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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  最悪といっていい展開

キリトが辿り着いたのは、これまでと同じような何もない場所だった。

しかし、キリトには分かった。何故だか分かった。

その向こう側に、これまでとは桁違いなほどのアスナの気配があった。涙が出るほどに懐かしい、自分が心から愛したただ一人の女性のものが。

一瞬の躊躇の後、右手を上げて外周のつるりとした壁を撫でた。と、ゲートの時と同じような青い光のラインが直角に曲がりくねりながら壁面に走った。

突如、太いラインが四角く壁を区切り、ヴン、と音を立ててその内側が消滅した。奥には、やはりつるりとした無味乾燥な通路が真っ直ぐ伸びている。

キリトは通路に足を踏み入れると、いっそうスピードを増して疾走し始めた。距離が近くなったからだろうか。一歩ごとに気配が増していく。

―――早く……早くッ!

心の奥で一心不乱に念じながら、ひたすら進む。やがて前方で通路は終わり、四角いドアが行く手を塞いでいた。

キリトはもう躊躇わなかった。

あらん限りの過剰光を右手に集めたまま振りかぶる。直後、轟音とともにドアが破裂した。ガン!ガン!という金属音とともにオフホワイトのドアがすっ飛んでいく。

「――――――――――ッッッ!!」

正面に、今まさに沈みつつある巨大な太陽が見えた。

世界を包む、無限の夕焼け空。

視点の位置に僅かな違和感を覚え、そして気が付いた。この場所は、途方もないほどの高々度に設定されているのだ。緩いカーブを描く地平線が遥か彼方に見える。強く風が鳴っていて、耳朶を激しく打つ。

足元を見、そこにあったのは恐ろしく太い樹の枝だった。

真紅の夕陽だけに向かって狭窄した視野が、広さを取り戻した。頭上には、天を支える柱のような枝が四方に大きく伸び、葉を繁らせている。眼下には更に何本かの枝が広がり、その向こうには薄い雲海。更にその向こうに微かに見える地上には、緑の草原を蛇行して流れる河が見て取れる。

ここが、世界樹の上だ。

リーファ――――桐ヶ谷直葉が。

ALOに住まう全ての者が夢見る、世界の頂。

しかし――――

キリトはゆっくりと振り向いた。そこには、壁のごとく屹立する世界樹の幹がどこまでも伸び上がり、枝分かれしていた。

「無いじゃないか………空中都市なんて…………」

呆然と呟いた。あったのは、無味乾燥な通路だけだ。あんなものが伝説の都市の訳はない。そもそも、グランド・クエストの謳い文句通りなら、ドームのゲートを突破した時点で何らかのイベントが発生してしかるべきだ。しかし、実際にはファンファーレ一つ聞こえはしなかった。

つまり、全ては中身のないギフトボックスだったのだ。包装紙やリボンで飾り立て、しかしその内側に広がるのは空疎な嘘のみ。あれほど上位妖精に生まれ変わることを夢見ていたリーファに何と言えばいいのだろうか。

「………………………くそっ!」

全ては、アスナとマイを救い出してからだ。そのためだけにここに来たのだ。

命を賭して辿り着きたかった一人の少年を押しのけてまで。

目の前には、太い樹の枝が夕陽に向かって伸びていた。枝の中央には、人工的な小道が刻み込まれている。道の先には、生い茂った木の葉に遮られているが――――その梢の向こうに、夕陽を反射して金色にきらりと光る何かがあった。それを見た時、キリトはもう立ち止まってはいられなかった。

今にも発火しそうなほどの焦燥と渇望を必死に抑えつけ、樹上の道を進む。あと数分――――数十秒でとうとうその瞬間が来ると思うほどに、加速された感覚器官は一瞬一瞬を無限の長さにも引き伸ばしていく。

色濃く繁った不思議な形の木の葉の群れをくぐり、乗り越え、道は続く。枝のうねりに合わせて、短い階段が上ったり下ったりしながら現れるたびに、背中の翅を一振りして飛び越える。やがて、行く手で煌く金色の光の光の正体が明らかになってきた。金属を縦横に組み合わせた格子――――いや、鳥籠だ。

