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魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-

作者:炎狼
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温泉

 
前書き
本当にごめんなさい
ええ、わかってます更新が遅すぎるのです。
その辺はどうにもいえません。

とりあえずはギャグ回ではありませんがほのぼの回です
どうぞー 

 
「温泉旅行?」

 聖が食堂でヴィヴィオ、なのは、フェイトと食事をしていると、向かいのテーブルに座るはやてが唐突に切り出した。

「これまた随分と急だな。それに今の時期にそんなことしてて平気なのかよ?」

「まぁそれもそうなんやけどな。でも使えるときに使っとかないともったいないやないか。幸い今度の休日は皆オフやし」

 はやては胸ポケットからチケットを取り出す。

「ほら、団体様ってあるやろ? スバル達に聞いてみたら行きたがってたし、たまの息抜きぐらいええと思うで?」

「ふむ……。なのは、フェイトお前らはどう思う?」

「聖の言うことはもっともかな、さすがに今の時期は危ない気がするよ?」

「そうだね。もしもってこともあるし……」

 なのはとフェイトはそろって難しい顔をする。

 確かにスカリエッティやガジェット、ナンバーズたちがまた襲ってくるかもしれないこの状況下で、遊びに行くというのは安易に容認できることではない。

「だ、そうだが?」

「ぐぬぬ……。あ! そういえばまだいっとらんかったな~。ちなみにこの温泉施設混浴やで?」

 混浴、という言葉を聴いた瞬間なのはとフェイトが固まった。だが聖とヴィヴィオはそれに首を傾げるだけだ。

「混浴……って本当はやてちゃん?」

「嘘じゃないよね?」

「あったりまえやないか~。で、どうする? 行きたくないんならええんやで?」

 二人の静かな問いにはやてはにんまりと笑いながら答えた。その顔はもうしてやったり感が半端ではないほど滲み出ている。

「おいはやてお前なにを……「「行く!!」」うぉい!?」

 聖がはやてを嗜めようとした瞬間、なのはとフェイトが立ち上がりながら聖の声を遮りながら言い放った。

 ヴィヴィオはそれに驚いたのか、体を跳ね上がらせた。

「何言ってんだお前ら! さっき行くべきじゃない的なこと言ってたじゃねぇか!?」

「え、えっとそれはそのー……よくよく考えてみればいいかなーって。ねぇなのは?」

「う、うん! ほら、スバルたちもがんばってる事だしご褒美的な? それにヴィヴィオもいきたいよねー?」

 しどろもどろになりつつ、フェイトから振られたなのはが今度はヴィヴィオに振る。するとヴィヴィオはキョトンとした表情になり、

「おんせんってなぁに?」

「温泉って言うのはね、とっても大きなお風呂のことだよ! ヴィヴィオはお風呂大好きだよね?」

「うん! おふろだいすきー!!」

 ヴィヴィオは万歳をしながら喜びをあらわにした。その様子を見たはやては聖の方を向くと、

「娘さんは行きたそうにしてるで? ひ・じ・り・ぱ・ぱ?」

「ぐ……。はぁ……わかったよ。行けばいいんだろ」

「よし! ほんなら次の休日まで準備しといてやー」

 それだけ言うと、はやてはその場から立去っていった。それを見送るなのはとフェイトに聖が声をかけようとすると、

「ああっと! そろそろお昼休みも終わりだから午後の訓練に行かないと!!」

「わ、私もまだデスクワーク残ってたから早く終わりにしないと!!」

 二人はそそくさと食堂から去っていった。残されたヴィヴィオはまだお昼を食べているが、聖は口を半開きにしつつ、小さく呟いた。

「子供使うのは反則だろうよ……」

 



