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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第78話 少年のリビドーが炸裂するようです


Side 刹那

「くしゅっ!へくしゅっ!うぅ………誰かに噂されてますね。しかも、碌な気配がしない……。」


愁磨さんに『子供はお外に行きなさい!』と"剣の塔"を放り出され、魔法世界へ来てから数日。

私は力試しも兼ねて、愁磨さん達が何かやらかしそうな拳闘大会とやらに出る事にした。

拳闘と言っても武器も魔法も有りな上、危険攻撃なんて推奨されてるくらいの"死合い"の大会だ。

誰でも出る事は出来るらしいのですが、問題が一つ。


「……相方、どうしましょうか。」


そう、拳闘大会は二人一組のチーム戦。一人でも出られないかと受け付けている人に聞いてみたのですが、

断られてしまい、こうして当ても無く彷徨っている次第。傭兵でも雇いましょうか・・・。

と思ったその時、目の前にいかにも脳味噌が残念そうな二人組みの男が話しかけて来た。


「お嬢さん一人~?あ、もしかしてここ初めて?案内したげようか?」

「おいおいまだ子供じゃねぇか。お前相変わらず節操ねぇな!」

「あ?お前何言ってんだよ。こんな美少女なら将来有望だろが。今の内にお近づきにナットかないと!ね?」


・・・まさか、魔法世界に来てまでナンパされようとは思いませんでした。

ここが学園なら、既に愁磨さんが駆けつけて・・・ハッ!?ダメダメ、あの人に頼っちゃダメなんやて!

私は今、あの人ら止めようと頑張ってんねんから!!


