| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

皇太子殿下はご機嫌ななめ

作者:maple
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第32話 「燃える漢の赤いやつ」

 
前書き
幼年学校はもうだめかもしれない……。
 

 
 第32話 「ダメ人間賛歌」

 ラインハルト・フォン・ミューゼルだ。
 はっきり言っておこう。
 俺に女装趣味はない。
 すべてはあの皇太子の陰謀だ。
 みんな皇太子が悪いんだ。そうだ。そうに決まっているっ!!

「自覚のないラインハルト様のお言葉でした」
「キルヒアイスまで、そんな事を言うのか~」

 どうしてみんな信じてくれないのか……。
 わからない。わからないんだ。
 それにしても最近、キルヒアイスが皮肉っぽくなったような気がする。
 自分は被害を受けてないから、のん気にしているのだな。
 それならば!!

「ラ、ラインハルト様……。ドレスを手にどうなされるおつもりです?」
「キルヒアイス。お前も着るんだぁ~っ!!」
「うわー。誰か助けてくださーい。ラインハルト様がご乱心をなされたー」
「お前も女装させてやるぅ~。一緒に恥を掻かせてやろうかぁ~」

 部屋の外に逃げるキルヒアイスを追いかけた。
 途中で幼年学校の同級生とすれ違う。
 どいつもこいつも呆れたような目をしやがってぇー。

「キルヒアイスを捕まえるんだ。これを着せてやる」

 そう言ってドレスを掲げると、同級生達が腕まくりして、よし任せろと言って協力してくれる。
 ノリのいい連中だ。
 ほどなくして捕まってしまうキルヒアイス。
 ふふふ。さあ着ようか……。
 捕まったキルヒアイスが泣きそうな目をしてる。

「お、お止め下さい。ラインハルト様」
「問答むよー」

 ドレスを着せ、化粧まで施して部屋の外に突き出す。
 外から聞こえる歓声。
 ふふふ。これで君もぼくの仲間だ。

 ■フェザーン ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ■

 同盟側から、捕虜交換の返答があった。
 ヨブ・トリューニヒトはまだ、フェザーンに到着していない。
 にもかかわらず返答があった。
 これをどう考えるべきか?
 交渉はイゼルローンを通じてせよ。と言っても良かったが、同盟側の弁務官も交代した事だし、交渉の申し出を受けることにする。
 しかし交渉をしているこの弁務官代理が、また無能だ。
 帝国もそうだが、同盟の人材不足は深刻だな……。

「では、捕虜の受け渡しは、イゼルローン要塞で良いですな」
「フェザーンではいけませんか?」

 こいつバカかっ。
 何を好き好んで、フェザーンでやらねばならんのだ。
 ましてや、双方合わせて百万人を越えるであろう捕虜を、乗せてくる輸送船。その大量の船をいったいどこに、停泊させておくつもりだ。
 そして百万人をどこに置いておくつもりなんだ?
 右から左に動かす訳には行かないんだぞ。
 その点で言えば、イゼルローンにはその設備がある。
 攻略戦が起こるたびに、増援艦隊が派遣され、その乗員を住まわせるだけの部屋もある。百万人を許容できるだけの、容量があるのだ。

「フェザーン中のホテルを借りる資金を、同盟側が負担してくれるのでしたら、それでも宜しいが。一体いくらぐらいになるか、見当も付きませんな」
「そ、そんな大金は……」
「でしたら、イゼルローンしかないでしょうな。その際には、部屋代を徴収しませんから、ご安心を」
「自治領主閣下は、ご冗談がお上手ですな」

 慌てて追従を見せる弁務官代理。
 本気で部屋代を取ってやろうか? 宰相閣下であれば、なんと言っただろうか?
 意外と辛辣な物言いをされたかもしれん。
 それとも……目の前で計算機片手に、部屋代を計算されただろうか?
 実際に掛かる費用を、目の前に突きつけられて、ようやく理解するタイプだな。
 仮に一ディナールとして、五十万人で五十万ディナール。
 百なら五百万ディナール。とゼロがドンドン増えていく。
 いったいそれだけの予算が、出てくるものなのか?
 弁務官代理ともなろう者が、その程度の計算もできんのか……。
 それとも帝国側が全額負担してくれるとでも、甘えているのか?
 世の中、そこまで甘くない。

「とまあ、こんな事がありまして、捕虜の受け渡しはイゼルローンという事になりました」
「ま、妥当なところだな」

 宰相閣下が画面の向こうで、呆れたような表情を浮かべている。
 なんと言おうか、ごくごく当たり前と思えることが、分かっていないような連中だと、考えておられるのだろうか……。
 一般常識が通じないとでも言おうか?
 なにかがずれている。
 妙な解釈をする。自分に都合が良い事ばかり考える。
 虫の良い思考をしている。
 それはまるで……バカな門閥貴族の連中と同じだ。

