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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第24話 木の精霊

 こんにちは。ギルバートです。現在、ドリュアス家緊急家族会議中です。会議の焦点は、先日発覚した魔の森の精霊対策についてです。ただ今家族内での意見が、割れに割れています。

 木の精霊に対する意見は、以下の二つに分かれています。

 多少リスクがあっても、精霊と接触して交渉するするべきと言う交渉派。こちらは、私と父上の派閥です。

 危険すぎるので、精霊との接触は避けるべきと言う不干渉派。こちらは、ディーネとアナスタシアの派閥です。

 母上だけが、自分の意見を明言していません。普段の母上なら真っ先に意見を言うのですが、事が家族の安全に関わる事になると途端に慎重になります。まあ、冷静じゃない時は話が別ですが。

 家長の父上は当然ですが、私も家族内での発言力は強いです。発言力順は基本的に、父上>母上>私>ディーネ>アナスタシアの順番です。現状では交渉派が優勢ですが、母上が如何出るかによって簡単に逆転されます。当然それを理解しているディーネとアナスタシアは、母上を説得し不干渉派に引き入れようとしています。

 私は最初に「交渉すべき」と発言して、後はずっと黙ったままでした。議題には出ていませんが、一つ懸念事項があるからです。それは、高等法院や馬鹿貴族達です。もしこいつらに精霊の事が知られれば、交渉役になろうと魔の森に押し掛けて来るでしょう。そうなれば、精霊を更に怒らせる事になりかねませんが、それだけではありません。

 精霊が答えない → 虚偽の報告
 精霊との交渉の失敗 → 精霊が居なかった事にされて虚偽の報告 
 何らかの原因で魔の森が広がる → ドリュアス家の責任問題
 自称交渉役に怪我人死人がでる → ドリュアス家の責任問題
 自称交渉役の立ち入りを断る → 叛意有り

 如何転んでも、高等法院に致命的な隙を見せる事になります。また黙っていても、どこから情報が漏れるか分かった物ではありません。その時は、重要情報隠匿による叛意有りです。

 ドリュアス家にとっての理想は、単独で精霊と交渉し話をまとめてしまう事です。成功させてしまえば、余計な口出しをされる心配がありません。言い訳など如何とでも出来ます。その場合のリスクは、交渉中に情報が漏れると叛意有りとされる事です。

 父上と母上も、高等法院や馬鹿貴族の事は当然気付いています。だからこそ母上は、ここまで迷っているのでしょう。

 私が交渉すべきと判断したのは、ドリュアス家単独での交渉が一番リスクが少ない上に、リターンが大きいと判断したからです。それは精霊との交渉は、私が行けばスムーズに進むと考えたからです。

 話を切りだすタイミングを計っていましたが、このままでは埒が明きません。仕方が無いので、私はテーブルを掌で叩き注目を集めると、口を開きました。

「精霊との交渉には私が行きます」

 一瞬だけ場が静寂に支配されました。そして次の瞬間には、予想通り全員から猛反対されました。かなりのプレッシャーを感じますが、ここで発言を撤回する訳には行きません。

「私の魂の話はしましたね?」

 ここで全員が口を閉じました。

「私の魂を融合させたのは、大いなる意思であると話しましたね?」

 私の確認に、全員が沈黙を持って答えました。

「大いなる意思とは、先住……いえ精霊魔法を使う者達にとって、神に等しい存在です。当然精霊にとっても、無関係ではないでしょう。大いなる意思の加護がある私が行く方が、交渉の成功率は圧倒的に高いです。交渉が失敗した時の、安全に帰ってこれる確率も同様です」

 加護云々は、ハッタリと言って良いでしょう。ですが、完全に嘘と言う訳でもありません。必要なら私は、頭の中身を全て精霊に晒す覚悟があります。私の予想が正しければ、精霊は大いなる意思の「この滅びゆく世界に、運命を変える一つの因子たれ」と言う言葉に、態度を軟化してくれるはずです。上手くすれば、全面的に協力してくれるかもしれません。

「分かった。今回に限りギルバートの同行を許可する」

 私の言葉に、父上が最初に折れました。ディーネとアナスタシアが、父上に非難の視線を向けます。しかしそれも長くは続きませんでした。

 ……原因は母上です。

「ならば私とギルバートで行きましょう」

「ならん!! 行くのは私とギルバートだ!!」

 母上の言葉に、父上が即座に反対します。父上と母上は、睨み合いを始めてしまいました。ディーネとアナスタシアは母上が交渉派になり、誰が行くかに論議が移ってしまったので蚊帳の外です。2人仲良く、私を睨んで来ました。(私は悪く無いと思うのですが)

 結局この日の家族会議では、父上と母上のどちらが行くか決着がつきませんでした。

 次の日の朝食時に、父上から「交渉は、私とギルバートが行く事になった」と話がありました。父上の顔はゲッソリしていて、更に青あざと引掻き傷そして……大量のキスマークがついていました。母上を見ると、妙に肌が妙につやつやしています。

