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弓兵さんの狩人生活

作者:ねむたい
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3日目

今日で三日目になったわけだが………なんと、三日目にして人に出会えたのである。
彼女の名前は“カオリ”というらしい。
今日は彼女との出会いについて書いていこうと思う。

まず、今日の朝も昨日と同じ、日が昇り切る前に起床した。
河原で顔を洗い、朝食用の魚を採取。
今日は昨日とは違い“青色”のキノコではなく“黄色”のキノコをついでに採取。
魚は昨日と同じように丸焼きに、黄色のキノコは生のままで食す事にした。
魚の出来は上々だった。さて、キノコの味はどうだろうと思い一口。
口に運んだ瞬間に体中に駆け巡るのは、自分に雷が落ちたのではと錯覚してしまいそうな強力な電流………無論、落ちた事は生前を思い出しても一度たりともなかったが。
とにかく、その電流に受肉した今の私が耐えられるはずも無く、私は見事に気絶した。

気絶から目が覚めたのは日が傾き始めた頃だった。
どうやら半日以上、気絶していたようだ。
起き上がり、周囲を見回してみる。
今朝と若干、物の配置が違うような気がした。
しかし、私はそれを杞憂だと思い昨日に引き続き探索を開始した。

今日の探索箇所は洞窟の中だ。
昨日はユニークな容姿をした鳥のせいで探索できなかった箇所である。
さっそく森の中を抜け、草原を抜けて洞窟に侵入してみた。
洞窟の中は薄暗く、ひんやりとしていた。
洞窟の中には昨日のヴェロキラプトル似ている生物――ランポスや大型の昆虫――ランゴスタ、鉈のような物を振り回す小型生物――チャチャなどがいた。
ちなみに珍妙な生物の呼称は後に彼女に聞いたものだ。
また、洞窟内には何かの生物の卵、骨、鉱石などがあった。
一通り探索を終えた後、一応拠点としているテント地まで戻って来た。
戻る最中に今日の夕食を採取するのは忘れなかった。
今日の夕食の予定は、果実やハチミツなどをふんだんに使ったフルーツの盛り合わせにしようと考えていた。
そう、考えていたのだ。例え、そのメニューが夕食としてどうなんだと他者からは思われようと私にとっては立派な夕食だ。
誰に言い訳をしているのかいまいちわからなかいが、とりあえず言い訳をした私はさっそく調理を開始する。
といっても、ただ単に果物の皮をむき、はちみつをかけていくだけの単純な調理だけだったが………。
調理を終え、飲み物が無い事に気付いた私は近くの河原に水を汲みに行った。
水汲みから戻ってみるとそこには、なぜか、私の目の前で、私が用意した夕食を満面の笑みで平らげている少女の姿がそこにあった。


~回想~


「君、一体そこで“ナニ”を食べているのかね?」

見知らぬ少女を認識した時に私が発した第一声がそれだった。

「ふぇ?ふぁにって、ふぉこにおいいふぇあっふぁフェルーチュウのふぉりあふぁふぇふぇすよ………ふぁふぇます?あっふぇもひょっとだけふぇひゅよ」

少女が喋る。しかし、口の中に食べ物がいっぱい入っている所為でなにを言っているのかまったく理解できなかった。

「とりあえず、口の中にあるものを飲み込んでくれないだろうか?」

何が言いたいのかまったく解らんと彼女に言うと彼女はコクンと頷いた。
彼女が口の中のものを咀嚼する音だけが周りに響く。
それを聞きながら彼女が食べ終わるのを待つ。

「………ゴクン。はむ………んぐ、んぐ、んぐ」

一端停止したかと思ったが、また、周りに響く咀嚼音。
ここで、ふと違和感に気付いた。
口の中の食べ物を飲み込むだけなのにかなり時間がかかってないか?
まさか、と思い口を開きかけたその時、

