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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―砂の異世界―

 肌に砂のような感触が感じられ、こそばゆくて意識が回復していく。すっかり失神からの回復にも慣れてしまったようで、個人的にはかなり不安なことになっている今日この頃だが、早く目覚めて悪いことはない。

 目を開けると、そこは意識を失う前と同じくバイクの上で、明日香も後部座席に眠っている。彼女はまだ意識を取り戻していないようだ。……そこまでは良い。

 何故俺たちがいるのはアカデミアではなく、日差しが激しく照りつけて見渡す限り一面に砂と乾いた岩が広がっている――俺は来たことがないものの、砂漠地帯の特徴にそっくりな場所にいるのか。意識を失う前に最後に見たものは、プロフェッサー・コブラの建造物から発せられた光だったが、あの光が一体何だと言うのだろう。

 そして砂漠地帯には全く相応しくない、俺がいつも慣れ親しんでいるアカデミアがそこにはある。俺と明日香以外もここに来ているのを喜ぶべきか、学校全体でこんなことに巻き込まれたのを憂うべきか。

 しかし、アカデミアの全てが巻き込まれた訳ではないようで、本校社以外のアカデミアの建造物はほとんど見当たらない。本校を中心にして一定範囲内の物が、この砂漠地帯に連れてこられたらしい。

「アカデミアのところまで行ってみるか……」

 明日香を目覚めさせてアカデミアに行こう、と思いバイクに近づいたところ、近くから砂を踏み込んだ足音が聞こえる。岩で姿は見えないものの……ここで一緒に遭難した生徒だと思うことはなく、どことなく覚束ない足音から、怪しい人物――それこそいてもおかしくないギースやコブラ――だと思った俺は、早急に明日香を起こすことにした。

「おい明日香、起きろ」

「遊矢……って、ここは!?」

 その周囲の景色から異常なことが起きている、と即座に判断したのか、明日香はすぐに目覚めてバイクから立ち上がる。俺はギースから取り返した【機械戦士】をデュエルディスクに入れると、岩の向こうにいる人物に声をかけた。

「そこの岩の後ろにいる奴! 出て来い!」

 油断無くデュエルディスクを構えた俺の言葉に、岩の向こうにいた人物は即座に向こうから現れた。危害を加えようとか奇襲をしようとか、そんな動きでは全くない――と、素人である自分にも解るような動き。外見は白いマントのようなものを羽織っており、体格は俺や明日香と同じ程度……いや、少し大きい程度だった。

 しかしそんなことを観察するより早く、俺はその白いマントの男の正体が解っていた。少々髪が伸びているようだったが、その顔を忘れる筈がない。

「三沢……!?」

 ジェネックスの終結とともにアカデミアを去った親友が、制服から白いマントへと姿を変えてそこにはいた。

「やはり遊矢だったか。それに明日香くんまで……どうしたんだ?」

「……こっちが聞きたいわよ、三沢くん。ここはどこなの?」

 どうやら三沢にしても俺たちと会うのは想定外だったようで、三沢にしては珍しく見て解るほどにうろたえている。俺たち三人はまず、情報の共有を始めることとした。

 まず三沢が何故ここにいるかというと、ツバインシュタイン博士の助手として実験をしていたところ、不慮の事故によりデュエルエナジーが暴走してしまう。その結果、三沢はこの『砂の異世界』に飛ばされてしまっていたらしい。

 俺たちもその説明を聞けば似たようなもので、ギースとデュエルした後に見た光が、そのデュエルエナジーの暴走であるのだろう。そして俺たちは、アカデミアとその周辺ごと異世界に来ることになった。……プロフェッサー・コブラの目的は謎のままであるが。

 コブラの元に行った十代たちならば何か知っているかも知れない、ということで三沢を含めた俺たち三人は、まずはアカデミアに向かうことにした。何かに――少なくともアカデミアまでの移動には――使えるかも知れないので、ギースの乗り捨てたバイクを使わせてもらうことにする。

