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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  サスケ

【 あかどう ヨロイ
    VS
  うちは サスケ  】

「行こうかァア!?」
「ああ!」

 ヨロイが印を組んだ。サスケはホルスターに手をやり、クナイをいつでも抜き取れるようにする。ヨロイが腰を落し、右手を右足の膝に置く。その手がぼっとチャクラを纏って燃え上がる。左手は腰の後ろに結わえ付けたホルスターへ手をやり、そして両者は互いを睨みつけて、暫く様子を見ていたが……やがてどちらともなく攻撃を開始した。
 ヨロイが三枚の手裏剣を投擲し、しかしサスケはクナイで三枚を全て弾き返す。刹那首の付け根を痛みが襲った。また呪印か! 思わず「くそっ、しまった!」と悪態をつく。不意をつかれた体のバランスが崩れかけ、なんとかバランスを取り直そうとするもそれは叶わず、不覚にも前のめりに転んでしまう。
 忍者らしいスピードで自分の目の前に到達したヨロイのチャクラを纏った拳がサスケにたたきつけられようとする。咄嗟に転がって横向けの体型になり、それをなんとかかわす。ヨロイのその一撃で、床に小さな穴が開く。サスケはクナイを床に突き刺し、それを軸に足を回転させ、ヨロイの足を引っ掛ける。倒れたヨロイの首筋を左足で固定、そしてその右腕を左足と両腕とで固定する。

「やった!」

 ナルトの嬉しそうな声が聞えた。その歓声に、ヨロイがふっと嘲るかのような笑みを浮かべる。そしてヨロイの右腕がくるりと浮んで、今まで上を向いていた掌がサスケの胸元に触れる。

「っ、ちからッ……!」

 喪失感。何かを少しずつ奪われているような気味悪い感覚。
 
「ぐああッ!」

 力の抜けた手から、ヨロイの右腕が解放される。そしてその腕は少し持ち上げられたかと思いきや、勢いをつけてサスケの胸に落下した。その一撃を残してヨロイは一旦サスケの傍から離れる。痛みに歯を食いしばりながら、サスケは痛む胸元を両手で押さえる。
 ――なんだ? 力が……ッ!
 力がとられてかれたような感覚。喪失感。これはまさか。

「サスケくん!」

 サクラの悲痛な叫びに、咄嗟に体を起こす。しかし間に合わなかった。ヨロイのチャクラを纏った掌がサスケの頭を掴んで床に叩きつける。

「ぐああああああッ!」

 またもや、あの気味悪い感覚が襲った。ヨロイの腕を引っ剥がそうと必死でその腕を掴むも、力が急速に抜けていく。有りっ丈の力を込めているはずなのに指先にはまったくと言っていいほど力が篭らない。
 そしてやがて、全く力が入らなくなってきた。まずは利き腕で無い方の左腕がだらんと垂れ下がる。ようやくわかってきた。そうかこの気味悪い感覚は、

「お前、俺の、チャクラを……!」

 チャクラを吸い取られている感覚だ。

「今頃気付いたか?」

 ヨロイが、チャクラを吸われる感覚同様に気味悪い笑い声をあげる。
 サスケのチャクラに反応して動く呪印と、対象のチャクラを吸い取るヨロイ。
 それは余りにもサスケに不利な組み合わせだ。師たるカカシに写輪眼の類は使うなと言われ、写輪眼とその他火遁などは封印して、体術や手裏剣術などでしとめてしまおう、と思っていたが、このような相手に体術を使うだなんて自殺行為に等しい。チャクラとってください、というようなものだ。
 更に右腕も力を失って、だらんと床に叩きつけられる。チャクラを吸われすぎた為だろうか、チャクラを取られる気味悪い間隔は痛みになりつつある。

