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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第37話 バルト、イーグレイ家へ

「ジェイル・スカリエッティと会わせて欲しい」

この言葉を聞いた瞬間、俺達は長い間固まってしまった。
いや、実際は一瞬の事だったのかも知れないがそう感じるほど長く感じたのだ。

「「「セットアップ!!!」」」

我に返った3人の行動は速かった。
同タイミングでバリアジャケットを展開し、呆けていた俺を囲むようにしてバルトさんに身構えた。
その3人の行動が逆に俺を冷静にさせた。

「バルトさん、どういう意味ですか?」
「どうもこうも言ったままの意味だが………?」
「俺とスカリエッティが周知の仲なのは俺達有栖家を含め、あの事件の現場にいた人物だけ。そしてあの場にはバルトさんは居なかった」
「だがバルトマン・ゲーハルトは居ただろ?そう感じたからお前の彼女達は俺を警戒してバリアジャケットを展開した。………だがこんな町中で普通に展開して良いのか?パッと見、コスプレイヤーにしか見えないぜ」

そう言われて慌ててうずくまる3人。星が結界を張るまで顔を真っ赤にしていたのは可愛かった。

「魔法少女………ギリギリだな………」
「レイ、何か言ったか………?」
「いえ何でもありません、はい………」

物凄い形相で夜美に睨まれ、思わず顔を背ける。

「バルトさん、いえバルトマン!貴方は何が目的なのですか………?」
「……そうだな。先ず、本題に入る前に俺の話をしないとな………」

星の問いにそう言ってバルトさんは一昨日あった事件について話し始めるのだった………















「クローンか………」
「そんな………ヴィヴィオちゃんが………」
「しかも聖王って凄いね………」
「そうだな………うん?レイはそこまで驚いていないのだな」
「い、いや。驚いているよ!」

咄嗟にそう答えたが夜美もよく見ている。危ない危ない………

「だけどバルトマンが現れたなんて………」
「一体何が目的なんでしょうか………?」
「………でバルトさんはこれからどうするの?」
「クレイン・アルゲイルを殺し、ヴィヴィオを守る。そしてアイツが平凡に過ごせる世界をこの手で作る!」

そう宣言したバルトさんの顔は真剣そのものであり、嘘のようにはとても思えなかった。
そして何よりヴィヴィオとなのはと共に居たバルトさんを俺達は見ており、俺以外の3人も嘘だとは思わなかったみたいだ。

「………ふふっ」
「星?」
「いえ、バルトさんとヴィヴィオちゃんの関係が私達と似ているなって」
「確かに!!まあ僕達は恋人同士だけどね」
「親子か………まああまり父親っぽくは見えないがな………」
「手厳しいな………これでもマシになった方だぜ」

夜美に言われ苦笑いしながらそう答えるバルトさん。

「………分かりました、スカさんの所へ案内します」

そんなバルトさんを見て、俺はそう決断した。











「おかえりレイ!!………ってえっ!?」
「帰ったぞ零治………ってバルトマン!?」

「お邪魔するぞ」

玄関で最初に入ったバルトさんをを見て出迎えに来た優理とアギトは固まった。

「師匠、おかえりなさい。早速私と手合わせを………バルトマン・ゲーハルト!?このおお!!!」
「セッテストップ!!」

セッテに限っては斬りかかってくる始末。何とか帯刀状態のラグナルを展開し、鞘で受け止めた。

「こらセッテ!!部屋の中で暴れるとちらかるから止めなさいって言ったばかりでしょ!!」
「えっ?いえ、ですが………」
「バルトさん、どうぞどうぞ~」
「お、おう………」

狭い通路で説教をする星を避けながらライの案内でリビングへと向かうバルトさん。

「何時まで固まってるんだ?」
「早く中へ入るぞ」

俺と夜美で優理とアギトをリビングに連れていく。

「レレレレレレイ~!!」
「な、何だよ優理………」
「ババババルトマンだぞ夜美!!」
「知っている。正確には違うがな………」
「………ん?確かそのガキは零治が撃墜された後向かってきたガキだったな。………この前の別荘の時居たか?」
「露骨にバルトさんを避けていたから気が付かなかっただけだと思いますよ」
「あの時は戦闘が雑だったが魔力は神崎の奴にも負けないほどあったな………」
「し、修行したしもう負けない!!」
「ほう………だったら手合わせをお願いしたいな」
「じゅ、十秒で倒してやる!!」