「しかし、アカデミアは相変わらずみたいだな」

「毎年毎年、色々な厄介ごとが来るよなぁ……」

 三幻魔だの光の意志だの異世界だの。こんな学園生活が送れるのは、このアカデミアだけだろうと思う。

「三沢くん。異世界から戻る方法って知ってるの?」

「……理論上はな。俺たちが来たデュエルエナジーと、同等以上のデュエルエナジーを暴走させれば良い。だが……」

 三沢が実験で使ったというデュエルエナジーは知らないが、俺たちが来たデュエルエナジーはアカデミアの生徒のほぼ全て。そう簡単に用意出来るものでもないだろうし、俺たちの腕には未だにデスベルトがついたまま……こんな砂漠地帯の真ん中で、集団でデスデュエルをするわけにもいかない。

「……よし、動きそうだ」

 ギースのバイクのエンジンが始動すると、今では頼もしいガソリンの排出音が聞こえだした。俺がまずは運転席に座ると、明日香が俺の腰回りを掴んで運転席の後ろに座る。三沢は明日香には掴まらずに、捕まえた精霊たちを捕まえる球体を――邪魔だったのでその球体は壊したが――運んでいた場所に座った。

「三沢くん、そこで大丈夫?」

「固定する物もあるし大丈夫さ。……それに、二人を邪魔するわけにもいかないからな」

「……発車するぞ」

 三沢の軽口と背中に感じる弾力性豊かな二つの物体を意図的に無視してバイクのペダルを踏み込むと、エンジンが一際大きい音を響かせてバイクは動きだした。精霊を捕まえるシステムが搭載されているせいもあり、かなりの大型バイクであるのでそのパワーも計り知れない。

「砂地なのに結構スピード出るのね。……それと遊矢。念のために聞くけど、免許とか……」
「あると思うか?」

「……ないわよね」

 三年間アカデミアで過ごしているので、運転免許を取っている生徒など一部しかいないが、そもそもこんな大型バイクは特殊な免許がいるだろう。もちろん俺がそんなものを持っているはずもなく、足場の不安定さもあって車体が大きく揺れた。

「……転ばない?」

「多分」

 不安そうに俺を掴む明日香に頼りがいのない返答をしながら、俺はバイクの後方に乗っている三沢に声をかけた。……思い返してみれば、三人でこんな風に久し振りだ。ジェネックスが始まるまでは、この景色が日常だったにもかかわらず。

「この世界に住んでる人はいないのか? 戻れないならどこか、集落か何か……」

「いや、俺も捜してはみたが人間はいなさそうだった。ここにいる住人は……デュエルモンスターズの精霊たちだ」

 三沢の言葉に驚きながら、俺は無意識にデュエルディスクに収められている【機械戦士】へと視線を移した。こんな見渡す限り砂漠のような世界が、十代のネオスペーシアンのような、カードの精霊たちの世界だというのだろうか。

「俺はツバインシュタイン博士と十二個の異世界を発見したが、そのうちの幾つかは、デュエルモンスターズの精霊世界、と呼べる場所らしい。……これ以上の研究を進めるためにも、早く帰らなくてはな」

「なら、デュエルモンスターズの精霊と話が出来るの?」

 明日香の放った質問は俺も興味があった。精霊であるという【機械戦士】たちと、俺は未だに話すら出来ていないのだから。

「種族による……としか言いようがないな。中には敵対して来るモンスターも――」

 三沢の言葉が途切れて俺たちが乗っているバイクに影が差し、俺たちは反射的にその影の正体を見つめた。太陽を影にしている為に逆光になり、その姿は良く見えないが……紛れもなくアレは、《ハーピィ・レディ》だった。

 もっと正確に言うならば三体別々の姿をしているので、《ハーピィ・レディ 三姉妹》というところだが。そのいななきはこちらを威嚇しているようで、どうにも友好的な雰囲気ではないどころか、獲物を見る殺意が見え隠れしている。

「逃げろ遊矢!」

「そう言われてもな!」

 こちらは砂地を走っているバイク、あちらは飛行する鳥人。どちらが速いかは一目瞭然であり、徐々に《ハーピィ・レディ 三姉妹》はバイクへと近づいて来る。その見るからに鋭利な爪は、人間の身体程度ならば容易く断ち切るだろう。

