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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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短編 一輝と湖札の物語 ⑤

「もう知識はたまったのか?」
「うん、全部覚えたよ。時間稼ぎ、ありがとうね。」

一輝はそれを聞くと、青行燈を殴り、その場を離れる。
そのまま湖札の横に着くと、“日本刀”を構え、湖札を守るようにする。

「イマサラヒトリフエヨウト、ナニガデキルト!」
「悪いけど、もう終わりだよ。」

青行燈が腕を伸ばして湖札を攻撃するが、一輝はそれを切り裂く。
そして、湖札は一輝を信頼し、言霊を唱える。

「我は全ての魔を穿つもの、その存在の全てを穿つものなり!全ての異形は、我が内に在りし勝利を恐れよ!」

言霊を唱え終わると同時に、その空間が変わる。
洞窟の中にいたはずが、広く、銀色に包まれた空間となっていた。

「コレハ・・・」
「貴方は百物語の終わりに現れる、百物語そのものといえる鬼女です。」

青行燈が驚愕に染まっているが、湖札はそんなこと気にもせずに言霊をつむぐ。

「それ故に、貴方は一の妖怪でありながら百一の妖怪の力を持つ。お兄ちゃんに対して使っていたのは、語られた怪異談の妖怪です。」
「そうか、だから俺が知らないような力を。」
「うん、正解。・・・だから私は、その存在の全てを穿っていく。」

湖札はそう言いながら弓を引く。
すると、湖札の手に矢が現れ、弓につがえられる。

「まずは、最初にお兄ちゃんに使った妖怪、手長人から。」

湖札はその矢に言霊を吹き込み、引き絞る。

「手長人は九州に伝わる妖怪で、手長国の住民とされている。名前の通り手が長く、二丈もの長さがあるとされた。」

湖札はさらに矢を引き、二本目の矢を出現させる。

「そして、手長人は基本、もう一種類の妖怪と行動を共にする。それが足長人。」

湖札は新たな矢に言霊を吹き込んでいき、もう片方の矢には呪力を込める。

「これもまた九州に伝わる妖怪で、足長国の住民とされる。こちらもまた足が長く、三丈の長さを持つ。」

だんだんと湖札の口調は厳かなものになっていき、青行燈は様子を見るつもりか、何もしてこない。

「この二体は共に行動することが多く、海での漁も共にしていた。足長人に背負われた手長人が、その長い手で獲物を取るという、単純な方法で。」

湖札は矢をギリギリまで引き、

「その二体の妖怪が、貴方を構成する物語の一つ!まずは、その存在を穿つ!」

青行燈に放つ。
その矢は青行燈本体には一切のダメージを与えなかったが、確実にその存在の一部を抉り取った。
百一のうち二を抉り、残りは九十九だ。

「ナ・・・ワガモノガタリヲ!?」
「さあ、アイツを抉りきること、湖札はそれだけを考えて。俺があいつから守るから。」
「うん・・・次に、貴方は板の鬼の物語を使用した。」

湖札は新たに矢をつがえ、言霊を込めていく。

「この場合の鬼とは、ただ妖怪の総称としての意味しか持たない。ゆえに、あれは板の妖怪と呼ぶべきもの。」
「ソノコトダマヲ、ワレヲアバクコトヲヤメヌカ!」

青行燈は板の鬼となり、湖札を押しつぶそうとするが、一輝はそいつに刀を向け、その動きを止める。

「板の鬼はあまり強い妖怪ではない。だから刀を向けられるだけで恐れ、動きを止めてしまう。お兄ちゃんへの攻撃が途中で止まったのは、その性質が現れてしまったから。」

一輝のとっさの行動は、この妖怪に対して正解の行動だった。

「この伝承は、男はいかなるときも刀を手放すな、という教訓だけのために語られた妖怪、だから貴方の存在は薄く、もろい!」

湖札は再び矢を放ち、その存在を抉った。
残り、九十八。

「オノレ・・・モウテカゲンハセヌゾ!!」

青行燈の姿は消え、燃える巨大な車輪と業物の太刀、近くにある小石、吸血ムササビ、猫の先導する狼、巨大な僧、血を吸おうとする十二単を着た女性、叩き潰そうとしてくる巨人、以上が同時に現れた。

「この数を同時に唱えるのは・・・」
「ううん、ここまでの過程で分かったけど、所詮語られただけの妖怪だから、そこまで細かく込める必要はないみたい。その姿で顕現してる今ならなおさら!」

