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ベイサイドの悪夢

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第一章

                  ベイサイドの悪夢
 シアトルの港は今恐怖に支配されていた。
 港に何か出て来るのだ、そして真夜中に港を歩いている者を海に引き込むというのだ。それで犠牲者が何人も出ているという。
 当然ながらシアトルの港は真夜中には誰もいなくなった、もの好きが出歩きそうなものだが何しろだった。
 そのもの好きが一人出歩いて翌朝発見されたのだが。
「首がなかったってな」
「ああ、首は別の場所にあったらしいな」
「朝海にぷかぷかと浮かんでいてな」
「水の中に引き込まれて殺されたらしいな」
 そこで首を切断されたというのだ。
「そうなったらしいな」
「じゃあやっぱりあれなんだな」
「港には出るんだな」
「真夜中のあそこには」
 酒場でもネットでもこの話でもちきりになった、やがてこの話はシアトルだけでなくワシントン州はおろかアメリカ全体で話題になった、それでだった。
 シアトルの真夜中の港に何があるのか、それを調べようという話になった。これはもの好きな話ではなく公の話だ。
 一人のアフリカ系の端正な顔立ちの長身の男がいた、鍛えられた身体をライトブルーのスーツで包んでいる。
 その彼がだ、自分の前に座るアジア系の初老の男にこう言われていた。
「ではバージル=ホイットマン警部」
「はい」
 名前と階級を言われた彼はきびきびとした声で応えた。
「ではですね」
「君とニコル=キッドニー巡査部長に港の捜査を命じる」
「わかりました」
 ホイットマンは見事な敬礼で応えた。
「では今よりキッドニー巡査部長と合流して」
「頼むぞ、シアトル市警としてもな」
 アジア系の上司、見れば階級は警視である。警視は真剣な面持ちでホイットマンに対して言うのだった。
「放置出来ないからな」
「そこに何がいてもですね」
「悪魔がいてもだ」
 例えそうしたものがいてもだというのだ。
「対応してもらいたい」
「その場合は悪魔祓いですね」
「バチカンからエクソシストを呼ぶ」
 警視はホイットマンのジョークにジョークで返した。この警視の名はロバート=サカガミという。日系人だ。
「そうする」
「では怪物の場合は」
「君達で何とかしてくれ」
 ホイットマンとそのキッドニーでだというのだ。
「拳銃だけでなく散弾銃やライフルを使ってもいいからな」
「では戦車は」
「それはない」
 流石にそこまではというのだ。
「陸軍に言ってくれ」
「そうですか」
「そうだ、君達で対応しきれない相手ならシアトル市警全体で向かう」
 そして港の不安を払拭するというのだ。
「捜査を頼むぞ」
「それでは」
 ホイットマンは再び敬礼で応えた、かくしてだった。
 彼はそのキッドニーと共に真夜中の港の捜査にあたることになった。キッドニーは赤い髪に灰がかった青い目のソバカスの青年だ、赤い髪はかなり癖がある。 
 背はアメリカ人の中では普通位だ、身体は痩せている。何処か飄々とした物腰の青年でホイットマンにも軽い調子でこう言うのだった。
 昼にシアトルの町を歩きつつだ、言った言葉は。
「若しここで功績をあげればあれですよね」
「ボーナスだな」
「あと昇進ですね」
「失敗すれば警視の雷が落ちる」
「どっちかですね」
「君はどちらがいい」
「はい、ボーナスと昇進を」
 そちらだというのだ。 
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