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炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師

作者:BLADE
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”狩人”フリアグネ編
  十二章 「困惑」

 シャナは、深々と突き刺さった贄殿遮那を横に振るようにして、マネキンを破壊する。
「なかなか、苦戦してたみたいじゃない?」
 ふふん、とシャナは言う。これ以上ないって位のドヤ顔で。
 まぁ、あながち分からなくもない。タイミングとしては最高。美味しい展開だったしな。
「悪かったな。これでも俺なりに頑張ってたんだよ」
 何だか悔しくなったので、対抗するように小さな反撃をする。
「努力は認めるわ。流石に今のは危なかったけどね」
 そう言ってシャナは、街灯の上にいるフリアグネに言う。
「あのガラクタでお人形は品切れかしら?」
 相変わらずの、あからさまな挑発だが、フリアグネは余裕の表情で対応する。
「まさか。あれは余興だよ。勿論、宴はこれからさ」
 街灯から降りて、フリアグネが両腕を広げると、再び、薄白い炎が沸き上がった。
 またお人形かしら、と嘆息するシャナ。
 いや、あれはさっきまでのとは違う。
 それらは先程のマネキンとは違い、服を着ていた。
 いや、そもそもあれはマネキンじゃない。
 確か、アクションフィギュア、とか言ったっけ?
 その方向に詳しい訳じゃないから、あってるかどうかは分からないけど。
 だが、確かに見たことがある。

 藤ねえが土蔵に持ち込んだガラクタの中に、あれと同じのがあった筈だ。
あぁ、思い出した。そういえば、あれを土蔵でガラクタの山から見つけた時にビックリして叫び声を上げちまったんだよな。
「どっ、土蔵から死体が―――っ!?」
 ―――ってな具合に。
 あの後、遠坂に大笑いされたっけ………。
 全く、自分がその状況になかったから笑えたんだぜ、あれは。

