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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  猪鹿蝶

「いの、どうして」
「サスケくんの前で、あんたばっかいいカッコさせないわよ!」

 いのがサクラの目の前に立ち、シカマルがその右隣に、長いマフラーをシカマルにつかまれた状態でチョウジがいのの左隣に立っている。

「またうようよと……木ノ葉の虫けらたちが迷い込んできましたね!」
「二人とも何考えてんだよぅ!? こいつらヤバ過ぎるって!!」
「めんどくせーけど、仕方ねーだろ! いのが出て行くのに、男の俺らが逃げられるか!」

 腰を抜かしたチョウジは、シカマルがマフラーさえ掴んでいなければ逃げ出していたであろう勢いだ。しかしシカマルはマフラーを掴んだまま放さず、めんどくさいといいながらも戦う気でいるらしい。

「巻き込んじゃってごめんね~でもどうせスリーマンセル、運命共同体じゃな~い」
「ま、なるようになるさ」
 
 不敵な表情で相手に向き直るシカマルといのだが、チョウジは未だに逃げようとしている。

「嫌だぁあ! まだ死にたくなああい! マフラー放してよぉお!」
「あーもーうるせぇ! じたばたすんな!」

 後ろを、つまりマナとサクラのいる方向を向いて体をじたばたさせなんとか逃げようとするチョウジを見て、ザクが小ばかにした発言をする。

「お前は抜けたっていいんだぜ、おデブちゃん」

 おデブちゃん、その言葉をチョウジが耳に捕らえた瞬間、サクラとその後ろで目を醒ましたマナは見てはいけないものを見てしまったような気がした。そしてその殺意が自分に向けられているのと思い込んだマナは目を硬く瞑って狸寝入りをした。サクラがごくんと唾を飲む。

「……今、なんて言ったのあの人? 僕は、よく聞き取れなかったよ」

 静かな声に、やっと殺意が自分に向けられたのではないと悟ったマナは薄目を開けた。紅丸が震えて縮こまる。
 マナもサクラも覚えている。男女共同の体術の授業、デブと嘲られたチョウジがキレた時のことを。

「ああん? 嫌なら引っ込んでろつったんだよ、このデブ!」
「ひぃいいいい!」

 そしてチョウジの凄まじい形相を見たマナと紅丸は二人して抱き合うと、サクラの後ろに逃げ込んだ。その時のチョウジの形相は怒りに彩られて筆舌し難い恐ろしい形相になっていたので、そこらへんの描写は省くとしよう。

「ぼォオくはデブじゃなァアアい! ぽっちゃり系だ、こるァアア!」
「ぽ、ぽっちゃり系ですそうです寧ろ痩せてますごめんなさい食べたら美味しそうなんて言ってごめんなさい!!」

 何故か謝ってるのが背後のマナだったが、チョウジの耳にそれらは入っていない。

「うぅううううるぁああああああ! ぽっちゃり系、万歳!」

 チョウジの全身から湧き出るチャクラのオーラにマナがびくびく怯えてサクラにしがみ付き、サクラは体中の痛みもピンチに同期が駆けつけてくれた感動も全て忘れて、呆れるやら状況が飲み込めないやらで、目をぱちくりさせていた。

「よぉおおし、お前等わかってるよなァ!? これは木ノ葉と音の戦いだぜい!」
「……ったく、めんどくせーことになりそうだぜ……」
「それはこっちの台詞だ!」

 何気にキャラまですごいかわってしまっているのだが、大丈夫だろうか。溜息をつくシカマルに、ザクも不機嫌に吐き捨てる。さっきまで逃げ腰だった奴がここまでキレるとは思ってなかったらしい。