 そして旅行当日。

 六課の前にはフォワード陣とロングアーチスタッフ、各部隊隊長、副隊長が集まっていた。その中には当然、聖とヴィヴィオの姿もあった。

 さらにそ彼らの前には、大型のバスが三台ほど並んでいた。するとはやてが皆の前に立ちなにやら話し始めたが、聖はというとなのはに耳打ちした。
 
「なのは、今日俺らがこれから行くところってどの辺だ?」

「えっとね、クラナガンから三時間ぐらいの山中にあるところだって。私も行ったことないんだけどね」

「随分と山奥だな……」

「でもその辺りは温泉地として有名だから何もないってことはないよ」

 なのはとの会話を聞いていたのか、フェイトが補足した。だが彼女の目の下には僅かにクマがかかっている。

「フェイト、昨日遅くまで調べてただろ?」

「え!? な、なんで?」

「目の下クマできてるし、欠伸も結構してたしな」

 聖が指摘するとフェイトは慌てて手鏡を取り出して確認する。その様子がおかしかったのか聖は小さく吹き出した。

 笑われて顔を真っ赤にして俯くフェイトに聖の手を握っていたヴィヴィオが聖を見上げながら問う。

「パパ。フェイトママぐあいわるいの?」

「んー? いいや具合は平気だよ。ただ少しあつかったんじゃないのか?」

 肩をすくめながら聖は小さく笑った。

 すると前でしゃべっていたはやてが皆に号令をかける。

「ほんなら皆出発やー!!」

 テンションマックスのままの号令に何人かは引いていたものの、ノリの良いスバル達などはそれにしっかりとのっていた。

「やれやれ……テンション高いこって」

 苦笑しながら聖もフェイトたちとバスに乗り込んだ。





「う、動けん……」

 苦しそうな聖のうめきがバスの中でもらされた。

「大丈夫ですか聖さん?」

「お、おう。なんとかな……結構きついけど」

 心配そうなエリオが前の座席から覗き込むと、聖は頷きながらかえす。因みに何故聖が動けないかというと、

「「「……」」」

 彼の両肩を枕にしてなのはとフェイトが眠っているのだ。しかも膝の上にはヴィヴィオが横になっている。

 聖たちが座っているのはバスの一番後ろの席、およそ6人ほどが乗れる座席だ。ヴィヴィオがいるので広い方がいいだろうというはやての配慮で、ここに座ることになったのだがそれがまずかった。

 聖の隣に座るのをなのはとフェイトは一歩も譲らなかったため、二人の間に聖が入る形となり、最初にフェイトが眠り、次になのはが眠った。

 ヴィヴィオはというと、二人が眠ったあとも起きていたがやがて疲れたのか、現在に至る。

 ……つーかこいつ等めっちゃいい匂いすんだけど!! なんだこれが女の子の匂いってヤツか!?