湖札はそう言いながら弓を引き、一輝は湖札に向かってくる妖怪を切り裂いていく。

「貴方が今使っているのは、火車、構い太刀、猫又、野鉄砲、化け猫、見越し入道、山姫、大坊主!全て日本で語られ、広がった妖怪!!」

湖札は同時に八本の矢を放ち、全ての存在を同時に抉る。
目の前にいたため、同時に矢を作ることができたのだ。
残り、九十。

「そこまで上手かったか、オマエ・・・」
「この矢ね、軽いホーミングが付いてるみたい。」
「いいなーそれ・・・俺のに比べてかなり使いやすいじゃん。」
「ハハハ・・・うん、確かにそうだね。」

湖札は何かしらの一輝の能力のメリットを探そうとしたが、一切見つからず認めてしまった。

「オノレ・・・マサカワレガココマデナルトハ・・・」
「あ、復活した。」
「だね。まだ後九十個あるし、それも穿たないと。」
「コレイジョウハヤラセヌゾ・・・!!」

一輝たちが迎撃準備に入ると、青行燈は巨大な、角を持つサルとなった。

「あれも百物語の一部?」
「ううん、違う・・・なんであんなことが・・・」
「コノスガタナラバ、ウガツコトハデキマイ!サア、オトナシククワレヨ!!!」

湖札が驚いているが、青行燈は一切躊躇せずに二人に襲い掛かる。
湖札は動けずにいるので、一輝が“盾”を巨大化させ、青行燈の攻撃を防ぐ。

「湖札!コイツは俺が足止めするから、早く言霊を!」
「でも、この姿になった理由が・・・」
「俺が知ってる!だから早く残り九十個を!」

湖札は一瞬迷うような姿を見せるが、兄を信じることにし、言霊をつむぐ。

「貴方を構成する物語、その一角をなす妖怪の中に、共通点がある妖怪がいます。」
「ヤメヨ!ソレイジョウ、ワレヲアバクデナイ!」
「行かせるかよ!」

青行燈は湖札を攻撃しようとするが、一輝は“武”の式神以外にも、使える限り大量の式神を使い、その攻撃を防ぐ。

「愛知県に伝わる甘酒婆。関東地方に伝わる手長婆。奈良県に伝わる白粉婆、砂かけ婆。茨城県に伝わる柳婆。愛媛県に伝わる雪婆。岡山県に伝わる納戸婆。神奈川県に伝わる箕借り婆。静岡県に伝わる夜泣き婆、木綿ひき婆。宮城県に伝わる疱瘡婆。これらの妖怪は、全て老婆をモチーフとした妖怪。」

湖札が弓を引くと、そこには十一本の矢が現れた。
今目の前にはいないが、それでも共通点があることによって、作ることができるのだ。

「甘酒婆、夜中に「甘酒ござらんか」と民家を訪ね歩く妖怪。その返答は肯定、否定のどちらでも答えたものに病気を与えてしまう。ゆえに疫病神としても伝えられている。」

一本の矢に言霊が宿り、青行燈を穿つ。
残り、八十九。

「ジャマヲスルナ、ヒトノコヨ!」
「断固拒否だ!テメエはここで消えうせろ!」

青行燈は様々な力を使い一輝を倒そうとするが、一輝は全ての攻撃を防ぎ、お札の呪力によってその場に縛る。
妹を守るのは、兄の役目である。

「手長婆、これは水中に住み、姿を見せることのない妖怪。ただ水辺で遊んでいる子供の足をつかみ、「水の中に引き込むぞ」と脅かすだけの存在。」

二本目の矢にも言霊が宿り、同様にして青行燈を穿つ。
残り、八十八。

「白粉婆、雪の降る夜に現れ、酒を求め歩く妖怪。顔一面に雑に白粉を塗り、その姿は旅人を恐怖させた。」

矢を穿ち、その存在を抉る。
残り、八十七。

「砂かけ婆、人気のないところを通ると、その人に砂をかけて脅かす妖怪。その姿の記録はなく、姿を持たない、とも言われている。」

さらに穿ち、その存在に穴を開けていく。
残り、八十六。

「ハナセ!ワレハ、キエルワケニハ!」
「ああクソ!湖札!早いとこそれだけでも撃ってくれ!」
「うん、一気にやる。」

湖札は矢を引きなおし、言霊を込めなおす。

「柳婆、樹齢千年以上の柳の木が老婆に姿を変え、道を行き来する人に声をかけたとされる妖怪。柳の古木が怪異をなすことは、世界に広く知られている。」

残り、八十五。

「雪婆、雪の降る時期に現れる、一本足の老婆の妖怪。子供をさらうとされ、伝承の伝わる愛媛県では子供を外に出さないようにしていたという。」

残り、八十四。

「納戸婆、人家の納戸の中に住む妖怪。箒でたたき出すことができる。地方によっては納戸神とも呼ばれ、家や華族の守り神であったとも言われる。」

残り、八十三。

「箕借り婆、旧暦の2月8日、12月8日に現れ、人家を訪れて箒や人間の目を借りていってしまうとされる。一つ目小僧を連れているともされ、網目のたくさんあるものを見せることによって退治することができる。」

