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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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BURST


『オオオオオオオオオオオオオオオオ・・・!』

ガラガラと音を立てて瓦礫が崩れる。
ズシィ、とデリオラが一歩前に踏み出した。
その場にいたナツと、丁度今そこに来たグレイとルーは驚きで目を見開く。

「!」

ちゃぷ、と足元を濡らす水に、グレイが目を向ける。
ジャバ・・・と水を手ですくい、ウルの事を思い出していた。

「グレイ!ルー!いたのか!」
「ナツ」
「今来たトコだよ」

瓦礫が水に落ち、ジャバァッと音を立てる。
向こうからナツがどどどどっと走ってきた。

「こうなったらやるしかねぇ!アイツ、ぶっ倒すぞ!」

ナツがデリオラを指さす。

「ククク」

すると、ズリ・・・と何者かが這うように進んで現れた。

「お前・・・等・・・には無理だ・・・はぁー、はぁー・・・アレは・・・俺が・・・はぁー、はぁー・・・ウルを超える為に・・・俺が・・・ハハハ・・・」

グレイに敗れ、全身傷だらけのリオンだった。
額から血を流し、這うのもやっとだろうに、その顔には笑みが浮かんでいる。

「リオン!」
「兄弟子君!そんなボロボロの状態じゃ無理だよっ!」
「オメーの方が無理だよ!引っ込んでろ」

デリオラが口を開け、グアアアア・・・と雄叫びを上げる。
ルーとナツの静止の言葉も聞かず、リオンはデリオラを見上げた。

「やっと・・・会えたな・・・はぁー、はぁー、デリオラ・・・」








『最強の魔導士?』
『あぁ・・・ここらで言ったらウルかな・・・やっぱ』
『何年か前に娘を失ったショックで山に引きこもっちまったが』
『この辺じゃウルに敵う魔導士はいなかったなぁ』

そう語る人達の言葉を聞いて、幼い頃のリオンの目は輝く。

『ウル・・・か。弟子にしてくれるかな・・・』







「あの・・・ウルが・・・唯一・・・勝てなかった怪物・・・今・・・俺がこの手で・・・倒す・・・」








『あんな拾ってきたガキを弟子にするってどういう事だよ!』
『魔法を覚えたいって言うんだ。構わないだろ』
『ウルの子供の代わりは、俺1人で十分じゃないか!』

それを聞いたウルは、パァンッとリオンの左頬を叩いた。

『・・・え?』

リオンの左頬に赤い跡が残る。

『リオン・・・私はお前の事を娘の代わりだなどと、思った事は1度もないよ』

そう言って、額と額を合わせる。

『お前はお前なんだ。私の愛する弟子だ』









「俺は・・・今・・・アンタを・・・超え・・・る・・・」

リオンはボロボロで傷だらけの身体に鞭打つように立ち上がる。

「ダメだよ!そんな状態じゃデリオラと戦うどころか・・・!」

ルーが叫んだ、その時。

「!」

グレイがリオンの首にビシッと一撃加えた。
リオンはそのまま、どっと地面に倒れる。
それを見たナツとルー、喰らったリオンはほぼ同時に目を見開いた。

「もういいよ、リオン」

ちゃぷ、と水の中に入る。

「あとは俺に任せろ」

そして・・・あの構えを取った。

「デリオラは俺が封じる!」

ばっと、両腕を体の前でクロスさせる、10年前のあの日のウルと同じ構え。

絶対氷結(アイスドシェル)!」

グレイが叫んだ。
小刻みに震えながら、リオンが顔を上げる。

「よ・・・よせ!グレイ!あの氷を溶かすのに、どれだけの時間がかかったと思ってるんだ!同じ事の繰り返しだぞ!いずれ氷は溶け・・・再びこの俺が挑む!」

リオンが叫ぶが、グレイは魔法の発動を止めない。

「これしかねぇんだ。今・・・奴を止められるのはこれしかねぇ」

すさまじい量の魔力がグレイを包む。
もうすぐ絶対氷結(アイスドシェル)が発動する・・・となったその時、グレイの前にナツとルーが立った。

「ナツ!」

予想外の2人の行動に、グレイもリオンも目を見開く。

「俺はアイツと戦う」
「僕も・・・絶対デリオラを倒す」

2人は真剣な眼差しをデリオラに向け、呟いた。

「どけっ!2人とも、邪魔だよ!」

ナツとルーに向かってそう言うグレイに対し、2人はゆっくりと振り返る。
その目は、悲しげだった。







「死んでほしくねぇからあの時止めたのに、俺達の声は届かなかったのか」
「命を救ってくれたウルの前で死ぬなんてさ・・・誰も、喜ばないんだよ」








「・・・」

2人の言葉に、グレイは言葉を失う。
すさまじい魔力が、徐々に消えていった。

「やりたきゃやれよ、その魔法」
「それで全てが解決するならね」
「ナツ・・・ルー・・・」

ナツとルーはグレイからデリオラに目を向ける。
グレイが2人の名を呟いた瞬間、デリオラが右腕を高く振り上げた。

『ガアアアアアアっ!』

ブオオオッと凄まじい空を斬る音が響く。

「避けろォォォーーーーーーーーーーー!」

グレイが叫ぶ。

「俺は最後まであきらめねェぞ!」
「諦めるなんて、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだ!」

