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緋弾のアリア-諧調の担い手-

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水晶に映る少女 両親の想い

 
前書き

永遠神剣シリーズとのコラボです。
 

 


???side
《???・???》


そして、俺は夢から目覚めた。
だが、目覚めた其処の世界は現実ではなかった。
何故だか、そう認識出来た、理解する事が出来た。

それはきっと理屈ではない。もっとも上手く言葉に出来ないが、俺は魂でそう感じ取った。


「……何処だ、ここ?」


自然と、そう口から言葉が洩れた。……言葉が洩れた?
自らの思考に違和感を、自身の口から言葉が零れた事に違和感を感じ取る。

視界の先に広がるのは何処までも続く、広大な陽光の世界。
頭上には陽は存在しない。それでも世界はどう言った原理なのか淡く、暖かく照らし出されていた。

何処までも続く、暖かい、まるで包み込む様な空間。
まるで自分という存在を祝福する様に、其処は全てが陽光によって染まっていた。


「本当に、ここは何処なんだ?…何故、俺はこんな場所にいるんだろう」


そもそも、“俺”とは一体誰であったか。それは、この空間と共に打って出た疑問だ。

以前、俺は同じ様な体験をした覚えがある。それは何時で、何処での事であっただろうか?

解らない、解らない、解らない…。
まるで霧が掛った様に、断線してしまったかの様に、記憶を遡る事が出来ない。

何か、夢を見ていた様な気がする。
誰かが、何かが語り掛けてくる様な、そんな夢を。

それすらも、何時の事なのか、振り返る事が許されない。

異様な光景。だが何より奇怪な存在は、この世界の中心に配置されていた。
地面から頭上高くまでを埋め尽くす、超巨大な半透明な水晶。


「……これは」


一歩。
警戒の表情を強めながらも、俺は水晶へと近づいて行く。
そこには反射して映るべき自分の姿が“映し出されなかった”。

まるで文字化けしたかの様な、雑影の歪み。幾星霜もの難解な文字が映し出されている。
そして、その水晶の最奥。徐々に浮き出る様に映し出される存在、あれは―――


「……“女の子”?」


見間違いではなければ、そこには十代半ば程の碧銀色の髪をした少女が映し出されていた。
瞼を擦って、もう一度水晶を見据える。そうして―――

“水晶の中の、彼女を守護するかの様に浮かぶ四本の鞘。そしてその少女と目が合った。”


“……■…□…。”