〈妄想も大概にしないと殺されますよ?〉

『わかってるけどしょうがねぇだろうが! めっちゃ近いんだからよ!!』

 聖の心を読み取ったかのように、安綱が念話を送ってくるが、その声は若干冷たく感じられた。

〈お二人とも聖様と違い疲れているのです。そこをしっかり支えてあげなさい〉

『随分と他人事だなおい!』

〈他人事ですから〉

 そう告げた安綱は、また黙り込んでしまった。それに歯噛みしながらも聖は固まったまま動くことができなかった。

 ……早く着いてくれー。

 心の中で嘆息する聖だった。




 そんな聖から離れ前の座席に座るはやてはその様子を見て、これまたにんまりと笑っていた。

「フッフッフ。やっぱこれぐらいせんとおもろくないからなー。がんばりやー聖君」

 心底楽しげにくつくつと笑うはやてを見ながら、通路を挟んだ反対側の席に座るヴィータがシグナムに告げた。

「なぁシグナム。はやてかなり楽しんでるよな?」

「……うむ。白雲には悪いが今回は犠牲になってもらうしかあるまい」

「かー……、アイツも大変だなー。でもまぁ両手に花状態だからいいのか?」

「どうだろうな」

 シグナムはまぶたを閉じながら苦笑交じりに答えた。

「とりあえず手ぇ合わせとくか。南無」

 ヴィータは聖の方を向きながら静かに手を合わせた。




 六課を出発してからおよそ三時間後、一行は目的地である旅館に到着した。

「ほんなら皆、部屋はさっき配ったプリントとおりやから、荷物置いたら好きに過ごしてええでー」

 バスを降りた皆の前に立ったはやてが告げると、それぞれ旅館に入っていく。その最後列にはなのはとフェイトに手を握られ、笑顔を浮かべているヴィヴィオの姿があった。

 だがその三人の後ろには四人分の荷物を持ち、色々と悟ったような瞳をした聖がいた。

 何せここまでほぼずっと、なのはとフェイト、ヴィヴィオの枕代わりだったのだ。疲れているのだろう。

「なんや……軽い罪悪感に苛まれとるんやけど」

 はやての呟きにため息をつく守護騎士一同だった。



 部屋に到着した途端、聖は床に突っ伏した。

「つかれた……いろんな意味で……」

 その姿を見てなのはとフェイトは苦笑い、ヴィヴィオは心配そうに見つめている。

「つーか随分と日本風な旅館なんだな。部屋も畳だし」

「確かこの旅館の先代の人が地球出身だったらしいよ」

「なるほどねぇ。そう考えると結構ミッドって地球と繋がりがあるんだな」

 突っ伏すことをやめ、ゴロゴロと転がりながら聖は関心の声を漏らす。すると、

「コラ聖、お行儀悪いよ」

 荷物を置き終えたフェイトが聖をたしなめた。

「お前は俺の母さんか」

「そうじゃなくて、聖がそういうことをするとヴィヴィオが真似しちゃうでしょ」

「へいへい、わかりましたよ。まったくフェイトママは厳しいなぁヴィヴィオ?」

 起き上がりつつ、聖はヴィヴィオを膝の上に乗せながら問う。

「フェイトママきびしー!」

「だってよ」

「もう! ヴィヴィオを使うのはダメ!」

 抗議するフェイトは頬をぷくっと膨らませる。しかし、二人の姿を見つめていたなのはが口を開く。

「はいはい。二人ともそこまで! せっかくきたんだから楽しまないと! まだ夕飯までは時間があるからお風呂に行かない?」

「そうだなじゃあ行ってみるか。言っておくが混浴はしないからな」

 釘をさすように聖が告げると、

「「うそ……でしょ……!?」」

「驚愕の言葉をハモらせんな! つか、当たり前だろ……。さすがに風呂は無理だ」

「一緒に寝てるのに?」

「服を着てるからアレは……しかたない」

 二人と同じベッドで寝ていることを思い出しつつ、若干顔を赤らめながら聖は告げた。

「むー……」

 だが二人は未だに不服そうだ。だが聖は腕を組みながら、

「と、とにかく! 混浴は無理だ!! 俺がキツイ!」

 額に汗をかきつつ、口早に告げた聖はそのまま部屋を後にした。




「あー……、何で体を休めるために来てんのに地味につかれるんだろーな」

〈それは聖様がヘタレだからです〉

「ぐぬ……」

 旅館の廊下を安綱と話しながら歩く聖はうなだれていた。

「前々から思ってたけどお前なんでそんなに俺に辛辣な訳?」

〈そうですねぇ……戦闘面では頭が回るくせに、いざこういうことになると頭が回らなくなることでしょうか。あとは無意識に女性を意識させるような行動をとる所がイラつくと言うかなんというか〉

