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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  落下予測

メンテナンス終了直後の午後三時に、まだログインしていないようだったシバの空っぽのホームで目を覚まして宿屋の機能もあるそこを神楽と発ち、央都アルンに到着したのはきっかり一時間後の午後四時だった。

凱旋門めいた巨門をくぐったレンとカグラを待ち構えていたのは、縦横にどこまでも連なっている古城めいた石造りの建築物の群れだった。

黄色いかがり火や青い魔法光、桃色の鉱物燈が列をなして瞬く様は、まるで星屑を撒いたようだ。

その明かりの下を行き交うプレイヤーのシルエットは大小統一感がない。妖精九種族が均等に入り混じっているのだ。

何度見ても飽きないその煌びやかな光景にしばし見入ってから、レンはふっと顔を上げた。

アルンの中にいれば、どんな場所でも見ることができる世界の中心が、そこに屹立していた。

レンの視線につられたように天を仰ぐカグラを横目で見ながら、レンは密かにこぶしを握り締めた。

───今度こそ

胸中で呟き、すぐさま意識をアルンに引き戻した。

意識を集中し、システム外スキル《超感覚》を発動する。すぐさま脳内に待ちの建造物や町並みが、緑色の輝線で三次元的に表示される。

さらに意識を深部まで潜らせると、数百にも上る光の輝点が出現した。

一つ一つの大きさはまちまちだが、その中でひときわ大きく、異彩を放っている光の点が一つ。

「どうですか、レン」

「うん、まぁ簡単だったね。クーもいるみたいだし、とりあえず皆無事みたい」

最後の言葉を聞き、ほっと胸を撫で下ろすカグラを横目で見ながら、さ~て、とレンは伸びをする。

「行きますか!」










「レン君~!もう会えないかと思ってたよ!」

のっけからハイテンションなリーファのふくよかな胸の谷間に埋没しながら、レンはふがふがと口を開く。

「ぼぐ、も……、会え、て嬉じいよ」

その隣、背後の巨大な黒狼の鼻先を撫でながら、黒衣のスプリガンは言う。

「クー、ありがとな、レン。こいつがいなかったら、今頃俺達とっくに邪神の腹の中だった」

「いやいやー、正直ギリギリだったけどね。間に合って良かった」

と。再開の挨拶を交わしつつ、一行はのんびりとアルンの東部目抜き通りを歩いていた。

その頭の横を、完全に登りきった朝陽がある。

アルヴヘイムの央都アルンは、円錐形に盛り上がった超巨大な積層構造を成している。

その中央には言わずと知れた世界樹が鎮座しているが、そこから東西南北に伸びる大きな通り。その東側大通りを、現在進行形で歩行している。

軒を連ねるNPCショップもほとんど全て開店し、逆に夜間営業の酒場や怪しい道具屋などは鎧戸にクローズドの札を掛けている。

週に一度の定期メンテナンス明けでモンスターアイテムの湧出(ポップ)がリセットされた直後だけあって、プレイヤーの通行は意外に多かった。

すれ違う、巨大な戦斧を背負う土妖精(ノーム)や、銀色の竪琴を携えた音楽妖精(プーカ)、薄紫色の肌を持つ闇妖精(インプ)などの多種雑多なプレイヤー達が連れ立って楽しそうに談笑しながら歩いている。

所々に配置されている石のベンチでは、赤い髪の火妖精(サラマンダー)の少女と青い髪の水妖精(ウンディーネ)の青年が仲睦まじく見つめあい、その反対側ではハンマーを持つ鍛冶妖精(レプラコーン)が露店を出して鉱物オブジェクトを一心に携行炉に放り込んでいた。

その先にある、高くそびえ立つアルン市街の表面には、薄いグレーの岩でできた建材とは明らかに異なる質感の、モスグリーンの恐ろしく太い円筒がうねりながら何本も伸びている。一本一本の直径は、軽く二階建ての建物ほどもある。

アルン中央市街全体を包み込むように這い回るそれらの円筒物は、実は木の根なのだった。

遥か地下のヨツンヘイムから、分厚い地殻を貫いて伸びて上がる根っこは、うねうねと曲がりながら次第に合流し、太さを増し、アルン市街の頂点で《世界樹》として一つになっている。

レンは天を仰ぎ見る。

根元部分からは、巨大という言葉では到底足りえないほどの太い幹が、真っ直ぐ上空に伸び上がっている。

苔やその他の植物に覆われて金緑色に光る幹は、高さを増すほどに空と溶け合い、薄いブルーに変わっていく。やがて幹の周囲を、白いもやが取り囲む。それは霧ではなく、雲。飛行制限エリアを示す雲の群を抜き、幹はなおも高く高く伸びていく。

