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リリカルなのは 3人の想い

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11話 林道 五也side

「(ヤバいヤバいっすよ!)」

「(早くなんとかしないと昨日と同じ目に合いかねんな…………)」

 現在俺と武藤は窮地に立たされている。
 相手は強力だ、回避不能、防御貫通効果付き、打開策を打ち出さなければ昨日の二の舞だ。

「五也くん、大輝くんどうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

「そそそそ、そうっす、なんでにゃいっす」

 どもりまくっている上に噛んでいる武藤の言葉に騙されるやつはいないだろう。

「そうなんだ。あ、もしかして喉が乾いちゃった?」

 バカがい、もとい素直すぎる子供がいる。
 正直なのはの将来が不安になった。

「いや、大丈夫だ。別に喉は乾いてない」

「あ、そうなんだ。じゃあ」

 なのはから自然な動作で差し出されたのは、クマのぬいぐるみだった。
 それを自然と武藤は受け取った。受け取ってしまった。

「え、えと? なのは? これって一体なんすか?」

 往生際悪く武藤がかまととぶる。

「ぬいぐるみだよ?」

「それはわかるんすけど、なんでこれを渡されたのかなーって」

「うん、あのね昨日はおままごとをしたから、今日はぬいぐるみで遊ぼうと思ったんだ」

「クハッ」

 あまりに予想通りの返答に、思わず天を仰いだ。
 仕方のないことなのかもしれない、なのははまだまだ子供で、恐らく同年代の男子と遊ぶのは初めてなのだろう。
 だからこそどうしても、遊びの内容が少女趣味全開になってしまうのだ。

