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俺屍からネギま

作者:ゴン
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これが戦争か⁉︎

大分烈戦争〜最前線〜



そこは多くの魔法の撃ち合いによる爆発音や武器同士の衝撃音がこだまする世界で、人間の焼け焦げた匂いや血の香り、粉塵と煙が立ち込めておりマトモに空気を吸えないでいる。


「たくっ連合の連中は人使いが荒い!」

「奴らにとっちゃ俺らは駒なんだろうさっ!」

「おいっもうすぐ戦場だぞ!口を慎め…」


関西遠征隊の面々は魔法世界に到着した早々、戦場の最前線に送られる事になり彼らは今最前線に向かっていた。

「皆さん、もうすぐ到着します……着き次第戦線に参加しますが、心の用意は良いですか?」
隊長である天ヶ崎が皆に問い掛ける。

「まだまだ緊張していますが……そうも言ってられないですね。」
そう答えたのは若干の緊張を 孕んだ優男は近衛 蔵之介の養子・大蔵で近衛家から唯一の参戦である。本来ならば数少ない近衛家から戦争に出すことは憚られたが、他の家の者のみに行かせる訳にはいかないと蔵之介が直接な血縁は無いが愛する息子を送り出したのである。
子宝の恵まれなかった蔵之介は一門の中で両親を失い孤児となってしまった子供を養子にした、それが大蔵でありその大蔵を目に入れても痛くない程に可愛がった……その大蔵を送り出したのである、其れだけでも蔵之介の覚悟が伺える。また大蔵の才覚は、同時代の蔵之介にも劣らずとされる程の実力を持つ…蔵之介自慢の養子であった。


皆の顔色に緊張が帯びる…今まで彼らは鬼や妖なら何度も倒した事はあるが、人間を倒した事は無い。帝国は純粋な人間はほぼ居らず、亜人が大部分を占めている。それでも…亜人でも……人などだ。


「それでも戦わなきゃならねー!俺達の目的は戦う事でも…勝つ事でもねぇ、生き残る事だ……」

「若……」

「陣くん……」
陣の言葉に昨年、御陵孤児院出身で新撰組所属の旭と結婚したばかりで今回夫婦揃って参加した槍使い源蔵と隊長である天ヶ崎を始め全員が陣言葉に耳を立てた。



「俺らの死に場所は此処じゃない……俺らが本当の意味で命を張る場所は此処じゃない。大願を成就するまで死ぬ訳にはいかないんだ。」
それは自分自身に問い掛ける様な呟きに近いものだったが自然と彼らの心に響いた。
陣には以前から彼が吐いた言葉は不思議と良く通った…聞き手は陣の声を通して聞き手の心を震わせた。

(成る程、長が副隊長にしたのはこう言った理由か…関西を出発して以来共に過ごして来たが、副と言うよりも隊長の方が相応しい感じだな。まぁ隊長である俺が簡単に認めちゃ行けないんだが……あれでウチの千草と同い年ってんだから流石だよ……だが確かに死ねないな)


(やっぱり若はスゴイな…当主やオヤジが心配してたけど死に急いでるって感じじゃないな、どっちかと言うと生き急いでるって感じかな。しかし三百人中、御陵からは若に補佐役の大蔵さん、筒の右近、薙刀の嵐真に弓の長・辰之助のおやっさん、最後にオレか……本来なら辰之助のおやっさんが補佐役をすべきなのに面倒く下がって押し付けられちまったしなぁーーハア………若を死なせねーってのが御陵の総意だが若の言う通り俺らも死ねないな、若の為にも……)


関西遠征隊の面々が其々の思考の中に入っていたが一人の壮年の男が陣に近づき声を掛ける。
「若、行きましょう…帰る為に、生き残る為に……戦いましょう。この辰之助、まだまだ孫の顔を見ずには死ねませんしのぅ〜!ガハハハ!」
この男は御陵 辰之助、御陵一族当主・御陵哲心と同世代の弓使いで辰美の父である。その実力は数キロ先の鬼の目玉を狙い撃つ事が出来るとされ、関東魔法協会にもその名前は知られている。


その辰之助の言葉と共に皆がやる気を漲らせている……それを確認すると陣が決意し話し出す。


「この目なら安心だな……よしっ縦の三軍に分けよう、後方は千里さんで全体の指揮と後方からの砲台支援を頼みます。中軍は大蔵さん、前後の部隊の調整と共に中距離からの支援を頼む。辰さんは、後方と中軍の間に陣取って矢の援護を頼む。前方は俺だ……やる事は簡単だ、目の間にいる敵を倒すそれだけだ。千里さんも大蔵さんもいいですか?」

