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緋弾のアリアGS  Genius Scientist

作者:白崎黒絵
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イ・ウー編
武偵殺し
  5弾 アリア襲来!

――――夕方。

 クラスのバカどもからようやく解放された俺は、どっかりと自室のソファーに体を沈め、夕焼け空の東京を窓越しに見ていた。

 去年の9月から、俺は寮のこの部屋に1人で暮らしている。

 ここは本来4人部屋なのだが、俺は1人で使わせてもらっている。これは武偵校では破格のVIP待遇で、なぜ俺がそんな待遇を受けているかと言えば、ただ単純に俺が管理人だからなのだった。

 武偵校の男子寮には管理人室なんて無いので、普通の部屋を使っている。が、しかし、管理人以外の人間が部屋にいるとセキリュティ上よくないので、管理人は4人部屋に1人で住むことになる、という訳だ。

 ちなみに俺が管理人をやっている理由については、いつか話す時が来るだろう。たぶん。

(ああ、静かだ……)

 今朝(けさ)のチャリジャックが、まるでウソみたいだ。

 あの件に関しては、セグウェイの残骸(ざんがい)鑑識科(レピア)が回収し、探偵科(インケスタ)も調査を始めているらしい。

 ……だが、切った張ったが日常茶飯事の武偵校では、殺人未遂程度のことは流されてしまうのが現実だ。かくいう俺も、強襲科(アサルト)でドンパチに慣れすぎたせいと、アリアのことで丸1日振り回されていたせいもあり、かなりスルー気味になっている。

(しっかし、あれは一体何だったんだ?イタズラにしては悪質すぎるし)

 あの『武偵殺し』――――の模倣犯(もほうはん)は、爆弾魔だ。

 爆弾魔というのはこの世で最も卑劣(ひれつ)な犯罪者の一種で、たいていターゲットを選ばない。無差別に爆発を起こし人々の注目を集めてから、世間に自分の要求をぶつけるのが一般的なパターンだ。



 ピンポーン。



 となるとあれはたまたま運悪く俺のチャリに仕掛けられたものなのだろうか。



 ピンポンピンポーン。



 それとも俺個人を(ねら)ったものか。心当たりは山ほどあるし。



 ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン! ピポピポピンポーン!



 あー! うっさい!

 さっきから俺の部屋のチャイムが連射されている。居留守を使おうとしたが、ダメらしい。

 何だ。今日はいろいろなことがあって疲れてんだよ。放課後くらい静かに過ごさせてくれ。頼むから。

 渋々(しぶしぶ)、ドアを開けると――――

「遅い! あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!」

 びしっ!

 両手を腰にあて、赤紫色(カメリア)のツリ目をぎぎんとつり上げた――――

「……やっぱりお前か、神崎………」

 制服姿の、神崎・H・アリアがいた。

「アリアでいいわよ」

 言うが早いかアリアはケンケン混じりで靴を脱ぎ散らかし、とてとてと俺の部屋に侵入してしまった。

「ちょっと待て」

 俺はそれを止めようと手を伸ばしたが、するっ。ヤツの子供並みの身長のせいで、(かが)んでかわされる。

 しゃらっ。

 長いツインテールをかすめた指先に、そのなめらかな感触だけが残った。

「待てって。勝手に人の部屋に入るな」

「トランクを中に運んどきなさい! ねえ、トイレどこ?」

 アリアは俺の話に耳を貸さず、ふんふんと室内の様子を見回す。そして目ざとくトイレを発見すると、てててっ、ぱたん。小走りで入っていってしまった。

「てか、トランクっておい……」

 周囲を見回すと、玄関先にはアリアが持ってきたと思われる車輪付きのトランクがちょこーんと鎮座(ちんざ)していた。明らかにブランドものと分かるロゴの入った、小洒落(こじゃれ)たトランプ柄のトランクだ。下着といい、このトランクといい、トランプ柄が好きなんだな、アリアは。

 女物のトランクが部屋の前にあるのを近隣の生徒たちに見られたら、後で何を言われるか分かったもんじゃない。

 今朝(けさ)の白雪にも言ったが、このマンションは一応、男子寮なんだからな?

