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クラディールに憑依しました

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ボス戦の準備をしました

 早朝、第四十六層迷宮区。


「ただいま。アスナ」
「リズー。おかえりー! シリカちゃんの様子はどうだった?」
「とりあえず。おかしな事にはなってないわよ――――ほら、代わりはやっとくから、街に戻ってお風呂入って来なよ」

「うん――――それじゃあ、キリト君、クラディール。次に合流する時はボス戦よ、後一つレベル上げて置いてね」
「――――わかってる」
「行ってらっしゃいませ、アスナ様」


 アスナが去った後、俺とリズでモンスターのHPを減らし、キリトがラストアタックを仕掛ける。
 何度かリズが一撃でモンスターのHPを削ってしまい、リズのレベルが上がる場面もあった。


「…………ワンランク下の武器にするべきかしら?」
「次の階層で好きなだけ暴れて良いから、今はそうしてくれ、キリトのレベルが上がらん」
「…………それだけ強いならボス戦に出れば良いのに――――何か理由でもあるのか?」
「うーん…………一度あたしとデュエルしてみる? 直ぐに理由が解るわよ?」

「え?」
「――――そうだな、キリトには口で説明するより一戦交えた方が早いだろ――――直ぐ終わるだろうし」
「直ぐ終わるは余計でしょ――――まあ、そのとおりだけど」
「???」


 リズがメニューからキリトにデュエルの申請をする。キリトは初撃決着モードでOKした。


「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせちゃいましょうか」


 カウントがゼロになり、リズはスタートダッシュで一気にキリトへ詰め寄った。


「――――よっこいしょッ!!」


 リズがソードスキルでメイスを振り下ろしたが、キリトは軽く回避――――片手剣のソードスキルを返し。

 ――――――あっさりと決着がついた。


「…………え? ええッ!?」
「あー、やっぱり、こうなっちゃうわよね」
「一体どう言う事なんだ――――まさか!? 戦闘の組み立てが出来ないのか!?」

「そう、正解よ――――あたしはモンスターの行動パターンを全部覚えないと、一体も倒せないのよ。
 将棋のルールは覚えられるけど、勝ち方が解らない。オセロもルールは知ってるけど、先読みがまったく出来ない。
 囲碁もお手上げね、五目並べも運が良ければ勝てるけど、今思えばアレはあまりにも弱いから勝たせて貰ってたのかもね」

「それじゃあ、格闘ゲームの対人戦とかも?」
「まったく駄目ね、NPC相手なら行動パターンを覚えて、レベル最強のボスも倒せたりするんだけど。
 こっちの狩りだって、アスナの後ろでモンスターの動きを覚えてからスイッチしてるのよ。
 HPの減り方も半端じゃないわ、相手の行動パターンを完全に覚えるまで、ポーションをいくつ使ったことか」

「――――そうか、それなら納得だ、いくらNPCがボスの情報を先に教えてくれるとしても、本番となると――――」
「初見殺しの技なんて使われたら、即死でしょうね。あたしが通用するのは戦術が要らないレベルまでよ」

「あの迷宮区のトラップを抜けられたのは、モンスターが沸くだけで指揮官クラスが居なかったからか」
「そうね新種と言えるほどの亜種も居なかったし、多少ダメージを貰っても、行動パターンさえ覚えれば、後は――ね」
「納得いった様だな? さあ、時間が無い――――レベル上げを急ぐぞ」


………………
…………
……


 第四十六層血盟騎士団ホーム、シリカの部屋。


「シリカちゃん。おはよう、ただいまー」
「おかえりなさい、アスナさん。おはようございます、今日はボス攻略ですね、頑張って下さい!」
「うん――――その前に、一緒にお風呂に入りましょうか」
「え? あたしは昨日入りましたけど?」

「まだわたしは入ってないし、お話しながらゆっくり入りましょ?」
「…………えと――――はい。一緒に入りましょう」
「よし、そうと決まったら早速服を脱ぎましょうか」


