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和姉

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第一部
第一章
  和姉

「和姉、クッキー食べる?」
「あ、いる。あんたが作ったの?」
「ん。さっき焼いた。」
あたしの姉はとにかく変わってる。ってこんなこと言ったらお前はどうなんだって言われそうだけど、とにかくあたしの姉は変わってる。
これは、結構前の話しなんだけど・・・。

 「和姉なんで、うちの親はあんな仲悪いのに離婚しないのかな?」
「離婚してほしい訳?さぁね。まぁ、ああ見えて仲良いからじゃない?」
「ああ見えて・・・か。確かにねー。」
うちの親はいつも揉めている。でも、時々、ごく稀にびっくりするぐらい仲が良く、二人でどっかに出かけては、数時間後、険悪な雰囲気を連れて家に帰ってくる。仲がいいのか悪いのか。あと、家が壊れるんじゃないかと思うくらい暴れたりする。両親とも幼い頃から柔道、空手道をやっていたみたいだから、殴り合いに発展すると、見てる方からしたら本当に危なっかしい。でも、二人ともほぼ無傷。姉が言ってたけど、大抵はお互い寸止めなんだって。寸止めって知ってる人は知ってると思うけど、すっごい疲れるんだよね。

「あ、別に離婚してほしい訳じゃないけど、和姉は幼い頃そーゆーこと考えなかったの?。」
「別に。まぁ、うちの母親が独りじゃ生きてけないってのもあるんだろうけど。」
「え、どういうこと?」
「だから、母さんは仕事しないから。」
「・・・でも、離婚してから働けばいいじゃん。」
「あの人が働くか?ないな。」確かに・・・。
「あ、え、でも。」
「よし。じゃあ、語ってあげよう。」
「え、あ、はい。」
「まず、昔の日本人女性はとにかく男性に尽くしてた。今の女性は自分で働こうと思えばいつでも働ける。要するに女性の立場が変わって、経済力のある母親が増えたってこと。ここまでオッケ?」
「オッケー。」
「じゃあ、うちのあんな母さんが働き始めたとして、どうなるかは大体想像が付くよね。言っちゃえば、離婚は金持ち女性の特権だね。まぁ、離婚して新しい相手を見つけて寄生する手もあるけど、うちのあんな母親を相手に出来る人は少ないだろうね。って、こんなことを言うと『甘いな。』って、世界から言われるんだろうけど。」
「甘いって?」
「ガキは所詮こんなことしか考えられないってことさ。大人がうちらをバカにするってこと。」
「ふーん。」
「でも、日本で離婚が増えたのは女性の収入が関わってるのは間違いないと思うよ。良かったね。うちは安全だ。」
「安全って・・・。やっぱ、表現凄いね。」
「そぉお?まぁ、あんな母親みたいになるなよ。」
「母さんみたいにはなれないよ。なりたいとも思わないけどさ。」
「じゃあ、アタシみたいになるなよ。」
「なんで?和姉は立派じゃん。」
「今時、十七でこんな生活してる奴なんてそうそういないよ。」
あたしの姉は中学生の時にケータイ小説を書き始めて、高校生になったと思ったら本出版して、売れて、高校辞めて、色んなサイトや出版社飛び回って、毎日夜遅くまでパソコンいじっている。
「えー、でもなんか特別って感じでカッコいくない?」
「そうかぁ?小説なんて書こうと思えばいつでも書ける。うちは家庭内状況がちょっと変わってっから色々体験できたし、結構お金かけて育ててもらったし、親も妹も相当変わってるけど優しいし良かったよ。」
あたしも姉も中高一貫の私立学校に通っている。いや、姉の場合は通っていたになるのか。まぁ、さっきの話を聞いただけじゃうちの家の良さが分かんないだろうけど、両親ともにあたし等にはなんだかんだ言って超優しいし、ちゃんとここまで育ててもらったんだから感謝しないとね。
「そうだね。でも、なんで族に入ったの?」
「あー、あれは別。仲間は悪い奴じゃないし、みんな結構な事情抱えてっからさ。恰好が格好だから変な目で見られる時もあるけど、もともと人助け目的だったんだし。かっこよくね?バイク好きな女が七人、町のために活動中!なんてさ。」
「確かに毎朝五時くらいからこの町を清掃してるのは凄いし偉いなって思うけど、他のチームと喧嘩するのはなんかヤダな。」
「そうだな。まぁ、分かんなくもないけど、仕方ないんだな。女対女だし、そこまで強ぇ奴いやしない。」
「そうじゃなくて・・・。ほらなんて言うか。」
「姉が暴走族なのは嫌?」
「別に嫌じゃないけど・・・。」
「けど?」
「・・・。」
「フッ、あんたは中学生だろ、そんな顔すんな。笑ってろ。」
「へ?」
「よし、このコンクールで優秀賞以上とったらきれいな布買いに行こうな。」
「え、いいの?」
「ん。それとも、ミシン欲しいか?アイロン?」
「え、そんな高価なものは遠慮します。」
「顔に出てるぅ。まぁ、優秀賞とれる作品なんて書けないけどな。」
「そんなことないって。」
「でも、よく考えたら、族の女が小説書いてるなんて笑えるよな。」
「そうかな?いや、笑えるどころじゃない。それ、エッセイにすれば?」
「そんなことしたら炎上するか、嘘だと思われてシケシケになるかのどっちかじゃね?」
「そうかなぁ?」
「そんなもんだよ、きっと。書いてみなきゃ分かんないけどさ。」



 「あ、このクッキー美味。」
「ホントっ!うれしー。」
「フッ、妹にこんなに美味しいもの貰ったら、次のコンクールマジで頑張んないといけないな。」
「へへ、ミシンよろしくね。」

 
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