「ふぅん、なるほどね。さっきのより楽しませてくれそうじゃない」
 シャナはそれらを見て嘲笑う。素晴らしい余裕だ。
 大方、さっきまでマネキンを粉砕し続けていたストレスを、格好良い登場で発散出来たからだろう。
 だけど、俺にはちょっとキツイ光景だよ。
 正直、不気味だ。全部、張り付けたような笑顔だし。
 ま、人形だから仕方のない事だけど。
 あれで顔が動いたら逆に怖いしな。
 全部、少女型の奴……か。相変わらず武装はしてないから、リーチで負けることはないな。
 むしろ状況的にシャナが最もリーチのある得物を持ってる事になるから、こっちに分がある。
 服はカジュアルな奴に、ゴスロリ、メイド、巫女、ナースにブレザーか。
 おいおい、水着の奴まで―――って、あれはスクール水着……しかも旧型じゃないか!?
 確かに絶滅して久しいのにテンプレの水着だけどさ。
 多分、アイツの趣味なんだろうな。
 なんだろうな、案外、悪い奴じゃない気がしてきた………。
「うふふ、おちびちゃん、ご期待には添えそうかな?」
「さあ? それはやってみないとね」
 さっきまでのと、大して変わらないもの、と一蹴するシャナ。
 がっかりした顔するが、すぐ立ち直ったフリアグネは戦闘の開始を告げる。
「さみしい感想だねぇ。それじゃあ、やろうか」
 フリアグネが告げたと同時に、三十ほどのフィギュアが襲い掛かってきた。
 シャナは、まず彼女の正面にいたナースのフィギュアを両断する。
 同時にナースの残骸が爆発。
 フリアグネの野郎。俺の時のマネキンは爆発しない仕様だったのに、シャナを相手にするときはキッチリ爆発する仕様にしてやがる。
 爆風で俺をやってしまえば余興にはならないってことか。
 ここに来て、未だ奴が全体の流れを握っている。
 戦術的には俺達が勝っていても、戦略的には奴に分があるって事だ。
 何か企んでいてもおかしくない。
 俺の時の二種類のマネキンのようにな。
 爆散したフィギュアの乱風の中、ゴスロリの懐に飛び込み、シャナは太刀を横に薙ぐ。
 完全に、シャナの独壇場だな。
 だけど俺としてはこのまま、突っ立ってるのも格好がつかない。
 フリアグネを牽制する上でも、俺が第二陣に控えておく必要があるな。
 とりあえず、投影をしておくか。
 この爆音の中ならシャナにもフリアグネにも気付かれないだろう。
 再び背に手を回す。
「投影開始―――」
 肯定を省略した夫婦剣が、再び手元に現れる。
 うーん、やっぱり酷い出来だな。分かっているとはいえ、あまりにも酷い完成具合についつい嘆息してしまう。
 その間もシャナは暴風の様に突撃していた。
 いや、端から見ればただ暴風の様だが、その剣技は華麗な舞の様だ。
 身の丈に迫る大太刀を小枝の様に軽々と振るい、風の様に留まることなく進み続ける。
 その様はひたすらに美しく、圧倒されてしまう。
 切り飛ばされ、火花と化しつつあるフィギュアを蹴散らした先には、遂にフリアグネの姿が見えた。
 一息でフィギュアの群れを突破したシャナは、逆袈裟に切り上げようと足を踏み切る。
 ―――捕ったか。
「っふふ……!」
 だが、そう思った俺の思いとは裏腹に、フリアグネは相変わらずの薄笑いを浮かべる。
 そして、やけに芝居掛かった身振りで宙にコインを打ち上げた。
 ―――そう、奴はフリアグネ。一癖も二癖もあるくせ者だ。
 シャナに油断が有ったかどうかは分からない。だが、少なくとも俺自身は彼女と合流したことで多少、油断してしまっていた。
 第二陣に控えていた俺が、警戒してなくてどうする!
 打ち上げられたコインは残像を残し、そして金の鎖と化した。
 鎖は真上からシャナに迫る。
 シャナは攻撃を中断し、座に鎖を迎撃するが、切れるどころか逆に鎖は大太刀の刀身に幾重にも絡み付く。
 あの野郎、わざと迎撃させたんだ……。
「まさか、
武器殺し―――」
 俺がそう言うのとほぼ同時に、駄目押しの如く、鎖の先端であるコインが刀身の平に張り付いた。
 シャナも気付いたのだろう、憎々しげに舌を打つ。
 さっきのマネキンの時もそうだったじゃないか。
 武装を封じることで敵戦力を漸減する。それがフリアグネのやり方だ。
 ―――なにやってんだ、衛宮士郎。
「御名答―――。『バブルルート』と言うんだ。その剣がどれほどの業物であろうと、こいつを斬ることは出来ないよ」
 鎖の端を引いているフリアグネが、頼んでもないのに解説をしてくる。