 アスナは右手で素早く自分のメニューを開き、左手でシリカの人差し指を握って、同じ様にメニューを開いた。


「――――え――――あの、自分で脱げますからッ!?」
「早く入りましょ――――サチに見つかる前に」
「サチさんがどうかしましたか? そういえば昨日――――サチさんが変な事を言っていたような? 資料――」
「さあ、早く入ろう。すぐ入ろう」


 あっと言う間にアスナとシリカの装備がメニューに収納され、バスルームに立て篭もった。


「シリカちゃん。髪洗ってあげる」
「あ、今解きますから待ってください」


 シリカがメニューから髪型をストレートに変更した、アスナも同じ様に髪を下ろす。


「はい、此処に座って」
 

 向かい合う様にイスに座って、アスナがバスタブをタップして湯を満たした。
 風呂桶の代わりに調理用のボウルでお湯をすくい、シリカの髪に浴びせる。
 SAOでは水を被っても直ぐに乾いてしまうので、バスタブに浸かるか特殊攻撃による状態異常でしか水浸しにならない。

 だから、わざわざバスタブの外でお湯を被っても何の意味も無い――――ただの自己満足でしかない。
 それでもアスナとシリカは、お互いの髪が乾く前に水を浴びせ合い、感覚を楽しんでからバスタブに浸かった。


「わたしが迷宮区に行っている間、何か変わった事はあった?」
「…………あの、ピナの事なんですけど――――復活クエストがあるみたいなんです」
「――――本当にッ!? どこでッ!? どのクエストッ!? 直ぐに行こうッ!! 今すぐッ!!」


 水面を揺らし、アスナがバスタブから片足を出した所でシリカが引き止めた。


「待って下さい、場所は次の階層、第四十七層なんです…………それに、制限時間もあるみたいで…………」
「詳しく聞かせて」


 落ち着いたアスナは改めてバスタブに入り直す。


「昨日アルゴさんに聞いたんですけど、クラディールさんはずっと前から使い魔に関するクエストを調べる様に、アルゴさんに依頼してたそうなんです。
 それでピナの様に死んだ使い魔が落とすアイテムが『心』で、これが『形見』になると…………恐らく時間切れだろうと」

「…………そう。今日のボス戦はスピード勝負ね。
 ――――それにしても、クラディールは相変わらずね、復活クエストがあるの知ってて、黙ってるなんて」
「…………まだ不確定な情報ですし、下手な希望を持たせたくないんじゃないかって…………時間切れもありますから」

「そっか…………そうだよね、わたしもまだまだだなぁ、目先の事ばっかりで、もっと先の事を考えないと」
「クラディールさんが言ってました、SAOをクリアするのは三年掛かるって――――みんな卒業して中学でも会えないって、
 実際もう小学校の卒業式も終わって、後一ヶ月で夏休みですよね…………早いですよね――――時間が経つのって」

「このデスゲームが始まってから七ヶ月、今日クリアすれば四十七層――――三年も掛かるとは思えないわ」
「…………第二十五層のボスを覚えてますか?」
「攻略組に死傷者が多く出たボスね――――良く覚えてるわ」

「あの時も言ってたんです、第二十五層はクォーターポイントだから――――絶対に何か仕掛けてくるって」
「…………次のクォーターポイント、第五十層のボスも危険だって事?」
「冗談半分で言ってました、茅場なら攻略組が半壊するぐらいはやるんじゃないかって」

「…………もしかしたら撤退も視野に入れないといけない……か…………でも、わたしが指揮できるのはフィールドボスまでだし、
 フロアボス戦は団長に指揮権があるから、頃合いを見計らって進言するしかないかな…………」

「――――あ、そろそろ時間ですよね、早く上がらないと」
「うん。頑張るからね」
「はい、頑張ってください」


 タイムリミットまで後二日。 
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