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アマガミという現実を楽しもう!

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第5話:泳ぎの中にドラマがある

今日は少々雲が掛かった天気!うん、いいレース日和だ!そう、今日はスクールの選手コースに在籍している子どもがほぼ全員参加する水泳大会!長水(超水路:50mプールのこと。ちなみに短水とは25mプールのこと)の公式プールで泳げるし、公式のタッチ板でタイムが測れる連盟の公式試合だ!
 腕を回してみる。腕も良く回るし、肩の稼動についても問題はない。テーパーも掛けたからか、身体もすごぶる軽いし堅さも感じない。こりゃベストが出るな。
 そんな風に考えながら鼻歌混じりに最寄の駅までの道を歩く俺。ちなみにその鼻歌は、ミス◎ルのSign。今から干支が一回りしてから販売される曲である。
 ふと共に歩いている右側の女の子を見る。七咲逢という表情も動きもオイルの切れたロボットが歩いていた。ギギギ・・・という擬音が聞こえてきそうだ。おまけに左手と左足が同時に出ている、こりゃ試合までになんとかせにゃあな。


「逢、あまり硬くなるなよ。」
「ダ、ダイジョウブデスヨ。」


 あの~、どこの国の生まれですか?と聞きたくなるほどの片言の日本語。しかも敬語になってるし。参ったな、何かいいアイデアはないのか?助けを求めるかのように、左手の同学年のお姉さま方たちを見る。響は、私に聞かれても巧く対応できないわよ、という想いを表すかのように、俺に困ったような眉と「へ」の字の口元を見せる。まぁ、こいつは原作にもあるように予期していなかったことや子どもの相手が得意ではなかったからな。さて、もう一人は・・・、目が合って即座に視線を逸らすなよ。結局俺が何とかせにゃならんのか、メンタルコンディションが崩れてしまいそうだ。
 そんなことを考えながら駅に着く。SUICAとかICカードで払えれば楽なのに、と思いながら行き先の駅とそこまでの運賃を確認して往復分の切符を買う(ちなみにICカードはこの時期では試行段階)。知子、響、逢も切手を買ったことを確認して、改札機に通し、駅構内の乗り場で電車を待つ。輝日南高校の水泳部のジャージや他の団体のジャージを羽織った選手も同じように電車待ちをしているのが見える。ラジカセをポケットに入れて音楽を聴いているようだ。身体がリズムに合わせて揺れていて、足でリズムを取っている。


『まもなく、二番線に各駅停車・・・行きの電車が八両で参ります。・・・』


 電車到着のアナウンスが入り、電車が左から来るのが見える。電車がゆるゆると速度を下げ、その動きを止める。プシューという音と共に扉が開き、俺達は電車に乗り近くの座席に四人並んで仲良く座る。休日の朝早くなのにも関わらず、それなりに人の姿がまばらに目に付いた。とは、いいつつも半分以上はジャージ姿か、俺達と同じだな。おっ、なんだスクールの卒業生の方々もいるじゃないか。
 俺は、右に逢(しっかり左手で俺のジャージを握っている)、左に知子にびっしり挟まれて座っていた。ロリコン乙、って声が外野から聞こえているような気がするな。もう慣れたぜ、ロリコンで結構だ、今の俺は小学6年生だし、この世界の社会で見て問題は無いぜ!


「輝日東のプールってどんな感じなんですか?」
「それなりに泳ぎやすかった気がするよ。」


 俺達の向かい側に座っている他チームの男子と女子が話している。そう、今回の大会は輝日南ではなく、輝日東の地域で行われるのだ。いままで、この地区から離れた大会に出場したことはあったが、輝日東で行われる大会に出場するのは初めてだった。アマガミの原作となる舞台であり、そのため俺は時間と金が許せば行きたいと思っていたのだ。もしかしたら原作キャラの昔を見られるかも、と期待していたりしていなかったり。
 それにしても、すみません知子さん。なんか俺の方に詰め過ぎじゃありませんか?確かに、目的の駅に至るまでに車両内の人の数も増えて立っている人も出てきたから仕方ないとは思うけど。あと・・・、正直あなたの身体が触れていると、その柔らかさに意識せざるをえないんですよ。ほら~、この車両内の老若男女の視線が集まってるのが分かるし、外部から、「やっぱり小学生が好きなんですね」とか「作者の妄想の酷さがありありと分かる」とか言ってるじゃないか。なんか最近、知子さん様子が少しおかしいよ。おかしいですよ、カテ○ナさん!