「これがレイに隠れずに言えれば決まってるんですけどね………」

そう、優理は俺に隠れながらバルトさんに向かって言っているのだ。
あの時の戦闘は優理にとって初めて苦戦した相手であり、早い話、トラウマになっていたのだ。だからこそ別荘の時は決して自分から近づこうともせず、話すことも無かった。

「バルトさん、からかうのはほどほどになお願いします」
「まあからかったつもりはないが………それより何故お前の家に連れられたんだ?」
「取り敢えず夕飯を食べてからです。今日はアギトとセッテが帰ってきたから手巻きにしようと星とライが色々と具材を買ってきてくれたので………」
「取り敢えずコーヒーです。ご飯の用意が終わるまでテレビでも見てゆっくりしていてください」

星からコーヒーを受け取りソファへ座るバルト。

(ゆっくりと言ってもな………)

星を含めた3人には特に敵意は無かったが、アギト、優理、セッテは違った。
アギトと優理は星の手伝いをしている俺にベッタリであり、セッテに関しては警戒しながらバルトさんを凝視していた。

「優理、そこにいると邪魔です。ライの隣でも座っていてください」
「やだ!!レイと一緒が良い!!」

甘えん坊の末っ子は可愛いものだが確かに邪魔で仕方がない。

「ほう………地球のスーパーはこんな風になっているのか」

夕方のニュース番組、その番組はその日によって様々な特集をやっている。どうやら今日はスーパーの特集にのようだ。

「バルトさんも買い物するの?」
「今は六課の隊舎だが、その前まではヴィヴィオと2人暮らしだったから自炊も当たり前だ。………まあなのはが料理を覚えてから殆どあいつ任せにしていたがな」
「なのは?何でなのはなの?」
「アイツ家が隣だったんだよ」
「うそっ!?」

こういうときのライは流石だ。
知らない人であろうと、命のやり取りをしていた相手のクローンであろうと気にせず話しかけられる。

「ねえねえ!!それって同棲じゃないの?」
「いや、確かに泊まっていく………ってかアイツ勝手に部屋の模様替えもするしトイレも何かふわふわした感じになってたな………だ、だが隣にちゃんと自分の家もあったぞ!!」
「同棲だね!!」
「俺の話を聞いてるか!?」
「ねえねえ他には、他には!!」
「ん、他?他って言っても俺の家になのはの部屋もあったり、合鍵をなのはに渡してた事くらいか?」
「凄いななのは………ねえねえ他には!!」
「他?………って何でそんなプライベートの事まで聞こうとするんだよ!!」
「いいじゃん、いいじゃん。気にしない気にしない~」
「お前な………フェイトとは大違いだぜ」
「よそはよそ、家は家だよ!!」
「それ使い方間違ってるよな!!」

言いたい事は分かるが間違っているぞお前………

とこんな感じで有栖家の雰囲気はそれほどギスギスした風にはならなかった。

「何だ、既に馴染んでいるのか」
「ああ、主にライがな」

飲み物を手にしながらやって来た夜美が聞いてきた。

「何でもなのはとの関係を聞いているみたいだ」
「ほう………それは我も興味あるな………」

ニヤリと笑みを溢した夜美はそのままライの隣まで来てソファに座った。

「さて、話を進めようか」
「まて?お前はレポートがあるとか言ってなかったか?何自然と混ざろうとしてんだよ!!」
「そんなもの後回しだ。それに言うではないか、『他人の恋バナは蜜の味』と」
「知らねえよ!!………ってか俺が知らねえだけか………?」
「そう言うことだ。さあ、包み隠さず全て話してもらおうか!」

今度は夜美が混ざってバルトさんを問い詰めていく。
流石のバルトさんも夜美からは逃れられないみたいで夜美に押されていた。

「くっ………そ、そうだ!!先ずはお前等の話をしろよ!!」
「僕達………?」
「別に構わんが………」
「お、おう!!じゃあよろしく頼む」

「さてじゃあ先ずは我等の出会いからだな………」

そう言って夜美は静かに話し始めた………














「「「「いただきまーす!!!!」」」」

結論から言おう。
バルトさんの作戦は見事に成功した。
夜美は俺との出会いから懐かしむように話し始め、ライもその話に混ざりながら順番に話していった。
更に警戒していたセッテもバルトさんの近くで話にのめり込み、夕食の時間となった。
バルトさんも退屈はしなかったみたいで安心した。

