうやら、顔が破顔する程の商談だったのだろうか。その後も……彼の表情は歪みっぱなしだった。邪悪な所長のその素顔。その本性は施設の誰も知らない。
 その本性がわかった時、悪夢と言う名の仕事の始まりでもあった。




~更に数日後~


 能力開発研究所にて。

「ん………」

 リュウキは、今日もいつも通りコンピュータの前に座って作業を続ける。いつもと何ら変わらない一日だった。

「……あれ??」

 ディスプレイの端にアイコンが現れた。誰からか、メッセージが届いたのだ。

 差出人には、≪Sunny≫とあった。

 聞いた事の無いHNだった。

「……S、u、n、n、y。さにー、サニーだよね? それとも太陽? えっと……誰だろう?」

 メッセージが来るとすれば、それは能力開発の一環で行っている仕事。企業への連絡確認のみである。だから、大抵は会社の名前が差出人で、そもそも、自分にメッセージを送ってくるものでHNを使った相手は殆どいないんだけれど。
 何より、差出人がHNなのも初めての事だった。ネットゲームならまだしも。

『――……始めまして RYUKIさん。私はSunnyです。この度、貴方とお仕事を共にすることになりました』

とメッセージにあったのだ。そこから下の文は今回の仕事の内容について書かれていた。

「……あれ? ええっ! あの話本当だったんだ!?」

リ ュウキは所長に今朝方言われたことを思い出した。

『――……今回の仕事はかなりの大仕事だ。終える……だけならば、君だけでも良いのだが、時間的に不可能と言う結果が出たのでな。だから、君と同等の技術者との共同作業になりそうだ。本人にその旨は伝えてあるからいずれ連絡が来ると思う。頑張ってくれたまえ』

 との言葉だ。これまでは、仕事は自分ひとりで行っていたし、その量も十分一人で問題なかった。問題ある分は、育ち盛りな年頃だから、身体のケアである。
 その点は綺堂……爺やが施してくれる。
 だから、問題なくこなしてきたんだけれど。

「うん……でも、これって面白そうかもっ……! 誰かと、なんて こんなの初めてだよ」

 リュウキは心弾んだ。誰かとの共同作業なんて初めてだから。同じ志をもって、一緒に出来るなんて。それは、PC上の事だったが、リュウキにはどちらでも良かった。

「よろしくー……っと送っとかないとね……、サニーに!」

 リュウキは、サニーにその旨を直ぐに伝えた。その後の2人である程度やり取りをした。
 勿論それは、システムに関して、コンピュータ関連の内容が主だった。

 でも、仕事の合間、稀にネットワークゲームについても。お互いに大好きだったんだ。
 だから、それらのやり取りでサニーとリュウキが意気投合していくのは時間の問題だった。



~数日後 能力開発研究所~


「ふぅ……。」

 リュウキはPCの前で一息ついていた。今回の期間で所長に頼まれた仕事の内容。其れは確かに大変なものだった。
 動物を利用した研究と言う風に聞いていた。後にそれは主に医療関係に携えるものだと。

《フルダイブ技術》

 その技術の応用のものだった。茅場晶彦と呼ばれる天才が研究している技術。それは8割以上完成している様だ。
 その技術開発は自身も参加しているものであり、今回の医療関係も問題ないと思っていたけれど1人で出来ると思ったことが甘かったと痛感する。だから、彼女と同時進行で始まったものだった。

「うん。確かに、凄いね……これ。確かにこれが完成したらきっと……うん、間違いない! 今の医療もかなり進歩するよ……特に先天的に目の不自由な人には、正に奇跡的だと思う。夢の世界だよ。擬似的とは言え光を見る事が 感じることができるんだからっ! ……ん? あれ?」

 リュウキは、目を輝かせながら言っていたんだけど……、直ぐに表情をキョトンとさせていた。

「僕って、何でこんなに夢中になってるんだろう? ……別に、医療関係に興味があった訳じゃないのに、いつの間にかのめりこんじゃったんだ? 確かに凄い物だとは思うんだけど……ん~」

 リュウキは腕を組んで考え込んだ。その事に驚いているようだ。
 今まで、興味のないものには見向きもしなかったし、自分でも理解できるから。

「ほほほ……。全てのテクノロジーに共通してますからな。坊ちゃん……」
「わぁっ!」

 そんな時、いつの間にか、後ろに立っていたのは綺堂だった。

「もぅ……爺や、驚かせないでよ」

 リュウキは、ちょっと膨れながらそういった。
 最近では、綺堂のことを、爺やと呼んでいる。そして綺堂もリュウキの事を坊ちゃんと呼ぶようになったのだ。単純な呼び合い方だけど……リュウキが信頼しきっているのが判る。

「でも、そうなのかな?」

 リュウキはそう訊いた。
 それを訊いて綺堂はニコリと笑って続ける。

「はい、そうです。全て繋がりますよ。坊ちゃんが大好きなネットゲームもそうですし、医療でもそう、それに果ては宇宙開発にいたるまで。全て分野において分かれているだけで 制御は到底人間の机上の論だけじゃ追いつきませんからな…… 色々な事で制御をするのにコンピュータを使用するでしょう?」
「あ……確かにそうだけど……。どんな公共機関でも……コンピュータ置いてるし……。もう、それ無しじゃ生活にも影響が……んん? じゃ、僕のほんと好きなの根源は、分野……の前に、コンピュータが好きって事? 所謂、機械好きって事なのかな??」

 そう言いながら目の前のコンピュータを触った。いつもの感触だ。
 冷たいけど、熱もあり、そして鼓動も感じられる。
 確かに……コンピュータと共に成長をしてきたとも言えるから、何処か納得することが出来た。

「ほっほっほ。そうなのかもしれませんな? コンピュータ上で仕事をする以上は好きになるのかもしれませんよ?」

 綺堂はそう言って笑っていた。リュウキが愛しい様にコンピュータを触るのが、微笑ましかったようだ。そして、その表情は 自分に向けてくれているものと同じものだから。

「ん~~。ん? ……でも、僕は争いは嫌いだよ爺や!? その……戦争っ……とか、そんなの嫌いだもん。そんなのでも、コンピュータを使ったりしてるんでしょ? えっと……みさいる、とかさ?」
「ああ……確かにそうですね、そのとおりでございます。ですが、その辺りは大丈夫でしょう?」

 そう言うと、綺堂は胸を張りつつ、リュウキの肩を叩く。

「坊ちゃんの傍には、私もおりますし、坊ちゃんも本当に嫌っておれば見向きもしませんよ」

 そう言い終えると、肩を叩いていた手を、リュウキの頭に乗せて撫でた。

「あ……ははは。そうだね。うん、きっとそうだよね!」

 リュウキは笑顔になっていた、

 そして、再びメッセージが届く。

「あれっ……サニーからだ。どうしたんだろう……、今日は特に何もなかったと思うけど……、あ、仕事の事じゃなくって、ゲームとかかな?」

 リュウキは再びPCの画面に視線を移した。


 何気なく開いたメッセージ。その行為自体は、いつもと変わらない。
 だけど、全然違うのは、そこに書かれていた内容だ。

 綺堂は、ゲームの事であれば、とリュウキから離れていた為、見逃してしまっていた。

 全ての悪夢の始まりを……。
 
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