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炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師

作者:BLADE
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外れた世界へ
  二章 「旅立ち」

俺達は森の開けた場所に着いた。
それはもう苦難の道程だったさ。

遠坂を宥めていると、時折吹き出すゼルレッチ。
そんな光景が遠坂に油を注ぎ……と着くまでに余計な苦労が掛かった。
なんで俺が苦労しないといけないんだ、全く。
「此処なら邪魔は入るまい」
ゼルレッチはそう言って俺の方を見た。
俺の頭の先から、足先までを眺めまわすゼルレッチ。
「なんだよ、俺になんか付いてるのか?」
少し乱暴な口調になる。
遠坂が少し粗雑な接し方をしていたのを見て、俺も気が抜けてしまっている様だ。
どうも話に聞く宝石翁とは、少し――と言うかかなり印象が異なる。
「先程から考えていたのだが、お前は縛られる趣味でもあるのか?」
「―――んな訳あるか、バカ!」
いきなりなに言い出すんだ、この魔法使いは。
「いや、枷を一向に外さないのでな? 外さないのか、外したくないのか気になったのだ」
そう言われて自分の体を見てみる。
確かに、手錠と足枷は着いたままだ。
「頼むタイミングが無かったんだよ!」
頼めるのなんて遠坂しかいないのに、その遠坂を焚き付けた張本人がなんて事言うんだ。
内心で愚痴を漏らす。
あくまで命の恩人だし、それに相手は魔法使いだからな。
面と向かってそんな事を言える訳もない。

「あ~、えっと………頼んでいいかな遠坂」
遠坂の方を見る。
ようやく落ち着いてきた様だ。
と言うより、矛先が俺に向いたので頭を冷せたのだろう。
「はいはい、手を出しなさい」
遠坂の前に手を突き出すと、まずは手錠の間の鎖をその次に足枷を魔術で切断してくれた。
部屋や枷から解放され、俺の魔術回路も機嫌を治したのか、体内を魔力が駆け巡っている様に感じる。
「ありがとう、遠坂」
聖杯戦争以来、魔術回路が完全停止した事なんて無かったからな。
無くしてから気付く、物の価値って事か。
「お礼なんかいらないわよ」
俺を殺す事なんかより、遠坂自身、本当はこういう事をしたかっただろうしな。

枷が外れると、ゼルレッチに助けてもらった理由を聞いてみた。
少し待て、とゼルレッチは言う。
「その前に、そこの娘にはやっておいて貰いたい事がある」
「はぁ……、私に何をしろと言うのです? 大師夫」
敬語に戻る遠坂。
と言うか、今まで敬語で無かったのが異常だったんだよな。
「なに、この図の通り陣を敷設するだけだ。道具は用意している」
ゼルレッチは一枚の羊皮紙と、なにやら大量の石のような何かが入った袋を手渡す。
「分かりました……。けど、どうして私が?」
「第二魔法の特別講義だ。分かったら、早速始めろ」
多分、あの袋の中は宝石だよな。
遠坂がさっきから袋を見るたび生唾を飲んでるし。
宝石入りの袋を抱いて、広場の中央に向かう遠坂。
ゼルレッチが、宝石は使い切る様にな、と言うが聞こえているかは正直疑問だ。
そう言えば話の途中だったな、と俺に向き直すゼルレッチ。
「理由は先ほど言ったとおりだ、この状況を利用しない手は無い――とな」
利用という事は、公式では衛宮士郎は死んだ事になるのだろう。
死んだ人間ほど扱いやすい物はないからな。
まぁ、放っておいても死ぬ筈だったんだから廃材利用の様な物だろう。
だからこそ、ゼルレッチに先に言っておく。
「言っておくが、俺は汚れ仕事をするつもりは無いからな」

そんな事をするくらいなら、名実共に死んだ方がマシだろう。
多数の為に少数を切り捨てる、なんて選択は極力したくないんだ。
自ら望んでその手の人種にはなりたくない。
すると、ゼルレッチは、何を言っている、と笑いだした。
「そんな事をさせても面白く無い上、意味がなかろう。それにお前は察しの通り、この世界では死んだ事になる」
「それじゃ、俺に何をしろって言うんだ?」
死人扱いされ、汚れ仕事もしないんなら、俺をなんの為に助けたのか分からない。
学者肌じゃないし、専らの武闘派の俺は平時にはなんの役にも立たないからな。


