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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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Tain Bo Cuailnge ③ & 大祓 ②

湖札の手から広がった霧は、少しずつ形を取っていき、妖怪の軍団を作った。
だが、それは一輝や湖札の使う奥義、“妖使い”とはまったく違う。
あの奥義は己の内に封印されている様々な妖怪を召喚する。
だが、この霧は・・・

「全部鬼・・・だな。こんな奥義有ったか?」

そう、その全てが、鬼の姿をとったのだ。
角の数が一本から三本まで、武器も様々なものがあり、体格までその全てが一致するものはいないが、全て鬼と呼ばれるものだ。

「ううん、これは奥義によるものじゃないよ。もう少しちゃんと契約書類を読もうね、兄さん。」

一輝は湖札に言われて契約書類を読み直す。
そして、最後に記されている名前は、わざわざルビが振ってあった。

「あまのざこ・・・ああ、天逆海、か。ならこいつらはその能力か。」
「そう、スサノオより生まれた女神、天逆海は鬼を無限に生成できる。妖使いとは違って、ね。」
「予想以上に面倒だな。準備はいいか?」

一輝が聞くと、全員がうなずく。

「じゃあ・・・状況開始!」
「茨の檻!」

一輝の声とほぼ同時に、音央の茨が湖札までの道を作り出す。

「右手は音央、鳴央。左手はヤシロちゃん。GO!」
「「「了解!」」」

一輝の指示と同時に三人は鬼退治を始め、一輝は・・・

「上段、鬼面!」

スレイブを抜き、上段からの一撃を加えるが、

「その程度じゃ、私には通らないよ!」

あっさりと湖札にガードされる。

「悪いけど、俺の中に正々堂々って言葉はないぞ!」
「え、一体何を・・・!」

一輝は腰のベルトで固定した水樹の枝と辺りにある水を操り、湖札に撃つ。
湖札はそれを打ち落とそうとするが、湖札の意識がそちらに向いた隙に、一輝はいったん離れる。

「少し荒い技になるけど、手伝ってくれるか?」
「もちろんです。」
「ありがとう。じゃあ、行くぞ!」

一輝はいったんスレイブを鞘に納め、スレイブと呼吸を合わせると、

「「居合、鎌鼬!」」

居合斬りの要領でスレイブを振り、空気の刃を飛ばす。
今回のものはギフトによる攻撃ではなく、単純な刀を振る速度によるものだ。
もちろん、一人で使える技ではないが、二人係で一人の体を動かせば、可能になる。

「ウォーターカッター、フレイムカット!」

一輝はさらに水と火の刃を飛ばし、追い討ちをかける。

「これで、相手にダメージを、」
「いや、たぶん無理だろうな。」

一輝はスレイブの言葉を否定し、次の攻撃の準備を始める。

「・・・あれほどの攻撃を喰らい、無傷とは・・・」
「ううん、兄さんが正解。」
「ッ?」
「やっぱりか・・・」

攻撃による砂煙が晴れ、湖札の姿が視認出来るようになる。
そこには、自分の周りに風のドームを作り、無傷で立っている湖札がいる。

「どこまで天逆海の力を使えるか、確認のつもりだったんだが、ほとんど全部か?」
「さあ、どうでしょう?でも、今の兄さんに勝ち目はないんじゃないかな?」
「かもなー・・・スサノオの力が使えるんじゃ、結構ピンチだ。」

先ほど湖札が言っていたように、天逆海はスサノオから生まれた女神だ。
ゆえに、湖札はその嵐を操る力により、全ての攻撃を防いだのだ。

「どうピンチなのですか?」
「まあ、あれを俺のギフトで破るのは骨が折れるし、」

一輝は言いながら、空気の刃を湖札に撃つ。
それは、湖札に当たる前に止まり、一輝の元に十倍になって返ってきた。

「あぶねっ!とまあ、空気や風を操ると、こんな感じになる。」
「なるほど・・・では、どうするのですか?」
「まあ、こうするだけだよ!」

一輝は火、水の槍を大量に作り、それと共に湖札のもとに走っていく。

「相変わらず、兄さんは単調だね!」
「ああ!ヘンに作戦を立てんのは、性に合わん!」

そのまま、二人は打ち合いを始める。
一輝はスレイブや槍で攻撃をし、湖札はそれを腕で受ける。
一輝の攻撃は、服の袖にすら傷を付けることが出来ていない。

「今度はこっちがいくよ!」
「うを!おいこら!髪の毛切れたぞ!」

湖札は一輝に向かってハイキックを放ち、一輝はどうにか体をそらすが、前髪が切られ、飛ぶ。

「当たり前でしょ!私は気性の荒い、戦いを好む神になってるんだよ!」
「だからって、そこまでの一撃になるか!?」
「なる!神の体と人の体じゃ、差が出来て当然!」

一輝は湖札に蹴り飛ばされ、その威力から、確信する。

「ケホッ・・・やっぱり、憑依じゃないんだな。」
「うん。これは、そんな弱い奥義じゃないよ。鬼道の一族に伝わる奥義の中で、最も強く、最も使えるものが少ない奥義。」
「五代目が生み出した、鬼道の中でも異質な奥義。」

「「神成り。」」

どうやら、一輝の予想は的中したようだ。二人の声は完全に重なり、その場に響く。

「それを湖札が使うってことは・・・自らの力で神を殺し、己がうちに封印したのか?」
「もちろん。契約で縛ったんじゃなく、ね。四年ぶりくらいに日本に帰ってきたら急に現れるんだもん。」
「それは・・・ドンマイ。」
「ありがとう。まあ、どうにか勝てたんだからよかったけどね。」