「あんたここ、1人部屋なの?」

 トイレから出てきて手を洗ったアリアは、何が入っているのか異様に重いトランクを玄関に運ぶ俺には目もくれず、部屋の様子を(うかが)っている。

 そしてリビングの一番奥、窓の辺りまで侵入していった。

「まあいいわ」

 いったい何がいいのか。

 くるっ――――と。

 その身体(からだ)夕陽(ゆうひ)に染め、アリアは俺に振り返った。

 しゃらり。長いツインテールが、優美な曲線を描いてその動きを追う。



「――――ミズキ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」

「断る」



「そう、なら早速……って、なんで断るのよ!?」

 どうやらアリアは断られると思っていなかったらしく、慌てふためいている。

「いいわ。わかった。とりあえず、いったん落ち着きましょう」

「落ち着いてないのはお前だけだろ」

「いいから!とりあえず、さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ!話はそれからだわ!」

 ぽふ!

 盛大にスカートをひらめかせながら、アリアはさっきまで俺がソファーにその小さなオシリを落とした。ちゃき、と組んだ足のふとももが少し見えて、そこに()げてる二丁拳銃(にちょうけんじゅう)が片方のぞいた。放課後にも帯銃とか。物騒なヤツだな。

「コーヒー! エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ! 砂糖はカンナ! 一分以内!」

 無茶言うな。一分でコーヒーが出せるわけないだろ。そもそも、この家にはコーヒーなんてものは存在しないし。



 簡単には帰ってもらえなさそうだというが分かったので、仕方なしにコーヒー代わりの紅茶を出してやると、アリアは、

「は?何これ?あたしが頼んだのはコーヒーのはずなんだけど?何で紅茶なのよ」

 カップの中を見るなり、そう言い出した。

「俺はコーヒーより紅茶派なんでな。この部屋にコーヒーなんてものはない。どうしても飲みたいんだったら、自分の部屋に帰って飲めよ」

「別にいいわ。あたしも紅茶好きだし」

「なら最初から文句なんて言うな」

「あら、美味しいじゃない。この紅茶。ダージリン?」

「ああ。それも、わざわざイギリスから取り寄せた一級品のな」

 両手でカップを持ちながら紅茶を飲むアリアを眺めながら、俺も紅茶を一口飲み、それから本題に入る。

「で、何でいきなりお前はここに来たんだ?」

 少しのため息とともに言うと、アリアはカップを持ったまま、きろ、と(あか)い目だけを動かしてこっちを見た。

「わかんないの?」

「説明されてないのに分かるわけないだろ。俺の推理力はそんなに高くないからな」

「あんたならとっくに分かってると思ったのに。んー……でも、そのうち思い当たるでしょ。まあいいわ」

 お前がよくても俺がよくない。

「おなかすいた」

 アリアはいきなり話題を変えつつ、ソファの手すりに身体をしなだれかけさせた。

 なんだか女っぽいその仕草に、俺はちょっと赤くなって視線を()らす――――なんて訳ないので、そのままアリアの方を見ながら、

「さっさと帰れ」

 帰宅を勧めてみた。

「なんか食べ物ないの?」

「ねーよ」

 というか、あっさり人の発言を流すなよ。

「ないわけないでしょ。あんた普段なに食べてんのよ」

「食い物はいつも下のコンビニで買ってる」

「こんびに? ああ、あの小さなスーパーのことね。じゃあ、行きましょ」

「じゃあじぇねえよ。腹減ったなら自分の部屋に帰れ」

「早く準備しなさい。もう夕食の時間よ」

 ダメだ。話が噛み合ってない。

 俺が頭痛に額を押さえていると、アリアはバネでもついてるかのようにぽーん! とソファーからジャンプして立ちあがった。

 そして俺の方までととんと歩いてくると、顔を近づけてこっちを顎の下から見上げてくる。

「ねえ、そこって松本屋(まつもとや)のももまん売ってる? あたし、食べたいな」



 武偵には、気を付けなければならないものが3つある。闇。毒。そして女だ。

 その3つ目ことアリアは、コンビニでももまんをなんと7つも買った。

 ももまんとは一昔前にちょっとブームになった、桃っぽい形をしただけのあんまんなのだが、これではもはや買占め状態だ。

 俺もこれにはちょっと引いたので、

「ももまんを7個も買うのは、さすがにどうかと思うぞ」

 と言ってみたら、アリアはドン引きしたような目で、

「メロンパンを30個も買ったあんたに言われたくないわよ」

 と言い出した。まったく、何を言っているのやら。コンビニに来たら買うだろ普通、メロンパン30個。

 部屋に戻ってきた後。しばらくお互い無言で夕飯を食べていた。アリアはももまん。俺はオムライスとメロンパンだ。

「さて、ミズキ。そろそろマジメに話し合いましょう」

 ももまん×7を食い終わったらしいアリアが話しかけてきた。というか、さっきまでマジメに話し合ってなかったのかよ、おまえは。

「俺は最初からマジメに話していたんだけどな……」

「そんな細かいことはどうでもいいの。じゃあまずは最初に、もう一度だけ言うわよ――――ミズキ。あんた、あたしのドレイになりなさい。嫌なら、その理由をきちんと説明して」