「あの・・・知子さん?」
「・・・なによ。」
「・・・なんでもないです。」


 うん、雰囲気で圧倒されました。今は何も聞かなくていいや。そして逢さん、ジャージ掴まれてるとラジカセをポケットから出せないんですけど・・・駄目だ、緊張のし過ぎで声も聞こえないくらい固まってやがる。響さんもどうしたら良いか、対応に困った感じの顔をしている。対応に困ってるのは俺もそうだって。・・・あと、たまに視線が俺と知子の間に行くのはなんでだ?はぁ、みんなしっかりしてくれよ。試合なんだぜ?そんなことに頭を悩ませながら、俺達を乗せる電車は確実に輝日東への道のりを進んでいた。途方にくれた俺は視線を窓の外に向けた。周囲の住宅街には似つかわしくない、大きな豪邸があり、普通の邸宅とお城みたいな豪邸の混在するアンバランスな町並みに俺は苦笑してしまった。








 会場に着いちゃいました。「ん?七咲はどうなったのか?」って?俺のジャージを相変わらず掴んでますよ、凄い力で。会場のコーチにも助けを求めたが、結局緊張をほぐす方法に失敗していた。やれやれ、2年間面倒を見て懐いているのは分かっていたが懐かれすぎるとこういうふうな事も起こるのか。

 その状態のまま会場入り。毛布の敷いてある俺達の場所に腰を下ろして、コーチに渡されたプログラムを見る。逢の10歳区分の50m自由形が最初で、次いで俺の50m自由形。その後、知子の50mバタフライに響の50m背泳ぎ。時間を置いて、響の100m個人メドレー、知子の100mバタフライ。そして七咲の100m自由形に俺の100m自由形。・・・最初にレースでこれじゃあ、スクール内の記録会で測ったタイムとは大分かけ離れた酷いものになるだろうな・・・。しかもこれじゃウォーミングアップにいけねぇし・・・
 こうなったらヤケだ!前世でプレイしたゲームの中で学習した妹キャラに有効であろう手法を実行してやる!


「逢。少し目を瞑ってろ。」
「ハ、ハイ。トオルオニーチャン。」


 片言語を喋って逢は目を瞑る。俺は右手で逢の額に掛かってる髪を書き上げ、そのおでこに・・・














デコチューした。














 そう、俺は「キミキス」という紳士育成ゲームの中の相原光一という主人公が妹に取った方法を、俺は逢に適用したのである。他に方法は無かったのかこの変態、だと?通常の方法は考え付く限りやってみたさ、前世における経験則からコーチングスキルの実践まで全てな。結果あれだったから、もう非常識で攻めるしかないだろ?だから変態紳士という非常識を採用したのさ。前世でやってたら間違いなく、頭髪が禿げ散らしになるまで牢獄に突っ込まれたであろう。
 逢は顔を真っ赤にして、俺の方を見ていた。言葉を出そうとしているが何て言えばいいのか、という表情を浮かべている。数秒がたつと、視線が泳ぎっぱなしだ。そんなに慌てなさんな。俺もいつ警察や周囲の大人に捕まえられないか、とマジでパニクル5秒前なんだよ。たとえ今の俺が小学生であって、社会人として道徳的にやばかったことくらい認識しているさ。


「逢、落ち着け。」


と俺はアワアワしている逢に対して穏やかな声を掛けた。カチコチになったり慌しくなったり忙しいやっちゃな~。でもカチコチで話しかけても生返事ばかりのフリーズ状態よりかは、反応してくれるだけ前進したな。逢の視線が俺の顔を見つめる、視線の揺らぎは無くなったようだ。