「……仕方ないか。遊矢、スピードを落とすなよ!」

 そう言い放つや否や、三沢はバイクの上に立って《ハーピィ・レディ 三姉妹》へと身構えるようなポーズを取った。足場は固定されているので、振り落とされることはないものの、ハーピィ・レディに適うはずもない。

「三沢くん、何やってるの!?」

 明日香の驚きを伴った質問には答えず、三沢はその身体を覆っていた白いマントを脱ぎ捨てた。その下は、俺と変わらない蒼いオベリスク・ブルー寮の制服が着られ、その腕にはもちろん――デュエルディスクがついていた。

「遊矢、明日香くん。敵対して来るモンスターを倒すには、俺たちに出来ることはデュエルしかない!」

 三沢のデュエルディスクに反応してか、ハーピィ・レディ 三姉妹》を守るように五枚の裏向きのカードが展開する。……いや、あれは自分のことを守るための物ではなく、三沢とのデュエルの為の初期手札……?

「アカデミアに着くまでに決着をつける。デュエルだ、ハーピィ・レディ!」

 三沢はデュエルディスクを展開してデュエルの準備を完了させると、ハーピィ・レディに対してデュエルを申し込む。これだけ聞くと、三沢が異世界で生活していたせいで正気ではなくなったのか疑うところだが、その本人は至って真面目な表情をしている。

 対するハーピィ・レディもその気なのか、俺たちのバイクにこれ以上接近することはなく、三沢と一定の距離――まさしくデュエルをする際に必要な距離――を保ちながら飛翔していた。

「おいおい……」

 理解が追いつかない俺は、バックミラーで状況を確認しながら呻くものの、現実は変わらない。三沢とハーピィ・レディという、種族を超えたデュエルが始まろうとしていた。

『デュエル!』

三沢LP4000
ハーピィ・レディ1LP4000
ハーピィ・レディ2LP4000
ハーピィ・レディ3LP4000

 デュエルは俺と明日香とヨハンで行ったデュエルと同様に、トライアングル・デュエルで行われるようだ。ハーピィ・レディたちが同士討ちをするはずがなく、つまり三沢は単純計算で三対一の戦いを強いられることとなった。

「俺の先攻、ドロー!」

 先攻を取ったのは三沢。彼は異種族間のデュエルだろうと、アカデミアにいた時と同じように落ち着いてデュエルを開始していた。……この頼れる人間すらいない異世界で、何度もこうやってデュエルしてきたのだろうか。

「俺は《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚!」

ライトロード・パラディン ジェイン
ATK1800
DEF1200

 三沢のデッキで戦陣を切るのは光の聖騎士、《ライトロード・パラディン ジェイン》。どうやら三沢のデッキは変わらず、妖怪とライトロードを組み合わせたデッキのようだ。……まだライトロードしか召喚されてはいないが、三沢が妖怪をデッキから抜くはずがない。

「遊矢、前!」

 明日香の警告で三沢とのデュエルに集中し過ぎていたことに気づき、岩にぶつかりそうになっていたバイクを強引に右に動かして衝突を避ける。なんとか岩を避けながらバイクでアカデミアに向かうが、そこでバイクとアカデミアの間の砂漠地帯に蟻地獄のようなものが出来たかと思えば、そこから巨大なモンスターが地下から姿を表した。

「明日香、あのモンスターは……」

「確か、《サンド・ストーン》!」

 最初期の通常モンスター故に名前を思いだせなかったが、明日香のおかげで名前とフレイバー・テキストが頭に浮かぶ。確かに砂漠地帯の地下から現れて、その触手を俺たちに振るおうとしている。

 もちろんその触手に当たればバイクごと俺たちは粉々になり、蟻地獄に巻き込まれれば俺たちは脱出不能になるだろう。幸いなことに《サンド・ストーン》とはまだ距離が離れているが、接近してしまうのは時間の問題だ。