「フェザーンに来てみて、分かった事があります。腐っているのは帝国だけではありませんな」
「選挙のたびに、攻めてくるような連中がまともなはずはあるまい」
「民主共和制とは、いったいなんでしょうかね?」
「理想や理念は立派なんだが、運用するのは人間だからな。そうそううまく行かないもんだ。まあ人間なんか、そんなご立派なもんじゃねえし」

 運用するのは人間だ、か。
 まあ確かに、人間はそれほど大したものじゃない。
 だらしないし、みっともないし、情けない。

「しかしだったらどうして、民主制なんてものができたのでしょうか?」
「そりゃあ~お前、他人には一方的に完璧さだとか、理想だとかを求めるからさ。てめえ自身のことは棚に上げ、他人には偉そうな物言いをしたがる。そんな人間が多いからだ」
「それが理由ですか?」
「ま、そんなもんだろ。選んでやった。票を入れてやった。だから自分には好き勝手に言う権利がある。そう勘違いしたがる奴も多い。多数決とか、衆知を集めるなんてものは、後付けの理想論だ」
「そんなもんですかねー」
「はるか昔から、人物がいない。とか戯言をほざいてきたもんだ。人物がいないなら、自分が立てよ。どいつもこいつも汚いとかほざくなら、てめえ一人でも綺麗に生きてみろって。現に帝国も同じだろ? 改革が必要だ。そう誰もが思ってきたが、実際にやったのは、片手であまるぐらいしかいねえ。ルドルフが悪いと言って動いたのは、アーレ・ハイネセンだろ。あいつが動いたから、同盟ができた。そいつがやらなくても、いずれ他の誰かがやったさ、とか、ほざく奴はただのバカだ。そんな奴の意見を聞いて、なんになる」

 それは分かる気がする。
 不平不満を漏らすのは、誰でもするが、実際に動くのはごくごく少数だ。
 自分の理想を形にするのは、大変だ。
 しかし他人の行動を貶すのは、簡単で楽だからな。
 水は低きに流れる。楽な方に流される。
 同盟の民衆が個人個人が、しっかりと考えて行動するより、政治家を貶す方が楽で、その結果自分の頭で考えようとも、行動しようともしなくなる。
 民主共和制も専制君主制も本質は同じだ。
 結局、上が考えて行動するしかない。
 下の意見を汲み上げないのではなく。汲み上げるような意見がないのだ。
 届かないのではなくて、届けようとはしないのだ。
 自分の考えや意見をしっかりと考え、届ける。それができるのであれば、自分で動いた方が早い。自分が立った方が確実だ。

 ■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■

 切れて真っ黒になった画面。
 それを見ながら、ふと考える。
 民主共和制と専制君主制。どちらが良いとも悪いとも言えない。
 言う気もない。
 俺はルドルフもアーレ・ハイネセンの事も嫌いじゃない。
 もちろんラインハルトの事もだ。
 なんだかんだ言っても、原作で実際に動いたのは、こいつらだからな。
 理由はどうであれ、帝国を変えようと動いたのは、ラインハルトだった。
 他の奴じゃない。
 ラインハルトだ。

「考えてみれば、俺が改革に乗り出したのも……こういう持って生まれた性格のせいかもな」

 あいつの行動を批判するのは、簡単だが。だったらお前が動けよと言いたくなる。
 そう言いたくなる性格。
 それが俺の原動力なのかもしれない。
 あ~あ、俺もたいした奴じゃねえな。ま、自覚はしていたが。

「皇太子殿下っ」
「なんだ?」

 ブラウンシュヴァイク公爵が、息を切らせて部屋に飛び込んできた。
 いったい何事だ。
 何か問題でも起きたのか?

「リッテンハイムがっ。ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム候爵がぁー」
「何があったっ!!」
「専用機を買ってしまいました」
「はあ?」
「MSです。MS」

 ちょっと待て。
 リッテンハイム候が自分の専用機を、買っても良いじゃねえか?
 別に問題はあるまい。

「一人だけ抜け駆けしやがって~許せん」
「なに言ってんだ? 欲しけりゃ卿も買えば良いじゃないか」
「殿下。ブラウンシュヴァイク公爵家にふさわしい機体は……」
「ちょ~っと、まったー」

 ブラウンシュヴァイク公が騒いでいたかと思うと、リッテンハイム候爵が部屋に飛び込んでくるなり、叫びやがった。
 まったくどいつもこいつも。
 欲しけりゃ買えよ。
 誰もダメとは言ってないだろ。