俺は少し恥ずかしかったけど………

「おう、食え食え!」
「バルトさんも遠慮せずにどうぞ」
「あ、ああ………」

そう言いつつ、皿に盛られた刺身を食べようとするバルトさん。

「こら!!刺身単品で食べたら駄目だ!!」
「こうやって海苔に酢飯を広げて刺身をのせて食べるんです!!」

家のチビッ子2人が自慢するように食べ方を教えていた。

「なるほど………寿司と似ているんだな」
「手巻き寿司ですからね」
「見てみて!海鮮巻き~!!」
「バカ者!!1つに何枚も刺身を使うな!!」
「大丈夫だよ、セールやってたからいっぱい買ったもん」
「それは後日食べる物です。もう冷凍室に置いてます」
「えっ!?でも賞味期限短かったじゃん!!」
「冷凍しているから大丈夫です」
「ライ、いくら家事が苦手でもそれくらい知っているだろう………」
「や、夜美は知ってたの?」
「一緒にするな、それくらい常識だ」

俺も驚いているがまさかそんなことも知らなかったとは………
ちょっと甘やかし過ぎたかな………

「ふっ………」
「セッテ今笑ったでしょ!!セッテは知ってたの?」
「当然。私はライさんよりも頭が良いからな」

自信満々に言うセッテだがタラリと流れた冷や汗が見えた。
………こいつ嘘ついてるな。

「じゃあ勝負しよう!!これで僕が勝ったらこれからは『天才ライさん』って呼んでね!」
「良いだろう、まあライさんに負けることはないけどね!!」

どこにそんな自信があるのか分からないがセッテも負けじと啖呵を切っていた。

「おい、立ち上がって何かするつもりみたいだが………」
「良いんですよ」
「そう、何時ものことだから」
「直ぐに落ち着くから気にせず食べてくれ」
「まあ良いって言うのなら………」

俺や夜美に言われてバルトさんもどうやら気にしない事にしたようだ。

「この家庭は温かい茶で飯を食べるんだな………」
「他にも飲みますよ、コーヒーとか。ただ、私や夜美、レイは緑茶や番茶、ほうじ茶といったお茶が好きなので自然とお茶が出るようになりましたね」
「だったらコーヒーをもらいたいんだが………」
「バルトさんはコーヒー党だったんですね、分かりました直ぐに準備しますね」

そう言って立ち上がった星はテキパキと動き出した。

「主婦の鏡だな………」
「本当に星には助けられてます」
「なのはも元は同じなんだからもう少しまともになれば良いんだがな………」
「手厳しいのだな」
「これでも大分マシになったからな。最初の頃はそれはもう………」

と言ってなのはの事を語りだすバルトさん。
ほぼ愚痴だが、それでもなのはの事を大事に思っていることが良く分かる内容だった。

「ああっ~お刺身がちょっとだけになってる!!」
「ライさんが長いから!!」
「セッテだって中々諦めなかったじゃん!!」

そんなバルトさんの話を聞いている内にライとセッテがテーブルへ帰ってきた。
やはり決着はつかなかったのか、いまいち納得していない顔をしていた。

「大丈夫です、これはあなた達のですから。喧嘩せずに分けて食べてください」
「だって。じゃあ僕はこっち側を………」
「ライさん、明らかにライさんの方が多いよね?」
「気のせいだよ、気のせい」

少しの間互いに笑顔で見つめ合う2人。
しかし直ぐにガンつけあっていた。

「全く、何て顔して睨み合ってんだよ………」
「互いにひどい顔だな………」
「2人共!今日はこれからスカさんの家にお邪魔するんですからさっさと食べてください!!食べないならもう片付けますけど………?」
「「た、食べます、食べます!!」」

流石に星の言葉は聞くみたいで息のあった返事で黙々と食事を始めた。

「全く………」
「手伝うよ」
「ありがとうございますレイ」

取り敢えず俺は片付けを手伝うことにした………












さて、片付けとライ2人の食事が終わったのが21時。

「着いた」

そして自宅にある転移装置でスカさん家の近くまで移動し、徒歩約20分。

「ここが………?」
「はい、ジェイル・スカリエッティ改め、ジェイル・イーグレイ博士の家です」

バルトさんは驚きに戸惑っている様だった。
まあその気持ちも分からないでも無い。
今もなお要注意人物としてA級次元犯罪者と定められている人物が、こんな人里離れた所の少し広いどこにでもあるような家に住んでいるとは誰もが思わないだろう。
まあ、家は地下があったりと色々改造されているのだが………

