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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  決断

「…………ン……!レ………!………レン!!」

肩を揺さぶる振動と、鼓膜を叩く空気の震えで、レンという人間は意識をはっきりと覚醒させた。

「…………………カグラ……ねーちゃん」

掠れた声が口許から辛うじて漏れる。それは、真面目な顔でこちらに視線を合わせるカグラの耳の中に入り、減衰して消えた。

「ああ、良かった。直立したままピクリとも動かないから、本当にどうしたものかと……」

そこまで聞いて、レンは自分の身体を見た。確かに彼女の言う通り、自らの両足はしっかりと地に足をついていた。

電車の中で、立ったまま眠るという話があるが、そんな次元ではない。その話にしたって、吊り革というしっかりとした支えがあってのみ成立するのだ。

意識がないのに、しっかりと直立している。それはもはや、夢遊病とでも言えるだろう。

異常とも、言えるだろう。

そうか。僕は寝たまま直立していたのか。ううむ、それはなんと言うか────

シュールな光景だ。

「……ん、僕は大丈夫。ここは?」

そこで初めて、紅衣の少年は己の周囲を見渡した。

辺りは、目がチカチカするほどのオフホワイトで埋め尽くされている。そんな、綺麗を通り越してどこか病院のような妙な生々しさを感じる通路の真っ只中に、カグラとレンはいた。

あまりに白すぎて、壁と床、天井と壁との境界線が見えにくく、まるで自分達が巨大な白い空間の中に閉じ込められているかのような錯覚を与える。

しげしげと見回していると、こちらを気遣わしげに見つめているカグラの視線とぶつかった。

「レン、覚えていないんですか?ここは、世界樹の中ですよ」

「………………………」

黙りこくるレン。

衝撃で軽く混乱し、散り散りになっている記憶が、時間の経過とともにゆっくりと水が染み込むように戻ってくる。

眼を見開き、息を呑んだレンに対して、カグラはやっと張り詰めた顔を緩めた。それに、なんともない気まずさというか居たたまれなさを感じ、一つだけ咳払いをした。

「………せ、先行したキリトにーちゃん見かけた?」

「いえ、私も意識を失っていたんですが、眼が覚めたときには誰もいませんでした」

半目になりながらも答えてくれたカグラの情報を信じれば、キリトはユイとともに先に進んでくれたようだ。

まぁ、正規の方法で入室した彼と、力任せに心意システムというアブノーマル極まりない方法で入室した自分達が、同じ座標上に出現するかと問われると、正直微妙なところなのだけれど。

「そっか。追いかけるにしても、ここ、ホントに世界樹の中なのかな?何か、あんまりにも飾り気がないというか。ぶっちゃけ病院みたいというか……」

「はい、それは私も思いました。しかし、普通の手段では入れないというのだったら、わざわざ飾り付ける必要などないのかもしれません」

なるほど、とレンは思う。

管理者コードという、言うなれば裏技みたいなのを使ってやっと入れるほど、つまりは一般プレイヤーが絶対に入られないようにするための物だったのならば、この内装にも納得がいく。イベントなどが発生しようもないのだから。

「まぁ、そこら辺はマイを助けた後に考えるとしよっか」

「はい、そうですね」

助けに、と綺麗に声を合わせてレンとカグラは前を、通路の先をひたと見据えた。

二人の妖精は、手を取り合って足を踏み出した。










キリトは、全てを踏み砕かんばかりに足に力を込め、漆黒の弾丸と化して疾走していた。

視界には、オフホワイトのディティールやテクスチャの一切ない、ゆるく右に湾曲した通路がどこまでも広がって、伸びている。後ろを振り返ると、こちらも同様に曲がっていた。