「よし、固さは取れたな。いいか、これは俺流のおまじないだ。逢が最高の泳ぎが出来るための、な。いいか、あとは落ち着くだけだ。ゆっくり、息を吸って吐くんだ。・・・よし。頭に意識が行くかもしれないがそれでいい。ああ、意識しすぎて赤くならなくてもいい。その位置を水面に合わせてように思って泳げ。それが、お前のベストの泳ぎに繋がるはずだ。」
「う、うん。」
「分かったら着替えてアップに行ってこい。ブイをここに忘れていくなよ。」
「うん!」


 一か八かだったが巧くいったのかな?逢は頬が赤いのを別とすれば、いつもの笑顔ができるようになった。よし、知子に響、更衣室に連れ・・・、お前らが顔が赤くなって硬直してどうする・・・。


「た・・・たたた、たっくん、い・・いま、逢ちゃんにせ・・・せせせ接吻を・・・!」
「」


 知子、お前接吻なんて難しい単語良く知ってたな。何かの歴史小説を読んで覚えたのか?響よ、言葉にならないって感じだな、パクパクと口が動いているぞ。


「お前ら!しっかり逢を頼むぞ!」


と、俺は二人の肩をそこそこ強く叩いて自分のウォーミングアップに向かう。それなりにその場を離れて、俺は後ろを見た。二人はぼーっとこっちを見ていたが、俺が逢を指差すと気づいたように逢を連れて更衣室に向かった。やれやれ、世話のやける子達だ。


 アップ開始!200mほど泳いで身体をほぐし、キック、プル、コンビネーション、ドリルを行う。うん、身体はいい感じ。飛び込みは・・・、反応はいい感じ。タイム・・・、よしそれなりだ。あとは100m泳いで身体の中の乳酸を流そう。
 プールサイドに上がってスタンド席を見渡す。お、あれが輝日東高校の水泳部か。あそこが、響や逢の未来の居場所になるんだな。未来・・・か、俺の未来に居場所はあるんだろうか。プールで色んな表情や意図を持って泳いでいる選手達は未来があると思って疑わないだろうな。実際、俺も前世ではそうだったと思う。未来があると思う・・・、俺にそれが出来ているのか・・・。
 窓に映った自分の顔を見る。いかにも、ショボーン(/・ω・\)という顔をしている。いかんな、俺はこの人生を、今を生きると決めたはずだ。だから俺はこの今、大会に一生懸命になるべきだ。よし、モチベーションが上がってきたぞ。もう大丈夫だな。


 逢達が泳ぐ組の50m自由形の召集が始まったようだ。緊張した顔をしているが、落ち着きがないというものや何も手につかないという類のものではないようだ。言わば程よい緊張感というものだろうか。たまにおでこに手を当てている。・・・我ながらこっぱずかしいことをしたな。お?次が逢のレースか。逢たちが各自のレーンまで役員達に誘導される。俺は、響や知子と共に誘導される逢を通り道の傍で「落ち着いていけよ」と声を掛ける。
 逢は、そんな俺達に気がついたようだ。目で大丈夫というサインを送っているのだろう、顔には意思が固まったような顔をしていた。逢の名前が、電光掲示板に表示される。

「3  七咲 逢  スイム輝日南          」

と。おお、原作ではこんな表現無かったからな。なんか、得した気分だ。

『続きまして、女子50m自由形第7組のレースを行います。』

と役員がアナウンスを行う。周りの選手、そりゃ自分より高学年や中学生だから大きいな。大きい選手ばかりで萎縮していなか?・・・大丈夫そうだな。ホイッスルが鳴る、選手たちが各々スタート台に上がる、静寂が周囲を包む。

『用意・・・』

 ピッ!
 レースが始まった!スタートは・・・順調!次は浮き上がりだが、これもクリアだ。泳ぎもいつものダッシュ練習と同じ、前半から飛ばせている。他の選手に身体半分先んじている。そろそろ折り返し、残り25mだ。周囲の選手が追い上げてくる、周囲は後半型か。しかし、逢もまだまだ粘っている。さすがの負けず嫌いだ!残り10m!泳者たちはほぼ横一線になりつつある!残り5m、4、3、2、…どうだ!
 俺達は電光掲示板を見る。

