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スローモーション

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第一章

                      スローモーション
 はじまるとも思っていなくて。
 私はその日普通に登校した、いつもの日常だった。
 けれどその日にだった。
 隣のクラスの彼にこう言われた。
「ちょっといいかな」
「何?」
 顔は知っているけれどこれまで話したことはなかった、何処にでもいる普通の男子高校生だった。
 けれどその彼が急に話をしてきたのだ。
「うん、今日だけれどね」
「今日?」
「今日なの」
「そう、今日ね」
 その今日だというのだ。
「砂浜行かない?学校の帰り道の」
「あそこね」
「まだ海の季節じゃないけれどさ」
 彼は笑って自分からこのことも言って来た。
「それでもね」
「春だけれどね」
 丁度五月に入ったところだった、桜の木は緑になっている。
「それでもどうかな」
「ひょっとしてこれって」
「うん、デートにね」 
 彼はこのことも笑顔で自分から言って来た。
「それに誘いたいんだけれどね」
「何で私なの?」
 私は彼にまずはこのことを問うた。
「他にいないの?」
「いないから誘うんだよ」
 笑顔で言う彼だった。
「君しかいないからね」
「ということは」
「まあ詳しいことはその時にね」
 砂浜で話すというのだ。
「お話するから」
「その時なの」
「そう、その時にね」
 今は隠す、こう言うのだった。
「話すからそれでいいかな」
「そうね。それじゃあね」
「察しついてるかな」
「わかるわ、そういうことよね」
「うん、そうだよ」
 私も自然に笑顔になっていた、彼のその明るい砕けた様子に妙に緊張を解されてそれで頷いたのだ。その彼がまた言って来た。
「じゃあ今日の放課後砂浜でね」
「お話聞かせてね」
「そういうことでね」
 私は彼の言葉を聞くことにした、放課後に砂浜で。
 その放課後だった、下校の帰り道の横にある砂浜を二人で歩いた。
 白い砂浜は今は私達以外には誰もいない、夏は賑やかだけれど今は。
 青い海も波音を立てて白い泡も見せている、その砂浜を歩いていて。
 彼は私に顔を向けて言ってきた。
「じゃあね」
「ええ、そのお話よね」
「よかったらだけれど」
 私に対して言って来る。
「俺と付き合ってくれるかな」
「そう来たわね」
「やっぱり予想していたよね」
「だからここに来たのよ」
 それはその通りだと返した、彼に顔を向けて。背は彼の方が二十センチは高い、それだけの高さである。
「じゃあね」
「うん、それじゃあ」
「少し待って」
 私は彼にこう答えた。
「少しね」
「今ここでじゃないんだ」
「そう、少しだけ待って」
「どれ位かな」
「三日ね」 
 彼に対して言う。 
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