「お前には別の世界に行ってもらう、その力を必要とするものは大勢いるからな」


―――はい?
今なんて言ったんだ、この魔法使い。
「何だかよく分からない単語が聞こえた気がする……。悪いゼルレッチ、もう一回言ってくれ」
「お前には別の世界に行ってもらう」
何度も言わせるな、とゼルレッチ。

いやいやいやいや、おかしいだろ!?
なに簡単に、とんでもない事を言ってんだ!
別の世界ってアレだろ?
俺達に馴染み深い言葉だと、並行世界って奴。
そんな簡単に………って、そうだ忘れてた。
この魔法使いのお方は、第二魔法の使い手じゃないか。
「なんで俺が?」
内心とは裏腹、思ったよりも冷静に対応を取る。

「今時、珍しく本物の正義の味方を目指しているらしいじゃないか。そんなお前がここで死ぬのは残念なのでな? この世界に居れないのなら別の世界があるじゃないか、という簡単な方法を取る事にした」
それにどうせ死んでこの世界から居なくなるのなら、別の世界への片道切符を渡しても変わらないだろう、そうゼルレッチは付け加えた。

「それで良いのかって思うんだけどな………。それとだ、正義の味方に偽物も本物もない」
「それは失礼したな。それでどうする衛宮士郎。大人しく並行世界に行くか、ここで私に引導を渡されるか」
殆ど脅迫だよなこれ。
俺なんかがまともに戦える相手じゃないって分かってるくせに。
「お前にも悪い話ではないと思うがな。それにだ、今まさにその力を必要としている者が居るかもしれんぞ?」
「この世界にだって居るじゃないか。俺にも救える人々が」
「その結果、お前はさっき死ぬ筈だった。この世界に居ても、どうせ死ぬ。私なら、死なずに正義を貫き続ける道を選ぶ方が賢明だと思うがな」
「俺がやってきた行動の結果なんだ。こうなるかもしれないって事も分かった上でな」

死ぬのが当然の結末だと思っていたんだ。
救えなかった人達への贖罪だと。
俺一人の命で償える物じゃないってのは分かってるさ。
秘匿しなければならない力を振るった時に、覚悟は出来ていたんだから。

「楽に死ねると思うなよ、小僧。どうせ死ぬのなら死ぬまで戦え。お前が死ねば、誰がこれから皆を救うと言うのだ」
「………」
その一言で押し黙ってしまう。
柄にもないな、と苦笑するゼルレッチ。
「まぁ、難しく考えるな。お前が生きればこれからも救われる人は増える。そういう事だ」
難しく………か。
確かにそうかもしれないな。
人を助けるのに、どの世界もないか。
助けがあれば駆け付ける、それが正義の味方だ。

悩んでいても仕方がないよな。
死ぬ事は何時でも出来る。
この身体が動く内は、行動を止める訳にはいかない。
それに………。
「あんたに殺させるのも癪だしな。良いぜ……やってやろうじゃないか」

一人でも多くの人を救う、それはこの道を歩き続けると決めたときにアイツと誓ったのだから…

「なに、もとより殺すつもりはなかった。殺してしまっては面白くないだろう? ようは承諾を得るのが、事前か事後なだけだ」
なんて人だよ。
何も言わなかったら有無を言わさず飛ばされてたって事だろ?
死徒になったって理由も頷けるな。

「大師夫ー。準備終わりましたー」

遠坂がこちらに声をかけてくる。
なんと言うか、放っておいて悪かった。

「うむ、一応確認しておく。お前はその間に別れでも済ましておけ」
ゼルレッチは遠坂に返事をし、俺に一言そう言って陣の方に向かった。
途中で遠坂に何かを吹き込む。
はて、遠坂は知ってて陣を作ってたのか?
ゼルレッチが何かを言い終えると、こちらを目掛けて突撃してくる遠坂。