(……父上。寝技に持ち込んだな)

 ディーネとアナスタシアは、あの母上が大人しく引き下がったと言う不可解な状況に、しきりに首をひねっていました。

(そのままのあなた達でいてください)



 私と父上は、精霊との交渉の為の準備を整えました。月は何時の間にか変り、7月(アンスール)に突入していました。精霊の居場所については、手記に記されていた内容と王都で手に入れた地図を照らし合わせ調べると、なんとか判明しました。

 その場所は森の中で唯一開けた場所で、小さな沼が在り沼の中心に小島が在るそうです。その小島に大きな大樹が、ドンと鎮座していると情報がありました。(そんな怪しい場所、今まで調べなかったのでしょうか?)私はそう思い父上に聞こうとしたら、父上が先に口を開きました。

「当然そのような場所は、過去の調査隊が真っ先に調べている。その場所にこだわった者も、決して少なくは無い。前任であるクールーズ家の、アラン・レイ・ド・クールーズもその1人だ。しかしその場所は、亜人は居ないが幻獣や魔獣が多く下手な事が出来ないのだ。だから過去の調査隊は隠れて近づき、ディティクト・マジック《探知》で入念に調べたそうだ。だが、結局何も出なかった。相手が精霊ともなれば、当然の結果と言えるがな。……しかし、あの場所に精霊が居るとは、とても信じられん」

 父上の最後の言葉が多少気になりますが、精霊の力は《探知》では解らないのです。これは精霊の力を、人間が知覚出来ないからと私は考えています。そうなると過去に調査した人達は、全て無駄骨だったと言う事になります。私は頭が痛くなりました。

 いったい魔の森は、どれだけの物を呑み込んで来たのでしょう? 土地・国の富・民や優秀な人材。数え始めれば、キリがありません。それら全てが、一部の権力者達のくだらない欲から始まったと思うと、やるせない悲しみと怒りを覚えます。



 そして、いよいよ出発の日を迎えました。おかげ様で早朝から騒がしく、寝坊せずに済みました。

 交渉に向かうのは、私と父上そして守備隊から護衛としてヒポグリフ騎兵の男女2名です。男の方の名前は、エディで風のメイジです。女の方の名前は、イネスで水メイジです。実力は、2人ともラインクラスと聞いています。本当はもっと護衛を増やしたかったのですが、あまり大人数になると精霊に警戒されると判断しました。

 父上は、母上と長めの抱擁を交わしています。護衛役の2人も、30人近い仲間に囲まれていました。私も出発の挨拶をしようと、ディーネとアナスタシアに目を向けますが、そっぽを向かれてしまいました。(うっ……。ちょっと悲しい)そうこうしている内に、父上が母上との挨拶を終え、全体への出発の挨拶と号令をかける様です。

 ドリアード侯爵の顛末(てんまつ)は、既に全員が知っています。その所為か、一様に真剣な表情をしていました。士気も高いです。

「我々をこれより、木の精霊と交渉をする為に森へと入る。かつて、一部の強欲な者達の所為で精霊を怒らせ、精霊の森が魔の森と化してしまった。我々は人間の過去の過ちを清算し、精霊と共存しなければならない。皆、私に……ドリュアス家に力を貸してほしい」

 守備隊員達は、父上の宣言に敬礼で返します。

「護衛の2名は、騎獣に乗り込め」

 エディとイネスが、それぞれのヒポグリフに乗り込みます。私も父上と一緒にグリフォンに乗り込みます。

「では、……出発する」

 父上の掛け声と共に、1頭のグリフォンと2頭のヒポグリフが空へと飛び上がりました。目指すは、ドリュアス領南西に在る精霊の大樹です。



 高い高度を取りながらの移動は、問題無く進みました。グリフォンに乗っている時間は、大体2時間位でしょうか? ようやく目的地が見えて来ました。徐々に騎獣の高度を落として行きます。しかし、このまま下りても良いのでしょうか?

「父上。我々は隠密行動は良いのですか?」

「あくまで話し合いに来たのだ。必要無かろう」

 父上は私の疑問に即答します。そして直接目的地に降り立ちました。

 そこは、とても澄んだ空気に包まれていて、沼の水は透明度が高く底に生えている水草がハッキリと見てとれる清浄な場所……ではありませんでした。

 先ず気になったのが臭いです。マギの時に嗅いだ事がある、どぶ川の様な臭いです。臭いの元は沼でした。沼の水は濁り悪臭を放ち、とても生物が住んでいるようには見えませんでした。

(これが精霊が居る場所なのか? 信じられない。……そうか、父上が言っていた「精霊が居るとは、とても信じられん」とは、この事だったのですね)

 そして何より、先程から感じる視線です。森の中から感じる視線は、殺気や敵意の様なモノが含まれています。恐らく、大樹を守る幻獣や魔獣の物でしょう。杖を抜いただけで、一斉に襲って来そうな感じがします。