「……俺そんなことしたっけ?」

〈はぁ……そういうところもですね〉

 疑問を浮かべる聖に対し、安綱は心底あきれたような声を漏らしている。だが聖は未だに何のことか分かっていないようである。

〈それで夕食までどうするおつもりですか? ヘタレで天然ジゴロな聖様〉

「なんか変な尾ひれが付いた気がするんだが?」

〈気のせいです〉

 しれっとした空返事を返す安綱に若干の疑問を抱きつつも、聖は口元に手を当て、

「とりあえずは、風呂行くか。男湯に入ってればさすがにそんなことはないだろ」

〈だといいですねぇ〉

 聖は男湯に向かった。



「っとここか」

 聖が立ち止まった前には紺色と赤色の暖簾がかかった戸があった。そこから少し離れた場所にはオレンジ色の暖簾がかかった戸があった。

 どうやらあちらが例の混浴風呂のようだ。

「こんなところも日本らしいな」

〈そうですねぇ。あと先ほど見かけたのですが、どうやら混浴をするには予約が必要のようです〉

「そうか……助かったぜ」

 ほっと胸をなでおろす聖だが、その後ろから、

「「……そんな」」

 呆然と言った感じのなのはとフェイトが声を漏らした。

「うおわぁ!? いつの間に来たんだお前ら!」

 二人の突然の声に飛び上がりながら聖は上ずった声を漏らしてしまった。

「まさか予約が必要だったなんて……」

「聞いてないよー……」

 先ほどの聖以上にうなだれる二人は本当に残念そうだ。だがしかし、

〈ああでも今夜は特別に事前の予約なしで入れるそうです。先ほど仲居さんが言っているのを聞きました〉

「ばっ!?」

 安綱が言ったことに対し、なのはとフェイトの目がギラリと光る。

「それ本当!? 安綱!!」

〈ええ。間違いありません〉

「「よっしゃあ!!」」

「お前らキャラ変わってるぞ!?」

 見事なハイタッチをする二人を見ながら聖はツッコミを入れる。しかし、なのはたちはそんなことはお構いなしにヴィヴィオの手を握りながら。

「じゃあ私達はお風呂はいるね! またあとでね聖君!」

 それだけ告げて三人は女湯に消えていった。

「なんてこと言ってくれてんだよ安綱!」

〈これぐらいは構わないでしょう。それに聖様、お父上も申していたでしょう? 人生は甘くないと〉

「ああ、そうですね言ってましたね。だけど親父もまさかこんなことを想定してはいないと思うがな!」

〈黙りなさい。いい加減覚悟を決めなさいヘタレ〉

「……もういい。どうにでもなれ……」

 若干自棄になりながらも聖は男湯に消えていった。




 温泉からあがった聖はかなりすっきりとした表情をしていた。

「うん……やはり温泉はいいな。清々しい気分になる」

〈何言ってんですか。女湯の二人の会話にヴァイス陸曹と聞き耳を立てていたくせに〉

「……違うぞアレは違う決していやらしい意味ではなく。本当に二人が混浴したいのかと言うのを確認したくてだな」

〈アア、ハイハイ。ソウデスネー〉

「完全に軽蔑してるよな!? 違うからね! ヴァイスはどうかしらねぇけど俺は本当に違うから!!」

 すると、

「アレ? 聖さん! もう温泉入ったんですか?」

 スバルを先頭に、新人達四人がやってきた。

「よう……元気そうだなお前ら」

「そういう聖さんは随分とやつれてますけど大丈夫ですか?」

「おう……自分のデバイスに軽く軽蔑されただけだ……」

「「「「?」」」」

 聖の様子に首をかしげる四人と一匹だった。

「お前らも温泉か?」

「はい。夕食前には済ませておこうと思って」

「そうか、じゃあまたあとでな。あとキャロ、今回は男湯に行かない方がいいぜ。ヴァイスが入ってるからな。お前らもちゃんとキャロ見張っとけよ?」

「「わかりました!!」」