キリトが走る太い枝の、少し上空に平行して伸びる別の枝から、円筒の上部がすぼまったオーソドックスな形の鳥籠がぶら下がっている。だが、その大きさは通常の物よりも途轍もなく大きい。小鳥はおろか、猛禽だって閉じ込めることはできまい。そう。あれはもっと、別の用途の――――

もう遥か昔に思えるほど遠い記憶の中から、エギルの店で彼が口にした台詞が思い出される。

一人のプレイヤー――――レンが世界樹に肉薄し、限界高度でスクリーンショットを撮影した。その写真には、二人の少女を閉じ込めた不思議な鳥籠が写り込んでいた。

そうだ、間違いない。あれだ。あの中に――――

汗でぬめる手を握り締め、キリトはほとんど宙を滑る勢いで失踪し、最後の階段を飛び越えた。

小道の刻まれた枝は、急激に細くなりながら鳥籠の下部に達し、そこで道は終わっていた。

金色の鳥籠の中も、すでにはっきりと見えた。一つの大きな植木と、様々な花の鉢が白いタイル張りの床を彩っている。中央には、豪奢な天蓋付きの大きなベッド。傍らに、純白の丸テーブルと、背の高い椅子。それに向き合うように腰掛けている、真っ白な髪を持つ少女と――――

栗色の髪を持つ少女の姿。

あまりにも深い思慕のゆえか、光に満ちた概念にまで昇華されていたその懐かしい姿。時には研ぎ上げた刃のような怜悧な美しさ、時には人懐っこいやんちゃな温かさを浮かべ、あの短くも懐かしい日々の間、常に己の傍らにあった姿。

その姿が網膜に焼きついた瞬間、キリトの頭の中にあった思案事項や心配の一切が吹き飛んだ。

だから、アスナがさっと顔を上げ、口角を吊り上げて微笑んだことも、なぜかマイが何かを叫んでいることも、気にならなかった。

はしばみ色だったその瞳が、毒々しい黄色に染まっていることも、気にならなかった。

一歩、二歩と灯りに吸い寄せられる蛾のように歩を進める途中で通過した、鳥籠を形作っている純金の棒が四角く斬り取られていたことも、気にならなかった。

麻痺したように動かない唇から、音にならない声が漏れ出る。

「…………アス……ナ」

軽い衝撃が腹部に走った。

やけに焦点の定まらない眼を下にやると、一人の少女が必死の形相で純白の髪を振り乱しながらキリトを止めていた。だが、触れたら折れてしまいそうな細い腕では、大の男を止める力など全く出なかった。

キリトの足はグググ、と操られているように強引に進んでいく。

「キ……トッ!ダメ……な…だよっ!お………がいッッ、止め――――ッ!」

千切れた言葉の羅列が、鼓膜を震わせていく。

―――なんだよ。なに言ってっか………分かんねぇよ。

とろけた心の中、黒衣の少年は呟く。

直後、ふぁさっとして柔らかな感触と温かな体温が身体を包み込んだ。

あの頃の目が、あの頃の体温が、あの頃の感触が。

肌を通して、心の中の無防備な部分にゆっくりと染み込んでくる。それは抗いようもなく、また例えようもないほどに心地良かった。

『キリト君、信じてた。きっと――――来てくれるって』

耳朶を打つ、声。

それすらも耳に心地良かった。涙が出るほど懐かしき声。

直後

『アリガトウ』

にぃっ、と。口角を持ち上げ、引き千切れたような、焼け爛れたような笑みを、アスナだったモノは浮かべた。

《鬼》は、嗤った。










「つまり……、キリトにーちゃんは一人で行ったんだね。ユイちゃん」

レンとカグラ、さらにユイを追加した三人一行は変わらずに純白の通路を失踪していた。いや、変わらずと言えば若干の語弊があるかもしれない。なぜなら、レンとユイは走っていないのだから。