「およ?聞いてる?もしかしてお高くとまっちゃってる系?」

「バッカ、お前旧世界じゃこう言うのを"ヤマトナデシコ"っつーんだよ!」

「………失礼します。私が用があるのは一人の方だけですので。」


いい加減馬鹿馬鹿しくなったので、二人の間を避けて行く。

ほぼ予想通り、私に話しかけて来た方の男が肩に手をかけ止めようとして来た。


「だーから待てってドゥハッ!」

「て、テメェ何すんバッハ!」


一人目を空気投げで気絶させ、文句を言い殴りかかって来た方も投げ飛ばし気絶させる。

周りを見ると・・・なんだかやんややんやとお祭り騒ぎになっている。・・・野良の賭け試合ですか。

全く、なんて街でしょうか。さっさと傭兵でも雇って、宿で待機してましょう。


「いやいや、お嬢さんお強いですな。どうかね、今夜月見で一杯。」

「………結構。私は目的以外興味が無いので。」


歩き出した私に、またしても男から声がかかる。無視して歩くが、それでもついてくる。

仕方なく一撃を入れて、さっさとおさらばしようと決断し―――振り返った所で、止まった。


「貴様………何者だ?」

「おやおや失敬だね。少なくとも、私は君の恩人と言う記憶の仕方をしているのだがね。

ああいや、勝手に世話を働いたと言えば正確かね?流石にまだ折ってはいないだろう?」


振り返った先。一番先に抱いた印象はローブを纏い、顔も見えない不届者。しかしよく見ると、そのローブは

揺らめき、所々が黒い湯気のように僅かに立ち昇っている。

見慣れない"闇"を纏った影。しかし、その言葉遣いと言葉の内容はほんの最近の覚えがある。


「貴様、まさか……!?」

「やぁお嬢さん。久しぶりだね。」


サァ・・・と晴れた闇の先。白と黒の派手な和服鎧に長い脇差。

いやらしい哂いを携えたそいつは、紛れも無く・・・魔軍師団長『"天我爆散"松永久秀』だった。

Side out


Side ネギ

刹那さんを探すのに手っ取り早く、かつ探し出せるまではこの街に滞在する事になってしまったので、

拳闘大会に出る羽目になってしまった。


「すみません、拳闘大会の申込み受付ってここでいいんでしょうか?」

「はい、こちらで間違いありません。では、こちらに出場されるお二方の名前と血判を。

それと、こちらが誓約書になりますので、よくお読みになった上で、同意されるようでしたら署名を。」

「ハッ、んなまだるっこしい事ええわ!」


渡された二枚の紙に、『ナギ・スプリングフィールド』と『犬上小次郎』と殴り書いてしまう小太郎君。

名前を変えているのは、勿論お尋ね者になってしまったからだ。

まぁここの辺りは賞金首と賞金稼ぎがわんさかしてるから、あんまり気にする事じゃないと思うんだけれど。


「それと、人探し……もとい、この中で見た事のある賞金首の情報はありますか?」

「はい……………確認取れました。『宮崎のどか』『早乙女ハルナ』の移民届けが

受理されております。」

「のどかさんとハルナさんが……!?い、居場所は分かりますか!?」

「お教えする事は出来ますが……。残念ながら、今の彼女達は賞金首ではありません。」


受付のお兄さんの言葉に疑問を持つ事数秒、コピー機(?)から出て来た紙を差し出され、

それを読むと・・・・・・よ、読めない。辛うじて分かる100万Dqと書かれた所からは嫌な予感しかしない。


「"下記二名を100万Dq返済まで『拳闘士団 グラニキス・フォルテース』付きの奴隷とし、その自由の一切を

帰属。並びにその間の指名手配を凍結し、二名の安全の保証をする"と、この様になっておりまして。

メガロメセンブリアの条例と伴っておりますので、捕まえたとしても賞金は出ません。」

「奴隷ぃ!?な、なにそれ!」

「分かりました。一応、そのコロッセオの場所を教えてください。」

「はい。先程の拳闘大会の話と少々被るのですが、そこで拳闘士として登録・試験があります。

責任者に話を通しておきますので、お忘れなく。はい、これが地図になります。」

「おおきに!行くでネギ!」


小太郎君が背中を叩いてきた事により、冷凍されていた僕の思考能力が蘇る。

・・・の、のどかさんが、どどどどどどど奴隷?ま、ま、ま、まさかいかがわしい服を着せられて

油ギッシュだったり筋肉モリモリだったりお肉ブヨブヨな貴族様的なアレ相手にいやらしい事されてるんじゃ!?


「だ………………………」

「ん?なんやt「ダメだァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

うぉわぁ!?うっさいわボケ!どないしたっちゅーねん!」

「だ、だ、だだってのどかさんが!のどかさんがのどかさんが!アレなアレな人相手にアレな事を!!」

「うわぁ………こいつダメだ。脳内がすっかり紫色になってやがる。」


千雨さんが何か言ってるけれど、全く頭に入って来ない。いやそんなことはどうでも良いんだよ!

一瞬でも早くのどかさんの所に行かないと!!

―――――――――――――――――――――――――――――
subSide のどか

「はぁ………。」

「コラ新入り!サボってないでとっとと終わらせな!そこ終わったら料理運びに行くよ!」

「は、はいぃい!」


な、なんだか治安の悪い街についてから数日・・・。

転移されて来てから暫くジャングルとか荒野とかを歩いてたら、ハルナが急に熱を出して、

お薬をこの街で探してたら親切な人がお薬をくれて、ハルナの様子が落ち着いて一安心・・・したところで、

薬代を要求されましたー・・・。しかも、100万・・・円?くらいのすっごい大金で、とても私達には払えず。


「いらっしゃーい!」

「い、いらっしゃいませー。」


こうして、バイト・・・じゃない。奴隷として働いて返しているところですー・・・。

でも、このまま働いても返せるのは十年以上先・・・うう、ネギせんせー、助けてください・・・。


「おぉう、フラフラする……大丈夫?のどか。ごめんね。」

「ハルナ!?まだ熱があるんだから寝てなきゃダメだよー。」

「うんにゃぁ、私のせいでこんな事なってんだからさ~?あの犬っぽいママさんにも怒られちゃったし。」

「分かってんなら三食分とっとと働きな!!」

「「はいぃぃーー!」」


噂の犬ママさん・・・奴隷長(チーフ)さんらしいけど・・・に怒られて、私とハルナはそれぞれテーブルに

注文された料理を持って行く。横目でハルナを見ると、明らかにフラフラしてる。

と、直ぐにバランスを崩して、歩いてたお客さん?にお盆ごと料理を・・・叩き付けた。


「ずぁっちぃぃーーー!!な、何しやがんだテメェ!!」

「あ、す、スミマセン……。直ぐに拭きます!」

「スミマセンじゃねぇよ、トロくせぇな!新入りか?自慢の髪と一張羅が汚れちまったじゃねぇか!」

「ギャハハハよく言うぜ!セットもしねぇし洗いもしねぇくせに!」


よたよたと汚れを拭こうとしたハルナを振り払って、文句を言うトサカ頭の人。

ひ、ひどい・・・!幾らなんでもあれはないよ!