 ティアナとスバルはビシッと敬礼をし、了解の意を表した。だがキャロの方は首をかしげながら、

「ねぇエリオ君。どうしてヴァイス陸曹がいるとダメなの?」

「え!? そ、それはなんていうのかな……。と、とにかくダメなんだよ!!」

 あたふたとしながらキャロに説明しようとするエリオを見守りながら、聖は部屋へと戻っていった。




 夕食を終えた聖はなのは達と廊下を歩いていた。ある一角に差し掛かったところで、聖は不意に声をかけられた。

「聖君! ちょっとやらへんか?」

 声の主ははやてだ。

 はやてが持っているのは卓球のラケットだ、そして彼女の前には卓球板がある。すなわちやろうとは卓球のことである。

 彼女は浴衣を肩まで捲くり目はやる気に満ち満ちていた。すると聖も、

「いいぜ……やってやるよ」

 彼もまた浴衣の袖を肩まで捲くりながら近場にあったラケットを掴むと、はやてに対峙した。

「ルールは1ゲームを先にとった方が勝ちや。ええな?」

「望むところだ」

 聖はにやりと笑い構えを取る。対しはやても球を持ちサービスの構えをとる。

 そして二人の間にシャマルが入り、

「それでは試合開始です!」

 試合開始の合図を告げた。

「そりゃあ!」

 掛け声と共にはやてがサーブを打ち込む。球は鋭く聖の打ちづらいところに入るが、

「あまい!」

 聖は半歩後ろに飛ぶと見事にそれを打ち返す。

「なんの!」

 打ち返された球をはやても難なく捕球するとドライヴをかけながら打ち返す。だが聖はそれを読んでいたかのように球の先に回りこむと、

「ふっ!!」

 息を強く吐き出し卓球板ギリギリのところに球を打ち込む。鋭く入った球にはやては反応することができず、逃した。

 二人の対戦にその場の全員が息を呑む。何せ今までの出来事がほぼ一瞬だったのだ、息を呑むのも頷ける。

「やるやないか聖君」

「お前もなはやて」

 二人は互いに小さく笑う。そしてはやてはまたサーブを打つために構える。

「せやけど……」

 言った瞬間、球が聖のコートに突き刺さる。

「!?」

「……本番はこれからや」

 にやりと笑いはやてが聖を見据える。だが聖もそれに笑いながら、

「上等!」

 二人の対戦は始まったばかりだ。




「はぁ……はぁ……」

「はっ……はっ……」

 二人の対戦が始まりおよそ一時間後、二人は肩で息をし汗を流しながらにらみ合っていた。得点は聖のマッチポイント。

「凄いね二人とも」

「うん、卓球でこんなに時間がかかるなんて見たことないしね」

 なのはとフェイトは手に汗を握りながら二人の対戦を見守っていた。

「次で終わりにしてやるよはやて」

「どうやろな……私もまだ諦めてへんで」

 聖の宣言にはやてが小さく笑いながら答えると球を浮かせ、サーブを打つ。その球はかなりのスピードだが研ぎ澄まされた聖の感覚で捕らえられぬものではなかった。

「はっ!」

 またも鋭角に球を飛ばす聖だが、

「その狙いはもう見飽きとるでっと!!」

 はやてはそれを予測し軽くそれを切り返す。

「そうか……よっ!」

 切り返された球も捕球しようとする聖。しかし、スリッパのためか足が滑った。

「しまっ!?」

 足を滑らせながら何とか返したものの、入った球はゆるゆるの超チャンスボール。これをはやてが見逃すわけがなく、

「もらったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 渾身の力をこめて球が打ち出される、だがはやては聖の顔を見た瞬間、背筋に悪寒が走った。

 聖は笑っていたのだ、はたから見たら完全に取れないであろうこの状況でも、聖は笑みをこぼしていた。

 ……まさか、わざと!?

