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港町の闇

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第四章


第四章

 中国では豚肉が最もポピュラーである。そしてどんな場所でも食べる。そこには豚足も例外ではないのだ。彼等はこれを煮付けたりして食べる。かなり美味い。
「それがやはりありますか」
「はい」
 役は巡査にそう答えた。
「ただあの死体ですが一つ気になることがあります」
「何でしょうか」
「首に傷がありましたね」
「ええ」
「中国の吸血鬼はああした血の吸い方はしないので。それが気にかかります」
「そうなのですか」
 七尾刑事はそれを聞いて考える顔をした。彼は炒飯を食べている。卵がかなり多い炒飯だ。
「キョンシーにしろそうですが中国の吸血鬼はかなり凶暴でして」
 役は話を続けた。
「半分人を食うといった感じです。まずは人に襲い掛かりまして」
「首を捻じ切るんですよ。そしてそこから血を吸う」
「首をですか」
 それを聞いた大森巡査は自分の首を左手に持って青い顔をした。
「はい」
 本郷がそれに応えた。
「怪力でね。一気に捻じ切って」
「またえらく残忍な奴ですね」
「吸血鬼とは本来そうしたものです」
 役はそれに対して答えた。
「狼男なんかも眷属ですしね。ほら、映画で狼に変身したりもしますね」
「はい」
 実際にスラブの吸血鬼などは狼に変身したりもする。また狼は吸血鬼の使い魔の一つとされる時もあるのだ。
「そうした時には人を襲い貪り食らいます。本来狼は人を襲うことはないのですぐにわかります」
「こうして聞くとあまり優雅なものではありませんね」
「あれは映画でのことですから」
 本郷が答えた。
「タキシードを着て気取っているのはね。本当の吸血鬼は案外残忍な奴ですよ」
「ロシアで吸血鬼と戦ったと先程言いましたね」
「はい」
 ラーメンを食べ終えた役に対してそう答える。
「あの時もかなり残忍な奴でした。吸血鬼というよりは本当に貪り食うといった感じで」
「奴の城に行ったら何が出て来たと思います?」
「ううむ」
 巡査も刑事も考えてみたがよくわからなかった。
「何が出て来ました?」
「首です」
 本郷は答えた。
「城の入口に若い女の首がぶら下がっていたんですよ。それも何個も」
「またえらく趣味が悪いですね」
「そして内臓まで食っていたのです。若い女のものばかりね」
「またとんでもない奴ですね」
「それが吸血鬼なのですよ。本来極めて残忍な奴です」
「だからこそ気を抜いてはおけないのです」
「ふむ」
 二人の警官はそれを聞いて考え込んだ。
「それでは今神戸にいる奴も」
「いえ」
 だが役はそれには手を横に振った。
「まだわかりません。確証が得られない限りは」
「そうですか」
「ただ気になることがあります」
「何でしょうか」
「先程のキョンシーのことですが」
「はい」
「大体中国の吸血鬼はそうした獰猛なものです。ですがあの犠牲者には傷は二つしかなかった」
「ええ」
「身体は綺麗でした。それを考えると中国の吸血鬼ではありません」
「そうですか」
「そしてどうも古来の吸血鬼ではないような気がします」
「といいますと」
 七尾刑事も大森巡査もそれを聞いて身を乗り出してきた。
「一体どんな奴なのでしょうか」
「あくまでまだ確証は得られておりませんが」
 役はそう断ったうえで述べた。
「喉にあった傷は二つですね」
「はい」
「そこに答えがあると思います」
 静かな声でそう述べた。
「あの」
 それを聞いて大森巡査が不思議そうな声をあげた。
「傷口が関係あるのですか」
「ええ」
「おおありですよ」
「よくわからないのですが。そこに秘密があるのでしょうか」
「映画とかの吸血鬼には牙がありますね」
「はい」
「あれは元々はなかったのです。スラブの吸血鬼には」
「そうだったのですか!?」
 それを聞いて七尾刑事も驚いた声をあげた。
「吸血鬼は牙で血を吸うものでは」
「それが違うのです」
 役はそう断った。
「牙はね。新しいものなのですよ」
「そうだったのですか」
「元々あの地域の吸血鬼には牙はなかったのです」
「ではどうやって血を吸っていたのですか?」
「舌です」
 本郷が一言そう答えた。
「舌」
「はい」
 そして自らの舌を出してその先を指差してみせた。
「舌の先にね。針がありそこから吸うのですよ」
「はあ」
「ですから傷は一つとなります。あの遺体には傷は二つですね」
「はい」
 刑事がそれに頷いた。
「どの遺体もそれは同じです」
「そうですか」
 二人はそれを聞いて考える顔をした。
「やはりスラブのものではないようですね」
 役が言った。
「そういえば神戸には外国人が昔から多いですね」
「はい」
「大体ここにいる華僑の人やアメリカ、イギリスから来ている人が多いです」
「成程」
 役は考えながら呟いた。
「イギリスですか」
 呟きながら何かに気付いたようであった。
「何かあるのですか」
「いえ」
 役は一呼吸置いてから述べた。
「イギリスにもそうした話がありまして」
「本当に世界中にあるのですね」
「血は元々生命の源と考えられていましたからね」
 彼はそう述べた。
「だからそれを糧とする邪な存在の話も多いのです。それが吸血鬼なのですが」
「はあ」
「アメリカにもありますけれどね。ただどうもイギリスのそれの方が可能性はありますね」
「牙からですか」
「ええ」
 彼は答えた。
「あくまで今の時点では予想ですが。可能性はありますよ」
「ふむ」
「実際にこの目で見なければ一体何かわかいrませんが。昨日はここで事件があったのでしたね」
「はい」
「その前は何処ででした?」
「大丸ミュージアムの前でした。そこでアメリカ人の黒人の少女がやられました」
「可愛い娘でしたけれどね。やはり全身から血を吸われて」
「そうですか」
 役も本郷もそれを聞いて顔を暗くさせた。
「大丸ミュージアムですか。この前ですね」
「はい」
「だとしたらまだ近くにいる可能性があるということになります」
「近くに」
 巡査と刑事はそれを聞いて顔を強張らせた。
「はい。ここに警官を配置することはできますか?私服で」
「それなら今回の捜査にあたっている者を」
「お願いします。おそらく今夜にでも出ますよ」
「まさか」
 二人はそれを否定しようとした。だが本郷が彼等に対して言った。
「そのまさか、ですよ」
 彼は二人を見据えていた。そのうえで言ったのだ。
 
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