 ……だったら俺がするべき行動は一つだけだ。

「デュエルだ、サンド・ストーン!」

 バイクの操縦桿から手を離してデュエルディスクを展開すると、遠くのサンド・ストーンの前にもハーピィ・レディたちと同じように、五枚の初期手札が展開される。モンスターだろうとデュエリストならば、デュエルを受けたならば断りはしない、ということか。

「大丈夫なの遊矢!?」

「……三沢がやってるんだ、俺がやれない訳がない!」

 バックミラーを見て三沢を確認してみると、ハーピィ・レディの内一体を閻魔の使者《赤鬼》によってライフポイントを0にしていた。まだ三沢に余裕は有りそうだったものの、こちらの《サンド・ストーン》とまでデュエルすることは出来はしない。

「明日香、運転頼む」

「ええ、わかったわ」

 明日香が俺の腰から手を離して操縦桿を握り、俺の肩の上からひょっこりと顔を出して前方を確認する。《サンド・ストーン》がいる蟻地獄までは、少し距離があるものの急がなくては間に合わない。

『デュエル!』

遊矢LP4000
サンド・ストーンLP4000

 いきなりすることとなったモンスターとのデュエルにも、愛用のデュエルディスクは問題なく起動してくれたものの、残念ながら『後攻』の文字が示された。……初めての異世界でのモンスターとのデュエルだ、慎重ぐらいで良いのかもしれないが。

 サンド・ストーンの前のカードが一枚増えると、その後に三枚のカードが裏向きにセットされた。一枚のカードをドローし、モンスターのセットと二枚のリバースカードのセットを済ませたようだ。

 そこで俺のデュエルディスクが反応し、俺のターンになったことが分かる。

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 異世界のモンスターだろうと俺の信念は変わらない。そして相手が三枚のカードをセットしただけの、まるっきり未知のデッキだろうと【機械戦士】のやることも変わらない。

「《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 三つ叉の機械戦士が砂漠地帯に降り立ち、明日香が運転しているバイクと併走してついて来る。そしてその槍を構えて、サンド・ストーンへのセットモンスターへと突っ込んでいく。

「マックス・ウォリアーは攻撃する時、攻撃力は400ポイントアップする。マックス・ウォリアーでセットモンスターに攻撃、スイフト・ラッシュ!」

 その効果で攻撃力を400ポイントアップさせ、マックス・ウォリアーがセットモンスターへとその槍を突きつける。カードが反転してセットモンスターが姿を現すと、俺も比較的良く見る優秀なモンスターだった。

「《ウェポンサモナー》か……」

 リバース効果モンスターで、リバースした時デッキから《ガーディアン》と名前が付いたモンスターを手札に加える、サーチ効果を持ったモンスター。マックス・ウォリアーに串刺しにされた代わりに、サンド・ストーンの手札へと《ロストガーディアン》が手札に加わった。

「……カードを一枚伏せてターンエンド」

 マックス・ウォリアーの攻撃力・守備力が半分になり、カードを一枚伏せて俺はターンを終了する。《ロストガーディアン》は現時点では何の意味もなさないカードだが、果たしてどのようなデッキだろうか。

 俺がターンを終了したことにより、サンド・ストーンへとターンが移ったようで、サンド・ストーンの手札のカードが更に一枚増える。

 そして数秒後、伏せてあったセットカードがオープンされる……罠カード《岩投げアタック》だ。岩石族モンスターを一枚墓地に送ることで、相手のライフに500ポイントのダメージを与える罠カード。

遊矢LP4000→3500

 サンド・ストーンから放たれた岩がバイクの当たって車体が大きく揺れ動いたが、明日香が何とか立て直したようですぐに安定した姿勢に戻った。

「悪い、明日香……」

「これぐらいなら大丈夫よ」

 明日香は大丈夫とは言ったものの、サンド・ストーンから攻撃が来ればこのバイクにもダメージが来てしまう。ライフポイントが0になるほどのダメージを受けてしまえば、バイクにも耐えられないほどのダメージが与えられるだろう。

「速攻で倒すに加えて、ダメージを出来るだけ受けちゃいけないな……」

 俺がそんなことを呟いている間にもサンド・ストーンのターンは続いており、更に伏せられていた一枚の罠カードが発動された。《蛆虫の巣窟》――言わずとしれたデッキの上から墓地に五枚送るカードに、先程の《ロストガーディアン》と併せて俺に冷や汗が流れた。