「気付いたみたいだなはやて! だがもう遅いぜ!!」

 聖はまっすぐに飛んでくる球を見据えると、体勢を低くし、目にも留まらぬ速さで腕を振りぬく。

 打球はしっかりとはやてのコートに入り、はやてもそれを打ち返そうとするが、

「その打球……消えるぜ」

 聖が告げた瞬間、はやてが捕らえたはずの球が消え、はやてのレシーブは空振りに終わった。

「勝者、白雲聖くん!!」

「っしゃあ!!」

 告げられた勝利に聖は大きくガッツポーズをとった。周りからも拍手が巻き起こった。それだけ白熱した試合だったのだ。

「いやー、完敗や。強いなー聖君は」

 はやても拍手しながら聖の元までやってきた。その顔に負けた悔しさはなく、清々しいものだった。

「お前もなはやて。久々にいい試合ができたぜ、だけど汗かいちまったな。寝る前にもう一回風呂にでも……」

 だがその言葉がまずかった。

 風呂と言う言葉を聴いた瞬間フェイトとなのはの瞳がギラリとひかり、

「じゃあお風呂にレッツゴー!!」

 聖の手を引いて一気に駆け出した。

「しまったあああああ!?」

 後悔に顔をゆがめる聖だがもう遅かった。あっという間に聖は連れ去られ見えなくなった。因みにヴィヴィオは新人達やザフィーラが相手をしているため今回はいない。

 その様子を見送りながらはやてはにやりと口元を歪ませた。それを確認したシグナムは、

「主はやて、これも貴女の作戦ですか?」

「んー? 何のことやシグナム。そんなことより私達も温泉いこか」

 シグナムの問いを軽くあしらい、はやてはにこやかに温泉へと向かっていった。




 俺の名は白雲聖。皆さん既にご存知だとは思うが現在俺は旅館の混浴風呂に入っている。いや、入っていると言うよりは投げ込まれたと言う方が正しいのかもしれない。

 なにせ到着した瞬間有無を言わさず例の二人に浴衣を一気に脱がされパンツ一丁で放り込まれたんだ。しかし実際パンツではいるわけにも行かないので、パンツを脱ぎ近くの岩場に現在は置いている。

 いや、俺のパンツはどうでもいいんだ。問題なのは現在のこの状況だ、誰か助けてはくれないだろうか。いや無理だな。

「……どうすればいいんだ」

 内心で悶々としながら聖は湯面に顔をつけぶくぶくと息を吐く。

 そんなことをしていると脱衣所と温泉を隔てる戸が開く音がした。なのはとフェイトが入ってきたのだ。

 聖はそれに気付いたものの、顔を上げようとはしない。

「えっと聖? 何をしてるのかな?」

「ブクブク(息を何秒止められるか試してるんだ)」

「何を言ってるのかわからないよ……」

「ブクブク(じゃあ気にするな)」

 フェイトの問いに聖は答えているものの、お湯に顔をつけているためブクブクと空気が漏れる音しか聞こえない。

 ……いかん、さすがに息が限界だ!

 なのが達が入ってくる前から湯面に顔をつけて息を吐いているためか、通常よりも早く限界が来たようだ。

 ……だめだ! もう無理!!

