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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  十章【災厄】

移住計画管理局の一角にある会議室。
そこには時の首相、(はやし)博文(ひろぶみ)を初め、管理局局長である綾部(あやべ)甚一(しんいち)、その他にもそうそうたる面子が集まっていた。

その中で、場違いな雰囲気をかもしだす哲二とその横に立つ軍服姿の男。
彼こそがGMであるGこと、源生(げんしょう)(たける)だった。

場は粛々としており、居心地の悪そうな顔をしている哲二。
今始まろうとしているのは『フロンティア計画報告会議』だった。

しん、と静まった会議室の中、一番最初に口を開いたのは局長の綾部だった。

「では、会議を始めましょうか」

ニコニコと人当たりのよい顔立ちとは裏腹に威厳漂うその言葉に会議場の人間は自然と姿勢がただされてしまう。

「まずは進捗状況を穐山博士の方から」

「うん、そうだね。まずは占有率のほうだけど、先月と比べ2%上昇といったところかな?」

「たった2%かね!?」

噛みついたのは首相の林。
林に便乗し、他の権力者たちも哲二へと野次を飛ばし始める。

「静かにしていただけますか?ここはあなた方の『遊び場』とは違うのですよ?」

威圧的に林を睨む綾部。
意外にも、林からしたら一介の研究者に過ぎない綾部の一言に、舌打ちをしながらも押し黙る。

「まぁまぁ、野次を飛ばしたがるのも分かるけどね。でも、これは大変なことだよ。僅か1ヶ月で占有率が2%も上昇はフロンティア始まって以来とんでもない快挙だ!」

釈然としない林の顔にため息をつきながらも、哲二は話を続ける。

「いいかい?よく考えても見てくれ…惑星移住計画が始まってはや12年。うち一年前からフロンティア計画が始まるまでの占有率はわずか4%だ。11年もかかってわずか4%!これを聞けばこの1ヶ月で2%の凄さがわかるだろう?」

何も言い返せない林にほくそ笑みながらもさらに哲二は続ける。

「 次はフロンティアの現状だけど、こっちはあまりよい報告が出来なくてね…」

「ほう…君から良くない報告とは珍しいね?」

「まぁ、これは前々から危惧していたことなんだけれど、ネイティブたちの進化速度が段々と上昇してきているんだよ」

そう言い、席をたつとパワーポインターをつけ、スクリーン上で説明を始める。

「それは?」

写し出されたのは2枚の写真。
一方には通常の形をしたヒトガタの写真。
もう一方はフロンティア1へと侵入したヒトガタの写真だった。

「一見違いはわからないと思うけれど、ここを見てほしい」

哲二がさしたのは通常種のヒトガタの尻尾部分。

「わかるかい?通常のヒトガタには尻尾があるけど、こっちの新種にはない…段々僕たち人間へと近づいてきているんだ」

「だからなんだと言うんだね!?尻尾があろうが無かろうが大した違いは無いのではないかね!?」

「そうだね。この段階ではほぼなんの変わりもないよ?…だけど問題はそこじゃない。問題なのは彼らが人間に近づいていると言うことなのさ」

訳がわからないと首をかしげる一同。
だがその中で、さすがと言うべきか、綾部だけは哲二の言う意味を理解する。

「このままではそのヒトガタというものが知能を持つに至る可能性がある…そう言いたいんだね?」

そうだ、と綾部を指差す哲二。

「綾部局長は話が早くて助かるよ。つまりそういう事なんだ!このまま進化を続けさせてしまっては彼らは知能をつける…そしてそれは遠い未来ではないんだよ!」

「ここからは俺が…」

興奮しだした哲二を自分の後ろに追いやり口を開く源生。

「ほう、では話を聞かせてもらうよ、源生大佐」

「これは皆様の手元にある資料第2項目にあたる報告なのですが、先日フロンティア1南部の小洞窟にてこちら穐山を初め他3名の一般ユーザーが更なる新種のヒトガタと交戦する事態が発生しました。その段階ですでにヒトガタは更に進化していたそうです。…実質、こちら新種のヒトガタを第2世代とするならば、わずか1週間たらずで第3世代にまで進化したと言えます」

「なるほど…」

「自分とフロンティア4の精鋭が到着した時点ではすでに対象ヒトガタは逃亡を図っており、目下全力で捜索中であります」

「それは由々しき事態だね…その影響で移住計画の方に何か支障は?」

綾部の言葉に首を左右に振る源生。

「今のところは…ですが、このまま放置すれば間違いなく我々の脅威になり得るのは火を見るより明らかであります」

「そうか…ありがとう源生大佐」

そう言われ、すっと源生は自ら哲二の後ろへと身を引く。

「ちなみにそのヒトガタには『スサノオ』と名ずけて『第1級危険個体』として登録させてもらったよ。あと、その捜索及び討伐には現場にいた一般ユーザーと源生が厳選してくれたユーザーでチームを作るつもりだから、そのつもりで」