ユイは言わずもがな、ナビゲーションピクシーという身分のために背に生えている、無限に飛べる翅を使って飛んでいる。ならばレンは、と問われると、それは彼の身体が現在進行形でカグラの背におぶられているからだ。

あの後、ユイと合流した後、レンは現実で言うならば貧血に似た症状のおかげで地に伏せることになった。

たびたび明記するが、彼の寿命は現実世界の時間軸で残り二週間なのだ。否、ひょっとしたら大規模戦闘を経た今ならば、それよりもっと低くなっているのかもしれない。

《冥王》と呼ばれた少年の脳は、冗談抜きでもう限界なのだった。一つの安心できる材料とすれば、つい昨夜サーバーメンテナンスという名の安眠と安息の時間を彼が獲った事なのだろうが、それでも正直焼け石に水という言葉しか思い浮かばない。

衰弱死寸前の人間に必要なのは、決して安眠だけではない。経口摂取を経ての栄養摂取に加え、無論医学的に適切な処置が不可欠だ。

そのうちの全てを、彼は拒絶している。己の身に触れさせる事さえも、拒否し、拒絶している。

よって、彼は自分の事を何でもないとたびたび言うが、それは全く正反対の意見である。ぶっちゃけて言えば、強がり以外の何物でもない。

そんなだから、カグラは傍目から見れば少々過保護に見える発言も決してショタコン(そんなこと)だからではない。本人は大真面目でかつこれ以上ないほど心配して言ってくれているので、レンの方も反論はするが決してうるさがったり煙たがったりはしていない。

だから、カグラがノーシンキングタイムで言った背負います、の一言にレンはとっさに反論ができなかった。

そんな訳で、レンはただ今カグラの背上で揺すられているのだ。とは言っても、カグラはできるだけ振動を抑えるために床を滑るように走ってくれているので、感じられる揺れは無いに等しい。せいぜい聞こえてくるのは、押し付けた白衣(びゃくえ)越しに聞こえる命の鼓動、拍動くらいだろうか。

それが鼓膜を震わせるのを感じながら、レンは胸中で鋭く舌打ちした。

対象はもちろん、自らの判断で先行している《黒の剣士》キリトである。

こういう状況下では、どう考えても後続の味方と合流し、情報を共有しつつ周囲を索敵しながら進むのがセオリーなはず。後続の存在を感知できていなかったのならば、まだ言い訳は通るが、認知できていて先行しているとなれば初心者(ニュービー)にも劣るバカだ。

間違いなく、六王失格は確定である。

そんなとりとめもない事を思考していると、並行して飛んでいるユイが叫んだ。

「パパとママが接触しました!」

「様子は!?」

カグラが問うが、小さな妖精は何とも言えない微妙な顔をした。驚いているような、困惑しているような、喜んでいるような、そんな顔を。

「ID情報上には、特に問題はありません。私が感知できるのは、私が接触したプレイヤーのIDと、その周囲のID座標だけなんです。だから、パパ達が接触した事は座標上で確認できるんですけど…………」

「何が起こっているかは分からない、かぁ……」

ため息のように、レンは言葉を吐き出す。

理屈は分かる。分かるのだが、なかなか納得できないというのが正直なところだ。

例えば、ユイの頭の中で展開されている感知(サーチ)というのは、ちょうど戦艦やイージス艦に搭載されているレーダーのようなものだ。画面上でははっきりとした点として確認できるのだが、具体的な状況は視認するまで判らないのだ。

「愚痴はひとまず後です、レン。今は――――」

ただ一人、足を使って地を蹴りながら

「前へ進みましょう」

炎獄(テスタロッサ)》は言った。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「キリトさんがNTRされました(物理」
なべさん「違うよ!?いや、現象的にはそういう感じもなきにしもあらずだけど、NTRじゃないからね!?」
レン「えー、もうそれでいいじゃん」
なべさん「投げやりになるな!仮にも主人公だろお前!」
レン「アトガキの方の僕は同姓同名の別人なんだよ」
なべさん「メタい発言はやめなさい!」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー。あ、あとコラボもまだ募集してるよー」
なべさん「コラボ…………うっ、頭が……」
──To be continued── 
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