「うあぁああああああ! はあッ、あッ、ああッ!」

 どんなに呻き、叫び、ヨロイから脱しようとしてもチャクラは吸い取られていくばかりだ。そして苦しみもまた、重ねられる一方。苦しみに喘ぎながら、サスケはそれでも必死に力を込めようとする。
 ――さあ……解放しなさい、甘美なる力……それしかあなたに生き残る道はないわ……
 変化の術を使い、音忍達の担当上忍として試合を観戦している大蛇丸は、心の中でサスケに向けてそっと囁く。ヨロイ、ミスミ、そしてカブトは、大蛇丸が木ノ葉に放った音のスパイなのだ。大蛇丸がもっとも信頼している部下カブトに、今回ヨロイとミスミが同行したのはそれぞれその能力ゆえだ。ヨロイのチャクラを吸い取る能力はサスケに呪印を発動させるに丁度いいし、ミスミの関節を外して体をぐにゃぐにゃにする能力はサスケの体に巻きつきさえすればその体術を封じ込めてしまう。
 大蛇丸の爬虫類めいた瞳が、飢えた目付きでサスケを見つめる。うちはの末裔。うちはの生き残り! うちはサスケ、うちはイタチと同じ万華鏡写輪眼を開眼し得る男! 
 ――そして私の次期転生候補に相応しい子!
 大蛇丸はニタリと笑みを浮かべて、サスケの首の付け根に視線を注ぐ。そこから地虫のように呪印が這い出すのを今か今かと待ち構えて。

「ぐああああああッ――!」

 力の入らない手に力を込めて、ぎゅっと握り締める。爪を掌に食い込ませた。先ずは手。それからゆっくりと足を持ち上げる。ヨロイはチャクラを吸い取るのに夢中で気付いていない。
 先ずは手。それから、足。

「――っこの野郎っ!」

 足を跳ね上げて、ヨロイの腹に一撃をお見舞いする。吹っ飛ぶヨロイに自由を取り戻したサスケは、力を失って震える腕になんとか力を込めて起き上がろうとする。

「まだ力が残ってるとはなあ? ただのモルモットのくせに」

 ――っ危なかった……!
 言葉を返す余力もなく、サスケは肩を上下させながら呼吸する。

「安心しろよ。直ぐ終わらせてやる」

 その手に再び、チャクラが篭る。こちらに向かって駆けて来るその姿に、ふらふらとしつつサスケは起き上がった。よろける足ながら、振るわれるその腕をなんとか回避する。相手に吸われてやれるチャクラはもう残っていない。
 自分の左頬目掛けて飛んできた拳をなんとか交わしてみるも、相手の手の纏ったチャクラが髪の毛と耳元とに触れてくる。それだけでもチャクラは吸われ、サスケはよろけた。その手に纏うチャクラに触れるだけでもチャクラは吸われてしまうようだ。

「どうしたどうした? もう終わりかァ?」
「はッ!」

 小ばかにしたかのようなヨロイの声。振り返りざま、蹴りをお見舞いしてやろうとするも、それは容易く避けられてしまう。
 ――こいつの狙いは、接近戦一本……! どうする、このままじゃジリ貧だ……!
 息が苦しい。ヨロイが余裕と嘲笑の笑い声を立てた。
 ――うちはサスケ……この程度か
 我愛羅の冷たい青の瞳が疲労困憊したサスケを見下ろす。当初は兄たるカンクロウに気付かれず、カンクロウに石を当てることに成功したことから、実力者なのではないかと一目置いていたが――カンクロウを兄と認めていなくとも、我愛羅はその実力が砂ではまだ強い方に入ると認定していた――別にそうでもなかったようだ。
 ――サスケくん……
 苦しむサスケの姿を見据えて、リーはぽつりと心の中で呟いた。元は戦いたいと思っていた相手だ。うちはの血を継いだ、最後の二人の内の一人。そんな彼が苦しんでいる姿を、リーは半ば失望、半ば心配の気持ちで見つめていた。
 リーのその傍、ナルトは歯を食いしばってそんな様子をみつめていた。視界の隅、見ていられなくなったサクラが顔を逸らす。試合前泣きながらサスケを阻止しようとしたサクラを思い出して、悔しくなった。
 サクラがそれほどまでに想ってくれてる相手が自分じゃないことが悔しい。俺はお前とも戦いたいと、そうやってナルトの強さを認めてくれたサスケと戦えなくなるんじゃないかということも、それと同じくらい悔しい。
 耐えられずに、ナルトは大声で叫んだ。

「サスケェエエ! てめーはそれでも、うちはサスケかァアあ!?」

 ナルトの大声にサスケが振り返る。

「ダッセー姿見せてんじゃねえ! しっかりやりやがれェエ!!」

 サスケの視線が、こちらを見つめているカカシ、顔を逸らしたサクラ、大声を上げるナルトから、その傍のリーへと移って行く。その瞬間サスケの脳裏で何かが結びついた。
 ――あいつは
 ロック・リー。五分で倒す。写輪眼。体術。敗北。コピー能力。
 ――そうか!!

