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今を生きる

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第三章

「もう銃の時代だ、これは武器にはならない」
「銃ならば。石でも機関銃なら」
「これ以上に壊すことが出来る」
 粉々にだ、それこそその圧倒的な威力で完膚なきまで砕ける。彼が今奥義で猟団したその灯篭ですらもだ。
「それも容易にな」
「銃弾をかなり使ってもですね」
「それでも」
「機関銃さえ持てれば」
 それでだというのだ。
「それだけでだ」
「この灯篭もですか」
「壊せるんですね」
「そうだ、出来る」
 こう話してだ、そしてだった。
 森下は周りにいる学生達にだ、剣を持ったまま言うのだった。
「火縄銃の頃から刀の時代は終わっていた、いや」
「いや?」
「いやとは」
「弓矢が出た時からだ」
 もうだ、その時からだというのだ。
「刀の時は終わっていた」
「確かに。弓なら」
 学生達の中から一人が言ってきた。
「灯篭は断ち切れませんが」
「人ならな」
「そういえば」
 ここでだ、森下に最初に話を出したその学生も言ってきた。
「名人伝でも弓でした」
「弓を極めてだったな」
「気で弓を持たずとも撃てる様になりました」
「極めずとも弓は離れた場所の相手を倒せる」
 そもそもその為の武器だ、戦国時代までの戦でも刀よりも弓矢の方が遥かによく使われて軸が置かれていた。
 それでだ、森下も言うのだ。
「よりだ」
「では刀は」
「遥か前からですか」
「そうだ、赤穂浪士達も討ち入りの時まずは吉良家の弓の弦を切った」
 それで弓を使えなくしたのだ、理由は簡単で使われれば厄介だからだ。
「それを見てもわかることだ」
「刀は、ですか」
「現実には」
「大したものではない」
 森下はこの現実を素っ気なく話した。
「こんなものはな」
「ではどうしてでしょうか」
 学生の中でとりわけ背の高い者が右手を挙げて言って来た。
「先生は剣道をされそしてそれを極められたのでしょうか」
「確かに戦では使わない」
 鉄砲なり弓矢なりの方が遥かにだというのだ。
「だが心だ」
「心ですか」
「そうだ、心だ」
 今彼が話に出すのはこれだった。
「心なのだ、これは」
「そういえば先程先生は柳生新陰流は活人剣と仰っていましたね」
「うむ」
「では剣道は、そして気を使うことも」
「己の心身を鍛え技を極めることだ」
「道ですか」
「だから剣道だ」
 剣の道、それになるというのだ。
「剣は己を鍛え磨くものなのだ」
「そして気もですか」
「それもまた」
「気を操れる様になるまで相当な修行が必要だ」
 それはかなりのものだ、それこそ血の滲むどころではない。 
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