「ん、おぉ?なんだよ可愛い子じゃねぇか。それに妙に弱々しいし……病弱って奴か?

ウヒヒヒッ、ウチの座長も良い趣味してんな!」

「オイオイ良く見ろ。まだ子供だぞ……。」

「わかってねぇなぁ!そういうのがアレな旦那達を喜ばせんだって!」


倒れたハルナを見て、いやらしい事を言い出す。・・・も、もう我慢出来ない!!


「おう、驚かせて悪かったなぁ嬢ちゃん。ホレ、汚した所綺麗にしてくれりゃもう怒んねぇからよ。」

「え、あ、あの……。」

「そ、そこまでです!やめてください!」

「おぉ?なんだ、またカワイコちゃんが出たな。」


ハルナを庇う様に立つと、私にも変な目を向けてくる変態さん。・・・うぅ、男の人って皆こうなんですか!?

いや、ネギせんせーと愁磨せんせーは違うけどー・・・あの二人は特殊だし。じゃなくて!


「ふぅん、ミヤザキ・ノドカねぇ。二人で100万Dqたぁ何やったんだか。」


変態さんが小さい玉を出すと、私の名前を呼んでくる。な、なんで名前を―――


「"拘束 宮崎のどか"」
バチッ!
「あうっ!?あぐ、あぁぁあああああ!?」

「の、のどか!?」


呪文を唱えられると、首輪が光って体中に電気が走ったみたいになりました。

息が出来なくて思わず倒れ込んでしまいます。


「これに懲りたら二度と歯向かおうなんて思うなよ!」

「ちょ、あんた!」

「あ?まだ分かってねぇのか。"拘束 早乙女―――」 
ドゴォォ!!


今度はハルナにさっきのをかけようとした変態さんが呪文を唱えている途中。

飛び込んで来た誰かに殴り飛ばされて、壁にめり込みます。

そして、助けてくれたその人は私に駆け寄ってきて―――

ギュッ
「良かった、のどかさん………。遅くなってしまって、すみません。」

「え……ネギ、せんせー?」


私を抱きしめてくれたのは、何故か凄く成長したネギせんせーでした。

Side out
―――――――――――――――――――――――――――――

「すみません、僕のせいで……。少し待っててください。」

「は、はいー…………。」


離れ離れになった時とほぼ変わりないのどかさんの様子に安心しつつ、壁まで吹っ飛んだ変態に振り向く。

こいつ、こいつは、まさか・・・・・・!!


「テメェら何モンだ!?いきなり殴りやがって!」

「この姉ちゃん達はオレらの仲間や!指一本触れんのも許さんで!」

「あぁ?仲間だ?寝惚けてんのか!そいつ等はこっちに100万の借金があるんだよ!

それを返すまではこっちの奴隷!言わば所有物なんだよ!」

「………そちらの言い分なんて知りません。ですが、一つだけ……。彼女に、今みたいな事や、

もっと酷いことをしたんですか………?」


自分でも驚く程薄暗い声が出た。一瞬怯んだ変態は、それでも頭を振って尊大に振る舞い、言い放った。


「ハッ、さぁどうだかねぇ?だけどな、所有者が所有物を好きにして良いのは当然だ「ああ、もう良いです。」

な、ん、だ………と……………!?」


今までで一番大量の魔力が僕から放出され、周囲の建物に亀裂が入って行く。つまりアレですか。

このまま行けばのどかさんの扱いが更に悪くなる、と。そんなの僕は許さない。なにより・・・!!


「巫山戯るな……!!この人は僕のものだ!!誰にも渡すつもりはない!!」

「え……。」

「ふぇ……///」

「あらあら、まぁまぁ。」

「お、男らしいやっちゃ……。」


僕が堂々と言い放つと女性陣は顔を赤らめ、小太郎君は目を輝かせ、変態軍団は『何言ってんの』と此方を見る。

腕の中ののどかさんは既に茹で上がっているが、今の僕は離すつもりはない・・・!!