「――?」

 その瞬間サスケの目付きが自信満々なものになったことに気付いたハヤテは、軽く目を見開いた。サスケのチャクラが磨り減っていくのを見守るだけと、半ば興味を失いかけていたこの試合。しかしサスケのこの目――これは何かあるなと、ハヤテは集中力を試合に戻した。
 
「余所見している暇なんかないだろ?」

 手にチャクラを宿したヨロイが再びこちらに走ってくる。しかしサスケが彼を見据える目は、焦りと苛立ちの入り混じったような目付きではない。あくまで冷静沈着に、そして余裕に満ちた目つきだ。

「これで最後だ!」

 走ってくるヨロイに向かって身構える。全身の神経を研ぎ澄ませ、集中力を高める。これは賭けでしかない。写輪眼のコピー能力なんて使うのはこれが始めてだ。それでもサスケは躊躇わない。もうこれしかないんだ。それにサスケの中には、きっと自分には出来るだろうという、何の根拠もない、得体の知れない自信に満ちていた。
 ――これまでですかね
 自信に満ちた目つきをしていたサスケだが、しかし今はまだヨロイの攻撃を避けてばかりである。ハヤテがまたもやこの試合に対する興味を失いかけたその瞬間、サスケの口元に、不敵な笑みが浮んだ。
 
「消えたッ!?」
「――!!」

 いきなり消えたサスケの姿にヨロイがあたりを見回し、サスケがどこにいるのかに気付いたハヤテや大蛇丸たちは驚きに目を見開いた。リーの目が驚愕の色に染まる。
 チャクラをためた足でヨロイの足元に高速で移動し、その腹を下から思い切り蹴り上げる。ヨロイの口から吐かれた血が紅い蝶々のように宙を舞う。
 ――あれは僕の!
 ――何!?
 その技をよく知っているガイ、ネジ、テンテンも目を見開く。あの技はガイがリーに伝授したものだし、組み手でしばしば一緒になっているネジとテンテンも、あの技は一度ならず見たことがある。
 跳ね上げられたヨロイの後を追ってその下方すれすれを飛ぶ。彼はまるでリーたち三班の思いを読み取ったかのように、言った。

「もっとも、ここから先は俺のオリジナルだけどな」

 試験前リーと戦った時には、リーの技は禁じ手とされ、最後までやり終わる前にガイとその忍亀に阻止されて止められてしまった。だからこれからは、死の森にいた五日間習得した技でこいつをしとめてやる。
 サクラは再び視線をサスケに戻した。悲しみと不安を浮かべていた緑色の瞳に驚きにも期待にも似た色が浮かび上がる。
 サスケは人差し指と中指を立てて、ヨロイの腰につきつけた。

「終わりだ!」
「っか、影舞葉だと……!?」
「――食らえ」

 サスケが静かにそう言った瞬間、首の付け根を痛みが襲った。呪印が赤く爛れたような色合いを発し、地虫のようにそこから這い出そうとする。体は悪熱を帯び、手足が痙攣する。げほ、と咳をすれば、口から吐かれた血がてかてかと眼の前の空を飛ぶ。