 だが、言われるまでもない。俺にはあの鎖は切断出来ないと、本能が訴えていた。
 刀剣に類する武装にとって、天敵ともいえるものだと感じる。ある意味、俺の本質その物の事だからだろうか。
 どちらにせよ、この状況では奴とシャナ、有利か不利かは一目瞭然だ。
 シャナの武器を封じられた。
 あれでは迂闊には動けないだろう。
 だが、フリアグネも武器を封じている間は身動きが取れない。
 お互いに行動を封じられた形になる。
 なら、自由に動ける手駒を持っているフリアグネが優勢だ。
 俺も一応は自由に動けるが、奴の戦力を考えると数で圧倒されている。
 だが、こうしている間にも周りのフィギュアはにじり寄ってきている。
 無茶を承知で俺が動くしかないか。
 行動しない限り、状況が悪くなることはあっても、良くなることはない。
 覚悟を決めて、夫婦剣を握り直す。
 すると、フリアグネは空いている手で袖口から、何かを取り出した。
 ハンドベル、それも結構な逸品だが。
 踏み出そうとした足を止め、目を凝らす。
 ただのハンドベル―――、な訳はないか。
 フリアグネの事だ、あれも何かの宝具だろう。
 いったいどんな宝具というのだろうか?
 そう考える俺を差し置いて、シャナは足裏を爆発させて突撃する。
 斬撃主体の武装としては封じられても、切っ先が生きている限り衝角としては使える。
 ―――だが、迂闊だ。
 見るからに、多彩な宝具を使った搦め手を得意としているであろう敵に、単身で突撃するなんて。
 そんな俺の不安は的中し、間に入ったフィギュアの後ろで笑うフリアグネ。
 奴は、勝った、と言わんばかりに芝居掛かった仕草でハンドベルを鳴らした。
 手に持ったハンドベルの音は周りのフィギュア達と共鳴しているように感じられる。
 ―――嫌な予感がする。
 ミステスとしてのこの身体が、あの音は危険だと告げている。
「下がれ、シャナ!!」
 何が起こるかは分からないが、自分の直感を信じてシャナに叫ぶ。
 同時に、夫婦剣を投擲。
「なに!?」
 フリアグネから驚愕が漏れる。
 それは、何に対する驚愕か?
 企みが看破された事か。
 それとも、俺が夫婦剣を投擲したからか。
 いや、そんな事はどうでも良い。
 今はシャナを助ける方が先決だ。
 突撃してくるフィギュアと、シャナの中間地点で夫婦剣を爆破する。
 すると、同時にフィギュアも爆発した。
「――グ、あうッ!」
 爆風と炎によってシャナは地面に叩き付けられる。
 無論、それは爆心付近に位置する俺も例外ではない。
 同様に路面に投げ出された俺だが、今更ながらに戦慄が走る。
 ―――つまりは、そういう事だったんだろう。
 フリアグネは、あのフィギュア共の爆破をもってシャナを仕留めようとしていたのだ。
 何故、フィギュアは爆発したのか?
 恐らく、あのハンドベルの音に共鳴したフィギュアは、元の存在の力に還元されて爆発するのだろう。
 その威力は見ての通りだ。
 原理的には壊れた幻想と似ているところが有るように思える。
 前へと突撃していたシャナは、足裏を爆破して逆噴射をかけていたようだ。
 負傷はあるようだが、致命傷ではない。
 壊れた幻想のお陰で、爆発の威力自体はいくらか減衰させたしたな。
 しかし、いかに壊れた幻想でも、完全に相殺は仕切れなかった。
 俺のよりも爆発を至近で受けたシャナは、未だ衝撃から立ち直れずにいた。
 ―――不味い!
「逃げろ、シャナ!」
 立ち上がるよりも先にシャナに叫ぶ。
 しかし、フリアグネは衝撃から立ち直りきれないシャナに、さらにフィギュアの多重爆破を見舞った。
「―――っ、うぐ!」
 形振りにも構わずに、地面を転がるシャナ。
 そのあまりにも強力な威力は、封絶を揺るがせている様な錯覚を覚えさせた。
「はは、どうだい? 素晴らしい威力だろう、私の『ダンスパーティ』は。燐子を弾けさせて、爆弾にする宝具さ。鐘を鳴らすだけで敵が葬られる。僕は何もせず鐘を鳴らせば良い。ふふっ、優雅な宝具だろう?」
 得意気に笑うフリアグネ。
 紛れもなく、対軍宝具相当の威力がある。しかも、あの口振りだと燐子の残弾が尽きない限り無制限で攻撃可能ってことか。
 ―――流石は、狩人と言われているだけはある。
 どうやら真名は伊達じゃないってことか。
 一筋縄ではいかない、それどころか宝具を駆使した奇策を使ってくる。