「一般だと!?そんな重要な事を一般人に任せると言うのかね!?」

「ちょっと黙っていてくれないかい?君は自分の支持率だけ心配していればいいんだよ」

「なんだとっ!?」

ガタッと椅子を勢いよく倒すほどに怒り立ち上がる林。

「残念ながらそんなに怒ったって無駄だよ。君は僕たち管理局の人間をどうこうすることは出来ないんだから」

ニヤける哲二に怒り心頭といった様子の林だが、哲二の言う通り『世界政府』の所属である管理局の人間をどうこう出来るわけでもなく、歯ぎしりをしながらも椅子を直し座り直す。

「君はあくまでお飾りなんだ。そうやって静かにしていてくれれば僕だって君を敬うフリくらいしてあげるよ」

よせ、と哲二を言葉で止める綾部。

「ともかく、その件は現場の穐山博士及び源生大佐に任せるよ。ただし、私への定期的な報告は怠らないように頼むよ」

「それは勿論さ!」

「では、次にフロンティア計画における…」

長々と続く会議の最中、源生が頭の中に巡らせていたことは目の前の穐山哲二の事だった。
今回の一件で哲二の潔白が証明されたことになるのだが、それでもなお釈然としない違和感の残る源生。

会議で討論し合う哲二を見ながらも、その違和感が何なのかを自問自答していた。

「さて、概ねの項目を消化できたわけだけど、他に何か報告すべきことはあるのかな?」

再びしんと静まる会議場内。

「では、解散としようか」

綾部の一言で次々と退室していく有権者達。

「いいか、覚えておけ…必ずわたしを侮辱してくれた貴様達を後悔させてやる」

凄まじい剣幕で哲二を睨みつけそう言い捨てると、林首相もズカズカと退室していった。

「やれやれだね。短気は損気という言葉を知らないのかね、彼は」

「お前が悪い」

自覚していない哲二へと呟くと林の後に続き退出する源生。

そして、広い会議場内には綾部と哲二。
綾部は静かに席を立つと、入口へと向かう。
が、その手前でぴたりと止まると…

「さて、うるさい人たちも居なくなったことだしそろそろ『本題』を話そうか」

そう言うと、綾部は入口の扉を閉じる。

「どうやら北方本部の方は順調に占有率を上げているそうだよ」

「へぇ、そいつはすごいね。だけど、それも今のうちさ…『彼ら』は人口技術力共に優秀だけど、いかんせん傲慢すぎるからね。いずれネイティブの力を見誤って崩壊するよ」

「大した自信だね。まぁ、君の事だから何か確証があって言っているんだろうけれど」

静かに席へと戻る綾部。

「だが、あまり悠長にもしていられないよ?忘れたわけではないだろう?。このフロンティア計画の目的を…」

「もちろんさ。このフロンティアで占有した領地がそのまま移住後僕たちの国の領地になるというやつだろう?さしずめ、ネット戦争って感じだね」

「この件に関して君が興味を示していないのもわかっているよ。それでもこれには君の頭脳が必要なんだ…あまり変な研究にばかり力を入れるのは止めないか?」

「変な研究とは心外だよ綾部『博士』。…その研究の話は源生から聞いたのかい?」

「そうだよ。源生大佐から色々と君に対して不安にさせられる報告を聞いていてね」

ニヤリ、と笑みをこぼす哲二。

「君もその話を信じているのかい?」

「さぁ?私にはいまだに君の真意が読み切れないからね」

一瞬の沈黙。
お互いがお互いの思考を探るように目をそらさない。
が、先に口を開いたのは哲二だった。

「僕はただフロンティアが好きなだけだよ。……安心してくれよ。ちゃんと僕も僕の責任を果たすさ」

その哲二の言葉に綾部はフッと笑い…

「そうか……それなら私は何も言わないよ」

「そうしてもらえると助かるよ。……それじゃぁ、僕はヒトガタの捜索やらチーム編成で忙しいからね。失礼させてもらうよ」

席を立ち上がり扉へと歩き出す。

「穐山博士…よい報告を期待している」

「……わかっているよ」

そう言い残すと、哲二が退出しバタンと扉の閉められる音が響き渡った。 
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