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美しい毒

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第六章


第六章

 早苗の話を真剣に聞いていた。その中で言う本郷だった。
「そのことは」
「母は昔気質の人だったので」
「そうしたことは我慢できたんですね」
「はい」
 夫のだ。そうした女性関係はだというのだ。
「そうした人でした」
「それなら夫婦喧嘩や愛人である榊さんとの喧嘩はなかったですね」
「そうしたことはありませんでした」
 早苗はこのことは確かだと述べる。
「母は全く騒ぎませんでした」
「内面はどうかわからないにしても感情としては出さなかったんですか」
 本郷もここまで聞いてわかった。
「そういうことですね」
「そうなります」
「わかりました」
 このことはだとだ。本郷は早苗に対して頷いて答えた。そうしてだ。
 彼は考える顔になりだ。推理に入りだ。そうして述べたのだった。
「じゃあこれは」
「榊さんだな」
 役も言った。見れば彼も本郷と同じ顔になっている。
「あの人だな」
「ですよね。あの人が問題ですよね」
「一方がよくてももう一方はどうか」
 役は淡々とした口調で簡潔に話していく。
「そうしたことだからな」
「ですよね。それじゃあ」
「榊さんには嫉妬があった。若しくは」
「奥さんを殺して自分が、ですね」
「動機としては充分過ぎる」
 役はこう淡々と話していく。
「問題は何かというとだ」
「何を使って殺したか、ですね」
「花だな」
 役はまた言った。
「あの人は奥さんを花を使って殺した」
「花!?」
 役の話を聞いてだ。早苗は。
 つい声を上げてだ。それから役に尋ねたのである。
「花に毒を入れたんですか」
「そう思います。これは先程本郷君とも話したことですが」
「薔薇に顔を近付けますよね」
 本郷は具体的に早苗に話していく。
「そうして香りを嗅げば」
「その花に毒があればですか」
「それで殺すことができます」
「そんなやり方があるんですか」
 アドリアーナ=ルクブルールというオペラを知らないらしかった。早苗はそう言われてもきょとんとするだけだった。信じられないといった顔だ。
 だがその早苗にだ。本郷はさらに話す。
「少し。屋敷の花を調べさせてもらいますか」
「はい、御願いします」
 そこに真実はあるならだ。早苗にも異存はなかった。
 彼女はすぐにだ。二人に対して申し出た。
「ではそうして。何とか真実を明らかにして下さい」
「はい。それでは」
「そうさせてもらいます」
 答えてからだ。二人はようやくだ。
 それぞれのコーヒーを飲んだ。それはもう完全に冷えていたが冷たくは感じなかった。適度な温かさと苦さがある、二人にとってはそうだった。
 二人は屋敷の中の花達を調べていった。まずは家の中の花達だ。しかしだった。
 どの花にも毒物の反応はなかった。役はその手に指輪をしている。本郷もだ。
 そのそれぞれの指輪を花に近付けていく。しかし何の反応もないのだ。
「曇りませんね」
「そうだな」
「この指輪に反応がないってことは」
 二人がしているのは銀、それも錬金術で特別な力を込めさせた銀だ。それを近付けていってだ。毒があるかどうかを確めているのだ。
 しかしどれにもだった。反応はなかった。全く何もだ。
「屋敷の中の花には異常はなしですね」
「そうだな。どれにもな」
「じゃあ外ですね」
 役は庭の方を見て言った。
「そこのお庭ですね」
「そうなるな。庭の花だ」
「奥さんはお庭に出てそうして花を愛でることも多かったそうですし」
「では行こうか」
「ええ、すぐに」
 こうしてだった。二人はだ。屋敷の外に出た。
 
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