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港町の闇

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第十九章


第十九章

「私の血は魔力を持っている。それで描いたならば・・・・・・わかるな」
「クッ」
「それに気付かぬとは迂闊だったな。それではさらばだ」
 魔法陣が光った。それは黒い光だった。魔界にみにある黒い光であった。
 それがアルノルトを包んだ。そして彼はその中に消えた。黒い光が消えた時彼の姿もまた消え去ってしまっていた。
「逃げたか」
 本郷はそれを見てそう呟いた。
「どうやら逃げ足も速かったようだな」
「そう言うな」
 役は本郷のそんな悪態を制止した。
「我々が逃がしてしまったのは事実だからな」
「ですね」
 残念だがそれは認めるしかなかった。本郷はそれに頷いた。
「それは仕方ない。また追おう」
「はい」
「ところでそちらの方は」
 役はあらためて神父の方に目をやった。
「見たところ神父さんのようだが」
「はい」
 彼はそれを受けて名乗りはじめた。そこに警官達も戻ってきた。こうしてこのファミリーパークでの戦いは終わった。取り逃がしはしたが得るところの多い戦いでもあった。
 神父は話し合いの結果本郷や警官達に協力することとなった。彼も警察署の捜査室に入った。
「ユダの末裔は吸血鬼の中でも特に厄介なものでして」
 彼は帽子を脱ぎその銀色の髪を他の者に見せながら言った。見れば薄くなっておらずふさふさとした銀髪であった。それがよく映えている。
「その魔力は魔王達にも匹敵するのです」
「そうでしょうね」
 向かい側の椅子に座る役がそれに頷いた。
「あの力は生半可なものではありませんから」
「ええ」
 神父はそれに応えた。
「既に今まで多くの犠牲者が出ておりますし」
 刑事がここでこう言った。
「すぐにでも何とかしたいのですが」
「それは私も同じです」
 神父はそれに同意した。
「ですからバチカンから派遣されてきたのです。あの闇の者を倒す為に」
「その切り札があの銀貨というわけですね」
「はい」
 本郷の言葉に応えた。
「あれならばあの魔物を倒せます、確実に」
「当てることができれば」
 本郷はそう付け加えた。
「問題はそれができるか、ですね」
「しなければなりません」
 だが神父の言葉はそうであった。
「しなければ」
「はい。あの魔物を倒さない限り犠牲者は増え続けます。そしてこの神戸はあの者の支配する街となってしまうでしょう」
「魔物が支配する街ですか」
「はい」
 署長にもそう答えた。彼もここにいたのである。
「そうなればどうなるか・・・・・・おわかりですね」
 署長だけでなくそこにいた全ての者がその言葉に頷いた。頷くしかなかった。
「魔物が支配する世界、魔界となってしまいます」
「この神戸が」
 とりわけこの街で生まれ育っている大森刑事の顔は深刻なものとなっていた。
「あの魔物の街になってしまうのですか」
「ええ」
 もう言葉も出せなかった。彼はただ青い顔をしているだけになった。
「ともかく」
 そんな彼にかわって七尾刑事が口を開いた。
「それだけは防がなくてはなりません。そうなってしまえば洒落では済みません」
「それはわかっております」
 神父は答えた。
「だからこそバチカンも私にこの銀貨を授けてくれたのですから」
 応えながらその銀貨を見せる。それは白銀色に輝いていた。そして何者かの肖像が掘り込まれていた。それはどうやら当時のローマ皇帝であるらしい。この時代シオンの地はローマの勢力圏であったのだ。
「この銀貨を」
「問題はそれをどう使うかです」
 役が言った。
「おそらくそのままではあの魔物を倒すことはできないでしょう」
「といいますと」
「十字架の件は覚えておられますね」
「ええ」
 これは役自身も経験のあることであった。彼は銀の弾丸を放ちそれを髪の毛の槍で無効化されているのである。だからこそ言えることであった。
「あれと同じにはならなくても容易にかわされてしまうでしょう」
「そうですか」
 神父はそれを聞いて暗い顔になった。
「それでは意味がありませんね」
「いや、そうともばかり限りませんよ」
 だがここで本郷が話に入って来た。
「本郷君」
「役さん、俺がいるじゃないですか」
「君が?」
「ええ」
 本郷はにこりと笑って頷いた。
「俺に任せて下さいよ、ここは」
「ふむ」
 役はそれを聞いて眉を動かした。
「どうやら何か思うところがあるようだな」
「勿論ですよ。そうでないと何も言いません」
 彼は答えた。
 
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