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フォアグラ

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第一章

                フォアグラ
 ゴロール=ド=セルバンテスといえば美食家で知られている。
 由緒正しい侯爵家であり代々大臣も出している、フランスの重鎮と言っていい家である。
 その彼はとかく美食を追い求めていた、三食常にこれ以上はないまでに美味を揃えテーブルの上には山海の珍味が並べられている。
 そしてその珍味達を最上級のワインと共に口に入れる、そのうえでいつも満足そうにこう周りに言うのである。
「人として生まれたからにはね」
「はい、美食ですね」
「美食を求めるべきなのですね」
「そうだよ、まさに美食こそがね」
 人生の楽しみだというのだ。
「それ以外にないよ」
「では明日もですね」
「そして明後日も」
「そう、生きている限りね」
 その限りは、というのだ。
「私は美食を楽しむよ」
「では明日は何を召し上がられますか?」
「鴨がいいね」
 シェフの問いにこう答える。
「それを頼むよ」
「鴨ですか」
「うん、その鴨にトルコから取り寄せた香料達をふんだんにかけて」
 無論最高級の香料だ。
「じっくりと煮込んだものをね」
「トマト、大蒜と共にですね」
「それで頼むよ、野菜もね」
 前菜のそれの話もする。
「我が家の畑のね」
「特別に作ったものをですね」
「それの畑を頼むよ、他には」
「他には何を」
「海老、それに貝も」
 海の幸も頼むのだった。
「プロヴァンスから氷を使って早馬で取り寄せた新鮮なものをね」
「あれをですね」
「頼むよ、蛸も烏賊もね」
 その二つもだというのだ、そしてだった。
 彼はこの日も美食を楽しんだ、まさに山海の珍味に自身の畑や牧場で採らせた野菜や肉、乳製品を楽しんでいた、人は彼を美食候と呼んだ。
 その彼の最も好きなものはフォアグラだった、そのフォアグラにこう言うのだった。
「フォアグラは偉大なものだ」
「鵞鳥の肝臓が、ですね」
「特別に太らせたものが」
「そうだ、元々肝臓は美味なものだ」
 彼はそもそも動物の内蔵、特に肝臓が好きでそれでこう言うのだ。
 だがその中でもだ、フォアグラはというのだ。
「あれを考えだした者は天才だ」
「そして今日もですね」
「そのフォアグラを」
「食する」
 セルバンテスは家の使用人達に対して言い切った。
「夜にな」
「はい、わかりました」
「それでは」
「それとだ」
 フォアグラだけに留まらない、彼はさらに注文した。
「イタリアから取り寄せただ」
「マッケローニですね」
「あれも調理されますか」
 パスタのことだ、麦を練ったものを細長く平べったく何本にも整えそれを茹でてトマトやガーリック等で作ったソースをかけて食べるものだ、ローマかナポリにしかないかなり高価なものである。
 だがその高価なものについてもだ、セルバンテスは平然として言うのだった。
「そうだ、あれもな」
「わかりました、それでは」
「マッケローニもまた」
 作ろうとだ、料理人達が応えてだった。
 そのマッケローニも作り彼に出す、セルバンテスは美食の中に生きその身体が肥満していくのも構わず食べ続けた。 
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