「何も先陣をきる事は無いのでは私は勿論、千里隊長でもいいでしょう?」

「そうだ、私の召喚術は前線の方が活きる……私が行こう。」

若年でありながら部隊を仕切る陣に、名前を呼ばれた千里と大蔵苦笑いを浮かべつつ反論するが陣は更に反論する。


「いや、俺は剣を使うからな…近距離でなければ戦い難い。それに大蔵さんは、近・中・長距離の攻撃が可能な方です……貴方が中軍にいれば安心して全軍が戦えます。千里さんは隊長です……ならば全軍の指揮をして頂く為にも後方の方が全体を見据えられますし、後方にいる者たちに近づいて来た敵を倒す為にも接近戦も可能な召喚術を持って居る千里さんが後方に居てもらう必要があります。」


いいですねと念を押した言い回しをされると千里も大蔵も否応が無く認めるしか無かった。



「よっし!行くぞ!!」

彼らはこうして血飛沫と断末魔が轟く戦場最前線に進入して行った。










「ハアハア、戦局は優勢とは言え……いい加減にしんどく成りましたね隊長。」

「弱音を吐くな!一番若い陣くんが隊の最前線で戦っているんだぞ!」

「す、すいません!しかしそろそろ引いても良いのでは?ここ数時間戦い続けですよ〜」

「分かっている!だが伝令が来ない以上引く訳にもいかないだろうがぁー」


千里とその部下の掛け合いがあった更に二時間後…優勢に動いていた戦局は更に大きく動いた……紅き乱入者達によって








ここは関西遠征隊、陣が率いる前方部隊の活躍により戦局は優位にたっていた。


ザシューー

「オリャーー!…まだいやがるぜ。お前ら疲れる暇はねーぞ、分かってんな!」

「は、ハイ!…(……人を斬る何て真似するのも初めてなのに何とか形になって戦えているな…これも若のお陰だな)」

立ちはだかる帝国の兵隊達をバッタバッタと斬り捨てる陣の発破に仲間達は覇気を持って応え次々に敵を倒している。

彼らは今回初めて人を斬ると言う事にも臆す事なく戦う事が出来た、それは最年少であり副隊長でもある陣の先制攻撃と覇気だ。
それはまだ戦い始めてすぐの頃、彼らは帝国兵の異様な殺気と殺す事の重圧で普段の力が出せずにいた。そんな時、陣が大きな声を叫びながら敵を斬り捨てると大きな声で叫んだ…
『言ったはずだぞ!俺達は死ねない、こんな所で死ぬ訳にはいかないと!人を殺す業が怖いなら俺が背負ってやる!!怖くて立ち上がれないならこの俺に掴まって奮い立て!!』

その言葉に関西遠征隊は前軍は奮い立ち勇猛果敢な活躍により戦局は優勢となった。

しかし最前線で長時間戦い続けた彼らにも疲労の色は隠せなかった……


「源蔵!怪我の重い十人程を下がらせて代わりの派遣……それと撤退の有無を千里隊長に…。」
陣は怪我人が増えてきた為に、優勢な今の内に怪我人を後方に下げつつ前軍の疲労が強くなって来た事を考え撤退の必要性を感じ内密に隊長に進言する様小声で以蔵に伝え、以蔵は頷くと怪我人十人程をと共に後方に下がった。