「ちょっと士郎! なに勝手に話を決めてるのよ!!」
知りませんよねー、やっぱり。
だって俺と一緒にゼルレッチと合流したのに、話をしてるの見てないし。
「悪い悪い。けど半分位は脅迫みたいな物だし、俺も色々考え過ぎてたみたいだったし。遠坂は反対か?」
「あのねぇ、あんたが決める事でしょう。 私がどうこう言う資格なんてないんじゃない?」
「だって、勝手に決めたー、って怒ってきたじゃないか」
なに言ってんだ遠坂、と付け加える。
「うっ……、それはそうね」
全く、しっかりしてるんだかしてないんだか。
いつも不思議に思えるよ。
「で、遠坂は反対なのか?」
「いいえ賛成ね。むしろそうしなかったら、無理矢理にでも飛ばしてたわ」
おいおい、この師弟は二人揃ってそうなのか。
「何よ、反対して欲しかった? 言っとくけど、士郎の為なんだからね」
「俺の為……か。毎回、なにやってんだろうな、俺」
今に始まった事じゃないでしょ、と遠坂。

「それより士郎。あんた、自分の体の事は本当に無頓着なんだから、ちゃんと管理しなさいよ。これからは私も居なくなるんだから」
遠坂が居なくなる………か。
もう、逢えなくなるんだよな。

「了解。努力はしておくよ」





それから、遠坂と少し話をした。
これまでの事、家の事、皆の事。
遠坂なら上手くやってくれると思うけど、一応、ケジメの様なものかな。
「後は頼むよ、遠坂。家主としては失格かもしれないけどな」
「分かってるわよ。あんたこそ、精々頑張りなさい」

話を終えた所、調度良くゼルレッチの確認は終わったようだ。
「不備はなかった様だ。では準備は良いか、衛宮士郎」
「あぁ、頼む」
陣に移動する。
「まぁ、貴様は特に何をするという事もない。とりあえず中央に立つだけで良い」
そう言われて魔法陣の中心に俺は立つ。
すると魔法陣は眩いばかりの光を放ち始めた。
ついつい、身を強張らせてしまう。
「第二魔法は言うならば『多世界解釈』だ。そこで、現在・過去・未来、あらゆる可能性上の衛宮士郎の情報を貴様に付与する。貴様の魔術では情報は即ち戦力に直結するのだろう? 餞別の様な物だ、遠慮なく受け取れ」

足元から体が消えていくのを感じる。

「ありがとう、助かる」
そうゼルレッチに礼を言って、遠坂の方を見た。
別れに涙は必要ない―――、そうだな遠坂。

体はもう半分以上が消えている、だけど最期にこれだけは言わないと

「大丈夫だよ遠坂、俺もこれから頑張っていくから」
そう言うと、遠坂は何かを言った。
「士郎、―――――よ」
もう声は聞こえなかったが、俺にははっきりと遠坂が言った事が聞こえた気がした。










「あのバカ……。アイツと同じ事を言って……」
結局、士郎は最期までアイツと同じだった。
いや、違う。
結果は同じだったかもしれないけど、士郎は後悔なんてしなかった。
その生き方はこれからも変わることはないんだろう。
とにかく、私はアイツとの約束を守ったのだ。
「アーチャー、あいつはちゃんと面倒みたわよ」

誰ともなしにそう言った後、彼女の頬には一筋の涙が流れていた。














こうして、衛宮士郎の新たな世界での戦いの火蓋は切って落とされた。 
 

 
後書き
お久しぶりです、皆さま。
作者のBLADEです。


さて、皆様の言いたい事は分かります。
つまりこうですね。


シ ャ ナ は ま だ か。


はい、すみません。
まだなんです。
次の話で登場するんで、もう少々お待ちください(汗)
ろくに戦闘シーンもないですし、盛り上がりに欠けてますが申し訳ないです。

今回はちょっとばかし内容も変えてみました。
内容をかなり削った筈なんですが、何故か文章量が増えてます。
なんででしょうね(汗)


過去の投稿時よりは幾分マシとは言え、それでもかなり粗が目立つと思います。
内容の不備がありましたら、ご指摘御願い致します。

それでは、この辺りで失礼します。 
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