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ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―

作者:チトヒ
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Episode3 包丁



「私の主人が今朝出掛けたきり、開店の時間を過ぎても帰ってこないんです…」

という言葉から始まったカウンターの向こうの女性、改め店の主人の奥様の話をまとめるとこうなる。

この店はいつも主人が取ってきた食材で料理を提供している。だから毎朝主人は狩りに出掛けて開店までには戻って来る。しかし今朝、主人が店で出すための食材を取りに行ったきり帰ってこない。仕方ないから店は開いているが私だけではまともな料理は提供出来ない。それより何より主人が心配で仕方がない。旅の剣士さん、主人を探してはくれないだろうか?

「主人は確か、今朝はいつもは行かない滝の近くに行って来ると言っていました。ただ、あの辺りは強力な魔物が出ると噂でして…」

店の奥様の《魔物》の言葉を聞いてアキの口元が笑った。ただそれはどうにもケモノめいていて気味が悪い。

「任せといてよ。僕が見てきてあげる」
「本当ですか!では、お願いします。ただ、くれぐれも無理はしないでくださいね。なんでも魔物は二足歩行で武器を持ち、秘術を扱うとか…」
「うん、知ってるから。じゃ、行こうジン…とそっちの二人」

夫人にそっけない返事を返したアキがすぐに店を出ようと扉へ向かった。なんだがその態度が俺にはひどいように思われ、ついアキの後ろ姿を睨んでしまった。そのことに目敏く気付いたジンが申し訳なさそうにしながらも目で来るように促した。

その合図に仕方なく動き出した俺をアカリが服を引っ張って引き留めた。


「あのっ、ちょっとだけ待ってもらってもいいですか?」
「えっ?えっと…」

待って、と言われてジンの方を見ると不思議そうに小首を傾げながらも微笑みの表情を返してくれた。

「いいよ、アキには僕から行っておくから。店の外で待ってるね」

そう言い残して店を出たジンの後ろ姿を見送った後、アカリの方へ視線を戻した。

「いいって。で、どうしたんだ?」
「えっとですね。カイトさんじゃなくて…」

アカリがカウンターの向こうのキッチンを指差す。

「お店のお姉さんっ!あのおイモっておじいちゃんが育ててるのですよねっ!」

指差したその先にはこの層特産《マルースポテト》がザルの上に持ってあった。

「おじいちゃん…?」

問われた夫人、改めお店のお姉さんが困ったような返事を返すのを聞いてアカリの後ろから補足で説明する。

「あれって《マルースポテト》ですか?」
「…あっ。えぇ、そうよ。それがどうかしたのかしら?」
「あのっ!どうやったら上手く肉じゃが作れますか?」

なるほど、と思ってしまった。確かに技術を習うならその道で生きていっている人に聞くのがいい。しかし、ここはアインクラッドでゲームの中だ。ましてやエセの料理の多いこの世界で《肉じゃが》がデータとして存在するのかすら疑わしい。だから、その試みは上手くいかないんじゃないか?

だが、お姉さんの答えは全く予想していなかったものだった。

「そうね、今のあなたなら《マルースポテト》を調理できないことはないと思うのだけれど…今使っている包丁を見せてくれるかしら?」
「えと…はいっ!これですっ!」

おもむろにアカリが包丁を取り出し、カウンターの上に置いた。それを見たお姉さんは得心したとばかりに一つ大きく頷いた。


「マルースポテトって繊細でね、いい包丁を使わないとダメになっちゃうのよ。…よしっ!私が使ってるのでよければあげるわ」
「えっ、でも…」
「いいからいいから!はい、もらって」

なんだがよく分からない展開だがアカリは包丁をもらった。嬉しそうにありがとうございますっ!、と言うアカリにお姉さんも満面の笑みを返した。

「あとお鍋なんかも良いの使うと良いんだけど…主人が帰ってきたら分けてあげるように頼んであげる。だから、主人をよろしくね?」
「はいっ!」

どうやらこのアカリの会話もクエストの一環だったようだ。

…ただ、クエストの全貌を知らない俺は、実はここでストーリーに若干の変化が生じてしまっていることを知らなかった。 
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