そして以蔵らが千里らがいる後方まで下がったその頃、赤い髪をした青年らが三人

「へへーーぃ!この千の呪文の男(サウザンドマスター)がこの膠着した戦況を変えてやるぜ!」

「しかしナギ、前線に味方の兵も多くいます。伝令がまだ回っていない様ですね……どうします?」

「関係ねーよ!魔法ぶっ放して敵を倒していれば味方も勝手に撤退するよ!」

「随分と荒っぽいですね…ナギらしいと言えばナギらしいと言えますが。」

「おい、何言っているんだ!味方が傷付いたら如何するんだ!?」

「ハハーン、詠春…お前また俺に倒した人数負けると思ってるんだな?」

「違うわバカナギ!味方は優勢何だぞ!?強引に行かずに撤退させつつだな…」

「生真面目だな詠春!じゃぁ今回も俺の不戦勝でいいか!?行こうぜぇアル!!」

「…ハイ」

「なっ!?先に行くな!俺も…!」


「ハハハ、ヨッシャァー!景気良く行くぜ!ヘカトンタキス・カイ キーリアキス アストラプサトー キーリプル・アストラペー!!」

「バっバカ!それは広域殲滅の……」



ドカァーーーン!!
無数の雷が最前線に拡がり敵・味方問わず多大な傷を負った……それは最前線で戦っている関西遠征隊も例外では無かった。

「何やってんだ…」

「あらあら……まあ仕方ありません、詠春も行きましょう。」


「おめーら置いてくぞ!?ヤッホーーぃ!」

「フフフ…」

「やれやれ…」
ナギが戦闘に参加しようと突撃をするとアルと詠春は苦笑を浮かべながらも後に続いて行く。







「な、何故後方から攻撃が来る!彼処には味方が多勢居るんだぞ…なのになのに!?」

「本部より伝令だ!紅き翼が突入する為邪魔に成らない様に下がれ!!」

「邪魔だと!?味方を攻撃する連中の方がよっぽど邪魔じゃないか!」

「天ヶ崎隊長!今は前線を引き上げねば危険です!」

「くっ分かった…中軍・前線に撤退命令を!後方部隊は撤退を支援しろ!………生きててくれよ、皆。」
突然の攻撃に困惑していた後方部隊は本部隊長である天ヶ崎の指示により迅速に撤退支援が行われた。



旋風と稲妻が広がった最前線では後方とは比べられない程の多大な混乱が起きていた。

味方がいるはずの後方から攻撃を加えられたのだ………精神的被害も計り知れないだろう





「ゲホッゲホ……あぁ〜クラクラするぅ。何処のバカだ一体!?」

「ヤバっ!肩が外れている…結構、痛いな。」
最前線の関西遠征隊は多くの傷負ってしまったが幸運にも死者は居なかった。


「……若?…っおい若は!若はどこだぁ!?」

ガラガラッ

「若〜!御無事でって、傷だらけじゃないですか!?今、回復しますね。」


「お前らっ生きているか!?………何とか一命は取り留めているな、だが錯乱している者や重傷者が多い…潮時だな……ん」
陣は瓦礫の中から傷だらけで這い出ると仲間の治癒術を受けつつ、現状を確認し死者が出なかった事に安堵しつつ、今回の戦線の潮時を感じていたその時、撤退の伝令を持って来た者を確認する。




「皆、お互いに肩を貸しあって撤退するんだ!」

「はいっ!…あっ若、彼奴らですよ。彼奴らの所為でこんな目に合っているってのに…!」
陣の撤退指示を聞き、動き出した者の一人が紅き翼が敵陣に突っ込んで行った所を確認するとその場にいた者たちは怒りに震えていた。


「ああ、……今は早く撤退しろ、ウチの隊以外の奴にも肩を貸してやれ!(紅き翼のナギ・スプリングフィールドか、俺の仲間にまで被害が出る程の攻撃しやがって…キッチリ落とし前つけてやる!)
陣は撤退を再度促すと紅き翼の連中を睨みつけ報復を誓い、紅き翼の攻撃を掻い潜った帝国兵の追撃に対し殿を勤め上げた。
殿を勤めている最中にも、負傷した連合の兵を救出して行った事で連合の兵隊達からも多くの信頼を得て若年でありながらも一目を置かれる存在となるのである。






「何とか帰って来れましたね……陣くん、最前線での事を聞きました本当に有難う。お陰で隊の死者は居ませんでした。」

「何言ってるんですか千里さん…当然の事ですよ。……所で皆は?」

「今は緊張が緩んだせいか多くが寝て居ます、今は寝かせておきましょう…本部にはこれから報告しに行きます。陣くんもゆっくりと休んで下さい。」

「そうですか…分かりました。千里さんも無理はしないで下さいね、千里さんが倒れたら俺が千草に怒られちゃいますから(笑)」
千里は陣の言葉に笑みを浮かべつつ頷くと背を向けて本部に向かって歩き出した。