「(やっべぇええええ! 詰んだぁあああ!)」

「(ああ……、昨日の悪夢が………)」

 この年代でおままごと、冗談抜きに死ぬかと思った。
 というかむしろ死んだ。途中から完全に記憶が飛んでいる。

「なのは、居るか?」

「あ、おにいちゃん」

 早くも意識を成層圏の彼方へ飛ばし始めたタイミングで、シスコンが登場した。
 差し入れのつもりか、手に持った盆には人数分のケーキと紅茶が乗せられている。

「仲良く遊んでるか?」

「うん! 今からみんなでぬいぐるみで遊ぶの!」

「そ、そうなのか」

 シスコンがチラリと視線をこちらに向ける。

「(救援要請救援要請!)」

「(トランプもしくはボードゲーム!)」

 なのはには見えない角度で、必死に口パクでシスコンへ意思疏通を図る。

「……………なのは、もしよかったら俺も加わってもいいか?」

「「……………!?」」

 何を言っているんだこのシスコンは!? その年になってぬいぐるみ遊びとやらに参加するつもりか!?
 あまりのシスコン度の高さに戦慄する。

「(なに考えてんすかあのシスコン!?)」

「(いや、なのはが許可しなければ…………)」

「うん! いいよ、おにいちゃんも一緒に遊ぼう」

 終わった、ここに青年1人と少年(中身は青年)2人が少女とぬいぐるみ遊びをするシュールな絵が完成することが確定した。

「だがなのは4人もいるんだ、どうせなら人数が多くないとできないことをしないか? 例えばトランプとか」

「「((おお!))」」

 自然な提案に思わず2人で感心した。

「え? でもお兄ちゃんってトランプって持ってたっけ?」

「(いや、持ってるっすよね)」

「(本人が持ってなくても、家にあったりするものだろう)」

「……………そういえば持ってないな、家にもあったかどうか……………」

「「((うおおおいぃいいいいいいい!?))」」

 提案したくせに自信なさげなシスコンに全力でツッコミを入れそうになった。

「(馬鹿! アホ! シスコン!)」

「(役立たず! 穀潰し! シスコン!)」

「……………とりあえずトランプを探してくる。あと後ろ2人あとで覚悟しておけ」

 去り際に不穏な言葉を残して、シスコンは姿を消した。

「お兄ちゃん! 変なこと言ったらダメだよ!」

 なのはが抗議の声をあげるが、シスコンの足音は順調に遠ざかっていく。

「ごめんね2人とも、お兄ちゃんが変なこと言って」

「別に気にしてないから、問題ない」

「大丈夫ッス、シスコンが変なのはいつものことッス」

「……………お前、案外言うな」

「? 何がッスか?」

「に、にゃはははは」

 否定できないのか、なのはは困ったように、取り繕うような笑顔を浮かべる。
 正直、俺はこの笑顔が好きではない、子供ならもっと無邪気な笑みを浮かべるべきだと言うのに。
 恐らくこの笑顔はなのはが自然と身に付けた、処世術のようなものなのだろう。
 他人にすぎない俺では出過ぎたことかもしれないが、取り繕うような笑顔ではなく、自然な笑顔でいられるように「なのは、トランプは見つからなかったがUNOならあったぞ」

「……………ええー」

 シスコンがまさかのタイミングでカットインしてきた。

「ん? どうしたんスか?」

「いや、ちょっとな…………、あまり好きな言葉じゃないのだが、“空気を読め”と言いたくなってな」

「シスコンにッスか?」

「まあな」

「しょうがないッスよ、シスコンなんスから」

「…………それもそうだな、所詮シスコンではな」

 武藤のもっともな発言に首肯しつつ答える。

「面白い話をしているな」

 下ろした首を上げようとしたとこで、上から頭を押さえつけられた。

「誰が、所詮シスコンだと?」

「「おぐぐぐぐぐ」」

 シスコンに上から体重をかけられ、首がどんどん下を向いていく。
 隣を見れば、武藤も同じように頭を押さえつけられている。
 はねのけたいとこだが、子供の体ではそれも叶わない。

「お、お兄ちゃん、やりすぎだよ」

「なのは、そうは言うがな…………」

 その光景を見かねたなのはが止めに入る。妹に弱いシスコンならば、あと数分もしないうちに解放されるだろう。

「そうなの! お兄ちゃんやめてほしいの!(裏声)」

「「……………」」

「おうぐおおおおおお!?」

 バカが1人自爆した。

「くっ、馬鹿力が」

 解放された俺は痛む首を回しながらぼやいた。

「五也くん、大丈夫?」

「俺はなんとか、だが……………」

「らめえええ! 首がもげちゃううぅうううう!!(裏声)」

「1人大分ヤバい気がする」

 いまだに裏声の武藤は、首の角度が人間の限界に挑戦している。
 どうやら裏声はなのはの真似のつもりらしい。

「……………私あんな声じゃないもん」

 声真似がお気に召さなかったらしく、可愛らしく頬を膨らませた。

「まあ、いいか。それよりUNOのルールでも確認しておくか」

 武藤は放置することを決め、UNOの箱へと手を伸ばす。

「ん?」

 そこで箱がまるで新品のように、ビニールのラッピングがされていることに気づいた。

「……………」

 新品のようにというより、明らかに新品だった。
 どうやらシスコンは家でトランプが見つからず、外まで買いに行ったようだ。
 それにしても、どこまで行ったか定かではないがたった数分で、今や下火のUNOを買ってくるとは……………このシスコンただのシスコンではない。

「しかし、UNOか、ずいぶん久しぶりだな」

「そうなの?」

「ああ、普段友人と集まった時は主にゲームだからな」

 スマブラシリーズにカービィのエアライド、その他にも色々なゲームで、醜い本気の潰し合いをしたものだ。

「……………」

「どうしたんだ?」

 返事がないことを不思議に思って、なのはの方を向いてみればその顔はどことなく陰のある暗いものになっていた。

「あ、ううん、なんでもないの」

 見られていることに気づいたのか、その表情はすぐにひっこんでしまった。
 見間違い、そう判断するほど鈍感ではないつもりだ。
 
「言いたいことがあるならハッキリ言った方がいい」

「えっ?」

 とは言え、相手の心を覗けるわけでもなく、正面から訪ねることしかできないのだが。

「ええっと……………、その……………」

 答えずらそうに、言葉を探すなのはを見てこのまま問い続けるべきか、ここは無理をせずに引くべきか悩む。
 正直ここで引くことはしたくない、ここで引けばなのははまた曖昧な笑みで誤魔化してしまうからだ。
 それが彼女のなかで当たり前にならないうちに、できることなら解決したいものだ。
 だとしたら、やはり多少強引にでもなのはの本音を聞き出すべきだろう。

