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恋姫無双~劉禅の綱渡り人生~

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劉禅、桔梗と会談する

「話は普浄から聞いた。烈、お主はお館の排除を目論んでおるらしいの」
 桔梗は俺を見据えて言う。その眼光は鋭く、気圧されそうになる。
「……北郷は桃香をさしおいて好き勝手やっている。このままでは大変なことになる。劉家の人間として、見過ごせない」
「それだけではなかろう? お主、許婚を奪われた恨みを晴らそうという考えもあるのではないか?」
「それは否定しない」
 桔梗の追求に俺は答える。
「それに、北郷は俺の真名を許しも無く勝手に口にした。北郷を斬る理由としては、充分だと思うが?」
「何!? お主の真名を勝手に口にしたと? というか、まだお主はお館に真名を許してはなかったのか!」
「信じないなら信じないで結構。ただ、誰が何と言おうと、俺は意思を変える気はない」
 俺は奥歯を噛み締める。たしかにこの耳で聞いたのだ。北郷の『おいおい、いい加減諦めろよ、"烈"』という言葉を。
「ふむ、お主の目は嘘を付いてる目ではないようじゃな」
 桔梗が俺の目を見つめて言う。
「……わかるのか?」
「当たり前じゃ、何年お主の師匠をやってると思うておる! ワシを見くびるでない!」
 桔梗は軽く俺の頭を叩く。……桔梗にとっては軽くだが、俺にとっては物凄く痛いんだが。
「全く、それにしても何故ワシに一言相談しなかったのじゃ? 勝手に謀反を起こしおって……」
「桔梗まで巻き込む訳にはいかないと思って。それに、女性は大抵北郷の味方すると思ってたから」
「お主、ワシをそんな目で見ておったのか」
 桔梗が若干低い声で言う。ヤバイ、怒らせたか?
「ワシはそれほど軽い女ではないわい! これでも未だワシは処じ……」
「待った! そんなことまで言わなくていいから! それに、その歳で桔梗が今だアレなのは、その性格というか、おっさんくさい言動が災いしてると思うんだ!」
「おっさんくさい言うな!」
「ぐえっ!」
 桔梗は俺の胸倉を掴んで揺さぶる。俺はなすすべも無く振り回され、目を回す羽目になった。
「全く、師に向かってなんということを言うのじゃ……」
 桔梗は呆れたように呟く。
「……あの、そろそろ本題に戻るべきでは?」
 あっけにとられて俺と桔梗のやりとりを見ていた普浄が、おそるおそる呟いた。

「で、これ以上お館の好き勝手はさせたくないというわけじゃな?」
「ああ。桃香は全く意識してないけど、北郷の行いは明らかに劉家をないがしろにした行動にしか見えないからな」
 俺は桔梗の問いに答える。
「桃香は『皆が笑って過ごせる世の中』を理想にしているが、元々は『漢王朝の再興』が目的だった筈。国名を『蜀漢』としたのもその表れ。ならば、北郷が好き勝手やってるのはおかしいんだよな」
「まあ、確かに最近のお館の行動は目に余るかもしれんのう」
「だから、俺は北郷を倒して桃香の目を覚まさせる」
「なるほどのう。しかし、勝算はあるのか? お主らだけでは無理ではないか?」
「……だから、蜀内の、北郷に良い感情を持っていないという連中を回っていた。魏に援軍を頼んでも、付け込まれて『漢の再興』は夢の跡になってしまうから」
「だが、駄目だったのだろう?」
「……」
 桔梗の指摘に、俺は絶句する。蜀には、腰抜けしか居ないと分かった時の悔しさがこみ上げてきた。
「まあ、そうじゃろうな。北郷配下の『忍び』が各地に散らばり、反抗しそうな者を見張らせているからな。下手すれば打ち首じゃて。現にワシも見張られておるしのう」
 ここで桔梗は聞き捨てならないことを言った。それを聞いていた普浄は慌て、桔梗に言う。
「厳顔殿。それはかなり拙いんじゃないですか?」
「そうじゃの。お主らを保護した事、もう既にお館に知られていような」
 桔梗は、大したことではないと言う様に、ぐいっと杯を傾ける。
「……そして、今俺らが話してることも、探っているだろうな」
 俺はそう言うと、いきなり剣を抜き、天井に投げつけた。しばらくして、その剣を伝って血が流れ落ちてくる。軽く飛んで剣を天井から引き抜くと、血を拭って鞘に収めた。
 普浄は驚いて声も出ない。しかし、桔梗は顔色一つ変えなかった。いや、既に顔色は酒で赤くなっていたが。
「ほう、気配を探れるようになったか。腕をあげたのう」
 桔梗は感心するように俺を見る。
「……師の教え方が良かったから」
 一度桔梗の元を去ってからも、稽古は欠かしていなかった。俺は、少しずつではあるが、以前よりも感覚が鋭くなってきているのを感じている。
「それはさて置き、実はワシもここのところ危なくなってきているのじゃ」
 桔梗は何事も無かったかのように話を続ける。
「ワシは、お館が以前と変わってきている感じがしたのでな。ちょっと探りをいれておったのじゃ」
 ここで一旦話を切り、桔梗はため息を吐く。
「焔耶を成都に向かわせたのじゃが、連絡が途絶えてしまってのう。おそらくお館の手の者に捕まったのじゃろう」
「北郷が以前と変わってる、だと?」
 言われてみれば納得できる部分がある。元々いけ好かない男だが、もう少しましな男だった記憶は俺にもある。でなければ、俺が蜀建国まで協力する訳が無い。
「そこでお主に話があるのじゃ。焔耶を救うのを、手伝ってはくれんか? 焔耶は乱暴者じゃが、ワシにとって大切な弟子。お主にとっても気心の知れた姉弟子であろう」
 確かに、焔耶は姉弟子であり、俺に良くしてくれた人だ。世話になった桔梗の頼みである以上、俺に断るという選択肢はない。
 それに、焔耶は北郷を嫌っていた。上手くいけば、味方になってくれるかもしれない。そのような打算も俺には有った。
「……わかりました。俺に出来る最大限の助力をしましょう」


*****


「何、厳顔の所に向かわせた仲間が、戻ってこないだと?」
 北郷は、『忍び』の一人の報告を聞いて、驚く!
「はい。三日前から連絡が途絶えました。おそらく、捕らえられたか、斬られたか……」
「確か、厳顔のところには劉禅が転がり込んでいたな。あいつは政府に楯突くつもりか?」
「しかし、厳顔配下の魏延はこちらに捕らえております。人質がいる以上、厳顔は動けないと思いますが」
「だが万一魏延を奪い返そうとするかもしれん。念には念を入れておけ」
「はっ! 承知しました」
 北郷の命を受け、その忍びは一瞬で去っていった。 
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