陣は千里が雑踏に紛れるまで見届けると自身も休憩しようと歩き出したその時…

「おい、紅き翼が帰って来たぞ!今回も大戦果だったそうだ、凄いな!」

「ホントかよ!紅き翼のお陰でこっち迄被害が来なかったのか〜サウザンドマスター様様だぜ!でその紅き翼はどこ行ったんだ?」

「ああ何でも此れから本部に報告しに行くそうだ。終わったら酒場でメシを喰うらしいし、一緒に行こうぜ!」

周囲の雑談の中、聞こえた紅き翼と言う単語を聞いた後……陣の目から光は消えた








紅き翼のナギとアルビレオは本部への報告を終え、報奨金を貰うち意気揚々と引き上げていた。

「ハハハッハーー!いやぁ今日もいっぱい帝国兵を倒したぜぇ、やっぱりサウザンドマスターは最強って事だな、なあ詠春、アル……って詠春は何処言ったんだ?」

「全く…先ほど故郷の知り合いが居たから、探して来ると言って離れたでしょう。やっぱり話を聞いてなかったんですね、やれやれ…。」

「そうだっけ?まあいいや…よしっ報奨金も貰ったし、メシでも食おうぜ!」

周囲の喧騒を聞きながら二人は空腹を満たそうと酒場を目指して歩いて行くと、ナギよりも少し年少の少年が声をかけてきた。



「なぁ、アンタ紅き翼のナギ・スプリングフィールドだろ?……先の戦線で広域殲滅魔法を最前線でぶっ放した。」
少年の言葉に何だ俺の英雄譚を聞きに来たファンか?と思い、口を開く。
アルビレオは少年の表情に怪訝しながらも二人の話しを一、二歩下がった所で見ていた。

「何だ坊主、俺の話しを聞きにきたのか?そうだ、俺が敵と味方が蠢く最前線に千の雷をぶっ放して戦局を変えた…」

「戦局を変えた?だと…戦局は常に優勢だったと聞いたが、あんた味方にも被害が出る様な魔法何で出したんだよ…。」
此れから話が面白くなると言う所で話しを遮られたナギは憮然とした表情で答えた。

「何でって…面白いからだよっっガハッ!…」

「ナギ!?」
ナギは話の途中で少年に殴られると、アルビレオはナギを心配しつつ少年に殺気を向けた…唯の少年が殴ったのならばこんな殺気を向けはしない…。ただナギを殴った時の少年の殺気に並々ならぬものを感じとったのだ……。



「ってぇーーな!何すんだこのガキ!」
ナギは殴られて赤く腫らした部分を手で抑えつつ、少年を怒鳴りつける


「何すんだはこっちのセリフだこの野郎!最前線には味方の俺達も居たんだぞ、何も考えないで攻撃してんじゃねー!」

「「なっ!?」」
少年の言葉に二人は驚いた。まさか自分よりも年少の子供が最前線の戦場に居るとは思っていなかったし、ナギは自分の魔法で少年を傷つける可能性があったなんて露とも思っていなかった。

「「「……………………」」」


睨み合いの中、彼らの中に静寂が訪れていたがそれは一瞬にして瓦解する。


「貴様!紅き翼のナギ・スプリングフィールドに何たる所業だ!」

「このガキ、東洋から来たって言う…巫山戯やがってお前見たいなガキが来る事自体気に入らないってのにサウザンドマスターに殴りかかるなんて!」

多くの衛兵が彼等の中に割って入り、少年は捕まえられると大した抵抗をせずに連行された。残されたナギとアルビレオは呆然としていたが、衛兵の声で我にかえる。

「ナギさん、お怪我はありませんか…あぁこんなに腫らして、何てクソ餓鬼だ!後でとっちめてやる!」

「いや、大丈夫だ…あの子供何だけどよ、早々に離してやってくれよ…」

「おお!何て御優しい方なんだ…その様な方を殴る何て、東洋の連中も舐めた真似を…。皆!我らが英雄は傍若無人な少年をも許す寛大な心を持っているぞぉ!」

「「「「「おおおおぉぉ〜〜〜!!」」」」」

衛兵の胡散臭い語りかけにも関わらず周囲の者達は大きな歓声を上げた。


ナギ達は呆気にとられていると衛兵がもう一人近づいて来た。
「ナギさん、先程の子供はたっぷりと叱りつけナギさんに感謝する様に厳重に伝えて解放しました。」

「…失礼ですがあの少年は一体?」
偉そうに話し出した衛兵にアルビレオは先程からの疑問をぶつける。

「ああ、アレは旧世界の日本から来た関西呪術協会って所から徴兵したらしいんだが…あんなガキを送るなんざ、何考えてんだかなアッチの連中は…」

「関西呪術協会……確か詠春の…」

「アイツ、あの年で戦争に……」
ナギとアルビレオは其々に思う所があった様で考え込んでいたが、二人はジッとしている訳にもいかず酒場に向かっていると…


「おーいナギ、アル!」

「詠春…」

「…遅かったですね、何かありました?」
詠春が二人に追いつくが、ナギは先程の事を思い出し暗い表情を浮かべた。

「あぁ……故郷知り合いを見掛けたは良いが探しても見つからなかったから戻って来た。…また機会があれば探しに行くよ。…所でそっちの方こそ何かあったか?」

「そうですか……(先程の事は詠春には言わなくても良いでしょう……詠春の性格ならきっと自身を追い詰めてしまいますしね、ナギも考え込んでますし…困ったモノです。)…こちらの事はお気にせず、ナギも少しすればいつも通りになりますよ。」

「…………」

「おぃナギ、ホントに大丈夫か?」

「……………」

「な、なー…」

パシィーーーン!