意識を覚醒してから、すぐさま走り出してもうかれこれ数分。

かなりのスピードで来たのだが、いかんせん距離感というものが全くと言っていいほど掴めないので、どれほど走ったのかは判らない。

「ユイ!マップはわかったか!?」

肩に掴まっているナビゲーション・ピクシーであるユイに息を乱しながら、叫ぶように訊く。

振られた小妖精は、しばしの間瞑想するかのように眼を瞑っていたが、困惑したように眼を開けた。

「やっぱりダメです、パパ!ナビゲート用のマップ情報が出てきません!」

「アスナのいる場所は!?」

訊くと、ユイは再度一瞬眼を閉じ、すぐに大きく頷いた。

「はい、確実に近付いてます。それに、動いてもいません」

「よし!!」

「しかし────」

言い淀むユイに、キリトは違和感を覚えた。

「どうした?」

「変なんです。ママと同座標上にいたIDが膨らんでいるというか、ママのIDの上に乗っかっているというか」

AIの彼女にしては、珍しく言葉が濁っている。

「乗っかってる?」

「はい。なんて言うか、ついさっきまではママのIDがそのIDの上に乗っかっていたんですけど、今は────」

「今は………、その逆だって言うのか」

「はい……」

そこまで言うと、ユイは震えを感じたように己の身を掻き抱いた。

「何だか……恐いです、パパ。ママが……得体の知れないものに侵食されてるような………」

「大丈夫だ、ママは強い」

そう、キリトは言った。

そう言ってないと、とてもじゃないが自分の逸る心を抑えていられなかったから。

胸ポケットに避難し、顔を出す娘の艶やかな黒髪を撫でる。

その時、ユイが再びハッとしたように、弾かれたように頭を跳ね上げた。きょろきょろと数度首を巡らせ、きつく目を閉じる。

どうした?と訊いても、小さな妖精は数秒黙ったままだった。頭痛を感じたかのように、こめかみの辺りを抑えている。

「レンさんとカグラさんが現れました!ちょうど、パパが現れた辺りです!」

そうか、とキリトは言った。

これは朗報だ。正直、一人では荷が重過ぎていると感じていたところだ。

アスナと同座標上にある謎のコードIDも気になるし、このシステマチックたっぷりで不気味なほどの通路のことも気に掛かる。

しかし、とキリトは思わず足を止めて、はたと考えてしまった。

このまま合流してもいいのだろうか。

もちろん、安全面から考えみてみればそれは当然のことのように思われる。しかし、ユイが言ったことから考えてみるに、事態は刻一刻と変化しているようだ。

そこまではまだいいが、問題なのは現在の状況下でその変化がマイナスの変化なのかプラスのものなのかが判らない、ということなのだ。

汗が、頬を伝う。

脳内の中でいくら考えても、浮かんでくるのは最悪のビジョン。

先刻のユイの言葉の『侵食』という言葉が、やけに脳内でリフレインされた。それは木霊のように四方八方で跳ね返り、増大していく。

「パパ………」

胸ポケットから、ユイが気遣わしげな顔で見上げてくる。その瞳にあるのは、決定は任せるという、絶対的な信頼。

「…………………っそ!」

ミシ、とこぶしを握り締めて、壁に叩きつけた。それだけで滑らかな壁面に亀裂が入り、ピシリという不穏な音が響く。

「ユイ!お前はここに残って、後続のレン達の先導を頼む!」

「え………、でもパパは!?」

「俺は独りで行く」

「そんな……ッ!危険すぎます!もしも────」

「いいんだっッ!これでいい!」

「……………………………」

黙り込むユイの頭を再び撫で付け、精一杯の笑みを浮かべた。それは若干引き攣っていたけれど、ユイの安心を誘うには効果があったようだ。

色々な言葉を飲み込んだ小妖精は、ぐっと堪えると静かに胸ポケットの中から、しゃらんという涼やかな効果音とともに飛び上がった。小さな翅から零れ落ちる光の欠片達が、きらきらという煌きを残して宙に消えていく。

信じてます、と口を開いた後、ユイはキリトの頬に唇を寄せて音高くキスをした。

「必ず帰ってくる!」

「はい!」

キリトは一人、足に力を込めて走り出した。










レンとカグラは通路を疾走していた。いや、飛んでいた、というほうが正しいのかもしれない。

二人の周囲のテクスチャは、もはや原形をとどめていなくなっていて、はたから見る者がいたらそれは数メートルおきに瞬間移動しているように見えただろう。カグラだけが立てる、ターン、ターン、という足音ともつかない音だけが先の見えない通路一杯に響き渡る。

一方のレンは、まったく音を立てていない。アイススケートの選手か何かのように、地面を滑っていく。しかしその速度は、単純にカグラよりも速い。

「カグラぁ!感知反応域に変化は!?」

半ば八つ当たりのように、レンは漆黒のマフラーの端っこを空になびかせながら叫んだ。

それに同じく、緋袴の裾をはためかせながら走るカグラも応える。

「やはり反応がありません!キリトとユイはよほど先行しているようです!……………あ、いえ!たった今反応がありました!!」

「え!?」

「前方二時の方向、反応一つ!大きさからして、まず間違いなくユイだと思われます!!」

その声とほぼ同時、前方で大声を上げながら小さな手を千切れんばかりに振る小妖精の姿が目の中に入ってきた。

「ユイちゃん!!」

叫ぶと、ユイは可愛らしいその顔をくしゃりと歪め、大きなその瞳から大粒の涙を零した。

それはキラキラと輝きながら地に落ち、弾けて消えた。 
 

 
後書き
なべさん「はいはい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「やっと世界樹の中に入ったと思ったら、伸ばすな~」
なべさん「あっはっは!話数稼ぎは基本だよ☆」
レン「いっそ死ね」
なべさん「それはそうと、呟きの方では、いよいよコラボ企画が発生しましたな」
レン「お前が言い出したんだろう。自然災害みたいに言うな」
なべさん「さぁ忙しくなるぞ~」
レン「いや張り切るのはいいけどさ、早くない?まだALO編途中だぜ?」
なべさん「これでいいのです。前回は二週間もお休みという名の構想時間を頂いたのに、まるっきり浮かばずに地獄を見たのです」
レン「あぁ、なるほど。それでか」
なべさん「今回は慎重にいくよ。石橋は叩いて壊すよ」
レン「壊すなよ、それは」
なべさん「はい、自作キャラ、感想、コラボ立候補を送ってきてくださいねー」
──To be continued── 
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