「さあ、入りますよ」
「あ、ああ………」

バルトさんは戸惑いつつ中へと入っていった。

「いらっしゃい皆さん。バルト・ベルバインさんもようこそ。私はウーノ・イーグレイと言います」
「あ、ああ。よろしく頼む………」

バルトさんはキョロキョロと周りを見ながら挨拶をした。

「ジェイルは自室にいるので呼んできますね、セッテ、皆さんをリビングに連れていってあげなさい」
「はい」

礼儀正しく返事を返すセッテに満足したウーノさんは笑顔でスカさんの元へ向かった。

「それじゃあ行きましょうか」
「ああ………」
「有栖家のみんなはもう知っていると思うけど、こっちです」

そしてセッテの案内のもと俺達は移動を始めた………










「なんじゃこりゃ………」
「驚いてる驚いてる………」
「まあ初めて来たものはそうだろう。『こんな家に犯罪者が!?』って」
「私達はもう付き合いも長いので慣れましたけどね」
「アタシはちょっとな………」

星、ライ、夜美がそう言う中、アギトだけは渋い顔をしていた。
リビングに入るとやはり再び驚くバルトさん。
広いリビングに一般家庭で良く見かける家具。どれも信じられな光景ばかりだからだろう。

「いらっしゃい」
「久し振りね有栖家のみんな」
「クアットロ!!」
「優理!!」

感動の再会のごとく、抱き合うクアットロと優理。

「元気そうね」
「クアットロも」
「久し振り」
「ディエチも元気そうだな」
「まあね」

クアットロとディエチ、この2人も今はミッドに居ることが多く、スカさんの家にはたまに帰るようになっていた。
今日居るのも恐らく調整で居たからだろう。

「久し振りだな」
「「「フェリア!!!」」」

そしてもう1人、管理局の制服姿のフェリアが居た。

「久し振りフェリア!!元気にしてた?」
「ああ、元気にしてた。みんなは?」
「相変わらず平和だ。有栖家もな」
「フェリアも変わらず安心しました」
「………2cm伸びたんだが………」
「えっ!?あっ!!済みません!!」

2cm………全然分からなかった………

「零治も元気そうだな」
「まあね。桐谷には会ったか?」
「ああ、口をあんぐり開けて驚いていたぞ」

そうか。実際にその場で見られなかったのが残念だ。

「いらっしゃい有栖家諸君。そして始めましてバルト・ベルバイン。私がジェイル・イーグレイだよ」

そんな再会をしている中、頭をかきむしりながらスカさんがやって来た。
その姿はいつもの白衣は着ておらず、白のワイシャツにジーパンと実に科学者っぽくない姿で現れた。
むしろ白のワイシャツのお陰か、前の暗いイメージが無く、若々しく見える。

「………」
「あれ?どうしたのかい………?」
「い、いや、やはり予想外過ぎていまいち頭が付いていってないみたいだ………」
「まあ慣れるまでのんびりとしてれば良いよ。先ずは飲み物だね。ウーノ頼むよ」
「はい」




















「ふぅ………」
「落ち着いたかい?」
「ああ」

さて、実は俺も少し驚いたスカさんの服装(事前にディエチからメールで聞いていた。)にも慣れ、落ち着いたバルトさん。
恐らく相当な覚悟でやってきたのだろうけど、まあ骨折り損のくたびれもうけと思って我慢してほしい。

「さて、それじゃあ本題に入ろうか。君は私と会いたいと零治君の所へやって来たみたいだけど一体何の用だい?」

そうスカさんが言うとバルトさんも顔を引き締め、スカさんと俺の顔を見た。

「ジェイル・スカ………イーグレイ、そして有栖零治。クレイン・アルゲイルの始末するのを手伝ってほしい」

そんなバルトの言葉にスカさんは特に反応せずに静かに目を瞑った。

「………私は確かにクレインを危険視している。だからこそ娘にその動向を追わせているが………別にクレインを殺したい訳じゃない。そして何より娘に人殺しをさせたくない………」
「別にあんたの娘で暗殺しろだなんて頼もうと思っていない。殺すのは俺で良い。………娘を大事に思う気持ちは良く分かるからな」
「うん、君とは話が合いそうだ。どうだい?話の後、零治君と共に一杯飲むのは?」
「良いねえ………楽しみだ」
「レイ、飲み過ぎてぐでんぐでんにならないで下さいね」
「お前らこそ飲みなよ、頼むから」