「ばはぁ!!」

「うわぁ!?」「ふぇ!?」

 いきなり顔を上げた聖に二人はビクッと飛び上がる。

「はぁはぁ……死ぬかと思った……」

「だったらやらなきゃいいのに……」

 あきれた声をもらすフェイトに視線を送ることはなく、聖はずっと前を向いたままだ。

「あれ? 聖くんなんでまだ目瞑ってるの?」

「あのなぁ……お前らの裸を見ないようにするためにきまってんだろ? それともお前らは同い年の男に見られてもいいのか?」

「……別に聖くんなら……」「私も別にいいのに……」

 二人ともごにょごにょと何か言っているようだったが、聖はそれに気付かない。

「はぁ……じゃあ聖くん。もうちょっと温泉の中心行って貰っていいかな?」

「中心? 別に構いやしないが……」

 聖は言われたとおり、温泉の中心部に近いところに行く。さすがにこの時ばかりは目を開けているが絶対に後ろを振り向かなかった。

「この辺か?」

「うん。じゃあそのままでいてね」

「?」

 なのはの声に疑問を感じていると、不意に聖の背中に二つの軽い重みがかかった。

「これで目を瞑らなくてもいいでしょ? 背中だから気にすることないし」

「……お前らがそれでいいならいいよ」

 嘆息しながらも聖も了承した。そして三人は互いに背を預けたまま温泉につかる。

 数瞬の沈黙の後、聖が口火を切った。

「ところで、お前らに聞きたかったんだけどよ」

「ん?」

「何?」

 疑問を浮かべる二人に聖は大きく息を吸い、二人に聞いた。

「お前らが大切に思ってる人……例えばはやてや自分達の家族がとんでもない秘密を隠していたらどうする?」

「私は……考えてからもし間違ってたらその人を正してあげたいかな。それでその人と一緒に解決方法を探してあげたい」

「私も同じかなー。お話すればきっと何か見えてくるだろうし」

「そっか……」

 聖は小さく息をつきながら、空を見上げた。

「でも何で突然?」

「いやなんとなくだ。気にすんな……。さて、んじゃあそろそろ髪洗って上がるかな」

 聖は腰にタオルを巻きつけ、シャワーを浴びに行く。

 その姿を見送る二人は彼の後姿に絶句した。

 彼の背中には右肩から左の腰部分にかけ、かなり大きな傷が刻まれている。

「聖! その傷って?」

「あん? ああ、背中のヤツか。よく覚えてねぇんだけどガキに頃にちょいとあったらしくてな。そのときにできた傷なんだとよ」

 シャンプーに手を伸ばしながら答える聖は気にしていないのか、あっけからんとしている。

「痛くないの?」

「さすがにもう痛みはねぇよ。あー……でもたまにちょっと疼く時があるかな。まぁそこまで痛くないから大丈夫だろうさ」

 ハハッと笑いながら聖は答えた。

 聖は気にしていないのだろうが、なのはたちは難しい表情だ。

 すると聖は髪を洗い終えたのか、腰にタオルを巻いたまま立ち上がった。

「そんじゃ俺は先に出てるぜ。外で待ってるからなるべく早く上がってこいよ」

 振り向くことはせず、後ろ手に手を振りながら聖はその場を後にした。




〈いいのですか? さっきのあの質問。一歩間違えればばれますよ? もしくはもうばれてるかもしれません〉

『いいさ、どうせ近いうちにばれる』

〈そうですか……まぁ私はあなたに従うだけです〉

『ありがとよ』

〈御気になさらず〉

 なのは達が出てくるのを待つ間、思念で話し終えた聖は目を閉じて昔のことを思い出していた。




 目が覚めたのは淡く光る黄緑色の液体の中。

 そして最初に見た人間は紫色の髪と金の瞳、そしてにやりと笑う三日月の口元。

 時折思い出す、その人間のおそろしいまでの狂笑。

 ただただ、野望に満ちた金の瞳はまるでヘビのようだった。



「聖! 起きて!!」

「ん? ああ悪い眠っちまってたか」

 フェイトにたたき起こされ、我に返った聖は椅子から立ち上がり、二人に告げた。

「じゃあ戻りますか」

「だね。ヴィヴィオも待たせちゃってるだろうし」

 3人は並びながら部屋に戻った。








 

 深夜。

 スカリエッティは自らのアジトの私室にて、聖の映像及び、資料を拝見していた。資料は地上本部に潜入させているドゥーエから送られてきたものだ。

「ふむ……この動き見覚えがあると思ったらやはり彼か……」

 口元を不適に歪ませながらスカリエッティは一枚の写真を引き出しから取り出し呟いた。

「まさかまた君と会えるとは思わなかったよ……エシェク……ククク、フフフフ、ハハハハハハハ!!」

 狂ったような笑い声をあげるスカリエッティの瞳は心底嬉しそうな輝きを持っていた。

「君が生きていると知れば、ウーノ達も喜ぶだろうね。いや一番喜ぶのはドゥーエかな?」

 



 魔の手は着実に聖たちに迫っていた。 
 

 
後書き
はいまたしてもお待たせして申し訳ありません!
「待たせたくせしてこんなもんしか書けねーのよ!!」と思う方もいるかもわかりませんが仕方ないんです。
一度でいいからこんなお話かきたかったんや……

お次はおそらくスカさんたち襲撃回の前編です。
聖の正体がすでにお分かりの方もいるかもしれませんが今しばらくお付き合いくださいませ!!

では感想お待ちしています! 
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