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P3二次

作者:チップ
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「メールで怪談云々とか言ってたのは知ってる。が、どうしてこんなとこに来た?」
「い、いや! オレは止めとこうって言ったんだよ!? マジここらヤバいし!」

 伊織が真っ先に言い訳を始める。
 いや、実際そうなのだろう。
 彼のような人間は上手く危険を避けられる嗅覚を持っている。
 だったら――――

「岳羽、か? 連れて来たのは」

 岳羽がここに来るのは知っていた。
 と言うより俺がここに来た理由の一つが彼女が厄介ごとに巻き込まれないためにだ。
 善意ではなく、ペルソナ使いが変なことで欠けないようにとの打算だが。

「う……そ、そうよ」
「軽率だったなぁオイ。伊織の俺の名前出すって判断は良かったが……」

 未だにスクワットをしている連中に視線を向ける。
 怯えのままに目を逸らすが、それでもここからは動けていない。
 滑稽極まりないとはこのことだ。

「生憎、ここらの連中には通じないんだわ。別に俺の名前も万能ってわけじゃないのよ。なあ?」
「ひぎ……!?」

 椅子である男の腰に拳を落とす。

「…………ご、ごめん」
「俺じゃなくて伊織に謝ってやんな。一応アイツが止めたのを振り切って巻き込んだんだろ?」
「……そうね。ごめん順平、怪我とかない?」
「うえ!? た、タハハ! 別に気にするこたねえよ。これぐらい男の勲章ってやつじゃん?」
「かーっくいいねえ伊織。ほら、お前らも見習って根性出せや。何人か膝震えてんぞ!」

 スクワットマン共だが……まあ、足くらいにはなるかな?
 本格的なのは無理だとしても、噂の裏付けをするくらいならば使えそうだ。

「で、話を戻すが、怪談調べてるんだろ? なのに何だってオカルトのオの字もねえとこに来たのさ」
「えっと……裏瀬くんは怪談について知ってる?」
「いや知らん。そんなもん調べる暇なんてなかったしな」

 女子生徒が月学の校門で倒れてたとか倒れてないとか?
 正直な話をすればメールで触りを聞いた程度だ。

「実は――――」

 公子が掻い摘んで説明をしてくれる。
 聞いていて思ったのだが……何故桐条や真田は岳羽を煽ったんだ?
 何かがあるかもしれないと思ったのならば、桐条の力を使えばいいだろうに。
 前々から思っていたが、あの御嬢様は権力をあまり使ってないように思える。
 最低限の力くらいは振るえるはずなのに。

「とまあそう言うわけで、その子と仲良かった人に話を聞こうと思って来たの」
「成る程ねえ……アグレッシブだねキミら」

 呆れるほどに行動力がある。
 まあ、ここのことをよく知らないようだし、無謀と言うのが正しいか。

「さて、となると……コイツらに話を聞けばいいんだが……」

 舐めるように視線を這わせる。
 こんなアホみたいな演技はしたくないのだが、仕方ない。
 徹底的にやっておかねば禍根を残して後々の面倒に繋がってしまうのだから。

「教えてくれたらスクワットから解放、だけどなぁ……一人で十分なんだよな」
「な、何か怖いよ裏瀬くん?」
「気のせいさ。俺は優しいぜ。で、だ。どうよ、殴り合って決めてみるか? 女も男も関係なしにさ」

 全員が動きを止めて互いを見つめ合っている。
 俺の言葉が本気だと悟ったのだろう、徐々に険悪な空気が――――

「――――そこまでにしといてやれ」
「へえ……」

 一気に空気が霧散する。
 現れたのは夏場だってのにコートを着てニット帽を被った男。
 直接会うのは初めてだが――――荒垣だ。

「お前が考えてることは分かるが、やりすぎだ。それで人は縛れねえぜ」
「支配する気なんぞないさ。あくまで大人しくさせるのが目的だ。ああ、面倒かけられたくないんだよ」

 荒垣は俺のやっていることの意味をほぼ正確に把握しているようだ。
 違うのは恐怖を与えて支配するのではなく、恐怖を与えて大人しくさせること。
 前者は長期的に見るならば酷く不安定な手で、後者の目的ならば効果は覿面。

「……成る程。短期的に見れば確かに有効だろうが、そいつらも十分理解しただろうよ」
「甘いねえ。馬鹿は痛くなきゃ覚えないのさ。ほら、俺もその口だから分かるんだよ」

 少なくとも脇腹を抉られて骨を砕かれ、命の危機に瀕しても俺は馬鹿を止められなかった。
 俺にとっては既知の打破は最優先事項だが、傍から見れば馬鹿の所業だ。
 これで懲りていないのだから――――つくづく救えない。