「3  七咲 逢  スイム輝日南    2   34.3    」

 ・・・あれ?最後は4コースの選手に負けたけど、早くね?短水のベストよりも早いぞ?うん、凄いじゃないか。よぉし、今度は俺の番かな?頑張ってくるか!逢がプールから上がって知子や響に眩いばかりの笑顔を振りまいているのを横目に俺も自分の招集を待った。














 俺の半フリ(50m自由形の略)は大きなベストの更新ではなかったが、満足できる結果であった。中学、死ぬ気で頑張れば全国大会も出場できるかもしれないぞ!ふぃー、これで当分レースも無いから応援に精を出すか。お?知子、次半バタ(50mバタフライの略称)だろ?どうした、難しい顔をして。頬も赤みがかっているし。


「た、たっくん、あのね。」
「おう」


 何かお願いでもあるのか?いいぜ、今ベストが出て凄く機嫌なんだ。さぁ、この愛玩動物・遠野拓に何なりと申し付けるが良い!!ジュースか?食い物か?マッサージか?


「あ、あああ、あたしにも、えと、あの、その、・・・」
「おいおい、落ち着けよ。」


 アワアワし出す知子を落ち着かせようと俺も穏やかな声を掛ける。レース前に慌ててどうするよ。なんだ、トイレか?んなわけ、ないわな。


「どうした?俺に出来ることなら何でもするぞ?」
「ほ・・・ほんと?」
「俺は自分の発言には責任を持つぞ?」
「よ・・・よし、じゃあ、あたしにもおでこにチューして!」


 おう、まかせろ!・・・って、ええええええええええええ!!!何言ってやがるんですか、この子は!


「だ、駄目なの?」
「い、いや、でも、なんで?」
「な、なんだっていいじゃない!逢ちゃんの大ベストが出たんだから、その、そう!ゲンかつぎ!ゲンかつぎよ!」


 明らかに今考えた理由っぽいが、・・・してほしい、っていうことは目を見りゃあ分かるわな。はぁ、コイツはやらないと、頬を膨らませて機嫌悪くなるし・・・。今回りに誰もいないし、問題は外部の声くらいだな。ロリコンやら社会の敵とか、もう12年も言われていれば慣れたわ。


「分かったよ、やるよ。」
「ッ、ほんと?」
「本当だよ、ほら目ェ瞑れよ」


 やれやれ、いつもは仕切りたがりのお姉ちゃんなのに、何か良く分からないとこがあるんだよな。でも、こういう駄々っ子という子どもっぽい面もあるんだよね。やれやれ、そういうところは可愛いんだけどな。
 先ほどの逢と同様の行動を適用する。俺の唇が知子の綺麗なおでこに触れる。触れた瞬間、知子の身体が一瞬震えた気がした。数秒の後、俺は知子のおでこから唇を離す。知子の顔を見る。頬の赤みが先程よりも濃くなった印象がある、視線が俺を捉えられなくなっているようだ。・・・おいお前、次・・・レースだよ・・・な?


「知子?」
「っ!こ、これでベスト間違い無しよね!?じゃあ行ってくるわよ、ベストじゃなかったら酷いんだからね?」


 ベストじゃなかったら俺のせいになるのかよっ!と心のなかで叫ぶ。知子は、そのままレース用の水着とゴーグルを持って召集場所へ向かった。表情は読めなかったが、足取りは軽やかで機嫌はよさそうな気がした。結果、知子の泳ぎは男子顔負けの泳ぎで大きく記録を伸ばした。まぁ、俺はいい事したのかな。
 知子のレースが終わった後、俺は荷物の置いてある場所に戻った。カセットテープ別のに変えるか、そうだなド◎カムにしよう。前世でも良く聞いたし、「何度◎も」はレースのたびに聞いていたし。目的のカセットテープをナップサックから取り出した。突如、頭上から声を掛けられる。


