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旗手

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第一章

                      旗手
 フィリップ=ド=マルゴット中尉は連隊の旗手を務めている。それが彼の誇りである。
 いつもその連隊旗を見ながら士官学校の同期の面々にも言う。
「いや、この旗を持つのがね」
「御前の誇りだな」
「いつも言ってるよな」
「そうだよ、いい旗だよね」
 その連隊旗を見上げながらだ、彼は笑顔で語る。
「この旗を持てるだけでも誇りだよ」
「じゃあこの旗は絶対か」
「何があってもか」
「そう、例えどんな相手が来ても」
 戦場でだ、どんな相手が攻めてきてもだというのだ。
「手放さない、そして」
「敵にもか」
「奪われないか」
「旗を奪われるのは恥だよ」
 このことはどの軍でも共通の認識だ、だからこそ乃木希典も西南戦争で連隊旗を奪われたことを生涯の恥としていたのだ。
 だが彼はだ、こう言うのだ。
「けれど僕はね」
「絶対に敵に奪われない」
「そして手放さないか」
「そうさ、折角旗手に任じられたしね」
 誇りあるその役職になったからこそだというのだ。
「僕は任を果たすよ」
「今かなり怪しい状況だがね」
 同期の一人がここでこう言った。
「我がフランスも」
「ドイツなあ、あの国がな」
「あれは怪しいな」
「絶対に何か企んでいるな」
 他の面々もその言葉に応えて言う。
「今は大人しいがな」
「全く油断出来ないな」
 隣国のドイツについて話していく。
「ポーランドを見ればな」
「あっという間にやられたからな」
 宣戦布告と共に攻め込まれ僅か一ヶ月で降伏に追い込まれた、この事態に世界中が唖然となったのだ。
「我が国に来たらな」
「激しい戦いになるな」
「しかしマジノ線があるからな」
 ドイツとの国境にあるそれだ、それがあるからだ。
「大丈夫だな」
「そうだな、マジノ線は絶対に越えられないぞ」
「あの要塞ラインがある限りフランスは負けないな」
「何があってもな」
 彼等はこう確信していた、そしてそれはマルゴットもだった。
 今も己が護る連隊旗を見ながらだ、こう言うのだった。
「フランスは負けない、そして僕も」
「連隊旗をか」
「絶対に護るんだな」
「誇りをね」
 まさにそれだった、彼にとっても軍にとっても。
「護り抜くよ」
「そうしろよ、ドイツにもな」
「あの国をもう一度降伏させてやろうな」
 一次大戦のことも話される、先の戦争ではドイツは敗れそのフランスのベルサイユにおいて降伏条約に調印している、だからだというのだ。
「今度ベルサイユだな」
「あの場所で降伏の言葉を聞いてやろうな」
 彼等は勝つつもりだった、それを確信していた。
 だが戦争は思い通りにいかないものだ、ドイツ軍はj北欧を制圧したうえでいよいよフランスに攻めて来た、その攻勢はというと。
 マジノ線には向かわなかった、アルデンヌの森を越えてそのうえで攻めてきた、これには誰もが驚いた。
 そしてその攻勢にフランス軍は総崩れになった、彼等は為す術もなく次々に敗れ退却を続ける始末であった。
 無論その中にはマルゴットの所属する連隊も入っている、彼等はひたすらパリに逃げていた。
 連隊長は必死の顔でだ、部下達に言っていた。 
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