 そして突如としてサンド・ストーンの背後に時空を歪める穴が空いたかと思えば、そこから巨大な岩石で出来たドラゴン――《メガロック・ドラゴン》が姿を見せた。墓地の岩石族モンスターを除外して特殊召喚される岩石族の切り札で、その攻撃力は特殊召喚した時のモンスター×700ポイント。5体のモンスターを除外したようで、攻撃力は脅威の3500ポイントに到達する。

 そしてメガロック・ドラゴンが俺たちのバイクに向けて体当たりしつつ、弱体化したマックス・ウォリアーを破壊しようとするが、それを許すわけにはいかない。

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」

 バイクの進行方向に現れた《くず鉄のかかし》が《メガロック・ドラゴン》を防ぎ、そのままサンド・ストーンの元まで戻らせる。《くず鉄のかかし》はそのままセットされ直し、サンド・ストーンは新たに《ロストガーディアン》を召喚した。

 《ロストガーディアン》は除外されているモンスター×700ポイントの守備力を持ったカードであり、現在メガロック・ドラゴンと同じように3500ポイントの守備力を持っている。

 岩石で出来た最強の矛と最強の盾とでも言えば良いのだろうか、ドラゴンと守護者はちっぽけなバイクに乗った俺たちからすれば、とても巨大に見えてしまった。

「でも打ち破るしかない……俺のターン、ドロー!」

 勢い良くカードを引いたものの、あの二体のモンスターを突破出来るカードではない。確かにあまり時間は無いのだが、あの二体は無鉄砲に突撃しても勝てるモンスターではない。

「カードを二枚伏せ、マックス・ウォリアーを守備表示。更に《チューニング・サポーター》を守備表示で召喚!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 まるで中華鍋を逆に被ったようなモンスターを壁に出したものの、ステータスが違いすぎて壁の役割すら果たせないことになりそうだった。しかしこのターンでやれるだけのことはやった、後は機を待つのみ……!

「……ターンエンドだ!」

 俺のターン終了宣言によってサンド・ストーンのターンに移ると、サンド・ストーンは即座に手札の魔法カード《サイクロン》を発動させる。狙いは寸分違わず《くず鉄のかかし》で、旋風によって《くず鉄のかかし》は破壊されてしまう。

「――避けろ明日香!」

「ええっ!?」

 《メガロック・ドラゴン》の大質量を伴った体当たりが来るが、もう守ってくれる《くず鉄のかかし》は存在しない。標的になった《マックス・ウォリアー》は守備表示のため、ダメージはないもののその衝撃は計り知れない。

 明日香は俺の指示を受けてバイクを右に走らせたものの、メガロック・ドラゴンが巨大すぎてその程度の移動に意味はない……が、その時マックス・ウォリアーが動きを見せた。

 マックス・ウォリアーが大きく左へ行ってバイクから離れると、メガロック・ドラゴンはそちらの方に向かっていってバイクを標的から外したのだ。……元々バイクではなく、マックス・ウォリアーが目的なので当然のことだが。

「マックス・ウォリアー……!」

 バイクとは遠く離れた場所でマックス・ウォリアーは《メガロック・ドラゴン》に破壊されてしまい、デュエルディスクから墓地に送られてしまう。おかげで助かったことに感謝して、サンド・ストーンがカードを一枚セットしたことを確認しながら、俺はデュエルディスクの誘導に従ってカードを引いた。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには守備表示の《チューニング・サポーター》が一体で、バイクの脇に控えるリバースカードが二枚。対するサンド・ストーンは、攻撃力・守備力が3500ポイントの《メガロック・ドラゴン》に守備力が3500ポイントの《ロストガーディアン》にリバースカードが一枚――まさに最強の矛と最強の盾である。

「《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF500

 消火器のような外見をしたチューナーモンスターが登場するものの、シンクロ召喚をするのはもう少し後になってからだ。まずは下準備として、伏せてあるリバースカードを発動する。