「"ラステル・マスキル・マギステル! おお、神よ! 哀れな羊に祝福の裁きを! 三条九条の光持て!

断罪を!断罪を!断罪を! 貴様らは掌の上!"『天壌歌舞する天上の拳(ダーラッド・ヘヴンリィ・ヘヴン・ハルトゥス)』!!」

「ちょ、ま、なんだその魔法h――――
ズドォォォンンン!!!

僕が拳を振り下ろすと同時、上空に召喚された巨大な雷の拳が変態軍団を叩き潰し、飲み込んだ。

衝突した瞬間凄まじい雷撃が周囲に飛び散り、煙が晴れた所にはアフロヘアになった変態軍団がノビていた。

・・・威力は折り紙つきなんだけど、いつもこんな風になるんだよね。ギャグ用魔法なのかな・・・?


「よし……怪我はありませんでしたか?ハルナさん。」

「にゃはは、助かったよネギ君。怪我は無いんだけど、そろそろ厳しいかな~なんて……ね?」

「おっとと!って、凄い熱じゃないですか!こんな状態でなんで働いて……。」

「えっと、その………実はー…。」


復活したのどかさんが話してくれた所・・・どうやら変態軍団の話は本当で、ハルナさんが大変な風土病に

かかって、ここの人達(正確には座長?)に薬を貰って治して貰ったそうだけど、その薬が100万Dqする物で、

その代金を借金として背負わされ、返済方法として奴隷仕事に就かされた・・・と。


「おいおい、詐欺じゃねぇか。老人から毟り取るだけじゃ飽き足らず、いたいけな女の子まで手ぇ出すのかよ。

現実(リアル)どころか更にひでぇな。」

「しかも逃げりゃこの首輪がボンッ!て、趣味悪いなぁ……。どないすんねん、ネギ。」

「賞金首に逆戻りだけど……方法が無い訳でもないよ、小太郎君。」


僕が指差した先、壁に張られた広告には―――『拳闘大会 優勝賞金100万Dq』。

一石三鳥とは願ったり叶ったりだ。

………
……


「………で、お前らが拳闘士だぁ!?」

「はい、テストを受けに来ました。」


元々の目的だった拳闘大会出場の為の登録テスト。・・・来てみたら、受付があの変態軍団の隊長さん・・・

もとい、トサカさんだった。そして僕達を闘技場へ連れてくると、鼻で笑いつつ合格条件を告げた。


「まぁいい、ビジネスはビジネスだ。座長は訓練士に勝てたら勝てたら入団させてやるとさ。

だけど逃げるなら今のうちだぜぇ?アニキはつえぇからな!」

「ハッ、幾ら強いかてワイらに勝てるかっちゅーねん。」

「威勢だけは良いな!だがな、アニキはガキの頃あのサウザンドマスターをボコ殴りにしたっつー話だ!

まぁ死にゃぁしねぇよ。アニキ、出番ですぜ!」


トサカさんの呼びかけに、闘士用の出入り口からゆっくりと出て来る黒く大きな影―――

ほ、本当に父さんを子供の頃圧倒して、尚も強くなってる人だとしたら・・・・・望むところだ!!


「さぁて、どこのどいつだ?命知らずのガキはよぉ!」

「「……あれ?」」

「え…………て、て、て、テメーらはぁぁあああああああああああ!?」


と、奥から出てきたのは、最初に立ち寄った街の酒場で絡んで来た、ハゲマッチョもといバルガスさんだった。

・・・ああ、嘘か。でもまぁ、仕方ないよね。その手の嘘は言った者勝ちだし。

しかもこの人で高位魔法使いらしいしね。


「なんや拍子抜けやなぁ………。」

「まぁ、簡単に事が済むならそれに越したことは無いよ。」


一応礼儀として構える僕達に、バルガスさんはいやんいやんと首を振って、今にも逃げ出しそうだ。

だけど、そんな事は許されない。僕達の目的の為にも!


「行くよこた……じゃなかった、コジロー君!」

「あいよネ……ちゃうちゃう、ナギ!パッパと終わらすでぇ!」


同時、飛び出す僕達。結果は・・・まぁ、言うまでもないよね。かくして拳闘士となり、無事大会に

出られる事となった。

―――そして、大会当日。僕達の借金返済計画が始まった。

Side out
 
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