「オホン!!」

話が脱線してしまった所でウーノさんが大きく咳払いしてくれたお陰で話が元に戻った。

「さて、話を戻すとしてこちらとしては大歓迎だね。私達はクレインに関しての情報が殆ど無いと言っていい。そんな私達にはバルト君の情報はかなり貴重だ」
「そう思ってもらっても困るんだが………ぶっちゃけ今の俺はクレインの目的ぐらいしか分からん」
「目的?」

恐らくこれがバルトさんの手に入れた重要な情報。

「それって………」
「待て零治、先ずは俺の話を………」
「あっ、それは夜美が先にしといたんで大丈夫です」
「零治君の言う通り、今私の家にいるメンバーは君がクローンだと言うことを知っているよ」
「………だから全然警戒されなかったのか………じゃあ話が早い。早速話すとするか………」

そう言ってバルトさんは懐からデータチップを取り出した。

「ウーノ」
「了解です、モニター展開します」

バルトさんからチップを受け取ったウーノさんはそのままモニターに映像を映し出した。

「これは………!!!」
「えっ、レイ知ってるの?」
「ゆりかごだね………それも正確な見取り図………ウーノ、確かこれは………」
「はい。ジェイルに命じられて私が完全にデータを削除しました。………となると………」
「まだ私の下にいるときに盗んだデータと言うことだね。あの時はまだ知ったばかりで興味も持たなかったが彼はその時から興味を持っていたわけだ」

まさかこうやってゆりかごに繋がっていくとは………

「そして奴は“鍵”を捜していた。その“鍵”が………」
「ヴィヴィオ………」

自分自身小さく呟いたつもりだった。しかし予想以上に大きく呟いてしまったのかバルトさんが目を見開いて驚いていた。

「そ、そうだが………お前はヴィヴィオの事詳しく知っているのか?」
「えっ!?いや、まあ………」
「レイ、どう言う事です?」
「僕もそんな話聞いてないよ」
「我もだ」

迂闊だった。つい漏らしてしまった言葉から皆が俺に追求してくる。

「そう言えば初めてヴィヴィオちゃんと会った時知っている人に似ていたって言ってましたけど………もしかして何か隠しているんじゃ無いんですか?」

………もはや隠し通すのは無理そうかもしれない。
しかし話していいのだろうか?

「零治、何を隠している………?」

バルトさんも少し不審げに俺を見ながら聞いてくる。
………まあ例え話したとしても、この世界の未来はあの世界と同じではない。あったかも知れない選択の1つだと言えば問題ないだろう。

「スカさん達みんなは知っていると思うけど、俺とアギトは平行世界に飛ばされた時があった。その世界で俺はヴィヴィオと一回会っている」
「平行世界だと………」

バルトさんの俺を見つめる目が怒りに変わったのが見て分かった。
恐らくなめられたのだと思ったのだろう。

「ああ、そう言えば!!何で私すっかり忘れてたんだ?」
「その後も色々あったからだろ」

あっちのマテリアルの4人とギアーズ姉妹、そして優理救出戦。文化祭から今度はマリアージュ事件。
立て続けに色々あり、それどころでは無かった。

「あのヴィヴィオは今から4年後の世界からやって来ていた」
「4年後………」
「あの世界のヴィヴィオの4年前、そこでなのは達と会い、なのはとフェイトの娘となった。『高町ヴィヴィオ』としてな」

「なのはとフェイトがママ………?」
「まさかあの2人………女同士で………」
「確かにそうなっていても不思議じゃない」

ライと夜美の気持ちも分かるが、そんなに青い顔をするな………
そしてフェリア………そこはせめて否定してあげよう。

「だが俺はもっと前にヴィヴィオと会っている」
「そう。だからあの世界はあの世界、この世界はこの世界なんです。未来を不用意に知るのは良くないと思い俺も詳しくは聞いてません。ただ1つ言えるのはあの世界でもゆりかごは起動され、その“鍵”となったのはヴィヴィオなんです」
「なるほど、あの時咄嗟に名前が出たのもその時聞いたからなんですね」
「そうだ。まさかあんな場所で会うとは思っていなかったから俺もビックリしたよ」

