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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  八章【疑心】

三人はフロンティア1を出て南に位置する草原に居た。

依頼主ウォルターからの指定された待ち合わせ場所。
そこには広大に続く草原の中に一つだけある一際目立つ大岩。

三人はその大岩へと寄りかかり依頼主が到着するのを待つ。

「来ないですね…」

「だな」

「本当にGMからの依頼でしたわよね?」

だが、依頼主は一向に来る気配がない。

「ちょっとその辺で腕慣らしがてらネイティブ狩ってくるわ!」

よしっ、と大岩から離れ歩き出すジャック。

「ちょっと、その間に来たらどうしますのよ!?」

「そん時は腕輪に通信入れてくれー」

背を向けたままひらひらと手を振り立ち去るジャック。

「まったく、なんていうかマイペースな方ですわね」

「ですね」

顔を見合わせ、二人はため息を一つ。

「クラウリーさんはいかないんですか?」

「行きませんわ。私、意味もなく暇つぶしで殺生する趣味はございませんの」

「なるほど…でも、ゲームですし殺生っていうほど重く考えなくても良いんじゃないです?」

零の言葉に呆れ顔で返すクラウリー。

「あの変なGMの話を聞いていませんでしたの?ゲームと打ち出してますけれど、この惑星も、この惑星に住む生き物も現実にちゃんと存在する命あるものなんですわよ?」

「はぁ…」

正直、そういわれてもあまり実感がわかない。
この世界では俺たちは『死んでも死なない』。
仮に敵にやられたとしてもリスタート地点に戻るだけだ…。
だからこそなのだろうか…自分にも死があると認識していなければ命という現実味が薄れてしまう気がする。

「まぁ、このゲームのプレイ方法は人それぞれですから否定はできませんけれどね」

「へぇ…クラウリーさんって意外と色々考えてるんで…」

そこまで言って自分の失言に気づく零。
しかし時すでに遅し…クラウリーは凄まじい形相で零を睨んでいた。

「意外と!?意外とってどういうこと!?私が何にも考えてないお気楽お嬢様とでも思ってたわけ!?」

「ぐぐぐ…ちょちょッ」

胸倉を掴み零を締め上げるクラウリー。

「その失言後悔させてあげるわ!!」

「ク、クラウリーさん…す…素に戻って…ますよ」

ハッと気が付きあわてて零の胸倉を離すクラウリー。
顔を赤らめ髪をイジイジといじりだす。

「あら、何の事かしら?」

…今更遅いって。

「おやおや、遅れ気味だったから慌てて来たんだけど。僕はお邪魔だったかな?」

「「ッ!?」」

不意に聞こえた声に驚き振り返る二人。
そこには依頼主であるウォルターがニヤつきながら立っていた。

「いやぁ、零君が中々受注してくれないからもう辞めちゃったのかとハラハラしてたよ!」

「は、はぁ…」

なんだか聞き覚えのある口調と漂ううっとおしさ。

「遅れ気味というより大遅刻ですわよ!…ちょっとジャックを探してきますわッ!」

腕輪で呼べばいいのに慌てて駆け出すクラウリー。
よほど素が見られたのが恥ずかしかったのだろうか?

「若いっていいねぇ…」

しみじみとするウォルター。

「ところで零君すまなかったね!」

「え、何がです?」

「いやぁ、ほら…僕はやく君にフロンティアを体験してほしくて焦っちゃってね!君にろくに何も説明してなかったものだからさ!」

「あ…」

そこまで言われ、零はやっと気が付く。
目の前のウォルターというGMは初日に会った穐山哲二なのだということに。

「哲二さんだったんですか!?」

「ちょっとちょっと!声が大きいよ…ここではココの名前で呼び合うのがマナーだよ」

口に人差し指を当てジェスチャーするウォルター。

「それでさ、ちょっと罪悪感感じてたものだから僕から君にサービスクエストをプレゼントしようと思ってね!」

「はぁ、サービスですか…」

「うんうん!他の二人はちょっと予想外だったけど…」

「あ、迷惑でした?」

申し訳なさそうにする零へ…

「いやいや、そんなことないよッ!むしろいい仲間を見つけたね、と喜ぶべきことだ!」

慌てて弁解するウォルター。
と、そこへジャックを連れたクラウリーが戻ってきた。

「お待たせしましたわ!」

ぜぇぜぇと息を切らしているクラウリー。
どれだけ急いで行ったのだろうか?