そうして、何かを訴えるかの様な視線を向けて口を開く。
けれど、それは俺には届かない。その遮る様に隔てられた水晶、それが一枚板となっている。

俺は彼女の言葉を聞こうと、その水晶に身を寄せて手を這わせた。
何かが軋み壊れる様な、破砕音が聞こえた。響いた。

そこで俺は不意に、自身の意識が浮上していく気配を感じ取った。
そうして漸く思い出す。自分という存在を。そして繰り返し見続けている、この夢を。

そして最後に、俺は彼女の言葉を耳にした。





1







凍夜side
《出雲大社》
PM:21時14分


夜も更けた、常闇に染まった時間帯。閑散とした、閉界とした世界。

だが、それでも都市部の煌びやかなネオンの様に、人工的な光の無い世界は輝いていた。

頭上に広がる夜空を見据える。
そこには、現代の日本では見れない程に輝く星界の海。魔性とも言える、大きな月が広がっていた。

それは現在と言う時間より切り取られた、一つの世界として独立している“出雲”という世界の特権だろう。

出雲に存在する古い作りの日本屋敷、その自室の縁側。そこに俺と妻の姿があった。

久しぶりの二人っきり。
肩を寄せ合って座っているものの、今はそう言うムードのある場ではない。

それ所か、重い空気が夜風に乗って流れている。
風の靡く音、虫の鳴き声すら聞こえずに、何処か嵐の前の静けさを連想させる。

今此処でこうしているのは今日ナルカナが語った事、時夜についての話をする為だ。


「……そうですか、永遠神剣が時夜に」


俺の話を聞き、時深はそう小さく頷いた。


「…ああ、僅かにではあるが時夜に干渉を及ぼしているそうだ。」


その干渉がどう言ったレベルのものかは、俺には推し量る事は出来ない。

ナルカナ―――“叢雲”と同等の強大な力を持つ永遠神剣が何故、時夜に干渉を及ぼしているのか、その思惑は解らない。


「…………」


そう告げると、下を向いて押し黙る時深。その表情は覗き見る事は出来ない。

きっと最悪な結末を思い描き、その想像に身を震わせているのだろう。

俺はそんな彼女の身を、大丈夫だと告げる様に優しく抱き締める。


「時深、お前の瞳で“視る”事は出来ないのか?」


時深は“時見の目”と呼ばれる、限定的ながらも未来を見通す瞳を持っている。

その力でならば何かが解ると踏んだのだが、時深はやんわりと首を横に振る。


「…いえ、私の力を持ってしても、時夜の未来は見えないのです。…まるで霧がかった様に、曖昧であやふやなんです、その理由は定かではありませんが」


時深の力を持ってしても時夜の未来は見えない。
その上位永遠神剣が何かしらの力で、瞳の力を霧散させている可能性が高いと思うのが妥当か。

だが何故時夜に目を付けたのか、その理由は深く考えても解らない。疑問は尽きない。


「……私、時夜の未来が見えないと知った時、不安と同時に喜びを感じました。私にとって初めてだったんです。未来が見えないという事は」


時深は唐突に口を開き、独白の様に語り始める。


「この子の未来は見通すが出来なくて、定められていなく、無限にも及ぶ可能性が広がっている。どこまでもその翼を広げて羽ばたいて行ける。でも―――」


時深の過去は既に聞いている。
生まれてから死ぬまで、全ての事象が既に決まっていた。

それは覆す事は出来なくて、ただ死を待つだけ、そんな時に自身が担う神剣の一振りと出会った。

それによって見据えていた未来と言う呪縛から解放され、可能性と言う未来が垣間見えたと。

時深は羨ましかったのだろう、そんな力を持つが故に時夜が。
時深は不安なのだろう、そんな力を持つが故に時夜が。


「……怖いんです。この子には無限の未来が広がっている。もしも、神剣に取り込まれでもしたらッ!」


時深が言わんとしている事は分かる。神剣に取り込まれ、“秩序”に落ちるという事。
俺はあの異世界での戦いで、その様な存在達と相対峙して来た。

神剣の意思に侵食され、災厄と化す。それは破壊と破滅しか呼ばない。

そうなれば、彼女は“混沌”として時夜を討たなければならない。

俺の胸に寄り縋り、正面より彼女は俺の瞳を見つめて、そうして視線を逸らす。
俺はその彼女の目の端に薄く溜まった涙を、そっと拭う。


「もしかして私達…いえ、私が悪いのかもしれません。愛した人と一緒になる事、それでも充分幸せな事なのに、それ以上の事を、子供を欲してしまったから」

「それは違う…きっと大丈夫だよ。俺もお前と一緒に永遠を歩む為に契約して、準永遠存在になった。それに時夜だって、まだ話す事は出来なくてもお前を責めたりなんてしないさ」


時深を安心させる為に俺は少し強く、彼女を抱き締める。


「まだ、どうともなった訳じゃない。それにもし神剣に取り込まれ、道を踏み外しても、その時は俺達が何とかしてやればいい。それが俺達の、親の責任というものだろう?」


根拠は全くと言って無い。だが、口にした言葉の通りだと思おう。
生まれ落ちた生命、それに責任を取るのは親として当然だ。
俺は、時夜の為ならば命を賭ける想いも、そして覚悟もある。

俺がそういうと、彼女はキョトン…として顔を浮かべて、次第に笑みを浮かべる。


「ふふっ、そうですね。何事も前向き思考に、ですよね。それに私達の息子です、そんなに弱くなんてありませんよね?」

「ああ、そうだ。俺とお前の子供だよ、きっと強く育つ」


きっと大丈夫だ。確信はないがそう思う。
もし、道を踏み外したら、その時は俺と時深が目を覚まさせればいい。

だが、そうはならない様にただ願うばかりだ。
全ては神のみぞ知る、とでも言った所か。



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