俺の答えに星も納得したようだ。

「さて、となるとクレインは遠からずヴィヴィオ君を拐いに必ず現れるね。であれば今闇雲に探さなくても彼から接触してくるのではないのかい?」
「………それじゃあ駄目だ。もしそうだったとして俺や六課の連中が確実に確保できるか分からない。それに管理局からすればアンタとは違い奴は次元犯罪者じゃねえ。六課だって何事もなく侵入できるだろう」
「確かにバルトさんの言う通りだな」

夜美が呟いたのを見てバルトさんは再び口を開く。

「そして昨日。バルトマン・ゲーハルトが六課に襲撃をかけてきた」
「ああ、データで確認した。あの時の襲撃はヴィヴィオ君の殺害となれば話の辻褄があうね」
「えっ?でもドクター、何でバルトマンはヴィヴィオちゃんを狙っているの?」

ディエチの質問にスカさんが口を開く前にバルトさんが話し始めた。

「アイツはヴィヴィオを殺してクレインも野望を止めようとしたんだ。鍵さえなければゆりかごは動かねえからな」
「なるほど………」
「えっ?でもバルトマンはクレインの敵になったの?」
「ライ、元々バルトマンとクレインは仲間じゃない。2人は言わば同盟みたいな関係だと思う」
「零治の言う通りだ。俺も含め、バルトマンは人に利用されるのが嫌いだ。ましてや零治との戦いにあのコアで俺を操った。とても許せる事じゃない。そしてバルトマンは聖王教会に被害が及ぶ事を嫌う」
「ん?ちょっと待ってバルトさん。それってどう言うこと?確かにバルトさんは管理局はいつも襲ってたけど聖王教会だって………あれ?そう言えば………」
「流石に自分から襲わないってだけでバルトマンが絡んだ事件で被害が全く無かった訳じゃない。だが、管理局と比べても天と地程の差があったはずだ。理由はちゃんとあるんだが………それを話すとなるとうバルトマンの過去を話さなくちゃならないが………」

そう言って言葉を濁しながら周りを見る。
誰も異を唱えようとする者はいなく、むしろ興味があるような表情でバルトさんに注目していた。

「………誰も反対は無さそうだな。それじゃあ昔話を始めるか………」

そう言ってバルトさんは静かに話し始めた………
















「近づくんじゃねえ!!このガキが!!!」

第55管理外世界アグラット。
この世界は長い年月2つの勢力がぶつかり合う危険な世界であった。
そんなアグラットの激戦区、領地を取ったり取られたりを繰り返しているムガンヨと言う町でバルトは居た。
居たと言う表現は間違いではない。物心着いた時には一人、この荒んだ町に居たのだ。

「あ………あ………」

言葉を知らないバルトは名前も知らず、言葉も喋れない。そんな中バルトは訳も分からず歩いた。

「おい、お前!!」

言った言葉は分からないが、振り向くと自分より年上の子供がバルトの事を見つめていた。

「1人か?」
「あ……あう………?」
「言葉が分からないのか?喋れもしないみたいだし、直ぐに捨てられたのか………だけど自分で歩いている所を見ると誰かに教わったとしか………まあいいや、来いよ、良い所へ連れてってやる!!」

強引に引っ張られるバルトだが、自分の意思すらハッキリしないバルトはただされるがまま付いていくのだった………











「シスター!」
「ケント!あなたまた勝手に教会から抜け出して………あら?その子は?」
「俺と同じ境遇の子!言葉も話すことも出来ない生まれたばかりみたいな奴なんだよ。だからつれてきちゃった」
「全く貴方って子は………まあ良いわ、良くやったわケント」
「へへ………!!」

嬉しそうに頭をかくケント。

「さて、色々と教えないといけないことが山ほどあるわね………」
「あ………?」
「先ずはあなたの名前を決めないとね…………そうね………『バルト』って言うのはどう?」
「バルトか………意味は何なんです?」
「………さあ?でもカッコいいでしょ?」
「えっ?あっ、まあ………」
「じゃあ決定!!ようこそ私の教会へ!私はシスターヘイト、今日からあなたは私達の家族よ!!」 
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