「話を聞く限りこの場所は昔から、この様な状態だったらしい」

 父上の口から、そんな言葉が漏れました。私達は気お取り直して、岩を伝い小島に移動しました。早速父上が、大樹に向かって声をかけました。

「木の精霊よ。私はアズロック・ユーシス・ド・ドリュアスと申します。この度は、貴方と話し合いの場を持ちたく、参上させていただきました。どうか、お姿をお見せください」

 …………し~~~ん。

「どうか……どうか、お姿をお見せください」

 …………し~~~ん。

 傍から見ると、父上がとても可哀想な人みたいです。父上は反応が無い事に、肩をガックリと落としてしまいました。エディとイネスは、私と同じ事を考えたのか苦笑いをしています。

 このままでは埒があかないと判断した私は、少しでも情報を集めようと視線を走らせます。そして大樹を見た時、違和感を感じました。本来大樹から感じるであろう“力強い生命力”を感じないのです。そして気付きました。一見立派に見える大樹は、枯れかけていたのです。原因は恐らく……。

「父上。……この大樹は、枯れかけています」

 私は手近な根に触れ、構造を読み取ります。予想通り何らかの力(おそらく精霊の力)で、沼の水を吸収しない様にブロックしているようですが、絶対では無い様です。長い時間をかけて、沼の水が少しずつ大樹を侵しているのでしょう。

「精霊が姿を見せないのは、顕現(けんげん)するだけの余力が無いか、少しでも力を温存したいからではないでしょうか?」

 私は後者だと予想しています。理由は魔の森が拡大を続けているからです。前者ならば、魔の森の拡大は止まっているでしょう。父上も確認すると同じ考えに至ったのか、私の方を見て大きく頷きました。

(父上。ここは任せていただけませんか)

 私がアイコンタクトをおくると、父上は頷いてくれました。私は大樹に手を触れ、見上げるような姿勢で口を開きました。

「木の精霊よ……沼の水を浄化するのに、魔法を使うのを許してほしい」

「なっ!?」「え?」

 私の言葉に、エディとイネスが驚きの声を上げました。父上は予想通りと言った感じで、目を閉じて笑いを押し殺していました。

 2人の考えは良く分かります。このまま放っておけば、大樹は枯れ精霊は居なくなるのです。それに、枯れかけていると言う事は、かつての強大な力を振う事は出来ない為、討伐する事も可能でしょう。それなのに、態々助ける理由は無い。と、普通なら考えるでしょう。

 この考えは、戦略的に見れば正しいです。しかし、ドリュアス家の関係者としては、決して正しいとは言えません。相手が強大な力を持つ精霊ともなれば、そう考えてしまうのも無理ありませんが……。

 暫く待つと、風も無いのに大樹の枝葉が葉鳴りの音を立てました。それと共に、森からの視線に含まれる殺気と敵意が和らぎます。精霊からの許可が出たとみて、間違い無いでしょう。また、エディとイネスも落ち着き冷静になったのか、恥ずかしそうにうつむいていました。

「許可が出たと見て間違いないでしょう。ならば役割分担を決めて、早々に浄化を終わらせてしまいましょう。父上よろしいですか?」

「かまわん。こう言った事はお前の方が詳しい。この場を見事指揮して見せよ」

(これは期待に応えなければなりませんね)

 私は大きく頷くと、ハルケギニア向きの説明を始めました。

「本来なら水はそれ自体に、自らを浄化する能力が有ります。しかしそれには、風の力(酸素)を取り込む必要があるのです。本来なら、水は流れる事により風の力(酸素)を取り込みます。しかしこの沼は、流れ込む水も流れ出る水もありません。これは水源に問題が有ると見て間違いないでしょう」

 エディとイネスは不思議そうな顔をしていましたが、私が補足説明をいくつか入れると、ようやく頷いてくれました。説明って難しいです。エディとイネスは、私の知識に驚きを隠せないようですが……。

「水の流れを復活させても、沼の水は(よど)み過ぎています。そして澱みが沈殿して、沼の底に毒となり溜まっています。これを如何にかしなければ、下流に毒を()く事になります。沼の底を《念力》でさらい無毒に《錬金》した後、森に埋めてしまいましょう」

 今度は全員が、即座に頷いてくれました。

「では、水源調査班と水底清掃班に分かれましょう。水源調査班は、私とイネスで担当します。父上とエディは、水底の清掃をお願いします。調査が終了次第、私とイネスはそちらに合流します」

 私とイネスは、沼への水の流入ポイントと流出ポイントを見極める為に、現場と地図を見比べ始めました。それらしき場所は、沼の西と南東に在りました。問題は水が流入するポイントが、どちらなのかです。見た目では、全く見分けがつきませんでした。するとイネスが口を開きました。