黙り込んでたかと思えば、突然自分の顔を引っ叩いたナギを心配そうに見つめる詠春とアルビレオだが……

「よしっ!次は気をつける、そして彼奴はぶん殴る!そして今は酒を飲む!!詠春、アル!行くぞ宴会だぁ!」

シャァーー!と両頬に赤い手形が付いたまま叫ぶナギ、詠春とアルビレオは驚くもののナギはそれらを放置したまま酒場に走り出す。

「………?」

「ふっ…(ナギらしいですね…)…さて詠春、私達も行きましょう。遅れたら煩そうですし。」

「あぁ、ホントに何があったんだ?」

「フフフフ…」
アルビレオは風の様に行ってしまったナギに笑みを浮かべつつ、ポカンとしたままの詠春に声をかけて酒場に向かう。
詠春もアルビレオに状況を聞こうするが、アルビレオは含み笑いのままスタスタと酒場に向かったナギを追い掛ける。

残された詠春は何が何だかといった状態であったが、突っ立ってる訳にも行かないと二人の後を追いかけて行った。








「くぅ、痛え〜!彼奴らコッチが抵抗しないかって殴りすぎだぜったく…。」

「あぁ、陣くんやっと帰って来たんだね。心配したよ…。って!その怪我は一体…?」
先程の衛兵に多数の怪我を負わされた陣が関西遠征隊に割り当てられた居住区に戻って来た時は既に日が暮れており、いるはずの陣の行方が不明な事に報告より戻って来た天ヶ崎 千里は心配して外で待っていた。

「千里さん、すいません…心配かけてしまって、怪我の方は気にしないで下さい…色々とありまして。」

「…余り無理はしないでね。でも帰って来てくれて良かったよ…中には居づらくてね。」
天ヶ崎は陣が何か無茶したんだろうと容易に想像がつき、無理はしないよう注意するとホッとした様な溜息をつく。


「…何かあったんすか?」
陣は天ヶ崎の様子に違和感を感じ、先程からの空気から戦場の空気を醸し出す。

「いっいや、そんなんじゃないんだ!だからちょっと落ち着いて、ね?……実は皆の様子がおかしいんだ。帰って来た時は興奮してて気にしてなかったみたい何だけど、落ち着いた今は戦場の事を思い出して気が沈んでいるみたいなんだ。やはり、人を殺した事への罪悪感が…」

「行きましょう…千里さん。」
慌てて陣を落ち着けさせた天ヶ崎は、中の様子を伝え状況を話し出すが陣によって遮られた。


「えっ行くって…中にかい?でも彼等は静かにして欲しいだろうし……」

「そんな事は無いっすよ千里さん、戦争何ですから殺す事からは逃れられない…。俺たちが殺さなくても他の奴が殺すし、もしかしたら仲間が殺されるにかもしれない。逃げられないし、逃げちゃいけないんだ…明日にはすぐまた戦争何だ、覚悟のない奴は置いて行きます。覚悟のない奴は直ぐに死んでしまうし、足手まといですから。」


「…………」

「非情だと思いますか?……ですが、言った筈ですよ。俺たちはこんな所で死ねないって…。」

「敵わないな…彼には……。」
陣の覚悟した目を見た天ヶ崎は、自身の不甲斐なさを恥裏ながらも陣と共に心身ともに傷付いた仲間達を慰撫して回り、仲間達はまだ少年の陣と触れ合い、その心の広さと強さを感じ…必ず生きて帰ると言う強い気持ちを再び持ち出したのである。






関西遠征隊からの絶大な信頼を得て、その後も幾度となく最前線と撤退戦における殿を勤め上げ、少年とも思えない実力と心力の強さを持って敵・味方から畏怖の念を込めて《血塗られの鬼子》と云われ、関西遠征隊の副隊長としてその名を高めて行く……………






















関西遠征隊・隊長 天ヶ崎 千里が亡くなるまでは………

 
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