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京に舞う鬼

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第二十七章


第二十七章

「一千万単位の報酬を。何に使ってるんだ」
「まあ色々と」
 実は何に使っているかは彼もよくわかってはいない。気が着いたらかなり減っているのがいつものパターンなのだ。ちなみに役はもっと何に使っているのかがわからないのである。
「酒か?女か?風俗でもそんなに使わないが」
「俺は風俗なんですか」
「他に何があるんだ」
「やれやれ。俺もそんなに女の子には不自由してませんよ」
「どうだか」
「けど、鱧ですよね。高いじゃないですか」 
 京都の鱧は馬鹿高い。そもそも京都の店自体が高い。京都で美味いものを食べようと思えば金を出さなくてはならないのだ。それで出て来る料理が味がない、と怒る者がいればそれは無粋、味がわからぬ田舎者なのだ。ちなみに織田信長も京都の料理を味がないと酷評している。そもそも尾張の生まれである信長に京の味が合う筈もないのであるが。この時は実は味噌は高価でそんなに大層に使われなかったが尾張、今の名古屋と言えば味噌である。味付けはかなり濃いのである。
「そんなの食べに行っても。それに一見さんは」
「わしがいる」
 だが警部は言った。
「だから安心しろ」
「結局警部が行きたいだけじゃないですか」
「ええい、五月蝿い」
 遂に開き直ってきた。
「とにかく行くぞ、店は任せろ」
「どうします?役さん」
「行くしかないだろうな」
 そうは言っても実は役も乗り気であった。
「祇園だからな」
 この言葉が何よりの証拠であった。そして席を立つ。
「その店は南座の側ですか?」
「おっ、知ってるのか」
「ええ、大体察しはつきます」
「よし、じゃあ行くか」
「遅れるなよ、本郷君」
「って、ちょっと」
 本郷が言うよりも早く警部も席を立っていた。そして事務所を出ようとする。
「参ったな、俺に選択権ねえのかよ」
「美味い鱧が食えるな」
「ですね」
 警部と役はそんな本郷をよこに楽しそうな顔で話をしている。
「やはり夏は鱧だ」
「はい」
「仕事が終わって一件落着したところでな」
「そしてその後は」
「どうするつもりかね?」
「祇園なんでしょ?」
 やっと追いついたかのように本郷が後ろからやって来た。今三人は玄関を出ようとしている。
「じゃあ。舞妓さんと一緒に一杯やりましょうよ」
「悪くないな」
「では行くか」
「はい」
 三人は玄関を後にした。そしてその足で鱧を食べに向かう。暑い夏の京都。そこでの戦いを終えた本郷と役のささやかな勝利の祝いでもあった。


京に舞う鬼   完


                  2006・7・2
 
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