「西に少し行くと、国境のブレス火山から続く崖が在ります。手前が崖の上側になるので、水源の可能性が高いのは南東の方だと思います」

「詳しいですね」

 イネスは私の言葉に、苦笑を浮かべました。

「以前この森に入った事がありますので……」

 普通は条例の所為で、魔の森に入った事が有る人間など早々居ません。

「と、言う事は……」

「はい。私とエディは、元々クールーズ家に仕えていました。私達は当時新人でしたが、アラン様の捜索にも参加していました。その後は、ヴァレール様直属の部下として働いていました。それからクールーズ家が無くなり、ドリュアス子爵に拾っていただきました」

「そう……ですか。精霊を恨んではいないのですか?」

 イネスは私の言葉に、少し困った様な顔をしました。

「わだかまりが無いと言えば、嘘になります。ですが、本当に悪いのはギルバート様曰く、馬鹿貴族なのは分かっていますから」

 そう言ってイネスは笑ってくれました。私が一部の貴族を、馬鹿貴族と言って蔑んでいるのは、守備隊の中では有名になっている様です。外に漏れると波風が立つので、少し自重した方が良いかもしれませんね。それより……。

「では、南東の小川の跡を追ってみましょう。ヒポグリフを出してください」

 私の命令に、イネスは真剣な表情で応じてくれました。

 私とイネスは、曲がりくねった小川の跡を追って行きます。小川の跡は、私の予想より遥かに長かったです。最終的にブレス火山の麓まで続いていました。そして水源と思われる場所は、全て大岩でふさがれていました。

「これは、もしかして……」

 私の呟きに、イネスが答えました。

「精霊の力を弱める為に、誰かが水源を絶ったのでしょう。そして現状はかなり不味いと思います」

 そう言ってイネスが、大岩に向けてルーンを唱え始めました。私は止めようとしましたが、イネスに手で制されます。そのまま《錬金》で岩を小さくし、レビテーション《浮遊》で退()かし始めました。私は水が噴き出す事を心配していたのですが、杞憂だった様です。イネスは穴を覗き込みながら、口を開きました。

「この場を無理やり塞いだ事により、行き場を無くした水が別の出口を造り出した様です。水は全てそちらに流れてしまい、もうここから水が湧き出す事は無いでしょう」

 イネスの言葉に、私は頭を抱えてしまいました。

「少し遅いですが、昼食にしませんか? 子爵との合流は、その後でも良いと思います」

 イネスの提案に私は力なく頷きました。



 父上と合流すると、こちらも嬉しく無い発見がありました。沼の底から、次々と骨が出て来たのです。骨の種類は、人骨だけでなく騎獣らしき物も交じっていました。この状態では身元の特定は不可能と思いましたが、運良く骨達の所持品に固定化が切れていない物品が、幾つかありました。

 古いトリステイン軍の紋章が入った鎧。ロマリアの神官着の金具らしき物。他にも剣や杖がありました。恐らく精霊討伐隊の物でしょう。

 水の流れが完全に止まって、これだけの数の死体が沈んでいれば水質の悪化は当然です。地形を見る限り、雨等で一時的に水の流れが生き返ったとしても、異物を洗い流す程では無いでしょう。むしろ落ち葉等が沼に流れ込み、更に水質を悪くするだけです。そう考えると、もっと酷い状態になっていても不思議ではありません。

 取りあえず人骨の処理は置いておいて、さらった泥を《錬金》で乾燥させ肥料に変えます。肥料は森の中に埋めれば問題無いでしょう。エディは精神力が限界に近い様なので、先にキャンプの用意をしてもらう事にしました。

 作業の続きは、エディの代わりに私とイネスが行いました。底を《念力》でさらう度に、何らかの骨が出て来るので、イネスは凄く嫌そうな顔をしていました。その上臭いもきつく、とても作業環境が良いとは言えません。

 キャンプの準備が整うと、エディには現状を家に伝える為伝令に走ってもらいました。ついでに風と水メイジを、数人応援によこす様に指示しておきました。

 夕方には、底の泥を全てさらう事が出来ました。幸か不幸かこの時、鼻がマヒして臭いを感じなくなっていました。

 夕食は3人とも食欲が無く、持ってきたパンと水で簡単に済ませました。その時、父上に水源の事を報告します。流石の父上も“人間の手により水源が破壊された事”に頭を抱えてしまいました。



 翌朝、作業の再開です。泥さらいは終わっているので、次は濁った水を如何するかです。と言っても、ちゃんと考えてあります。

「父上。《錬金》を利用して、水中の不純物を圧縮して固めてください。方法は、以前行った分離精製のイメージと同じです。イネスは、朝食の準備をお願いします。次の工程で活躍して貰うので、今は精神力を温存しておいてください」

 私はイネスが頷くのを確認すると、作業を開始しました。しかし最初の《錬金》で、私は恐怖におののく事になります。目の前にとてつもない悪臭を放つ、黒いボツボツ付き半透明白茶色でプリン状の物体Xが在りました。プルプル振るえる様は、生き物みたいで気持ち悪いです。と言うか、怖気が走ります。