「拓君」
「おわ!?」


 ビックリして、カセットテープが手から発射され、垂直方向に撃ちあがる。打ち上げカセットテープは、一人の女の子の手にすっぽり収まった。


「どうしたのかしら、そんなに慌てて。」
「頭上から声を掛けられたらびっくりもするわ。」


 響である。いつものように微笑を顔に浮かべて、無事着陸できたド◎カム入りカセットテープを差し出した。俺はそれを礼を言って受け取り、カセットテープの中身を入れ替えを行う。


「ねえ、拓君。」
「ん?」


 響の問いかけに、俺は反応する。


「・・・私にもおでこにキスをしてくれないかしら。」


 ・・・流行っているのか?俺のデコチュー。しかも、響が、だぜ?


「・・・一応聞く。何でだ?」
「レースで良い結果を出したいの。私一人だけじゃ何か足りない気がするの。そのために拓君の・・・その、力が助けになるかもしれない。そう、何となく思ったのよ。」


 ・・・つまり、メンタル的な部分で俺という支えが欲しい、と?


「でもなぁ、おr・・・」
「知子にはしたのに私には出来ないのかしら?」


 見てたのかよ!もう少し周囲の視線やら何かに敏感になっていればよかった。・・・そう言われると、断る理由が、人格的な面で相対的に考えて駄目という如何にも人としての面を否定しなくてはならないなぁ。それはいけないことだ・・・仕方あるまい。


「はいはい。お前さんには勝てないな。」
「あら?拓君は私に勝とうと思っていたのかしら。」


 勝てないな、と俺は思いながら、本日3度目の紳士的行動を行うことをした。














 俺の1フリ(100m自由形の通称)も満足できる泳ぎでベストを出し、全レースを締めくくることが出来た。今回は、逢を筆頭に知子、響のベストの更新が著しかったな。全国大会出場権取っちまったぞ、あいつら。クールダウンを終えた俺は、荷物置き場に戻ることにした。そのとき、大きな声援が聞こえた。あそこは、輝日東高校だったな。応援の代表がかすれつつも大きな声を上げて応援している。それに呼応して男子部員、女子部員が声を一生懸命出してレースで粘るチームメイトを応援している。
 懐かしいな。俺も前世の学生時代、あんな感じだった。腹筋が3日間使い物にならなかったな。あんな体験は、今後出来ないと思ったし、まさしくそうだった。輝日東高校・・・か。




俺はこのとき、自分の進学先の一つとして輝日東高校を考え始めるようになった。














 レース終了後、会場から最寄りの駅までの帰り道。
 俺たちは川を右手に、往路でも通った河原を歩いていた。往路でもなんか見たことがあるな、と思ったが、今更アマガミで絢辻さんのお姉さんが犬と行き過ぎたお戯れをしていたりしていた、あの河原じゃないか。そう思うと、今この道を歩いている経験がかけがえのないものだと、感じてくるな。いやはや、人間認識一つですぐ印象変わるなぁ、現金な生き物だ。
 そんな現金な俺はいま、機嫌の良くてくっついてくる知子やニコニコが隠せない響、興奮と喜びで一杯の逢に囲まれるという傍から見ればハーレムの状態であった。野郎の視線や、女子選手のキャピキャピした声が俺に振るかかる。お前ら、少しは落ち着け。これじゃ、おれが女の子をはべらせる小学生女キラーにしか見えないだろ。ったく。
 そんな時、川の近くに赤いランドセルを背負ったさらさらなロングの黒髪の小学生が佇んでいたのに気がついた。その少女に最も接近した時に、その手には印刷された文字、鉛筆で書かれたペンで書かれた赤い丸で一杯のA3サイズの用紙を数枚手に握っているのが見えた。そんな用紙に彼女は、忌々しげな視線を浴びせていたようだった。身体が、震えていた。言葉は聞こえないが、何か呟いているような気がする。そして彼女は、俺達が歩いている方向とは逆方向に走り去っていった。彼女が後ろ向いたその一瞬、彼女の赤いランドセルに付いていた名札が見えた。





















「絢辻詞(あやつじつかさ)」と。




(次回へ続く) 
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