「伏せてあった《ギブ&テイク》を発動! サンド・ストーンの墓地に《マックス・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚し、ニトロ・シンクロンのレベルを4上げる!」

 この効果によって《ニトロ・シンクロン》のレベルは6。《チューニング・サポーター》の効果を合わさずとも、その合計レベルは専用シンクロモンスターのレベルとなる。

「レベル1のチューニング・サポーターに、レベル6となった《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 《ニトロ・シンクロン》がマックス・ウォリアーの力を借りたことにより、6つの光の輪となって《チューニング・サポーター》を包み込んだ。一際大きな光を発した後に二体の小さな機械は消えると、そこから緑色の機械戦士がシンクロ召喚される。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。ついでに背後でデュエルをしている三沢のことを見たものの、何の心配もなさそうだった。

「ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターには、お互いにシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果がある! よって二枚ドローし、装備魔法《パワー・チャージャー》をニトロ・ウォリアーに装備!」

 シンクロ素材となった《ニトロ・シンクロン》と《チューニング・サポーター》の効果で二枚ドローしつつ、装備魔法《パワー・チャージャー》をニトロ・ウォリアーに装備する。巨大なバックバックを装備したニトロ・ウォリアーは、バイクから離れてサンド・ストーンへと向かって行く。

「バトル! ニトロ・ウォリアーでマックス・ウォリアーに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 《ギブ&テイク》により、一時的にサンド・ストーンのフィールドに特殊召喚されたマックス・ウォリアーを破壊し、ニトロ・ウォリアーは自身の効果の発動トリガーとする。そしてマックス・ウォリアーはそのまま消えていかず、ニトロ・ウォリアーが背にした《パワー・チャージャー》へと吸い込まれて行く。

「《ニトロ・ウォリアー》と《パワー・チャージャー》の効果を発動! ニトロ・ウォリアーは相手の守備表示モンスターを攻撃表示にし、パワー・チャージャーは破壊したモンスターの攻撃力分、装備モンスターの攻撃力をアップさせる!」

 《パワー・チャージャー》からニトロ・ウォリアーへとマックス・ウォリアーの力が流されていき、その攻撃力は4600となる。《ロストガーディアン》の守備力も超えたが、更に《ニトロ・ウォリアー》の効果により強制的に攻撃表示にされてしまう。

「これで終わりだ! マックス・ウォリアーの力も借りた、ダイナマイト・インパクト!」

 ニトロ・ウォリアーの胸のパーツから放たれた旋風に、ロストガーディアンは攻撃表示になってニトロ・ウォリアーとバトルする――が、その前にサンド・ストーンのリバースカードが立ちはだかる。

 サンド・ストーンの最後のリバースカード《ダメージ・ダイエット》が発動したことにより、サンド・ストーンの回りを半透明のバリアが包み込んでそのダメージを半減させたのだ。

サンド・ストーンLP4000→1750

 一撃でライフポイントを削りきれる一撃だったものの、ダメージ・ダイエットによって半減されてしまってサンド・ストーンは生き延びた。俺が悔しさで少々顔を歪めていたところ、明日香の悲鳴が交じった声が聞こえて来た。

「遊矢、そろそろ蟻地獄に入ってしまうわ! 一旦バイクを止めないと!」

「……ダメだ! 今止めたらハーピィ・レディかサンド・ストーンの攻撃に直撃する!」

 目前には明日香の言う通り、サンド・ストーンが発生させた蟻地獄が開いているものの、ここで止まっては良い的になってしまう。

「でも……」

「大丈夫だ……このターンで終わらせる! リバースカード《シンクロ・オーバーリミット》を発動!」

 《ロストガーディアン》を破壊したことにより、動きが止まっていた《ニトロ・ウォリアー》がリバースカードにより再び行動を始めた。《シンクロ・オーバーリミット》はシンクロモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのシンクロモンスターをエンドフェイズに自壊させることにより、もう一度だけ攻撃させることの出来る罠カード……!

