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Geet Keeper ~天国と地獄の境~

作者:高原刹那
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産声

 
前書き
ちょっと長いです。
女王マリアからの突然過ぎるディスクレターを見た希美たちに突きつけられる役目とは… 

 
「と、いうわけで~す!おめでと~ございま~す!…ってあれ?」


血梨の期待とは裏腹に、全員の表情は曇っていた。


「全然おめでたくないんですけど!っていうかあの人誰?なんか色々喋ってたけど意味わかんないし!」

「ん~…そっかぁ。じゃあそもそもの発端から話さないとダメか。」


すると血梨はスクリーンの前に移動して話し始めた。


「まず、この世界は表なのね。」


突拍子もないことを…。


「みんながいるこっちの世界は”表の世界”。表があれば裏があるわけで、その”裏の世界”が”異世界”なわけ。表と裏はいつも背中合わせ。でも決して交わることはない。だから普通なら異世界がこっちと交信を持つなんてことはないはずなのよ。」

「じゃあなんであんな…ディスクレターだっけ?あれが送られてきたわけ?」

「その理由が”鍵”の存在。”鍵”は色々な物の根源。例えば”水の鍵”はこの全宇宙の”水”を司る存在っていうふうになってるのね。私も正確な”鍵”の数は知らないけど相当あるみたい。なんてたってそれがぜーんぶ集まって初めて全宇宙の安寧が約束されるってくらいだからね。そんなわけで、それほどまでに大事なものは普通誰の手も届かない所に閉まっておくものじゃない?だからその権利を異世界の女王が仰せつかって”封印(ソール)洞窟(ケーブ)”って所に封印してたの。でも、それが数週間前に何者かによってぶち壊されて”鍵”は全宇宙に散らばっちゃったわけ。」

「…それで門番の出番かよ。」


やっと希美以外の人間が口を開いた。


「そういうこと。門番の役割は2つ。まず一つ目は散らばった”鍵”を全て見つけ出して、再び異世界の”封印の洞窟”に戻して封印すること。そしてもう一つ目は~…まぁこれが本題な部分があるんだけどさ。」


血梨はやけにもったいぶった。
言いたくない、というような感じに見て取れる。


「なによ、言いなさいよ気持ち悪い。」

「わかったよ~…さっき女王がちらっと言ってたでしょ?”地獄の騎士団”のこと。あいつらが門番最大の難題なわけよ。」

「あぁ、守り抜けだのなんだのって言ってたけど?」

「”地獄の騎士団”は門番の天敵。門番が全宇宙の安寧を望み、”鍵”を集める一方で”地獄の騎士団”はその門番を殺しに来る。これが意味することは明らか。奴らは全宇宙の安寧なんか望んじゃいないし、むしろあわよくばそれと真逆のことをしようとしてる。だから門番は邪魔なの。門番を殺して、殺し尽くして”鍵”を全部手に入れて…まぁこの続きは言わなくても察してよ。」


全員の表情が別の意味で曇った。
最初は悪い冗談だと思っていた。こんなの、誰かの質の悪い壮大な悪戯だと。
でも段々話が現実味を帯びてきた、いや、現実だと思わざるを得なくなってきた。
現に目の前には自称・死神のこいつがいて、異世界の女王と名乗る者からのメッセージも届いた。
そして”鍵”のことや”地獄の騎士団”の話を聞いている限り、ここまで手の込んだ悪戯を仕掛ける必要性がまったくもって感じられない。
となると、これは紛う事なき現実なのだろう。


「要するに…その門番になれる資格をあたしたちは持っちゃってて、そんでもって少なくともここにいる全員にあんたみたいな妙なのが付いていて、それを守護神としてあたしたちは”鍵”を集めて”地獄の騎士団”とやりあわなきゃならない。…そういうこと?」

「さすが私が派遣されただけのことあるね。飲み込み早すぎて文句なし!」


血梨は幾分か満足、といった様子だが当の本人たちは全ての状況が『掴めても』まだ『受け入れる』ことはできていないようだった。


「…考える時間はなさそうだな。話を聞く限り。」


涼介が呟いた。


「…俺たち以外にも勿論いるんだよな?門番候補生は。」

「もち!あ~…でも今回は少ない方だってことは聞いてるかな。なんせ守護神候補自体が例年に比べて少なかったし、人間のほうも適正を持ってる絶対数があまりいなかったらしいからね。その分、今回の招集は空振りなんじゃないかって噂してる人もいるよ。」


長い沈黙が流れた。
今回ばかりは血梨もその空気を破ろうとはしなかった。

門番になるということは、『全宇宙の救世主』という称号を得る代わりに常に『死』と隣り合わせの状況下に置かれるということになる。









「今日が…入学式だったのにね。」


ボソリと南が言った。


「今日が入学式だったのよここにいる大半は。新しい学校生活を明るく始められるはずだったのに…帰ってきてこの封筒を開けた途端、やれ門番だの鍵だの地獄の騎士団だのって…。私はいいわよ。どうせ今年で卒業だし、学校生活での楽しみだってこれといってない。でも『これから』の子達がここには大勢いるの。」


声が、少し震えていた。


「…優花、言っちゃったよ。友達に”明日学校終わったら遊ぼうね”って言っちゃったよ?でも門番になったら…もう会えないんでしょ…?」


ずっと俯いて怯えていた優花が、膝を抱えたまま涙声で口を開いた。


「…………ごめん。でも、このまま放っておいたら…その”明日”も一生なくなるの。”地獄の騎士団”より一刻も早く”鍵”見つけ出して集めないと…友達と約束する”明日”は、もう二度とこないの。それがいつになるかはわからない。今そこの扉を開けたら既に”明日”という時間軸はなくなってるかもしれない。私や女王様が言いたいのは、そういうことなの。」


えらいことになった。
単純にそう思った。
『明日がなくなる』なんて、漫画の中でしか聞いたことがなかった。
でもあの死神の…血梨は至って正常であり、真剣にそう言っている。











”明日という時間軸がなくなる”━━━━











「明日がなくなるのはごめんだよ、あたしは。」


希美はそう言って血梨を見つめた。


「血梨。あんたはあたしを護れるの?」

「谷の名を汚すわけにいかないからね。守護神になった以上、あんたに憑いてあげるよ。」


ニヤリと希美が笑った。


「みんなさ、色々あると思うんだ。優花の気持ちもわかるし、お姉ちゃんがさっきみたく思ってくれてるのは超うれしい。でもさ…あたしは訳わかんない奴らに関川町(ここ)を壊されたくない。っていうかあたしの知らないところで話が進むのはムカつく!だから、あたしは…」

「…何一人で持ってこうとしてんだよてめぇ。」


ふと見ると、それまでの暗い表情は皆から消えていた。


「勘違いしないで。納得なんかしてないわ。私も有奈も。でも、気持ちは希美と同じよ。」

「希美だけにいいトコ取りはさせないよー!」

「まぁ兄妹こうして集められたのも何かの縁ってな。」

「明日がなくなっちゃうのは嫌…優花も頑張るよ!」

「暴走する下を纏める姉の身にもなって欲しいわね。」

「うちら小学の時からの仲でしょ?あんたがやるならうちもやる!優人は嫌がりそうだけどうちが引きずって連れてくからさ。」

「え?ちょっと高子ちゃん!僕一言も嫌だなんて言ってないよ!?」





今この瞬間、宇宙の小さな星の小さな国の小さな町で、『世界の救世主』たちがまだまだ小さな産声をあげた。
 
 

 
後書き
門番になる決心がついたようですね。
ただこれからが本番…まぁ、適度に行きましょう(笑) 
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