 見ると父上も、私と同じような顔をしていました。私は蓋つきのバケツを《錬金》すると、バケツの中に《念力》で物体Xを放り込みます。見ると父上は、私の真似をしたようです。(臭い物には蓋をしろ。ですね)

 1時間程で、この工程は終了しました。水は透明度を、かなり取り戻しています。悪臭もすっかり薄くなり、居心地はそれほど悪くありません。

 ……二つのバケツが置かれている所以外は。

 私は遅めの朝食をとりながら、父上に相談する事にしました。

「父上。あのバケツの中身は如何しましょう?」

「わ 私に聞くな。ギルバートが生み出したのだから、ギルバートが如何するか考えよ」

「《錬金》で如何にかするのが一番なのですが、物体X(あれ)を目の前にすると強烈なインパクトの所為で、イメージが物体X(あれ)に影響されて上手く《錬金》を発動出来ないんですよ」

 私は情けない声を出してしまいました。

「ふん。軟弱だな」

「では、父上が何とかしてください」

「すまんかった」

 結局、物体Xは焼却処分する事になりました。火を使うので、木の精霊に一言かけてから作業開始です。穴を掘りバケツを入れ、バケツを油に《錬金》し直します。その時私達の目に飛び込んで来たのは、一つ一つの物体Xが……まるで目玉の様にヌメヌメと、バケツの形から崩れて行く様でした。キモさ3倍です。赤くなって、角が生えそうな勢いです。

 私は泣きそうになりながら、《発火》を使い火を点けます。しかしそこで大人しく終わらないのが、物体Xクオリティです。凄い煙と悪臭を放ち始めました。煙と悪臭に精神を乱され、魔法や消火どころではありません。私と父上は転がる様に、その場から逃げ出します。

 ようやく臭いと煙の圏外に逃れると、私と父上は涙を流しながら咳き込みました。

 幸い煙と悪臭は、最初がピークだった様で収まりつつあります。私と父上は、ホッと胸をなでおろしました。その時後ろから気配を感じました。この場には私達以外は、イネスしか居ません。

「すみません。イネス。まさかこんな事になるとは思わ……なっ!?」

 私は、最後まで言い切る事が出来ませんでした。振り向いた先に居たのは、イネスではありませんでした。肌は木の幹の様な部分があり、髪は何本もの蔓と葉で出来た人の形に似た何かでした。

「単なる者よ。……今のは我に対する攻撃か?」

((!?……木の精霊!!))

 私と父上は、ちぎれんばかりに首を左右に動かしました。

「本当だろうな?」

(すっごい怒ってる)

「本当です。沼より取り出した毒素を、火で燃やしたのです。しかし、予想外の煙と悪臭が……」

 私が事実を言いますが、木の精霊がどう思うかは話が別です。私と父上は、ガタガタ震えてしまいました。

「本当です。何なら頭の中を覗いてください」

 私がそう言うと、私の体に蔓が巻き付きました。そして、……プスップスップスプス。(棘が棘が刺さる!! イタッイタッイタタタッイタ)

「嘘はない様だな。今回の事は不問とする」

 木の精霊は、嘘が無い事を確認すると私を開放しました。そして直ぐに大樹の中に戻ってしまいます。傷だらけになった私は、《癒し》で傷の治療をする事になりました。

 ふと見ると、イネスはテントの側で気絶していました。あれだけ感じた森からの視線も、今は一切感じません。何で私達は気絶しなかったのでしょうか? 心の準備が出来ていたからなのでしょうか?



 私の治療が終わりイネスが目を覚ました頃、ようやく応援が到着しました。その頃には、物体Xの煙と悪臭(バイオハザード)もすっかり消えて無くなっていました。

「あの沼がここまで変わるのか?」

 過去に沼を見た事がある人間は、エディも含み驚きを隠せない様です。しかし作業が進まないので、何時までも呆けさせておく訳には行きません。私は手をたたきながら声を上げました。

「皆さん静粛に。最終工程を始めます」

 私の一言で、全員が真剣な表情になります。私はもう一度、昨日した水の自浄する力について説明しました。

「最終工程は、水に自浄の力を持たせる事です。風メイジは風で水を巻きあげ、再び沼へ落としてください。イメージは風と水を、均等に混ぜ合わせる感じです。それと、絶対に周りの木を傷つけないでください。精霊を怒らせる事になります。水メイジは《凝縮》で、散ってしまった水を集めてください。それでは作業を開始してください」

(残念ながら、水源が無ければ一時しのぎにしかなりません。が、やらないより何倍もマシです)

 風メイジと水メイジが作業開始した所で、私は父上に人骨の処理を相談する事にしました。

「父上。人骨の処理は如何しましょう?」

「一族の元へ返してやりたいが、千年以上昔の事でもはや不可能だ。それに全てバラバラになっていて、正確に1人分復元するのも不可能だろう。集団で埋葬して、碑をたてるしかないな」

 ……それしかないですね。

「はい。では、応援部隊に持って帰ってもらいましょう」

「そうだな」

 後は《錬金》した肥料を、どこに埋めるかですね。……って、あれ?