 またそのセリフか。さっきも聞いたし、返事もしただろうが。

 だけど、アリアの様子がさっきとは少し違う。不安が微妙に顔に出ている。さっきのアリアは、断られる可能性なんてまったく考えていなかったのだろうが、一度断られたことで、それなりに不安を感じているようだ。それに少しは人の話を聞く気が出てきたみたいだし、これなら話を聞くくらいはしてやってもいいかな

「……というかな、ドレイってなんなんだよ。どういう意味だ」

 さっきのように即答で断れなかったのが嬉しかったのか、アリアは少し顔を(ほころ)ばせて、話を続けてきた。

強襲科(アサルト)であたしのパーティに入って、そこで一緒に武偵活動をするの」

「おまえ、朝から俺の資料漁ってたらしいけど、それなら知ってるだろ。俺は自主的に強襲科(アサルト)から装備科(アムド)に転科したんだ。それなのに何でわざわざ強襲科(アサルト)に戻らなきゃなんないんだよ。ムリだ、その話は受けられない」

「それ、言わないで」

「それ?」

「ムリとか、疲れたとか、面倒くさいって言葉、あたし嫌いなの。この3つは人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める良くない言葉だから。あたしの前では二度と言わないで」

 おまえの前で言ってほしくないなら、おまえがいなくなればいいだろうが――――という言葉をすんでのところで飲み込んで、俺は了承の意を示した。

「じゃあ、話を続けるわよ。次はミズキのポジションだけど――――そうね、あたしと一緒にフロントがいいわ」

 フロントとはフロントマン、武偵がパーティを組んで布陣する際の前衛のことだ。

 死亡・負傷率ダントツの、危険なポジションである。

「で、どうするの?あたしの話、受けてくれる気になった?ドレイっていう言葉が嫌なら、パートナーでもいいわよ」

 パートナー。その言葉が持つ意味を、俺は考える。深く深く考えて、結論を出す。

「パートナー、か。OK、わかった。この話は、断らせてもらう」

「な、なんで!?何がダメなの!?理由を教えなさいよ!」

「理由は……特にない。ただ単に嫌なだけだ」

「そんなの理由になってない!」

「ああもう。別にどうだっていいだろ、理由なんて。とにかく、この話はこれでおしまい。おまえはさっさと帰れ」

「やだ!帰らない!」

 とうとうアリアは涙目で駄々をこねはじめた。おまえは子供か。

「帰らないって……どうするつもりだよ」

「泊まってく!あんたがあたしのパーティに入るって言うまで、絶対に帰らないんだから!」

「おいおい。泊まってくって。あ、まさかおまえが持ってきてたトランクって………」

「もしものときのための保険だったけど、きちんと準備してきてるわ!」

 やっぱり、宿泊セットだったか。

 仕方がない。こいつは一向に帰る気配が無いし。俺が出てくか。

「わかった。じゃあおまえはここに泊っていけ。俺が出てく」

「は!?ちょっと待ちなさいよ!それじゃ意味ないじゃない!」

「知らん。じゃ、そういうことでまた明日、学校でな」

 追ってこようとするアリアを尻目に見ながら、俺は部屋の外へと出るのだった。 
 

 
後書き
お久しぶり&初めまして!白崎黒絵です!
え?あとがきがいつもより適当じゃないかって?そ、そんなことはないですしおすし(震え声)
すいませんでした。更新が遅れて。
最近ちょっと忙しくて、なかなか更新できませんが、どうか見守ってやってください。
それでは恒例のアレ。やっておきましょうか。
今回のセリフは我らが主人公、ミズキからです。

「更新遅れて、マジですいませんでした!」

以上、白崎黒絵&薬師丸ミズキでお送りしました。
感想とかあったらください。 
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