そして、完全に空の青と混ざって見えなくなる寸前で、幹からは太い枝が放射状に広がっているのがどうにか見て取れる。

樹の頂点はアルヴヘイムの大気圏を突き破り、宇宙───もし存在するならだが───までも続いていてもおかしくはなかった。

しかし、その途中に《いる》のは分かっている。

姿も見えない。

声も聞こえない。

されど、だけれども、レンには感じる。

マイがそこにいる事を。

と、その時。

キリトの胸ポケットから勢いよくユイが顔を突き出した。

いつになく真剣な顔で、食い入るように上空を眺めている。

その端正な顔に浮かんでいるのは、驚愕、そして僅かな────

歓喜。

「お、おい………どうしたんだ?」

周囲の人目をはばかるように、小声でキリトが囁いた。リーファが首を傾げながらピクシーの顔を覗き込んだ。

しかし、ユイは無言のまま見開いた瞳を世界樹の上部に向け続けた。数秒間が経過し、そしてついに小さな唇から掠れた声が漏れた。

「ママ……、ママがいます」

「な…………」

キリトの顔がにわかに強張った。

「本当か!?」

「間違いありません!ママのプレイヤーIDと、マイのものもあります……。けど………」

「けど?」

「なんだか変です。ママのIDと同座標上に、もう一つのIDがあるんです」

ん?とレンはおざなりに耳を傾けていたユイの言葉に眉をひそめた。

もう一つのIDだって?

「ユイちゃん、そのIDって?」

レンの問いに、小妖精は困ったように小首を傾げる。

「判りません。単なるオブジェクトIDなのか、それともプレイヤーなのか。それらを識別する確認コードが付与されていないんです」

「付与されてない?」

謎は深まる一方。

さらに、それが自分達に見えていない、ユイだけの知覚領域の中で見えているとなると、不可解さ、そして不気味さは増していく一方だった。

「そんな事どうでもいい。早く行こうぜ!!」

グッ!と足に力を入れるキリトに、カグラの涼やかな───冷ややかな声が掛けられる。

「どうしようというのですか?」

「ど、どうって」

「雲より上は、今は不可侵領域となっています。私達の翅では、その先へ行くことはできません」

ギリ、とキリトの歯が鳴る。

砕かんばかりに噛み締められている。

「それでも、心意の力なら……」

それでも、何とか平静を装って吐き出された言葉を制したのは、クーを撫でていたレンだった。

「無理だよ。キリトにーちゃんの心意強度では、あの領域結界は破れない」

でも!とキリトが反論の言葉を叫ぼうとしたその時、ユイが再度の声を上げた。

「何か落下してきます!」

全員が、上を向いた。

相変わらず、天空には壁のようにどこまでも果てしなく屹立している世界樹の幹と、どこまでも高い青空があった。

朝陽が昇り切ったばかりの朝の空、そのずっと遠く。視力が許す解像度ギリギリのところから、何か陽光を反射する物が落ちてきている。

あれは?という呟きがリーファの口から漏れるより先に、ドン!という地響きのような音がアルンの街全体を揺らした。

舗装道路に小さなクレーターを作りながら急加速垂直上昇(ズーム)を開始したキリトは、見る間にその落下物と同座標上にいた。

数瞬遅れ、レンとカグラ、リーファも慌てて追いかける。

宙空に浮かび止っているキリトにやっと追いついたときには、彼の手には────

「……カード…………?」

リーファがポツリと呟いた。

確かにそれは、小さな長方形のカード型オブジェクトだった。透き通る銀色の表面には、文字や装飾の類は何もない。

キリトはちらりとリーファの顔を見た。

「リーファ、これ、何だかわかる……?」

「ううん……こんなアイテム、見たことないよ」

「カグラさんは?」

「私も、レンも同じです。クリックしてみたらどうですか?」

その言葉に従い、キリトはカードの指先を指先でシングルクリックした。

だが、ゲーム内のアイテムなら必ず出現するはずのポップアップ・ウインドウは表示されなかった。

その時、カードの縁に触れていたユイが言った。

「これ……これは、システム管理用のアクセス・コードです!!」

「「な………」」

レンとキリトが、絶句した。

「じゃ、じゃあこれがあればGM権限が使えるのか!?」

「いえ………システムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です。私でも、システムメニューは呼び出せないんです」

「……でも、これがあればレンが言う、不可侵になってるゲートを潜り抜けることは可能なのか?ユイ」

「…………可能だと思われま」

す、という最後のユイの言葉が放たれる前に、幾つもの出来事が起きた。

最初に、カグラが大声で、レン!!と叫ぶ。

その声に振り向こうとしたキリトの首に強烈過ぎる衝撃が走り、メキリという嫌な音を立てた。

続いて、弾かれたようにキリトの身体が空中から掻き消える。

黒い弾丸と化したキリトは、そのまま眼下のアルンの街並みの中に突っ込んだ。凄まじい破壊の音と悲鳴の不協和音が鳴り響き、土埃が天高く舞い上がる。

そこまでの事が、リーファが瞬きする間に起こったのだ。

あまりの事に、身動きする間もなかった。

耳に痛すぎる沈黙の後

「………………………」

スッ、と足を下ろした旧《冥界の覇王》、現《終焉存在(マルディアグラ)》は、冴え冴えとした漆黒の瞳の中に、どこか狂熱的な色を浮かべ

「寄越セ」

言った。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「前回に引き続いて、中々にカオスだね」
なべさん「いやぁ、それほどでも」
レン「誉めてはない」
なべさん「まぁてなわけで合流しましたが、ここからの展開の中で一つ謝りたいことが」
レン「おや、何だい?」
なべさん「リーファさん好きの人ホントすいません!」
レン「………………………………あぁ(察し」
なべさん「悪気はないんです。ただ書いてるうちに主人公ズが頑張りすぎて…………」
レン「言い訳はいらん。はい、自作キャラ、感想を送ってきてください」
──To be continued── 
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