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深き者

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第三十一章


第三十一章

「違うか、それは」
「言われてみれば」
 言っている側から来た。その深き者達を今度は手裏剣で先手を打って倒していく。それぞれ胸や喉や額を貫きそのうえで倒していく本郷だった。
「その通りですね」
「まだ何百もいる。それではこの程度はハンデにもならない」
「海の中で満足に動けてもですか」
「そういうことだ。また来るぞ」
「ええ」
「これからは向こうも容赦しない」
 その通りだった。今度は一斉に来た。凄まじい形相の彼等が一斉に二人に襲い掛かる。最早その手と牙で我先に食い千切り切り裂かんというのであった。
 本郷は刀を振り回し役もその手にあの冷気の剣を出した。その二本の剣で彼等を次々に切り裂き乱戦を繰り広げていくのであった。
 やがて彼等の周りにいる深き者達はその数を大きく減らしていた。だがそれでも彼等は怯むことなく次々と襲い掛かってき続けてきていた。二人はそれを相手にし一歩も引かなかった。
 深き者達の数は一匹、また一匹を減っていく。そうして一時間半程度戦ったその時には。海の中にいるのは二人だけとなっていた。他の深き者達は皆海底に落ちていた。
 その海底に禍々しい異形の骸を転がらせている。首や手首が海の中に浮かんでもいた。辺りは彼等のドス黒い血までもが漂っていた。
 本郷はその血を見ながら。役に対して言ってきたのだった。
「危ないですかね」
「君もそう思うのだな」
「ええ。それに夜ですしね」
 今度は夜という言葉も出す本郷だった。
「すぐに来ますよ、奴等」
「そうなれば余計な戦いをしてしまうことになる」
 役は本郷に対して冷静にこう述べたのだった。
「そうなれば無駄に力を消耗してしまう。それは避けなければならない」
「でしたら。もう行きますか」
 言いながら分身の術を解く。するとそれまで五人だった本郷が四人になり三人になった。そして二人になり最後には一人に戻った。一人に戻った上でまた言うのであった。
「あの洞窟に」
「行くとしよう。ここは一刻も早く立ち去るべきだ」
「何かもう来ましたからね」
 見れば遥か前にだ。やたらと大きなものが二人の方に来てきたのである。
 それは一匹だけではなかった。次から次へとやって来る。二人はそれ等を見てすぐに動いたのであった。
 そうしてその場から離れる。安全な場所に至ったと見て後ろを振り向いてみると。深き者達の骸は片っ端から貪り食われていた。そんな情景がそこにはあった。
「海ってのは恐ろしい場所ですね」
「ああした連中がいるからか」
「ええ、あれが」
 それは鮫だった。鮫達は驚くまでの数が来てそのうえで骸を貪っていた。それはまさに地獄絵図であった。中にはまだ息アあった深き者達もいたがお構いなしであった。そのまま頭からかじり取られ食われていき丸呑みにされていく。中には同じ鮫同士で喰らい合ってもいた。
 そうした光景を見ながら。本郷はまた言うのだった。
「あの連中の方が厄介かも知れませんね」
「相手をするならな」
「でかいですしね」
 その大きさは尋常なものではなかった。中には十メートル近いものも見た。見ればそれはあの有名なホオジロザメ、英語名でマンイーターシャークであった。
「まあ早いうちにあそこから離れて正解でしたね」
「残っていれば我々もあの中にいた」
「そういうことですね。ぎりぎり離れられたってことですね」
「そういうことだ。それではだ」
「ええ」
 役の言葉に頷きそのうえでさらに進む。そうして教会の中から見たあの洞窟の入り口に辿り着いたのであった。
 その前に来ると本郷はまず。剣呑な面持ちになった。そしてその面持ちで語るのだった。
「何かね」
「君も感じるんだな」
「感じない方がおかしいですよ」
 こう役に言葉を返した。その表情のままで。
「あの時は気配までは感じなかったんですけれどね」
「そうだな。映像は所詮は映像だ」
「そういうことですね。けれど今は」
「いるな、奥に」
 役もまた同じ顔になっていた。
「これは間違いなくな」
「ですね。いますね」
 本郷は役の今の言葉に強く頷き返した。
「これは」
「行くしかないが」
「行けば地獄ですか」
「地獄を見るか?」
 これまでで最も真剣な顔で本郷に問うたのであった。
 
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