残り、八十二。

「夜泣き婆、憂いのある家の前に現れ、泣く妖怪。人々は皆それにつられて涙し、そのいえに不幸が来てしまう。」

残り、八十一。

「木綿引き婆、落葉樹の下に現れ、人が通りかかると恐ろしい視線で睨みつける妖怪。」

残り、八十。

「疱瘡婆、宮城県に疱瘡を流行させ、病死した人間を食べたとされる妖怪。その姿は、顔が赤く、白髪に覆われ、体調が三メートルある老婆の姿だった。」

残り、七十九。

「マサカ、ワガモノガタリヲニジュウイチモケズルトハ・・・ダガ!コレイジョウケズレルトオモウデ」
「うるせえよ。大人しくしてやがれ。」

青行燈が起き上がろうとするが、一輝が“日本刀”を突き刺し、再び縛る。
ついでに呪力を流すことで少しでも長く縛ろうと調節する。

もう既に青行燈に抵抗するだけの余裕を残していない。

「さて・・・もう一気にやったほうがいいかな?」
「ああ。頼むからそうしてくれ。結構疲れるんだよ、これ。」
「了解。」

そのまま、一輝が抑えている間に湖札は一気に言霊を唱える。
村を洪水に巻き込む妖怪『ヤロカ水』
名前と違い河童であり、怪火をだす妖怪『磯天狗』
死んだ馬の霊が人に取り憑く妖怪『馬憑き』
人間に取り付き、様々な悪戯をする妖怪『おとら狐』
草履の片方を奪う妖怪『片足上臈』
猫を食らうねずみの妖怪『旧鼠』
木の上から落ちてきて、人を襲う妖怪『つるべ落とし』
夏の夕空を大きな音を立てて飛ぶ怪火『天火』
見上げるほどに大きくなっていく妖怪『入道坊主』
山野で人を迷子にさせる妖怪『宇婆』
木から赤い子供のような手を出しているだけの妖怪『赤手児』
アカシアの木から火の玉のような姿でぶら下がる『イジゴ』
声をかけ、返事をした男に取り憑く妖怪『河女』
光を発しながら坂道を上下する球体の妖怪『テンゴロバシ』
人間の女を好んで人里から盗み取る妖怪『経立』
少女の姿で水の中へ人を誘惑し、溺れさせようとする妖怪『メドチ』
友好的で、少量の報酬で大仕事を手伝ってくれる気前のいい妖怪『大男』
山中で人に会うと、自らの体を破裂させ肉や内臓を周囲に撒き散らす妖怪『小玉鼠』
老いたツバキの木に精霊が宿り、怪木となって人を誑かす妖怪『古椿の霊』
骸骨の姿をした女性の妖怪『骨女』
落雷とともに地上に落下する妖怪『雷獣』
海の近くを飛び回る鬼火『海月の火の玉』
不気味な光を放ちながら群れで移動する怪火『そうはちぼん』
一つの体に二つの頭を持つ化物『どうもこうも』
気持ちが乱れている人間に取り憑きその心を乱す妖怪『通り悪魔』
白い骨格のみの姿をした鯨の妖怪『化鯨』
頭髪が体全体を覆うほど長い姿の妖怪『倉ぼっこ』
両目が顔ではなく両手のひらについている妖怪『手の目』
目を凝らしてみると小さな坊主頭が家の屋根を越えるほどの大きさになる『乗り越し入道』人家に住み着く赤い髪の子供の妖怪『赤ジャクマ』
808もの群れになった化けダヌキ『隠神刑部』
海から現れる髪がぬれている女の妖怪『濡女子』
夜道で人の歩行を邪魔する妖怪『ノツゴ』
赤々とした鶏冠を持ち、口から赤々とした炎を吐き出す怪鳥『波山』
長いざんばら髪の先端に鈎針状の鉤を持つ女の妖怪『針女』
「チッ、チッ、チッ」といいながら山道を歩く人の後ろに付いてくる妖怪『夜雀』
二、三歳くらいの山に登った河童『セコ』
美女に化けて妻帯者や恋人のいる男性に言い寄る狐の妖怪『おさん狐』
頭頂部に一つ目を持つ女性に幽霊のような姿の妖怪『後神』
鬼ノ城を拠点に吉備地方に支配行政を行っていた妖怪『温羅』
古いエノキの木からぶら下がってくる馬の首『さがり』