「おぉ、GMのウォルターさんすか!?」

握手を求めるジャックにウォルターは快く承諾する。

「それじゃぁ改めて、初めましてだね!僕の名前はウォルター。出来れば『博士』とつけてくれると嬉しいね!GMでもあるが今回は君たちに守ってもらう依頼主でもある!よろしくねっ!」

「で、どこまで護送すればいいんですの?」

息を整え、スパッと本題に入るクラウリー。
危険な場所に行けるとでも思っているのか、その瞳はキラキラと輝いていた。

「うん、ここからさらに南へ8キロほど歩いたところにある洞窟までお願いしたいんだ!」

「「「はい?」」」

拍子抜けした声を出す三人。
それもそのはずである。
フロンティア1を起点としてもたった10キロ程度の地点…とてもGMが護送をつけていくようなエリアではない。

「え、ちょ、ちょっと待てくれよ!?どういう事なんだ!?」

「ん?どうしたんだい?」

「どうしたんだい、じゃありませんわ!?そんな近場でしたら貴方だけでも十分ではないですこと!?」

「はぁはぁなるほど、そういうことねぇ」

ポン、と納得するウォルター。

「まぁ、その辺の理由は歩きながら話そうか!」

が、そう言ってすたすたとウォルターは歩き出す。

「え、ちょ!博士!?」

あわててその後を追いかける3人。

「君たち、初日に会ったヒトガタのことは覚えているかい?」

「忘れたくても忘れられませんよ」

しみじみという零に対し、他の二人は首を傾げる。

「私たちはちょっと見ただけですからあんまりですわね」

「だな」

そうだろう。あの現場に居合わせたなら話は別だったのだろうが…。

「まぁ、そのヒトガタの痕跡をナビでたどった結果、その出生元がどうやら今から行く洞窟のようなんだ」

「え?」

「まじか…」

「ヒトガタってフロンティア4のネイティブではないですの?」

各々驚きを隠せない様子でウォルターへと問いかける。

「まぁ、本来はね。だからこその今回のこの調査というわけだよ」

「それを早く言ってくださいな!退屈なクエストかと思いましたわっ!」

再び輝きを取り戻すクラウリーの瞳。

「うーん、あんまり楽しみにしない方がいいと思うよ。…ねっ、零君」

「は、はぁ…」

あの時の記憶が蘇り背筋が寒くなる零。
この四人で行ってあのヒトガタがまだ居たとして、果たして勝てるものかどうか…。

「なんだよ、そんなに強いのか?」

「ですね…あのGって人も不意打ちでなんとか勝ったって感じでしたから…」

零の言葉にまぁまぁとなだめるウォルター。

「仮にヒトガタが大量にいたならそれを確認した時点でみんなログアウトすればいいんだよ。無理に討伐する必要ないさ!その時はフロンティア4の精鋭達と僕らゲームマスターでなんとかするからね!」

「そんなのつまらないですわ」

ぶーぶーと文句を言うクラウリーに笑うウォルター。

「君は中々フロンティアを楽しんでいるね!そう、そういうのも中々楽しいよ!時には勝てない敵に挑んで負けるのも一つの勉強さ!どのみち負けても現実に死ぬわけではないからね」

「はぁ、そういうものですか…」

「うんうん。それに、遅かれ早かれこのフロンティアを続けるなら嫌でも闘わなければならない相手だしね」

そう言うと、ウォルターは何かに気が付いたようにあたりを見渡す。

「それにしても、しばらく見ない間に大分この辺のネイティブが増えた気がするなぁ…」

「そうなんですか?」

「あぁ…もしかしたら洞窟に居るのは…」

そこで言葉を止めるウォルター。

「もしかして…何がいるんだ?」

「いや、確証はないんだけどね…最近新たに発見された『オンショウ』っていうネイティブが居るのかもしれないな、と思ってさ」

「オンショウってなんですの?」

クラウリーの問いかけに少しウォルターは困った顔をする。

「うーん…まだ君たちには見てほしくないしあんまり説明もしたくないんだけどなぁ…」

「それだけヤバいってことか?」

「まぁ、ねぇ…まぁ、もしオンショウがいたならちゃんと説明してあげるよ!」

話しながら歩き続ける道のり。
道中出会うネイティブはやはり脆弱で何の手ごたえのないものばかり。
三人の中では、ウォルターの言うその洞窟にヒトガタに関わる何かがいるという考えにも疑問を持ち始めていた。

どれだけ歩き進んだだろうか、近場といえども10キロの道のりはやはり長い。

「そろそろ着いても良い頃ではなくて?」

少しクラウリーには疲れの色が現れ始めていた。

「そうだね、もうすぐ着くと思うよ。……と、そうだ!今のうちに君たちにはこれを渡しておこう!」

そう言ってポケットを漁りだすウォルター。

「あったあった!」

ポケットから出した手には3枚のエクステンドチップ。

「これは?」

零の問いにウォルターがニッと笑む。

「今回の報酬だよ!何かあった時の為に先に渡しておこうと思ってね!」

言うと、ウォルターはまずクラウリーへとチップを渡す。

「あら、気前がいいのですわね」

「そうだろう?君に渡したのは『クーフーリン』のエクステンドチップだよ!発動すれば今の君でも大型ネイティブ2体くらいなら相手にできるほどの攻撃力を得られる!…ただし、その分うまく武器を使いこなさないとその力に逆に振り回されてしまうから気を付けるように」

チップを渡され驚きの表情を浮かべるクラウリー。
しかし、それを気にする様子もなく続いてジャックへとチップを渡す。

「君にはこれだ!『オズワルド』のエクステンドチップ!発動すれば3連射の追尾弾が放てるよ!ただし、3連射という事は弾丸の消費量も3倍ということだ。よく考えて使うんだよ」