「ここの連中はお前程イカレちゃいねえ。これ以上やる必要がどこにある?」
「おや、優しいこった。それはアレかい、人を傷付けるのに忌避感があるからか?」
「気分が悪いだけだ。無駄に騒がしいのがここの空気なんだよ」
「成る程。逃避するにゃもってこいか? だが……お前さんにとってはここらは避難所になるのかい?」

 荒垣の視線が険しいものに変わる。
 ここまで言えば俺が彼を知っていることに気付くだろうし当然だ。
 しかし、それよりも……

「お前、その目――」

 瞳の濁り具合、それは精神的なものではなく肉体的なものだ。
 これでも医者の息子、多少の心得くらいはある。

「――――クスリか。それもかなり悪質な」

 あのコートなんかもクスリの弊害のせいか?
 体温調節が上手くいかず……そうなると、かなりヤバめのクスリだろう。
 ジャンキー特有の禁断症状はないようにも見えるが、定期的に摂取しているのは明白。
 必要だから劇薬を服用していると言うわけか?
 まあ、何にしろ――

「……それ、止めた方がいいぜ。素人目で見ても異常が散見される。重いツケを払わされるだろうぜ」
「謙遜にも程があるだろう。お前みたいな素人が居るか」
「ちょっと齧れば誰だって分かる。気持ちよくないクスリなんて楽しいか? それとも罰のつもり?」

 人を殺めてしまったことによる自責から来る自傷行為の一種なのだろうか。

「お前にゃ関係ねえ」

 気になって問うてみたが荒垣は否定も肯定もしなかった。
 恐らくはアタリ、そしてこれ以上は踏み込むなと言う拒絶か。

「それよりだ、お前らアキの病室に居た奴らだな? そいつも言ってたがここはお前らの来るとこじゃねえ」
「ごめんなさい! でも知りたいことがあって……」
「アキに言われて来たってわけじゃなさそうだな。まあいい、話は俺がしてやる」

 荒垣が面倒くさげに溜め息を吐く。

「例の怪談の……イジメられてた山岸って奴についてか?」

 待て、何でそこで風花の名が出る?

「女共が自慢げにくっちゃべってたぜ」
「山岸って……E組の、山岸風花? アイツ、イジメに遭ってたのか……」
「おかげで騒がれてるぜ。犯人は山岸の怨霊だ、とかな」
「……待て。アイツへのイジメは止んだはずだろ?」
「え、裏瀬くん?」

 …………ああ、大体は予想出来る。
 だが、確認せねばならないだろう。

「確かに四月の……下旬ぐらいにパッタリと止んだらしい。だが、勘付いてんだろ?」
「……馬鹿共が調子乗ったってか?」
「ああ。裏瀬の女だか何だか知らないがってな」

 ここへ来た時の連中のリアクションからしてそれは予想出来る。
 風花をイジメてた奴らはここの溜まり場の人間だと言う。
 最初こそ怖がってはいたが、ここの馬鹿共に愚痴か何かを零して……
 裏瀬なんぞ大したことねえよ、とでも言われて調子づいた、恐らくはそんなとこだ。

「だが解せねえ。怨霊ってのはどう言うことだ?」

 何故、俺は連絡を取らなかったのか。
 S.E.E.S.に入ってからまったく家にも帰っていなかった。
 …………それがこのザマか。

「知らねえのか? その山岸って奴、死んでるかもって。もう一週間かそこら家にも戻ってねえって話だ」

 となると何をしたかは知らないが、馬鹿が何かやったのは二十九日くらいか?
 …………そりゃそうだわな。
 少なくとも馬鹿共が表面上大人しくしていたら風花が俺に連絡を取る必要はない。
 安心しきってるところを狙ったってわけか。

「どうなってんだ? 山岸って確か病気だって……」
「心因性の、な。それで元々欠席がちだったんだよアイツは」

 イジメられる前から家庭の問題でそうだった。
 だからこそ発覚も遅れて……ああクソ、やってくれるじゃねえか。
 脅しが足りなかったみたいだ。
 どうせならまとめて輪姦してやった方がよかったかもしれない。

