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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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キラーパンサーに転生
  3あなたに会えてよかった

 明日には自分の村に帰るというドーラちゃんは、あたしに名前を選んでくれたあとも一日ビアンカちゃんと遊んでいて、あたしも一緒に遊んでもらって。

 バカな男の子たちと違ってドーラちゃんもビアンカちゃんも、優しいし、賢いし、可愛いし!
 あたしを撫でてくれる手もすごく優しくて、すっかり幸せな気分になってます。

 特にドーラちゃんは、なんていうか、かゆいところに手が届くっていうのかな?
 いくら優しい女の子でも子供なんだから、もうちょっと不器用でも仕方ないと思うんだけど。
 あたしが撫でられたいところと触られたくないところをちゃんとわかって、撫でてくれてるみたいな。
 やっぱりモンスター使いの素質みたいなの、あるのかな?


 ビアンカちゃんのママがあたし用にごはんを用意してくれて、ベビーパンサーになってからちゃんと料理されたごはんを食べるのは初めてだったから、ちゃんとおいしいと思えるか不安だったけど。
 おそるおそる食べてみたら、とってもおいしくて。

 ああ、あたし、やっぱりほんとに、人間だったんだ。
 こういうおいしいの、食べてたんだった。

 みんなに優しくしてもらって、おいしいもの食べて。
 すごく嬉しいはずなのに、なんだか泣きたくなってきて、ごまかすみたいにして一気に食べきって。

 またごまかすみたいに毛繕いをしてたら、また優しくドーラちゃんがあたしを撫でてくれて、もう我慢できなくてぐりぐりと擦り寄ったけど、それでもドーラちゃんは嫌がらないで、しっかり受け止めてくれた。

 なんでだろう、ドーラちゃんは、まだ六歳なのに。
 ベビーパンサーのあたしはまだ一歳にもならない子供でも、中身はもっとお姉さんなのに。

 なんでこんなに甘えたくなっちゃって、ちゃんと甘えさせてくれるんだろう。

 ドーラちゃんがあんまり優しいから、お姉さんみたいに甘えさせてくれるから。
 あたしはずっと見ないふりでいたことに、気付いてしまった。


 あたし、寂しかった。
 ずっと、寂しかった。


 あたしはベビーパンサーだけど、人間だったのに。
 お母さんが作ってくれたごはんを食べて、お父さんが守ってくれる家で寝起きして、毎日お風呂に入ってキレイにして、学校に行って友達と遊んで。
 勉強とかテストとか、面倒なこともあったけど、それでも毎日守られていて、楽しいこともたくさんあって。
 そのときはちゃんとわかってなかったけど、でも幸せだったのに。

 あたしが人間だったことなんて誰も知らなくて、自分でも本当のことだったのかわからなくて。
 キラーパンサーのお母さんがいなくなってからは、誰も守ってくれなくて、あたしばっかり頼られて。
 キラーパンサーとしては当たり前のことかもしれないけど、黙って置いていかれたことも、ほんとはすごく悲しかった。
 兄弟たちはもちろん、大人のキラーパンサーのお母さんだってそんなに賢くはなくて、対等に話せる相手なんていなくて、寂しかった。


 ドーラちゃんにお風呂で優しく洗ってもらってる間、そんなことを考えてたら涙が出てきたけど。
 今まで知らなかったけど、ベビーパンサーでも、悲しかったら泣けるんだ。
 ただのベビーパンサーが、元は人間だったあたしみたいに考えて、人間みたいな悲しみ方で泣くことがあるかどうか、わからないけど。

 だけどこれからは、ドーラちゃんが一緒なんだから。
 途中で離れることはあっても、きっとまた会えるんだから。
 もうずっと、ひとりぼっちなんてことは無いんだから。

 泣くのはこれでおしまいにして、お風呂からあがったら。
 ドーラちゃんと楽しく過ごして、ドーラちゃんをたくさん助けて、ドーラちゃんと一緒に、ずっと生きていこう。


 あたしは、ドーラちゃんのキラーパンサーなんだから。
 ドーラちゃんに会うために、ドーラちゃんと一緒にいるために、きっとあたしはこの世界に生まれてきたんだから。

 ドーラちゃんに会わなかったら、あたしが寂しかったことになんて、きっと一生気付かないで、見ないふりでいたけど。
 ドーラちゃんに会ったあたしは、気付いてしまったから。

 あたし、寂しかった。
 今は、寂しくない。
 ドーラちゃんがいるから、寂しくない。

 ドーラちゃんに会えて、嬉しい。
 ドーラちゃんに会えて、よかった。

 この世界に生まれてきて、ドーラちゃんに会えて。
 ドーラちゃんのキラーパンサーとしてこの世界に生まれてきて、よかった。


 お風呂を出て、濡れた体をしっかり拭いて乾かしてもらって、ドーラちゃんのベッドの足元に丸くなります。

 今日からしばらくは、寝てる間に襲われる心配も、しなくていいんだ。
 寝るときも、ドーラちゃんが一緒なんだ。

 ドーラちゃんはまだ起きててパパとお話しするみたいだったけど、あたしはお腹もいっぱいで、キレイになって暖かくなって、すっかり眠くなってきて。
 幸せな気分でうとうとしながら、なんとなくドーラちゃんとパパのお話を聞いてます。


 ……そっか、ドーラちゃんのパパは、ドーラちゃんが心配なんだ……。
 そうだよね、ドーラちゃん女の子だし、可愛いもんね。
 戦わせたくなんか、ないよね……。

 ……でも、ドーラちゃんは、戦いたいんだね……。
 そうだよね、ドーラちゃんは、優しいもんね。
 ビアンカちゃんだけにさせたり、あたしをほっといたり、できないよね……。

 ……大丈夫。
 これからはあたしが、ドーラちゃんと一緒だから。
 ドーラちゃんのパパが一緒にいられないときも、あたしが、ドーラちゃんを助けてあげるから。

 あたしはドーラちゃんとお話はできないけど、ドーラちゃんの言うことはわかるから。
 ちゃんと言うことを聞いて、ちゃんと助けるから。
 だから、ドーラちゃんのパパも、ドーラちゃんも、大丈夫だよ……。


 あたしがドーラちゃんと少しの間お別れするときは、ドーラちゃんのパパともお別れするときなんだって、そのときは眠くてちゃんと考えられなくて。

 ただ、あたしはあたしのできることで、ドーラちゃんを助けてあげようって、それだけを考えて。
 幸せな気分で、その日は眠ってしまいました。 
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