「できれば話してくれないか?」

「ふぇ?」

 できる限り優しい声を出すことを意識してなのはに話しかける。

「いや、もしかしたら俺が知らず知らずの間になのはを傷つけるようなことを言ってしまったのでは「そんなことないよ!」」

 いきなりなのはが大声を出したことで、その場にいた誰もが動きを止めた。
 なのは本人も、そんな大声を出したことに驚いたようで、慌てて口元に手を当てる。

「ご、ごめんなさい……………」

 消え入るような声を最後になのはは俯いてしまう。
 今更引き下がるわけにもいかないだろう、今までのやり取りから彼女の心中を察するしかない。

 まずなのはの様子がおかしくなったタイミングは、友人つまり京介や黒木が話題に上がった時だ。
 といっても2人について具体的に語ったわけではないので、どちらかといえば“友人”という部分が重要なのだろう。

 次に妙に口ごもり、更には追求しようとしたとこ叫ぶような大声を上げた。
 だがその叫びには怒気はなかったように感じた。
 何らかの後ろめたさ、自己嫌悪、不安、なにより強い悲しみが声色から感じとれた。

 この2つの点を無理矢理、こじつけ臭く繋いで線にする。

「俺がなのはに会いに来ているのは他の友人と会うのを我慢して、無理をして来ていると考えているのか?」

「……………!」

 返事こそなかったが、大きく跳ねた肩が正解だと教えてくれた。
 先程の反応は、その可能性に行き着いたなのはが俺に対する後ろめたさ。
 その事を指摘して俺がこの家に来なくなるのではないかという不安。
 またひとりぼっちになってしまう悲しみ。
 とっさにその事を隠し、このままの関係を続けるような選択をした自身への自己嫌悪。
 出口のない感情の渦に耐えきれずに叫び声を上げてしまった、といったとこだろうか。
 だが、正直に言えば

「お門違いもいいとこだ」

 そもそも前提からして間違っている。
 現在京介達の居場所がわからない以上我慢もなにもないとか、四六時中あいつらといなければいけないわけではないとか、なのはといるのが新鮮だからというわけではない。

「俺は友人を見捨てるような趣味はない」

 京介や黒木辺りなら放っておいても問題ないが、なのはの方は違う。寂しがり屋でまだまだ精神的に幼い(小学生にしてはやたらと成熟しているが)彼女を放っておくことはできない。

「でも…………それって、同情じゃ…………」

「同情だが、どうかしたか?」

 切り返す言葉に、なのはの顔が泣きそうに歪む。

「なにか誤解してるようだが、そもそも、友人相手に同情の1つもしない方がおかしいだろう」

 京介の言葉になるが、自分と全く関係のない人物が死んだとこで同情できるやつはそうはいない。せいぜいが我が身にその災厄が訪れることを恐れる、または同情しているふりをする程度だ。
 結局人間は関係のあるものにしか情を抱けない。

「同情も友情あってこそだと思うがな」
  
「だったら…………」

「ん?」

 なのはを急かすことなく、聞いていると態度で示す。

「だったら………、五也君は私といて楽しい?」

 なのはが本当に、小学生低学年なのか疑いたくなる。
 しかし、困った質問だ。
 正直に答えるなら昨日は精神的に死ぬかと思った。
 当然そんなこと言うわけにはいかない、かといって嘘もつきたくはない。
 
「なら、いまから確認してみるか?」

 なのはの質問を微妙にかわし、床に放置されていたUNO拾い上げる。


 その後は武藤とシスコンも加わり、笑い声と黄色い叫びが止まらないほど盛り上がり、なのはも自然と先程の質問を忘れるほど熱中していた。 
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