「サクラ、マナ。――後ろの人達、頼んだわよ」
「――うん」
「ラジャーっ」
「わんっ」

 いのの声に、新たな力が湧き出たようにサクラは頷く。マナも敬礼し、紅丸もさっさとサスケやナルト、ユヅルのところへと駆けていった。
 サスケの体からは紫色のチャクラが染み始めている。サクラとマナは頷きあって、リーとはじめをサスケとナルトの近くへ引きずりだした。

「――それじゃあいのチーム、全力で行くわよ!」
「おう!」
「フォーメーション、いの!」
「シカ!」
「チョウ!」

 掛け声を出して、先ずはチョウジが一歩前に進む。

「頼んだわよ、チョウジ!」
「オーケイ、倍化の術!」

 チョウジの胴体だけが衣服ともどもぼん、と膨らみ巨大化する。

「続いて、木ノ葉流体術・肉弾戦車ァー! ごろごろごろごろごろ!」

 手足と頭を衣服の中に引っ込め、自分でごろごろごろと効果音を出しながら前へ向かって転がる。破壊力は満点だ。こんなコミカルな体術が見れるのも恐らく木ノ葉だけだろう。

「なんだこのデブ? デブが転がってるだけじゃねえか! ――斬空波!」

 両手から空気圧を放ってその巨体を弾こうとするが、しかしその回転力はかなりのものだ。ザクの空気圧をもってしても弾けない。更に空気圧が強まると、チョウジは回転したまま空高く飛び上がる。
 こちらに向かってくるチョウジをどう始末しようか迷っているザクにドスが駆け寄るが、シカマルがそうはさせない。奈良一族秘伝の影真似の術でドスの影を縛り付ける。ドスの動きが止まった。そしてドスは彷徨わせた視線の先、ニヤリと笑うシカマルの姿を見つけた。

「ドス! こんな時に何をやっている!?」

 キンが罵声を飛ばしたのも同然だ。ドスは蟹股になり、両腕で丸を描いて両手を自分の頭にあてるという、なんとも間抜けなポーズをとっていたからだ。いや、正確にはとらされている、というべきだろうか。ドスの前ではシカマルが同じ姿勢をとっている。

「いのー、後は女だけだ」
「うん! シカマルー、あたしの体、お願いねぇーっ」
「ああ」

 印を組んで、キンに狙いを定める。はっと目を見開いた少女目掛けて、いのは心を飛ばした。

「忍法・心転身の術!」

 いのの体が崩れ落ち、シカマルがそれを受け止める。ドスがシカマルの前で、何かを受け止める手つきになった。勿論かれの前には空気しかないわけだが。

「キン!」

 転がりまわるチョウジを避けながらザクが叫ぶ。キンは気をつけの姿勢で、目を瞑ったまま動かない。「どうした!?」と焦った声で問いかけるドスに、キンは勝ち誇った表情でクナイを喉につきつけた。

「これでおしまいよ!」
「――!!」
「あんた達、一歩でも動いたらこのキンって子の命はないわよ! ここで終わりたくなければ、巻き物を置いて、立ち去るのね。あんたたちのチャクラが感じられなくなるまで遠のいたら、この子を解放してあげるわ」

 いのはキンの声を借りてそう宣言する。しかしドスとザクが浮かべたのは嘲笑だ。
 ――こいつら、何がおかしいの……?
 焦ったいのは、慌ててチョウジを振り返った。
 
「チョウジ!」
「――やばいっ、そいつらは!」
 
 サクラの焦燥に満ちた声。サクラがいのに、キンの体を離れるよう呼びかける前に、ザクの掌から放たれた空気圧がキンの体を吹き飛ばし、その背後の大樹に叩きつけた。キンの口から血が一筋伝い、シカマルに支えられたいのの口からも、やはり血が伝った。

「なんて奴らなの……仲間を、傷付けるなんて……!」
「油断したな!」
「我々の目的は巻き物を得ることでもなければ、ルール通りにこの試験を突破することでもない……」

 ドスはその名を口にした。彼の主人がご執心の、少年の名前を。

「サスケくんなんだよ」 
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