「んぐ、んぐ、んぐ………ゴクン。ん~~、美味しかったです。ごちそうさまでした」

彼女はそう言って手を合わせた。

「ご、ごちそうさまって。もしかして君はそれを全部食べてしまったのかね?」

もしかしなくても私の夕食を食べてしまったのだろう。
こっちを向いた彼女の顔が十分に語っていた。

「はい!!おいしかったです!!」

そう、満面の笑みでこたえる少女。
そうか、やはり食べてしまったのか、私の夕食。
口の中にある物を飲み込めと言っただけなのに、まさか全部食べるとは。遠慮のかけらも無い少女だ。
でも、まあ、うまかったって言ってくれてるし、それはそれで良かったのか?
………いや、なんでさ。そもそも、彼女は誰なんだ?なぜ目の前でオレの夕食を食っている。
そんな事を悶々と考えていると、彼女は立ち上がり、ん~~と体を伸ばし一言。

「さて、お腹一杯もになったし、一狩り行きますか!!」

パチン!!彼女が頬を両手で叩く音が周りに響く。
そして、傍らにあったハンマーを担いだ。





ん?担いだ?
どうやら空腹の余り、幻覚を見ているようだ。
あんな細身の少女が人一人を簡単に潰せるような巨大なハンマーを担ぐなんて信じられん。
これはきっと、空腹が見せる幻覚に違いない。
ほら、今まさに私の腹からぐーという音が聞こえているじゃないか。

「あれ?お兄さんこんなところで何してるんですか?おーい」

例え、目の前の少女がピョンピョンと飛びはね、私に手を振っていても幻覚に違いない。
というか、私がそう信じたい。
一体、どこの世界に巨大なハンマーを軽々と持ち上げる少女がいるのだ……………いや、一人いた。
きっと、どこぞの騎士王なら軽々とやってのけるだろう。
なるほど、ここにきてやっと分かった。
どうやら私は疲れているようだ。今日は早く寝てしまおう。
と、思いテントへと踵を返す。

「う~、無視ですか?そうなんですか?だったらこっちにだって考えがありますよっと」

軽い掛け声とともに振り上げられる巨大ハンマー。

「おにーさんが悪いんですからね。えい!!」

ドスン!!巨大なハンマーが振り下ろされる音が周りに響く。
間一髪のところで正気に戻れた私は、すかさず彼女から距離をとった。

「む、危ないではないか!!いきなりハンマーを振り下ろしてくるとは君は一体どういう神経をしているのかね」
「そんなこと、人の事を無視する人に言われたくありませんよーだ」

べーと舌を出しながら答える彼女。

「無視をしたのは悪かった。謝ろう」
「わかればいいんですよ。わかれば」

胸を張って言われてしまった。
確かに、無視をし続けた事は完全に私の落ち度だ。
しかし、だからと言ってハンマーを振りおろしてくるのはどうなんだ?
もしかして、あれがこの世界での当たり前の行動なのだろうか?
だったら嫌だぞ、こんな世界。
そんなどうでもいいような事を悶々と考えていると少女が口を開いた。

「本題に入ってもいいですか?」
「あ、ああ、よろしく頼む」
「で、結局、お兄さんはこんなところで何をやってるんですか?」

それは、私が聞きたいよ。






まず、自己紹介をしていなかったので自己紹介をした。
その後、お互いがここにいる理由を説明しあった。

彼女がここに来たのは、モンスターを討伐するためらしい。
見た目、中学生ぐらいの少女が一体どんなモンスターを討伐するのだ。
そう思い聞いてみたところ、「むー、私こう見えても十八歳です!!立派な大人ですー!!」と怒られてしまった。
どんなモンスターなのかね?と尋ねたところ、怪鳥イャンクックです。そう言って、張り紙を見せてきた。
そこには――“討伐依頼”怪鳥イャンクック――とでかでかと書かれていた。
しかも、偶然かどうか知らんが、昨日倒した鳥と非常に姿形が似ていた。

私は辺り触りのないように道に迷った旅人だと説明した。
その時に、へー、こんなところまで迷い込むなんておっちょこちょいなんですね、お兄さんって。と軽くバカにされた。

それから、彼女は今このテントの中にはいない。
どうやら、イャンクックを倒すには夜間に行った方が討伐しやすいらしく、さっき身支度を済ませ出かけて行った。
たぶん明日、かなり早く戻って来ると思われるので、今日は少し早めに寝ようと思う。





 
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