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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第三十九話




「嶋田、このままだと海軍は戦わずして破滅するぞ」
「ですが永野総長、門の警備や特地の派遣のため追加予算等は殆どが陸軍が持っているのです」

 東京の海軍省の大臣室で海軍大臣の嶋田と軍令部総長の永野はそう会談していた。

「それは判っている……が、海軍の戦力が無ければ万が一の対米戦は乗り切れんぞ」
「それは判っていますが……」

 永野の迫りに嶋田は歯切れが悪かった。

「今、GFの山本が向かっています。山本が来てからでも遅くはありません」
「むぅ……」

 そして漸く山本が海軍省に到着して大臣、総長、GF司令長官の会談が始まった。

「……門の出現後、我が海軍の予算は日に日に少なくなっている。今のところは大和型三番艦の建造を中止して陸軍に資材を提供したりしているが……万が一、門を巡っての対米戦が起きた場合、我が海軍は立ち向かえなくなる」
「軍令部でもほぼ御手上げ状態だ。山本、艦隊を運用しているお前にも意見が聞きたい。そのために呼び出したんだ」

 二人はそう言って山本に視線を向けた。対して山本は出されたお茶に口を付けてから口を開いた。

「……実は会談をする前に堀に相談してみた」
「堀……同期の堀か?」
「うむ」

 嶋田の問い掛けに山本は頷いた。堀とは山本や嶋田の同期である堀悌吉であり山本権兵衛 、加藤友三郎らの系譜を継ぎ海軍軍政を担うと目されていたが、ロンドン軍縮会議後の大角人事により中将で予備役に編入されてしまう悲運とも言うべき人物であった。
 山本と堀、後輩の古賀峯一とは仲が良かった。そのため山本は堀に相談したのである。

「堀が言うには「ドイツを見習え」だった」
「ドイツを見習え……?」
「ドイツは陸軍国だぞ? 確かに第一次大戦前はドイツも強力な艦隊を保有していたが……」
「ドイツの水上艦艇ではない。水中艦艇だ」
「水中艦艇……まさかッ!?」

 山本の言葉に永野は目を見開いた。

「堀は潜水艦隊の増強をしろと言う事なんだ」
「しかし……何故潜水艦なのだ?」
「通商破壊作戦です。イギリスはドイツのUボートや水上艦艇の攻撃でシーレーンは一時はボロボロにまでなりました。即ち、潜水艦を増強して万が一対米戦になった場合は西海岸での通商破壊作戦を敢行するのです」

 山本は世界地図を開いて二人に説明した。

「西海岸で潜水艦が暴れれば、アメリカも輸送船に護衛艦艇を付けねばなりません。そうすると、ハワイにいる米太平洋艦隊も……」
「早々に身動きは取れなくなる……か」
「はい、その通りです」

 山本は永野にそう言った。

「ただ、問題は二つあります。一つ目は第六艦隊の人間です。艦隊決戦思想のため大型艦艇を狙う事が優先されてきましたので思想を変えるのに時間が掛かるでしょう。もう一つは潜水艦の性能です。伊号潜水艦は騒音が激しいようで、ドイツに派遣したりして潜水艦のいろはをもう一度学ぶ必要があります」
「確かにな……ドイツは第一次大戦でも通商破壊を敢行していた。我々もドイツのエムデンを追っていたな」
「その通りです。我々の艦隊決戦である漸減作戦が破綻した以上、大型艦艇の建造日数が多い我々の技術力では到底対米戦は完遂出来ません。逆に負け戦になるでしょう」
「……となると、我々は艦隊決戦思想や航空決戦思想でもなく潜水艦隊決戦思想を持つべきだと?」

 永野総長の問いに山本は苦笑した。

「いえ、あくまでも航空決戦思想です。パイロットの育成等課題はありますが、潜水艦を現状より強化するのが目的です」
「……良し、その方向でやってみよう。まずは潜水艦をドイツに派遣せねばならんな」
「第六艦隊の清水中将によれば十隻くらいまでなら送れると言ってますよ」
「流石に十隻は多いだろう。四隻で妥当だな」

 三人はそう会談をし、海軍は潜水艦隊の増強に乗り出したのであった。


「お久しぶりですピニャ殿下」
「此方こそお久しぶりですヨシダ大使」

 ピニャはお供を連れて翡翠宮を訪れていた。そして吉田茂と面会をしていた。

「今度こそは締結に向かいたいものですな」
「えぇ。それは此方も同じです」

 日本は帝国と事前交渉をしており、具体的な交渉内容まで行っていた。日本側の主張は賠償金、領土の割譲(アルヌス一帯)、銀座事件責任者の処罰であった。
 帝国側もほぼ日本側の主張を受け入れる方針であったが銀座事件責任者に関しては抵抗していた。
 銀座事件責任者は侵略開始を命令したモルト皇帝であり、モルトが日本で処罰されると帝国の権威に怯えていた周辺の属国が反旗を翻すと恐れていたのだ。
 日本側も「次の皇帝を立てればいい事であり、我々には関係無い」と帝国側からの責任者処罰の取り消しには応じてなかった。
 そのため、交渉は此処で停止する事が多かったのだ。それで二人は上記のような台詞を言っていたのだ。

「今日は長旅の疲れをゆっくりと癒して下さい」
「そうさせてもらいます」
「それと、つかぬこと聞きますが……摂津殿はおられますか?」
「はい、彼には護衛隊の一員として帝国を知っている人物として我々と同行しています」
「……少しだけの時間、彼を貸してくれませんか? どうしても助けてほしい事があります」
「……判りました。何日でも貸しましょう」

 吉田は承諾した。吉田も何かを感じ取ったのだ。直ぐ様樹は吉田は呼ばれてピニャと共に同行する事になったのであった。


 
 

 
後書き
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