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ティーンネイジ=ドリーマー

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第五章


第五章

「暫くはな」
「御前が運転手!?」
「そうなるな」
 また親父に答えた。
「今のところはな」
「誰かに対して運転するのか?」
「さてな」
 今回も下手な誤魔化しだと自分でも気付いていたが親父は何も言うことはなかった。また随分と寛容に今は接してくれた。
「それはわからないけれどな」
「まあリムジンは汚すなよ」
「わかってるさ」
 また笑って言ってやった。
「毎日洗車してワックスかけるか」
「ああ、それはバイト君にやってもらうからいいさ」
「おいおい、そこまでこき使うつもりはないぜ」
 バイト君達にはバイト君達の仕事がある。それは踏まえて人は雇っていた。
「バイト君にそこまではよ」
「そこはバイト料弾めばいいだろう?」
「そんなものかね」
「それかガソリンスタンドで洗ってもらえ」
 今度はこんなことを言ってきた。
「それだと向こうもお金が入って喜んでくれるからな」
「そんなもんか?」
「そうだよ。ただガソリン入れてもらうだけじゃ愛想がないだろ」
 親父は今度はこんな話を俺にしてきた。
「だからだよ。どうだよ」
「そうだな。じゃあそうするか」
「何かあったらすぐに行ってやれ」
 今度はこんなふうに話をしてきた。
「それでいいな」
「付き合いってわけかよ」
「付き合いが仕事を上手く回すんだよ」
 これは俺もよくわかっていた。今までこれだけ会社を大きくさせたのもその付き合いによるところが大きかった。それがわからないで会社はやっていけない。
「だからだよ。いいな」
「わかったさ。じゃあそっちもな」
「おうよ。それでだ」
 親父はまた話を変えてきた。
「今度店に出すのな」
「ハーレーか?」
 何だかんだで人気がある。好きな奴は本当に好きでとにかくがむしゃらに働いて手に入れた金で買ってくれる。いつもそれが有り難い。
「あれの特別セール本店でやるんだったな」
「それ考えているんだけれどな」
 これは俺の考えだ。とにかく今それへの宣伝であちこちを回っている。
「どうだよ」
「ハーレーもいいけれどよ」
「何だよ」
「自転車の売り上げが最近落ちてるだろ」
 その話も俺にしてきた。
「自転車だよ。そっちの売り上げ落ちてるだろ」
「支店も含めて全部落ちてるな」
 言われてみればそうだった。それ程深刻じゃないがそれでも落ちていた。
「やばいな。やっぱりな」
「今のうちに手を打っておくか」
 俺はすぐにこう考えた。
「すぐにな。じゃあそっちも宣伝するか」
「ああ、そうしろ」
「どの店でも自転車も前に出してな。最近バイクばかり前に出してたしな」
「そうだったな。じゃあそれも出してな」
「子供や学生にも宣伝するか。あと安売りもな」
「自転車は日本のもいいけれどな」
 日本の自転車だけ売ってるわけじゃなかった。バイクにしろあちこちの国から輸入して売っている。もっとも自転車のその割合はバイクより下だが。
「外国のも出すか」
「ドイツがいいか?フランスか?」
「フランスでいくか」
 そっちが最近評判がいいからそちらにすることにした。
「ちょっと古い型は安くしておくか」
「何か自転車も考えてみたらあれこれ工夫できるんだな」
「そうだな。じゃあそういうことでな」
「ああ。やってくか」
 こうして俺達は商売を続けていった。リムジンを手に入れてもまだ働き続けた。そうして働いて働いて会社をさらに大きくしていると。ある日俺の家に一通の手紙が届いた。会社は大きくなったが家はそのままだった。相変わらずの古い一軒家に住んでいてそこのポストを見た時だった。
「何だこりゃ」
 見たら何かオーストラリアからとか書いてあった。
「オーストラリアねえ」
 とりあえずまずは会社の仕事の関係だと思った。
「そんな所から何の用だよ。名前は」
 次に差出人の名前を見た。すると。
「おいおい、マジかよ」
 これには驚いた。あいつからだった。
 あいつが手紙を送ってきた。それだけでまず驚きだった。それを見てすぐに封を開いた。そうして中身を読んでみるとそこにはもうすぐ帰るとあった。
「帰るのかよ」
 日本に帰って来る。あいつが。
 これだけでも驚くことなのにその帰って来る日も書いてあった。もうすぐだ。
 おまけにどの便かも書いてあってここに着く時間まで。場所はあの空港だった。
「そうか。いよいよか」
 俺は手紙を全部読んでからこう呟いた。
 呟いたのは一度だけで後はもうその用意をするだけだった。その日が待ち遠しかった。
 その日のその時間。俺は家を飛んで出た。向かう場所はもう決まっていた。
「おい、何処に行くんだ?」
「空港に行って来る」
 親父やお袋、弟達にこう言ってすぐにリムジンに飛び乗った。
「すぐに帰るからな」
「すぐにって仕事か?」
「何か急の仕事でも入ったのかよ」
「まあそんなところだな」
 理由は言わなかった。言うのが恥ずかしかった。
「ただな。すぐに帰るからな」
「すぐにかよ」
「夢を見に行くんだよ」
 リムジンの運転席から家族に顔を向けて言ってやった。
「あいつの夢をな」
「夢!?」
「そうさ。今からな」
 こう言って会社を出発した。お互い何とか夢を適えることができたみたいだった。俺もあいつも。そしてその時にこそ言いたいことがあった。今からそれを言いに行く。そのことも考えながら俺は今リムジンを運転して空港に向かった。あいつが待っているその空港に。


ティーンネイジ=ドリーマー   完


               2009・3・5
 
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