「っちくしょお……! 一々邪魔をしやがって!」

 言った瞬間、サスケは地虫のように這うそれらがサスケの眼球にまで這い出したことに気付いた。驚くほど素早い動きで、呪印が悪熱をもってサスケの体を駆け巡る。痛みに目を瞑ってしまうと、“現実”から全てが消えていったような気がした。世界も。音も。臭いも。ただ舌に鉄みたいな血の味と、肌を駆け巡る呪印の感覚だけが残る。
 そして現実から引き離されたサスケの脳裏に、サクラやナルトの姿が浮ぶ。
 ――お願い。お願いだから、……やめて――
 このような悪熱とは全く違う、人肌の暖かさ。発育途上のサクラの体には脂肪も付き始めて、その感触は男の自分と比べるとずっと柔らかい。嗚咽混じりの声が鼓膜を震わせ、ぎゅっと抱きしめてくる腕はか弱く震えているけれど、それでもとても暖かかった。
 ――てっめー、サスケェエ! ダッセー姿見せてんじゃねェエ!――
 前はドベだの落ち零れだの見下していた彼を認めはじめたのはいつからだろう。サスケの反撃の切っ掛けになったのがその声であったことだけは確かな事実だ。もしナルトがそのような声を出さなければサスケが振り返ってリーを見ることにはならなかっただろうし、それにナルトの言葉が自分を随分と励ましてくれたこともまた事実。
 ――あいつらに心配されるとはな……!
 前までずっと見下していた二人に心配されるとは自分も随分と落ちぶれたもんだと、サスケは自嘲気味に笑う。これ以上やつらに俺を心配させてたまるかと、思いつつサスケは軽く息を吸う。
 ――ここまでか……
 カカシはそんなサスケを見据え、試合を止めさせる準備に入った――しかし。
 ――こんなのにっ……飲み込まれて、溜まるか!! 
 うちはイタチ。大蛇丸。うずまきナルト。はたけカカシ。春野サクラ。――そしてうちはサスケ。それらの名前を連ねる。
 サスケの心の中に燃えていた意志の炎に息を吹きかけて、更に燃え上がらせる。そしてその意志の炎の力に追われていくかのように、地虫のようにはっていた呪印がサスケの首の付け根へと逆流する。
 ――呪印が引いた……!?
 アンコが驚きを顕にしてそんなサスケを見上げる。先ほどのこと、時間にしてみればたったの数秒。自分の真上を飛ぶヨロイの存在を急速に思い出し、サスケは笑みを浮かべた。

「行くぜ」

 片手でその服を掴み、足を回転させてヨロイの胴体に蹴りを食らわそうとする。しかしそれはギリギリヨロイの左腕によって防がれた。

「甘いな……!」

 サスケは答えず空中で回転し、右手の拳をその首に叩き込む。ヨロイもろとも落下しながら更にその腹にも拳を叩き込む。

「まだまだ!」

 床は間際。素早く回転して、先ほどヨロイが拳を受けた、丁度その部位に蹴りを入れた。

「獅子連弾!!」

 ヨロイの体が蹴りと共に勢いよく地面に激突する。ヨロイが血を吹く。サスケもその反動で地面を転がった。ハヤテの目が素早く二人を見比べる。再び起き上がれるのは。倒れたまま動けなくなってしまうのは――どちら?
 ――確かめるまでもないですね
 ヨロイに近寄る。確かめるまでもないだろうが、それでも一応形式的には確認する必要がある。視界の隅でサスケがよろよろと立ち上がった。皆が固唾を呑んでこちらを見つめている。一方大蛇丸は、自分の想像を超越するサスケの強さに恍惚となり、熱っぽい視線でまるでサスケを貪るかのように眺めている。

「――これ以上の試合は私がとめます。よって、第一回戦勝者、うちはサスケ。予選通過です」
「――やったああ!!」

 ナルトとサクラの顔がぱあああっと輝き、ナルトが歓声を上げる。ヒルマは医療班を呼ぶ紐を引っ張ると、倒れたヨロイに歩み寄り、親指を噛み切って医療道具を一式口寄せする。担架を広げてヨロイをその上に乗せ、サングラスと口元を覆う布を剥ぎ取る。片手をヨロイの腹に乗せてチャクラで医療を開始しつつ、到着した医療班にヨロイを預けた。

「あとはサスケくんですが……」

 ヒルマが振り返った背後で、サスケが仰向けに倒れ掛かる。一瞬慌てたが、その体をサスケの背後に現れたカカシがその体を支えた。

「ま! よくやったな」

 素直に賛辞を述べるカカシに、サスケが不敵な笑みを浮かべて見せた。とは言え、呼吸はまだまだ荒い。さっさと治療しなければと近づいてきたヒルマに笑いかける。

「ああ、サスケはこっちに任せてください」
「……何言ってるんですか。先ずは治療してからですよ」

 カカシを軽くねめつけて、ヒルマはサスケの体にもチャクラを通していく。その体の擦り傷が回復し始めた。

「呪印の封印……あれ、結構体力消耗するんですけど。怪我人に試合終了早々やるのかと思うと気が引けますが、本人が試合参加を固持した結果なので自業自得かもしれませんね。ああ、あまり時間はかからないはずですよね、ならわたくしもご一緒しましょうか?」
「いや、その必要はないよ……ヒルマには他の受験生の世話も見なきゃならないだろ? ヒルマは若くても一応この中忍試験では医療班の指揮を担っているわけだしね。……ま、もしヒルマがもっと柔拳を使えたらとっくに上忍に昇進していると思うんだけどねえ」