湖札は詳しく話す気はないようだ。そのときについては話してこない。

「で、あんな神様なら倒しさえすれば言いなりになってくれるし、こうして使えてるんだ。
 その点については・・・兄さんよりよっぽど楽かな?あそこまでプライドが高いと・・・」
「ああ、聞く耳もたん。呼びかけを無視してきやがったからな。」

そんな会話をしながらも、二人の攻防は続いている。
攻防といっても、一輝の攻撃は一切決まらず、湖札の攻撃ばかりが決まるのだが。

「どうにか退かないと・・・」
「逃がさないよ!」

一輝は再び距離を置こうとするが、湖札がそれを許さない。

「ああ、クソ!スレイブ!」
「了解です、一輝様!」

二人係でどうにか脱出し、一輝は傷を治していく。

「妹にボッコボコにされる兄・・・なっさけねー。」
「全力を出さない兄様が悪いのでは?」
「ひどいな。俺は出せるだけの力は出してるよ。ちょくちょく重力とかも操ってるし。」
「それは分かっています。でも、私が言っているのはそちらではありません。」
「それは・・・」
「仲良くお話をしていられるの!?」

一輝がスレイブに尋ねようとすると、湖札が殴りかかってくる。
そして、一輝はそれをもろに喰らってしまう。

「ゲホッゲホッ。やばい。骨いった。」
「兄様、上です!」

一輝はスレイブに言われ、上を見る。
そこには、刀を持って、一輝に降ってくる湖札の姿があった。

「ヤベ!」

一輝はどうにか転がり、攻撃をよけるが、その際に骨が折れた部分を傷めてしまう。

「・・・本気で来てよ、兄さん。じゃないと、意味がない。」
「俺は最初から本気だよ。スレイブ、骨をくっつける間、任せてもいいか?」
「・・・分かりました。ですが、私や湖札の言っている言葉の意味、少し考えてください。」
「了解・・・。」

一輝は意識を回復に集中し、骨をつなげていく。

「へえ、兄さんのそのギフトはそんなことも出来るんだ。」
「悪いが、いま一輝様に話しかけても何も返ってこないぞ。それほどまでに集中している。」

湖札の質問には、スレイブが答える。
一輝は、その音が聞こえてすらいないのだ。

「なるほど・・・そういった隙を埋めるのが、君なんだ。スレイブちゃんって呼んでいい?」
「断りたいところだが・・・兄様の妹、となると断れないな。」
「じゃあ、スレイブちゃん。今の兄様ってのは、何?」
「・・・。」
「だんまり、決め込まれちゃったな。」

スレイブが人の状態だったなら、顔は見事に真っ赤だったであろう。

「じゃあ、質問を変えるね。何で兄さんと一緒にいるの?」
「・・・一輝様は、私をすくってくれた。私の主は、その時点より一輝様一人だ。」
「なるほど、ね。こっちの世界でも人助けしてるんだ。本当に、鬼道の一族はそんな人ばっかりだよね。」
「貴女もその一員では?」
「あはは・・・まあ、そう・・・かな?」

湖札は、自分自身にも思い当たる節が合ったようで、答えづらくなる。

「でも、兄さんはその中でも飛びぬけてたんだ。で、私はそんな兄さんにあこがれてた。」
「・・・それは分かるな。一輝様の魅力の一つだ。」
「うん、それで、いろんな人をひきつけるんだもん。本人は無意識のうちに。」
「何の話だ?」

一輝はそのタイミングで目を開け、話に割り込む。

「いえ、なんでもありません。それより、骨はつながったのですか?」
「おかげさまでな。」
「じゃあ、いい加減に本気になってよ。」

湖札は、怒気を含んだ声で一輝に言ってくる。

「・・・二人が言いたいことは、まあ分かったよ。でも、湖札はいいのか?」
「うん。それに、その状態の兄さんに勝たないと、こっちに来てもらう意味がない。」
「そうか。なら、分かった。ここからは容赦はしない。全力でお前に挑む。」

一輝はそう宣言すると、スレイブを納める。
スレイブもすぐに人の姿になり、

「では、私はヤシロの手伝いに行ってきます。」
「ああ、よろしく。」

そのまま鬼の中に突っ込んでいく。

一輝はそれを見送ると、ギフトカードの中から“獅子王”を取り出し、抜刀する。
一輝の服装は一瞬で白い和服に変わり、霊格も上がる。

「じゃあ、俺は湖札の知らない、新しい奥義を見せてやるよ。」
「新しい、奥義?」
「ああ。」

一輝は獅子王を掲げ、言霊を紡いでいく。

「わが身に宿りし百鬼に告げる。これは勅命である。」

いままでの言霊以上に、命令的な言霊を。

「我が望むのは、汝らの力、その集まる武具である。」

そして、その体から黒い霧と輝く霧が流れ出し、獅子王の周りに集まる。

「そして、その武は一にあらず。十の武と成り、我が助けとなれ。」

一輝は量産型妖刀をもとに作った小刀も九本取り出し、そこに輝く霧を纏わせる。

「今ここに、我はこの奥義を発動する。その名は、百鬼武装也!」

一輝が唱え終わると、霧はそれぞれの武器に吸収され、その形を変える。
獅子王は、鞘に百鬼夜行の彫を持ち、刀は凶悪なものになる。
量産型妖刀は、一つは翼を持ち、一つは八つ首に分かれた。
一つは蛇腹となり、一つは龍の爪のような形となる。
一つは巨人が振るうような巨大なものとなり、一つは青い炎を纏う。
一つはその姿が曖昧となり、一つは白黒になる。
そして、最後の一つはブレスレットとなる。

一輝は獅子王を手に持ち、巨大な剣は背中に吊るして、残りは腰にある鞘にそれぞれ収められ、ブレスレットだけ左手首に付ける。

「さあ、始めようか。」

一輝の反撃が、始まる。
 
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