「父上。《錬金》した肥料は如何したのですが?」

「知らぬぞ。ギルバートが片付けたのではないのか?」

 私と父上は無くなった肥料を探して、周りを見渡しました。沼に落ちていれば、作業のやり直しにつながるからです。しかし、肥料は意外な場所にありました。……大樹の根元です。 

(木の精霊って、意外にがめついのかな)

 そう思いましたが、わざわざ波風を立てる事もないでしょう。

「父上。私があそこに移動しておいた。……と言う事にしておいてください」

「……分かった」

 それだけで父上には通じた様です。何かどっと疲れました。



 ……取りあえず沼の方は、そろそろ十分でしょう。

「そこまでで結構です。終了してください」

 私の言葉に、全員が私達の前に集合しました。私は父上に、目で終了の合図を送ります。

「応援部隊は、人骨をドリュアス領まで届けてくれ。後に、碑を建て弔う。エディとイネスは残り、引き続き護衛任務に当たってくれ」

 全員が敬礼すると、それぞれの任に当たるべく散って行きました。人骨を運ぶ応援部隊の出立を確認すると、こちらも本番です。

「木の精霊との交渉を始めるぞ」

 父上の言葉に、再び木の精霊に呼び掛ける為に小島に移動します。

「木の精霊よ。我々は、貴方との交渉の場を望んでいます。どうか姿をお見せください」

 今度は実にあっけなく、木の精霊は顕現してくれました。改めて見る木の精霊は、決まった形を持っている様で、その姿が揺らぐ事はありませんでした。

「単なる者よ。お前達は、同胞が追い詰めた我を助けた。よって、その言葉が真実であると認めよう」

 ……良し。思わず心の中で、ガッツポーズをとってしまいました。しかしセリフからすると、私が思っていたより困窮していたのでしょうか?

「しかしまだ足りぬ。水源を確保し我に以前の環境を返せ……と、本来ならば言うところだが、重なりし者の知識では難しい事が分かっている。それに、重なりし者をこの世界に送り込んだのは、我にとっても無二の存在だ。邪険に扱う訳にも行くまい」

(重なりし者って、ひょっとして私の事なのでしょうか? と言う事は、無二の存在とは“大いなる意思”の事ですね)

「よって試練を課そうと思う」

(……雲行きが怪しくなって来ましたね)

「水の精霊と接触し、水源を確保する為の交渉を成功させよ」

 ……なんですと?

「待ってください木の精霊よ。居場所や接触方法は?」

「それも含めた試練だ」

 父上が食らい下がりましたが、木の精霊は大樹の中に引っ込んでしまいました。

「……父上」

「分かっている。モンモランシ家に依頼するしかあるまい。新しい交渉役は王都にばかり詰めていて、領民の事は全く考えていないそうだ。私の権限を使うとなると、事情を話さない訳には行かぬだろう。そうなれば、欲の皮がつっぱた者達が交渉役に収まろうと、圧力をかけて来るのは必至だ。下手をすれば、木の精霊を怒らせて全て無駄になる」

 しかし私は、父上の言葉に反対します。

「……いえ、モンモランシ伯も同様でしょう。今回の件は、高等法院や馬鹿貴族に気付かれる前に片付けなければなりません。モンモランシ伯自身は大丈夫でも、周りが黙っていないはずです。特に今のモンモランシ家は、干拓の失敗で混乱しています。身内の中に密告者や、成り変わろうとする物が出るかもしれません」