 手ひどいですねえ、とヒルマはむっと顔を顰めた。

「わたくしは、日向の能力は医療にしか使わないって決めてるんです。医療に柔拳なんていりません。白眼と点穴をコントロールする能力さえあれば十分なんです!」
「まあそんなムキにならなくても……君がアンコを守りたいって気持ちはわかるけどね」
「それだけじゃないんです。わたくしは……綱手さまたちのようになりたい」

 カカシはヒルマが飲み込んだ名前を知っている。カカシはかなり前からヒルマと交流があった。というのもヒルマは、以前カカシと同班だった、今は亡き優秀な医療忍者――リンに憧れていたからだ。それはリンのことを「リン師匠」と呼ぶほどで、リンもヒルマのことをまるで弟のように可愛がっていたのを覚えている。そしてその度、自分と同班だったうちはの少年、うちはオビトが――かつてはカカシの左目の持ち主だった彼が――面白くなさそうな顔をしていたのも。

「……ヒルマなら、なれるさ。ま! 頑張りな」
「……ありがとうございます、カカシさん。では、そちらはカカシさんにお任せしますけれど、病院の方にはこっちから手配をしておくので、終わったら彼を早速そこに送ってください。ユナトさんに暗部の護衛を手配してもらいますから。ああ、サスケ君の病室の隣の病室にユヅル君がいますので、ついでに彼の封印もお任せてしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、わかってるよ。じゃあ、病院と暗部の手配、頼んだよ」
「了解です」

 ユナトの方へ駆け去っていくヒルマの後姿を眺めながら、カカシはしゃがんでサスケの肩に手を置く。

「――これから奥に連れてって、呪印を封印する」
「っ予選が終わるまでまってくれ! 本戦に残る奴等の試合が見たい」

 しかしそんなサスケの言葉も、常に飄々とした態度のカカシには珍しく「駄目だ!」と厳しい語調で一蹴する。

「そう熱くなるな……これ以上ほっとけば、取り返しのつかないことになるかもしれんからなあ。二度もわがまま聞いてやんない」

 さあ、来い。そう促がされて、サスケは不服そうな顔をしつつも、不承不承立ち上がった。二人が去っていった後、ハヤテが数歩前に進み出る。

「えー、では、早速次の試合を始めますね」

 全員の視線が一斉に掲示板に集中する。
 そして示された名前は、ザクとシノの名前だった。

「ヘッ、どこの雑魚だぁ?」

 負傷した両腕を包帯に抱えられているにも関わらず、その顔は余裕に満ちている。その発言を聞いてもシノは顔色一つ変えない。しかしそれを聞いた紅は眉根に皺を寄せて、音の担当上忍――変化している大蛇丸――を睨みつける。あんたちゃんと自分の弟子に口の利き方教育してるの、とでも言うかのように。

「両者前へ」

 ハヤテが手振りと共にそう言うと、ザクとシノが向き合う。ザクの両腕を見て、ヒルマははあ、と溜息をつきつつ顔を顰める。これくらいの怪我なら普通、医療班代表たるヒルマが強制辞退させてもいいくらいだが、今さら言っても聞くまい。
 不敵な表情のザクと相変らず無表情なシノを見比べ、ヒナタが不安げな顔をした。

「えーでは、これから第二回戦を始めます」
「シノくん、大丈夫かな……?」
「大丈夫。あいつは強えーよ」

 キバは静かに答えた。「へ」、とヒナタがキバを振り返る。キバの顔はいつになく真剣で、その目はじっとシノに注がれていた。俺もあいつとはやり合いたくねえよ、と悔しいのかそうでないのかよくわからない声を零す。

「――では、はじめてください」

 そして二回戦が始まった。
 中忍試験は、まだまだ終わりそうにない。
 
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