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お白粉婆

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第二章

「いいですね」
「そうだよな」
「ええ、秋田いいですね」
「全くだな」
「ああ、それとですね」
 ここでだ、秋田の支社の人がここで二人特に若田部に言って来たのだった。
「この辺りには一つ面白い話がありまして」
「面白い話が?」
「真夜中にですね」
 今彼等は夜だ、外はしんしんと雪が降っている。
「お婆さんが出るらしいんですよ」
「お婆さんが?」
「そうらしいんです」
「というと」
 新幹線の中での王島との話を思い出してだ、若田部は彼に応えた。
「妖怪ですか」
「らしいですね、お婆さんの妖怪が出るんですよ」
「鬼婆ですか?」
 ここで王島がこの妖怪を話に出してきた。
「それですか?」
「ああ、安達原の」
「はい、同じ東北ですから」
「いや、あれは福島ですから」
 支社の人は笑ってそれはなしとした。
「違います」
「鬼婆じゃないんですか」
「はい、違います」
「じゃあどんな妖怪ですか?」
「別に人を襲ったり食べたりはしません」
「雪女でもないですよね」
「それでもないです」
 東北といえばこの妖怪も有名だ、しかしこれでもないというのだ。
「まあそういうのじゃなくて」
「じゃあ一体」
「何かを投げてくるらしいんですよ」
「何かを?」
「それが何かはよくわからないんですが」
 こうした話ではままあることだ、何かを投げてくるというがその何かまではわからないということもままあるのだ。
「ですがそうした妖怪らしいです」
「そうですか」
「真夜中の十二時位に出るそうですね」
 出る時間が確かに話された。
「大体」
「十二時ですか」
「その時に」
「それか二時か」
 言われる時間は曖昧だった。
「その辺りにこうした雪が降って積もってきている時に外に出ていると出て来るそうです」
「そのお白粉婆がですか」
「その妖怪が」
「そう言われています、ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「このことを調べた人は聞かないですね」
 支社の人は鍋を突き飲みながら笑って述べた。
「一人も」
「雪の積もる真夜中に外に出る人なんかいないですね」
 王島がその理由を察して述べた。
「普通は」
「はい、いませんよね」
「ええ、普通は」
 王島は支社の人にこう返した。
「いませんね」
「そうですよね、だからですか」
「この妖怪が実際にいるかどうかは不明です」
 よくわからないというのだ、妖怪の話では本当によくあることだが。
「まあいないでしょうね」
「そうですね、妖怪とか幽霊の話なんてそんなものですよね」
 若田部は支社の人に笑って返した、そして。
 部屋の窓を見た、三重になっているその窓の向こう側には部屋の明かりに照らされて白い雪が降っているのが見える。その雪の勢いはというと。
「凄いですね」
「雪がですね」
「ええ、かなり降ってますよね」
「ここはこんなのですよ」
「秋田はですか」
「ええ、そうですよ」
 支社の人は笑って返す。
「こんなのです」
「大変ですね」
「いや、これが普通ですから」
 冬の秋田は、というのだ。 
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