 私はここで、いったん言葉を切りました。正直躊躇いがあったからです。

「ここは、ディーネに協力してもらいましょう。ラグドリアン湖に行くとなると、父上の行動はすぐに外に知れ渡ります。もう引き返せない以上、時間との勝負です」

「……分かった。それで行こう」

 私の意見に父上も一瞬だけ躊躇いましたが、最後には頷きました。冷静に考えれば、これ以外に道は無いのです。そして私と父上は、ドリュアス家に1度戻る事になりました。



 ドリュアス家に戻ると、皆に帰還を喜ばれました。しかし私達は、それ所ではありません。私はディーネを探して、目を巡らせます。そして……発見しました。

 ディーネはアナスタシアと一緒に、帰還を喜ぶ人達の輪の外側に居ました。私はディーネの側に走り寄ります。

「ギル……その、私は……」

 私は何か言い淀むディーネの手を掴みます。ディーネが呆気にとられている内に、その手を引き父上の元に戻ります。

「父上!! 被疑者確保しました!!」

 ……すみません。ついノリで言ってしまいました。

「うむ。良くやった。ディーネはイネスのヒポグリフに乗せろ。エディは残って説明」

「えっ? えぇ~~~~!!」

 今までの話を傍で聞いていたとは言え、ここで行き成りお鉢が回って来るとは思っていなかったのでしょう。エディは面白い位に慌てていました。 

 それに家族以外は、ディーネがモンモランシ家所縁の者である事は知りません。ディーネの事に関しては、全く話しについて来れないはずです。

「話の流れだけシルフィアに説明しろ。それだけで十分だ。後はシルフィアの指示に従え」

「!? ……はい!!」

 父上の命令に落ち着きを取り戻したのか、エディは元気良く返事をしました。

「出発だ」

 グリフォンとヒポグリフが、空に舞い上がります。出発直後に後ろを確認しましたが、母上に引きずられるエディが見えました。

(ご愁傷様です。……でも、明日の我が身なんですよね)

 そう思うと悲しくなって来ました。まあ、それは父上も同様なのでしょう。先程から「参ったな」や「如何しよう」とか、独り言が止まりません。その気持ちはよく分かります。



 途中でお昼休憩をはさみ、この時初めてディーネに事情を説明しました。ディーネは少しだけ怒りましたが、私達の説明ですぐに落ち着き納得してくれました。この時父上が《錬金》した瓶に、ディーネの血を少し分けてもらいました。

 昼食後、2時間位でラグドリアン湖に到着しました。ディーネとイネスには、畔で待機してもらいます。私と父上はフライ《飛行》で、湖の違和感がある場所を探します。ほどなくして、精霊が居ると思われる場所を発見しました。私は父上に支えてもらい、《飛行》を解除します。そして、ディーネの血を気泡で包み湖の上から落としました。精霊の居る場所に到達すると、気泡を解除します。

 すぐに水が輝き、水面が膨らんで水の精霊が出て来ました。不定形なその姿は、木の精霊とは対照的と言って良いでしょう。と言うより、決まった姿が在る木の精霊の方が、精霊の中では変わり者なのかもしれません。

「単なる者よ。我の知る体液を持つ貴様等は何者だ?」

「体液の持主はラグドリアン湖の畔に居ます。そちらで私達の話を聞いていただきたい」

「良いだろう」

「こちらです」

 私と父上は、水の精霊をディーネの元に案内しました。水の精霊はディーネの姿を確認すると、その姿を粘土の様に変え始めます。何度も変化を繰り返し、最終的には裸のディーネの姿になりました。そして今度は、表情を試し始めました。その姿を見ているディーネは、凄く複雑な表情をしていました。

 ひとしきり試し終ると、水の精霊から声が響きました。

「話とはなんだ? 単なる者よ」

「実は我々は、貴方にお願いしたい事があって、この場に来たのです」

 水の精霊の言葉に、父上が返答をしました。続きを言おうとする父上を、私が待ったをかけました。

「父上。続きは私に任せてください」

 父上は少しだけ考えて、すぐに場を私に譲ってくれました。

「水の精霊よ。言葉とは不便な物です。本当に伝えたい事の半分も、伝えられない事がままあります。そこで、私の頭の中を覗いていただきたい」

「む」「えっ」「!!」

 父上、ディーネ、イネスの順に、それぞれの反応を見せました。恐らくこの場に水の精霊がいなければ、3人とも猛反対をしたでしょう。父上は私が木の精霊に、頭の中身を覗かせた事を知っています。しかしそれは無実を証明する為で、仕方がない事だったと思っていたはずです。

「良いのか? 単なる者よ。単なる者は、我に頭の中を覗かれるのを、恐れると思っていたが」

 私が大きく頷くと、水の精霊は私を包み込むように水を展開しました。木の精霊を違って、痛みも苦しさもありませんでした。少しすると、水が私の周りから引いて行きました。服も濡れていません。

「重なりし者よ。木の精霊の救済に、協力する事を約束する」

 水の精霊が開口一番了承した事に、私を含む全員の表情が明るくなりました。しかし次の言葉に、全員の表情が凍りつきます。

「しかし、我の力だけでは救済は不可能だ」

「我々の力が必要なら、いくらでも協力します」

 水の精霊の言葉に、父上が反射的に答えました。

「単なる者よ。助力を頼むのは土の精霊だ」

 私達は、黙ってしまいました。木の精霊に水の精霊の話をされた時は、まだ当てがありました。しかし、土の精霊は存在自体初めて聞きました。これを木の精霊の様に、居場所や接触方法まで自分たちで何とかしろと言われれば、手も足も出ません。戦々恐々としていましたが、水の精霊はその辺りの気遣いはあった様です。

「土の精霊は単なる者達の言葉で、テール山脈と呼ばれる場所に居る。案内役として、我が分霊を預ける。接触も我が分霊が居れば可能だ」

 テール山脈とは、ラグドリアン湖からは西に位置し魔の森とガリアを隔てている山脈です。意外に近い場所に居る事に、私は少なからず驚きました。

 父上が水の精霊の指示で新しく大瓶を《錬金》すると、水精霊の一部が切り離され瓶の中に収まりました。瓶の中には、ミニチュア水精霊が居ます。水の精霊は分霊を渡した事により、自分はもう必要無いと思ったのか湖に帰ってしまいました。