美しい女性の姿に化けることができる蜘蛛の妖怪『絡新雲』
人の歩きを邪魔する妖怪『すねこすり』
夏から秋にかけての夜に海岸に火の玉のなって出現する妖怪『たくろう火』
道を行く人の足にまとわり付き、歩きにくくする妖怪『赤足』
足にまとわりつき、通行人を転ばせる妖怪『足まがり』
人と同じ姿の七人組の亡霊『七人同行』
山々を跨ぎ、海で手を洗う巨人『手洗い鬼』
夕暮れ時にヒラヒラと飛ぶ妖怪『一反木綿』
股の下を潜られると死んでしまう片耳のない豚の妖怪『片耳豚』
道が交差した場所にいる魔物『辻神』
家に憑いて火事を引き起こす怪鳥『ヒザマ』
山に住む小さな子供のような姿の妖怪『ヤマンボ』
空中などに巨大な生首が現れる『大首』
75匹の動物が憑いているとされる『牛蒡種』
人の心を見透かす妖怪『覚』
頭は猿、胴体は虎、尾は蛇の魔物『さるとらへび』
巨大な蜘蛛の怪異『大蜘蛛』
スッポンのような体の海坊主の一種『和尚魚』
充分な供養を受けていない死体が化ける怪鳥『陰摩羅鬼』
炎と煙に包まれた乞食坊主の姿の妖怪『火前坊』
龍そっくりで四本の足を持ち、鱗の間が金色に光る蛇『七歩蛇』
炎に包まれた牛車の車輪の中央に男の顔が付いた妖怪『輪入道』
海中から現れ、豊作や疫病などの予言をする半人半漁『アマビエ』
一つ目一本足の爺の姿をした妖怪『山爺』
子取り名人のような妖怪『夜道怪』
琴の付喪神『琴古主』
人を化かした地蔵『袈裟切り地蔵』
妖術が使えず、体術に特化した天狗『木の葉天狗』
ホラガイが数千年を経て竜となったもの『出世螺』
海蛇の化身とされる説もある『濡女』
スサノオに倒された八首の蛇『ヤマタノオロチ』
人に憑いて首を括らせる妖怪『縊鬼』
人間の髪を密かに切る妖怪『髪切り』
火を食べ、人や動物の血を吸う妖怪『野衾』
牛や馬を殺す妖怪『牛打ち坊』
大晦日に首切れ馬に乗って現れる鬼『夜行さん』
老いたサルがなる妖怪『狒々』
そして、二人が見た絵、茶袋が空中からぶら下がった姿で出現する『茶袋』

以上、七十九の存在を穿ち、青行燈を呼び出した百の物語は完全に破壊された。
残り、一。青行燈。


「オノレ・・・ワガモノガタリガ・・・ワガソンザイガ・・・」
「さて、後はコイツ自体を穿って終わりだな。」
「うん、そろそろこの猿について教えてくれない?」
「そうだな。始めよう。」

青行燈は既に動くこともできない状態なので、一輝も湖札の矢に言霊を乗せる。

「百物語は、青行燈が現れるという流れのほかに、サルが出る、という話がある。ゆえにオマエは、鬼女の姿のほかにサルの姿をとることができ、その力を振るうことができるんだ。」
「そして、貴方は黒く長い髪に角、歯を黒く塗り白い着物を着た、嫉妬に捕らわれた妖怪。」
「「それが、貴方(オマエ)の存在だ!!」」

二人の言霊が乗った矢は、青行燈の胸を貫き、完全にその存在を穿ちきった。
崩れていく体から出た魂は湖札の中に封印される。

「さて、これで青行燈は封印できたわけだけど。」
「まだここの破壊をしないと、終わりとはいえないよね。」
「だな。では、」
「お兄ちゃんよろしく!」

湖札は一輝に丸投げした。

「えー・・・マジ?」
「うん、マジ!もう私は疲れた!」
「・・・まあ、それもそうか。式神展開、“攻”、“封”!この場を破壊し、禍々しき酒を封印せよ!」

その後、一輝は洞窟と絵を完全に破壊しつくし、甕の中にあった酒を封印しきると、湖札を背負って家まで歩くのだった。
 
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