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強迫観念

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第五章

「悪いけれどね。それでもね
「勝つのはいいんだな」
「そうよ、たまにはいいからね」
「たまって何だよ、阪神はな」
 寿は強い声で妹に反論する、その間も魔法陣に何か書いている。
「これから黄金時代を迎えてな」
「優勝するっていうのね」
「そうだよ、楽しみにしてろよ」
「話だけは聞いてあげるから」
「全く、冷たい奴だな」
「阪神ファンじゃないから」
 あくまでクールな千佳だった。何はともあれ今度は白魔術に祈りを捧げる兄を見た。とりあえず彼は阪神の勝利を祈り続けた。
 祈りが実ったのか阪神は中日をう破りリーグ優勝を果たした、日本中が再びフィーバーに包まれた。そしてシリーズも。
 前回屈辱の四連敗を果たしたロッテを何とか破った、そうして日本一となり。
 寿も大喜びだった、日本一になったその夜家でビールを大ジョッキで飲みながら千佳に満面の笑顔で言った。
「いや、遂にやったな」
「おめでとうとは言っておくわ」
 千佳は家のテーブルの向かい側に座り飲んでいる兄にこう返した、兄は今も阪神のユニフォームを着ている。
「日本一になってね」
「前回のシリーズはな」
「悪夢だったっていうのね」
「西岡本当に死ねって思ったよ」
 飲みながらの言葉である。
「あと福浦も」
「満塁ホームラン打たれたからね」
「手も足も出なかったからな」
 それでストレートの四連敗だった。
「いや、あの時もお祈りしてたんだけれどな」
「負けたのね」
 しかも惨敗である、野党に戻ってからの民主党の選挙並の。
「で、それからだったわよねお兄ちゃんって」
「僕がお祈りをしたら勝つんだよ」
「負けてるじゃない」
「その時はお祈りを変えるんだよ」
「勝てるお祈りをするのね」
「手の上げ方も足の動かし方も」
 話は段々神経質になってきていた。
「勉強時間だってな。一日四時間以下だとな」
「阪神が負けるっていうのね」
「実際に三時間半しか勉強しなかった時はいつも負けてるんだよ」
 寿は真顔で千佳に語った。
「だから僕は一日四時間勉強するんだよ」
「それで成績優秀なのね」
「スキー部でトレーニングをしないとな」
 今度はこうした話だった、スポーツである。
「やっぱり負けるんだよ」
「お祈りだけじゃないのね」
「ああ、お祈りでも間違っても呪ったり生贄とかはしないからな」
 このことは絶対にだというのだ。
「それはまずいからな」
「人を呪わば穴二つよ」
 それでだというのだ。
「阪神どころかお兄ちゃん自身に返ってくるわよ」
「僕のことはいいんだよ」
 大ジョッキのビールをぐい、と飲み干した。そして缶のビール、一リットルのそれをジョッキに移し替えながら妹に言った。
「けれど阪神がそうなるとな」
「駄目だからなのね」
「黒魔術に手を出した時もやばいことはしていないよ」
 生贄だの魂を売るだのそこまではというのだ。
「まずいからな」
「賢明ね、けれどね」
「けれど?何だよ」
「はっきり言ってお兄ちゃん阪神の勝ち負け気にし過ぎよ」
 オレンジジュースを飲みながら兄をじと、とした目で見ての言葉だ。 
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