「おのれーリッテンハイム。一人だけ買いおってからに」
「ほほう。我がローゼン・○ールが羨ましいのかね。そうだろうそうだろう。あの機体は素晴らしいからな。スタイルといい、色合いといい。我がリッテンハイム候爵家にふさわしい」

 そーかー?
 あれ、そんなにいいかあー。
 俺とは趣味のセンスが違うのだな。
 ギ○ンが一番人気だしな。
 ザ○が一番だろ?
 おらがザ○は日本一。
 いやいや違う。銀河一だ。
 ところで、リッテンハイム候爵よ。
 両手を広げて、天を仰ぐんじゃない。妙に芝居がかった動作だな。
 門閥貴族特有だよな、こういうのってさ。

「あんな鍵爪のどこが良いのだ!!」
「あれはファンネルというのだ。自動追尾装置付きの浮遊砲台なのだよ」

 頭痛くなってきた。
 帝国を代表する二大貴族が、専用機の事で揉めるとは思ってもいなかった。
 しかも開発局の連中、あれを本気で実用化するつもりなのかよ。
 ファンネル。
 意味ねぇー。
 しかしながら、ブラウンシュヴァイク公爵。
 ドリルと鍵爪は男の浪漫だぞ。
 ハッ! いかん。おれも浪漫派に染まっている。
 ぐぬぬ、なんてこったい。

「皇太子殿下っ。ぜひ、我がブラウンシュヴァイク公爵家に、ふさわしい機体を選んでくだされ」
「皇太子殿下のお知恵を頼るなど、卑怯だぞブラウンシュヴァイク公!!」
「ええい、だまれー。殿下ー」

 もうなんて言ったらいいのか、サ○ビーでいいんじゃね。
 あれ、逆襲のシャアにでてきた赤いやつ。
 個人的にはブラウンシュヴァイク公には、ピ○ザムに乗って欲しかったんだが……。
 そして「やらせはせん。やらせはせんぞ」と言って欲しい。
 似合いそうだ。
 ぽちぽちと端末を操作して、映像を出す。
 画面に広がるサ○ビー。

「こいつはどうだ」
「おお、この存在感。そして重量感。肩の盾がいいですな。これにしますぞ」

 はい決定。
 ブラウンシュヴァイク家の専用機は、サ○ビーになりました。
 何か疲れた。

 ■宰相府 クラリッサ・フォン・ベルヴァルト■

 宰相閣下が机の上で、ぐったりとなされています。
 先ほどまでのブラウンシュヴァイク公と、リッテンハイム候の騒動には、私も疲れてしまいました。専用機ぐらい自分で選ぶべきです。

「殿下、大丈夫?」

 マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー様が、ぐったりしてる宰相閣下の頭を撫でた。
 こんな幼い少女に慰められるほど、閣下のご様子は疲れ切っているように見えるのでしょう。
 おかわいそうな閣下。
 ただでさえ、お忙しいと言うのにっ。
 瑣末な問題など、持ち込んでもらいたくない。
 痛切にそう思います。

「殿下、コーヒーをお持ちしました。そして疲れたときは甘いものですよ」

 そう言ってアンネローゼ様が、チョコレートケーキを持ってきました。
 おお、これはっ。
 プリンツレゲンテントルテ。
 はるか大昔にバイエルンの摂政王子、プリンツ・ルイトボルトのために作り出されたというトルテ。一見華やかなのですが、意外とヘルシーな一品。
 中々やりますね。

「ま、それほどでも~」

 こういうところがなければ、アンネローゼ様は理想の寵姫なのですが……。
 肉食系の性格が、全てを台無しにしています。
 前に一度、アンネローゼ様とラインハルト様のお父上から、連絡が来た事があるのですよ。
 開口一番。いきなり、アンネローゼは暴れてないかと、きました。
 いったい家でどんな感じだったんですか?
 あのせっぱ詰まったような物言いは、こちらも心配になるほどでした。
 そこでアレクレア様とアンネローゼ様の関係をお話いたしますと……。

「ああ、もうだめだー」

 絶望に青ざめた表情を浮かべ、絶叫されました。
 その途端、通信が切れてしまいましたが、もしかして今頃、自殺しているんじゃないでしょうね?
 いやですよ、そんなの。
 一度調べさせておきましょう。
 その方が良いです。きっと。ですが……。

「三角関係の物理的解決は、よそでやってくれ。ま、我が家じゃないからどうでもいいが……。育て方を間違えた。二人とも」

 とはどういうことでしょうか?
 ハッ、まさかラインハルトくんも、ですか。
 似た者姉弟なのでしょうかぁ~っ!!
 なんと恐ろしい。 
 

 
後書き
キルヒアイスも巻き込まれてしまいました。
かわいそうなジーク。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