 所詮、戦闘なんて何処の世界でも同じ様な物だ。
 紅世の徒に詳しくない俺にすら、奴の強さを思い知らされる。
「くそッ!」
 立ち上がらなければ。
 これ以上、シャナをやらせてたまるか。
 地面に伏せてしまったシャナの状況を確認しながら、立ち上が―――
「―――っ?」
 再び爆発。
 しかし、今度はシャナの付近ではない。
 気付けば俺は宙に投げ出されていた。
「なに―――が。ッか、は――!」
 受け身を取る間も無く、路面に叩き付けられる。
 あまりの衝撃に息が出来ない。
 いや、爆発だけじゃない。落ちたときに頭を打ったのか、意識も遠ざかっていく。
 いや、今はそんな事は些末な事だ。
 薄れる意識をなんとか繋ぎ止める。
 起き――ない、と。
 腕を立てて、上体を起こそうとする。
 あの質量の物体の爆発だ、普通の人間ならタダではすまない。
 手榴弾ですら、あのサイズで致死範囲は半径約五メートルに及ぶ。
 まぁ、それは破片手榴弾の場合であるが。
 爆破『も』出来るというだけであって、あの燐子共は最初から爆弾として作られた訳ではないらしい。
 爆発しても破片が撒き散らされる様な事はなかったからな。
 現状をなるべく客観視して、意識の回復をはかる。無理にでも頭を働かせ、千切れかけていた意識の糸を繋ぎ止める。
 どうやら両腕は千切れる事なく、まだ付いているようだ。
 腕の感覚はないが、思いの外にすんなりと身体は持ち上がってくれた。
 が、地面に立っている感覚がない。
 持ち上がった?
 いや、持ち上げられた。
 目の前には愉悦に顔を歪ませるフリアグネ。
 どうやら、俺は今、フリアグネに首を掴まれているらしい。
 地面に足はついておらず、俺はただ無意味に足をバタつかせていた。
 首を掴んでいる手を剥がそうとするが、剥がせない。
 当たり前だ、自分の身体も持ち上げれない腕に、それを掴みあげる物を動かせるわけがない。
 すると、先程までフリアグネの背後にいたシャナが動き、視界から消える。
 いや、地面がスライドしたみたいに動いた。
 どうやら、フリアグネは俺をシャナに突きつけているようだ。
「――中には何が、あるのかな?」
 バカな奴だ。詰めが甘いんだよフリアグネ。
 この期におよんで、お前はやっぱり狩人だよ。
 それは称賛に値するけど、優先順位を間違えたな。
 脅威にもならない俺よりも先に、シャナを排除すべきだったんだ。
 シャナにはいつでもトドメを指すことができる。
 その油断が命取りだったんだよ。
「残念だったな、フリアグネ。お前の負けだ」
 奴の腕を剥がそうとしていた手で、奴の腕を掴む。
 姿が見えない為に、確認は出来ないが今頃シャナは姿勢を落として踏み切る準備をしている筈だ。
 チェックメイトだな、フリアグネ。
 この状況、俺が枷になって思うように動けないだろう。しかも、シャナの体躯だと、俺の影から奇襲が出来る。
 彼方より爆音、シャナお得意の突撃であることは見えずとも分かった。
 しかし、いつまで経ってもシャナの攻撃は来ない。
「今、君の考えている事を当ててみようか? 『何故、攻撃が来ない』違うかな?」
「………」
 あえて返事はしてやらない。それが例え図星でもだ。
「沈黙が美徳、とは限らないんだけどねぇ。まぁ、良いよ。なら君の眼で直接見ると良い」
 腕を持ち変えて、俺の向きを変えるフリアグネ。
 奴の腕を掴んでいた俺の腕は、情けない程あっさりと剥がされる。
「――――っ!?」
 信じられない光景が広がっていた。
 シャナは大太刀は俺ごとフリアグネを両断する事なく、寸前に刃を止めていたのだ。
 どうしたんだ、シャナ。
 ―――話が違うだろ。こういう展開も予想していた筈だ。
 だが、それは彼女とて同じなのからシャナは驚きと戸惑いを隠せないようだ。
「シャ―――ナ?」
 その瞬間、封絶で既に静止している空間に沈黙が流れる。
 その一瞬の間に、フリアグネは俺を連れて飛び上がった。
 グンッ、と視界が急上昇する。
「は―――はは、ははははは!!」
 狂った音程で笑うフリアグネ。
 この事態が奴にはたまらなく可笑しいようだ。
「ミステスと宝具を天秤にかけたつもりだったんだけどね、まさかフレイムヘイズが刃を止めるなんて。ははは! 可笑しくてたまらないよ!」
 刃を躊躇で止めていたシャナの顔には、色深い後悔があった。
 それは怒りよるものだろうか。
 あるいは自分自身への失望か。
 そんな事には興味もないのか、フリアグネはただ笑う。
「アラストールのフレイムヘイズ。まだ戦う気があるのなら、いや、ミステスが惜しいのなら、街の一番高い場所まで来るがいい。最高の舞台を用意して待っているよ!」
 俺は足をバタつかせ、腕を剥がそうとする。無駄なことだ。そんなことはさっきも試したじゃないか。
 第一、離れる事が出来たところでどう着地する。
 絞首刑のように宙に吊られた俺には、ただシャナを見ている事しかできなかった。
 そんな俺達の様を見て、嘲笑するフリアグネ。
 もはやこの場に用はないと言わんばかりに、封絶が解かれる。
 それと同時に、あのハンドベルの音が鳴り響いた。
 再び動き出す世界。遠ざかっていくシャナ。その姿を中心に、残っていたフィギュアが一斉に爆発した。
 ビルは砕け、路地は炎で埋まる。
 だが、シャナは動かなかった。
 シャナを飲み込まんばかりに溢れかえる炎。
 それを見ているしか出来ない俺。
 すると、闇に沈んでいくように俺の意識は刈り取られていった。 
 

 
後書き
皆様、お久しぶりです。
今回の話はタイトルに非常に悩みました。
というのも、元々は前話と今話と合わせて1つの話だったのですが、なんとなくの思い付きで分割したからです。
何か、他に良いタイトルがあれば随時募集中でございます。

恐らく、年内最終更新となります。次回は新年にお会いしましょう。
ではでは。 
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