「この時間なら、夕方までにテール山脈に入れる。上手くすれば、今日中に土の精霊と接触出来るはずだ。イネスはディーネを連れて、伝令に走ってくれ。明日早朝に、護衛をよこしてくれ」

「しかし、アズロック様。その間の護衛が……」

「すまんが、今は一刻を争う」

「分かりました」

 イネスは父上の命令に、しぶしぶと言った感じで頷きました。仕方が無い事とは言え、心中穏やかではないでしょう。イネスは魔の森関係で、2人……いえ正確には3人も主を無くしていますから。

「ディーネはシルフィアとアナスタシアに、事情を説明しておいてくれ」

 ディーネは頷きましたが、こちらもしぶしぶと言った感じです。

「ギルバート急ぐぞ!!」

「はい!! 父上!!」

 私はミニチュア水精霊を受け取り、グリフォンに乗り込みました。瓶が大きすぎて所持している鞄に入らないので、《錬金》で紐を作り身体にしっかりくくり付けます。念の為、大瓶に《浮遊》をかけてから出発しました。

 思ったよりいい風が吹いていた為、夕方前にテール山脈に辿り着きました。ミニチュア水精霊の指示に従って、土の精霊が居る洞窟の前にグリフォンをおろします。

「ここが土の精霊が居る洞窟か……」

 父上の口から声が漏れました。危険な魔物は居ないとの事なので、ライト《灯り》を使い洞窟の中に突入します。意外に奥行きは無く、すぐに底に到着しました。

「……ほう。なつかしき客が来たものだ」

 突然洞窟の中に声が響きました。

「土の精霊よ。最後に会ってから、数えるのも愚かしいほど月が交差したな。それより、この者の頭の中を覗くがよい。面白い物が見れるぞ」

「……へ?」

 水の精霊(分霊)の言葉に、私はとっさに反応出来ませんでした。足元から岩の柱が、せりあがって来て私の体を挟んで固定します。そして動けない私の肩に、直径3サントほどのクリスタルが突き刺さりました。

「痛い!! イタッイタタタッ!! 痛いって!!」

 父上に助けを求めようとしましたが、愕然として固まっていました。

「ほう。重なりし者よ。なかなか面白い頭の中身をしているな」

 土の精霊が呟くと、クリスタルが引き抜かれ、身体を固定した岩の柱も無くなりました。私は急いで《癒し》を自分にかけました。

「頭の中身を覗く度に、何で刺されなければいけないんですか?」

 私の涙声の質問に、土の精霊は答えてくれました。

「頭の中身を覗くには、その者の体内にある体液に触れなければならないからだ」

 私は土の精霊の答えに、ガックリと肩を落としてしまいました。父上が私の背中を、ポンポンと叩いてくれたのが余計悲しみを誘いました。

「木の精霊の救済は、我も協力する」

 土の精霊が協力を約束してくれましたが、素直に喜べないのは何故なのでしょうか?

「実行する」

 土の精霊の呟きと共に、地面が激しく揺れ始めました。私と父上は立っている事が出来ずに、手をついてしまいます。洞窟崩落するかもと、本気で心配しましたが少しすると揺れが収まりました。

「水の精霊から木の精霊まで、地下水路を通した。後は水の精霊の仕事だ」

「では、こちらも実行する」

 水の精霊(分霊)が呟きます。地下水路に水を通すだけなら、終了まで私たちが知覚出来る事はないでしょう。……そう思っていました。

「ドカァァァァーーーーーン!!!!」

 突然外から爆音が響きました。私と父上は急いで外に出ました。そこには、巨大な水柱が立っていたのです。位置的には、精霊の木がある辺りでしょう。水柱は夕日のオレンジ色の光を受けて、見た目は結構綺麗でした。

「……力加減を誤った」

 水の精霊(分霊)から、不吉な呟きが漏れました。父上はまたフリーズしています。

「木の精霊は、……大樹は無事なんですか?」

 私は水の精霊(分霊)を問い詰めましたが、答えは返って来ませんでした。

「帰る。分霊を解くとこの身体は、単なる者が“水の精霊の涙”と呼んでいる秘薬の材料になる。好きに使うがよい」

 そう言うと、水の精霊は分霊を解除してしまいました。

(……逃げた)

「父上。今すぐ木の精霊の所に行きましょう」

「ダメだ。グリフォンでは、夜間の飛行は危険だ。それ以前に私のグリフォンは、今日はもう限界だろう。今日はここで一泊決定だ。最後に土の精霊に挨拶するぞ」

「……はい」(父上。冷静だ)

 土の精霊に挨拶すると、何故か笑っていました。(こちらは笑い事じゃないんですけど) 






 木の精霊は無事ですよね? 
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