「更に速攻魔法《手札断札》! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 もちろんこのタイミングでの手札交換があまり意味をなすとは思えないが、フィールドに旋風を巻き起こすことになり、新たなモンスターが俺のフィールドに特殊召喚される。もちろん墓地に捨てたカードは、いつも通りのあのカードだ。

「墓地に捨てたのカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚し、《地獄の暴走召喚》を発動! 現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400


 《リミッター・ブレイク》によってデッキから特殊召喚されたスピード・ウォリアーと、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚された二体は、フィールドに現れるや否やバイクの側面に移動すると、三体がかりでバイクを掴んだ。その行動からスピード・ウォリアー達が何をしたいのか悟った俺は、バイクのアクセルを更に踏み込んだ。

「え? ちょ、ちょっと遊矢!」

「……二人とも、良く捕まっとけよ!」

 三体の《スピード・ウォリアー》はバイクを持ちながらジャンプすると、バイクごと空中で舞い上がっていく。蟻地獄や砂漠に紛れ込んでいた岩などの障害物を眼下にしながら、俺は《ニトロ・ウォリアー》へと攻撃を命じた。

「バトル! ニトロ・ウォリアーでメガロック・ドラゴンに攻撃!」

 ニトロ・ウォリアーの拳とメガロック・ドラゴン自身がぶつかり合うと、双方の武器に衝撃でひびが入っていく。ニトロ・ウォリアーの攻撃力は、《パワー・チャージャー》の効果によってマックス・ウォリアーとロストガーディアンの力を得て4700なのだから……結果は決まっている。

「ダイナマイト・ナックル!」

サンド・ストーンLP1750→1150

 ニトロ・ウォリアーがメガロック・ドラゴンに打ち勝つと、そのまま俺たちが乗ったバイクがサンド・ストーンの方向へと自由落下していく。ニトロ・ウォリアーの猛攻によってボロボロになっているが、遠慮なくトドメを刺させてもらうとしよう。

「スピード・ウォリアー三体で、サンド・ストーンに攻撃! トリプル・ソニック・エッジ!」

 しかしてスピード・ウォリアーは三体ともバイクを掴んでいるために動けず、サンド・ストーンに近づいての跳び蹴りなど出来る状態ではなかった。バイクはそのままサンド・ストーンに直撃し、ボロボロになっていたその身体を正真正銘のダイレクトアタックで砕いて砂漠地帯に着地するのだった。

サンド・ストーンLP1150→0

「くっ……!」

 バイクのリアルダイレクトアタックでも大丈夫なのか、と少し意外そうにサンド・ストーンが崩壊する様を見ていたが、腕に付いていたデスベルトが反応し、俺のデュエルエナジーを少量ながら奪っていく。もう回収装置はないと思って油断していたが、ずっしりと身体に倦怠感が襲ってきた。

「火車でダイレクトアタック! 火炎車!」

 三沢もハーピィ・レディの群れを倒し尽くしたようだったが、振り向いたその表情には疲労の色が濃く残っている。もちろん三沢にはデスベルトなどついてはいないが、この過酷な異世界で暮らしていて疲労しない者はいないだろう。

「相変わらず無茶をするな、遊矢。サンド・ストーンと戦わずに迂回すれば良かったんじゃないか?」

「そっちこそ、群れを相手にするようだったら一人じゃなくても良かったな」

 三年生になろうと異世界に行こうと、変わらない親友のことをお互いに確認し合ったところで、少しだけ疲労を忘れて笑みがこぼれて来る。そんな様子に明日香はため息をつきながら、俺と座る席を強引に変えさせた。

「これからは私が運転するわ。良いわね?」

「……ダメだって言ってもやるんだろ?」

 一度言ったら梃子でも動かない明日香を説得するのは、時間もないし疲労も多い。大人しく――名残惜しいものの――座っている席を変わると、明日香がバイクを再発進させた。

 最初から手加減無しの全開フルスロットルで発車したバイクに、俺と三沢は並みのジェットコースターでは味わえない恐怖を感じながら、俺たちはデュエル・アカデミアに救助されたのだった。

 ……この異世界は一体何なのだろうか。そして俺たちは、元の世界に帰ることが出来るのだろうか……? 
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