ナツが右の拳に炎を纏い、ルーが左の拳に風を纏う。
3つの拳がぶつかり合うと、誰もが予想した、その時だった。








「・・・愚かな悪魔」







氷のように冷たく、一滴の感情すらをも消し去った声が響いた。
思わずナツとルーの拳から炎と風が消え、その場にいた4人は声のする方を向く。
そこにいたのは、少女の人影。

「誰だ!」

リオンが叫んだ。
コツ、コツ、とブーツの音を鳴らし、人影の姿が露わになる。
白い大きめの帽子から、宝石を埋め込んだような澄んだ青色の瞳が覗いた。

「ナツ、ルー、それからグレイとその兄弟子。アンタ達は何もしなくていいわ」

猫のような目で悪魔を睨むその少女。

「ティア・・・」

ルーがその名を呟いた。
ティアは唖然とするナツとルー、グレイ、傷だらけのリオンを冷めた目で見つめると、腕を上げたデリオラを見つめた。

「リオン、見なさい。アンタが復活させようと思っていた者を」

その言葉にようやく全員がデリオラを思い出し、目線を向ける。
威勢よく拳を振り上げたデリオラは・・・突然、ピタッと動きを止めた。
と同時に・・・。






ゴボッと腕が崩壊する。






「え!?」

リオンが声を上げた。
腕だけではない。体、顔・・・全身にヒビが入っていく。

「な・・・」

パキパキパキパキ、バキィ、ボゴォッと音を立て、デリオラが崩れていく。

「な・・・何だ!?」
「デリオラって、こんなに脆い悪魔なの!?」

驚いている間にも、デリオラは顔の左側まで崩れていた。

「バ・・・バカな・・・」

デリオラの振り上げていなかった方の腕が崩れ、胴体から離れ、落ちた。

「そんな、まさか・・・」

崩れたデリオラの顔の左側が、落ちる。
そして、リオンが叫んだ。









「デリオラは・・・すでに死んで・・・」








そう言い終わる時には、デリオラにあの凶悪の姿は残らなかった。
残ったのは、かつて厄災の悪魔と恐れられた・・・デリオラの、生命の無い残骸だけ。
それを見たグレイは小さく震え崩れゆくデリオラを見つめ、リオンは悔しそうに目を閉じた。
ドドドドドド・・・とデリオラの崩れた残骸は氷と化したウルだった水の中に落ちる。

「10年間・・・ウルの氷の中で命を徐々に奪われ・・・」

ナツもルーも驚きの表情で崩れたデリオラを見つめる。
ティアは1人、表情を変えずに岩に背を預けて立っていた。

「俺達は・・・その最後の瞬間を見ているというのか・・・」

そう言うと、リオンは思いっきり地面を右の拳で殴った。

「敵わん・・・俺にはウルを超えられない」

師匠の、ウルの凄さを改めて目の当たりにし、涙を流しながら。

絶対氷結(アイスドシェル)・・・如何なる爆炎の炎をもってしても溶かす事の出来ない氷。術者が己の身を氷にする事で、標的を封じる。そして、長時間かけて標的を・・・風化させる。だからアンタがやっていた事は、悪魔の残骸を崩す事だったのよ」

涙を流すリオンを見下ろすような体制で、ティアが呟いた。

「す・・・すげーな、お前の師匠!」
「うん!凄いよウルって!」

ナツとルーがグレイの方を向き、そう言う。
しばらく静止していたグレイの脳裏に、ウルの言葉が蘇った。
言葉だけではない。顔も、声も、姿も・・・。






―お前の闇は、私が封じよう―





「ありがとうございます・・・師匠・・・」

グレイは右手で自分の目元を隠し、ウルへの感謝の言葉を呟きながら涙を流したのだった。










ウルの氷は溶けて水になっちゃって、そして海へと流れていく。

それでもウルは生きてるんだ。

グレイはそう言ってた。


あたしもそんな気がするな。

海になったウルは、2人の弟子をずっと見守るの。



もうケンカしないで、ってね。

 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
第2話の最後にもやったルーシィ目線の言葉・・・ついつい書いてしまいますね。
とあるサイトで『フェアリーテイルはルーシィ目線で書かれている事が多い』と書いてあって、ならやるべきだろう、と。
もしこれが邪魔ならすぐさま消しますんで。

話変わりますが、今回いつもと比べて文字数少ないです。
どうしてもルーシィの言葉で終わらせたかったんで。
すいませんでした。

感想・批評、お待ちしてます。 
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