「マジかよ…これって……」

最後に渡したのは零。
最後のチップは他のものとは違い、赤く色付けされていた。

「これは僕の特別製だよ。『ある』ネイティブのDNAを解析してその特性を『反転』させた世界に一つしかないエクステンドだよ…名前は『アマテラス』。このエクステンドは君の想いの強さに応じてその力を変化させる少々扱いが難しいチップだけど、君にはこれを使いこなせると信じているよ!」

「そんな貴重なものを…?」

チップを受け取り唖然とするする3人。
そんな中一番最初に口を開いたのはジャックだった。

「これって、フロンティア4レベルのチップじゃないのか…?」

「そうそう!いや、実は今日遅れたのもこのチップを用意するためだったんだよ!いやぁ、君たちの武器特性に合わせて最善のチップを選ぶのは大変だったよ」

「そういう事ではないのではなくて?」

クラウリーの言葉に首をかしげるウォルター。

「何でこんなものを?…つか、こうやって特定のユーザーを優遇するのはGMとしてありなのか?」

「いや、もちろん基本的には認められていないよ。ただ、君たちの可能性を見てみたくてね」

「可能性?…どういう意味です?」

ふぅ、とため息をつくとウォルターは重々しく口を開く。

「もちろん根拠なんかないよ?何となく零君には何か惹かれるものがあってね…。そして、その仲間の君たち…これは僕の実験の一環だと思ってもらっていい。僕のこの行動がこの先この惑星に、そして『僕たち』にどんな影響をもたらすのか興味があるのさ」

「…なんか、釈然としない理由だけど。まぁ、俺はもらえるものは貰っておくぜ」

「あとで変な要求とかしたりしないですわよね?」

「もちろん、見返りなんて求めていないよ?第一これは報酬物として渡すはずのものだったんだから」

「なら、貰っておきますわ」

完全には納得しないながらも武器へとエクステンドチップをインストールする二人。

…何かおかしい。
そんな理由でこんなチップを俺たちに?

再びよぎる、哲二に気をつけろというGの言葉。
零はふとウォルターへと目を向ける。

普通に笑ってるようにも見えるし、何か企んでいるようにも見える…。

疑心を持ち始めた零にはもはや正確にウォルターの表情を読み取ることすら困難になっていた。

仮に、これを俺たちに渡すことで自分には何のメリットが?
それとも本当にただの興味からの行動?

考え込む零。
考えれば考えるほど頭が混乱していく。

「おい、零!そろそろ行こうぜ!」

「あ、はいっ」

そんな零を引き戻したのはジャックの言葉だった。

(考えても仕方ない…か)

そう自分に言い聞かせ、零も再び歩き出した。







ほどなく歩くと、その洞窟は姿を現した。
草原エリアを抜け、軽く山脈地帯に入った所にその洞窟はあった。

『ファーストライン』

そう呼ばれるこの山脈はその名の通り、調度フロンティア1とフロンティア2との境目。

その洞窟を前に3人は各々武器を生成し先ほどウォルターより受け取ったエクステンドを発動する。

「エクステンド!クーフーリン!」

「エクステンド!オズワルド!」

「エクステンド!アマテラス!」

それぞれ固有の形状へと変化する武器。
ただし、零を除いては…

「あれ?俺のだけ変化しない?」

「あぁ…」

状況を理解しているウォルターは零へとエクステンドを解くように促す。

「言っただろ?それは君の想いの強さに影響されるエクステンドなんだよ。つまり、中途半端な気持ちでエクステンドしても意味はないのさ」

「そういう事ですか…」

改めて渡されたエクステンドの使いにくさを認識した零。

「エクステンド!ラット!」

代わりに元から持っていたエクステンドを発動すると、零の剣は静電気を帯び始める。

ラットの特性は【麻痺】。
前線向きの能力とは言い難いが、今のチームの中で一番攻撃力の乏しい零にとってはこの選択のほか無かった。

「うん、いい判断だと思うよ!さぁ、行こうか」

洞窟へと踏み出す4人。
あたりは暗く、ウォルターが持参してきたライトを照らす。

「なんだか気持ち悪い感じですわね…」

クラウリーの言うとおり、洞窟には嫌な雰囲気が漂っていた。
ジメジメとした空間に、天井から滴る水滴音とズッズッっという何かが這いずる音。

ウォルターが反応したのはその這いずる音の方だった。

少し進むと、ウォルターは残念そうに左右へと首を振る。

「残念だけど、嫌な予感が当たってしまったようだね…」

少し先には、光の差し込む空間。
ウォルターはライトを消すと、自らも愛用のナノロッドを生成した。

「君たちにはまだ見せたくなかったな…」

「なにが…いるんだよ?」

ただならぬウォルターの様子に前へと出て先に光さす空間へと踏み込むジャック。
しかし、その足はその空間に入った瞬間にとまった。いや、むしろ2、3歩後ずさる。

「なんだよ…こいつら……」

ジャックの驚愕ぶりに急いで他の二人もその空間へと足を踏み入れる。
そこに居たのは…

「そいつらが…オンショウさ」

そう、一面に群がっていたのは…
身体の至る所に結晶を埋め込まれ這いずる『人間』だった。 
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