「裏瀬は山岸さんの知り合いなの?」
「幼馴染だ。おいおい、こりゃ怪談じゃなかったのか? 行方不明とか、刑事事件だろう」

 と言うか生徒が行方不明になったってのに何で公子らは知らない?
 学校に行ってない俺はともかく、普通噂の一つ二つ耳に入っていてもおかしくないはずだ。

「岳羽、お前らもコレは初耳か?」
「う、うん……つかE組の担任って江古田でしょ? アイツ、このこと知ってんのかな……」

 イジメられる前から風花は欠席が多かった、イジメがあった、俺がそれを止めた。
 けれども俺を舐めてた馬鹿共が、裏瀬なんぞ恐れるに足らずと舐めたことをして風花は行方不明に。
 そして江古田は保身に走るタイプの人間、風花の両親は成績を重視するタイプ。
 ――――総てのピースが噛み合った。

「……江古田が、やってくれるじゃないか」

 行方不明の話は江古田で止まっていたのだろう。
 奴は風花の両親に、ことを波立てないようにと詭弁を弄して押し黙らせて病欠にした。
 両親には風花が見つかったら成績の面で便宜を図るとでも言いくるめたであろうことは予想出来る。
 元々欠席がちだったのだから怪しむ奴もいない。

「荒垣、情報提供感謝するぜ」
「構わねえよ。それより、そいつら連れてとっとと帰りな」
「分かってる。ほら、行こうぜ」
「え、ちょ……えーっと荒垣先輩、ありがとう御座います!」

 公子が礼を言う声が遠くに聞こえる。
 完全に火が点いたせいだろう。
 これは俺の手抜かりだ。
 持ちつ持たれつ、そう言って俺は風花に借りを返したと思っていた。
 だが、俺が甘かったばかりにアイツをこんな目に遭わせてしまった。
 莫大な借りを作ってしまった、まったく情けないにも程がある。

「ちょっと裏瀬、アンタ凄い怖い顔してるわよ?」

 岳羽の気遣うような声が耳に届く。
 …………確かに俺は幼馴染として風花に多少の情がある。
 そして、俺のミスでアイツを危険に晒してしまった馬鹿な俺自身への怒りもある。
 感情を抑えろと言うのは無理な話だ。

「そいつは失敬。それと岳羽――いや、公子ちゃんらにも言っておこうか」

 気を静めるために煙草を咥え一息。

「この件、後は俺がカタをつける。つーわけで大人しく帰りな。桐条らにもそう言っておけ」
「ちょ……な、何する気なんだよ?」
「関わらなきゃ迷惑はかけない。まあ、キッチリ終わらせるから気にせんでくれ」
「待って待って! 幼馴染だから心配なのは分かるけど何も裏瀬くん一人で――――」

 言うべきことは言った、なのでこれ以上の問答は不要。
 携帯を取り出して今すぐ迎えに来るように伝えると、まだ近場に居る人間を向かわせるとのこと。

「どもっす! お待たせしたようで申し訳ない」

 公子の声を遮るようにエンジン音が轟く。
 やって来たのは行きの足となってくれた灰毛だった。

「あれ? お前帰ったんじゃなかったか」
「いや、暇だったんでここいらで張ってた他の連中と向こうのビルの屋上に居ました」
「覗き見かよ。趣味悪いな」
「アハハ……でも、これであそこの連中は大人しくするでしょうね。で、帰るんすよね?」
「ああ。エスカペイドまで頼む」

 バイクのケツに跨り、そのまま発進する。
 公子らが何か言っていたようだが、そんな暇はない。

「……何かあったんすか?」
「まあね。最高に気に食わないことがあったのさ。だから、飛ばせ」
「っす!」

 ふと気付いたが、この灰毛――――多分中坊だ。
 どうにも大人びているように見えるが、身体つきとかが若干幼い。
 発育不良かとも思ったが、にしては血色がいい。
 …………無免の上にノーヘル二人乗り、対々和くらいの役はありそうだ。

「……時は待たない、終わりは誰にでもやって来る」

 ふと、そんな言葉が思い浮かんだ。
 この言葉はだからこそ後悔がないように過ごせと言っている。
 確かにこれほどの後悔、そうはない。
 他人を使った上でしくじるならばそれは自分の責任でツケは自分で払う。
 自分のせいでならば、言うまでもない。
 だが、今回の件は違う。
 払われるべきツケを払ったのが俺でなくて風花なのだ。

「何か言いました?」
「何も」

 だから、アイツを見つけてキッチリツケを払わせてもらおう。

「っと、着きましたよ」
「サンキュ」

 挨拶もそこそこにエスカペイドの中に入る。
 俺を見つけたバーテンに視線で奥へ来るように促す。
 酔いはすっかり醒めていた。

「お早い御帰りってわけでもないけど……何かあったんすか?」
「あった。それも飛びっきりムカツクことがな」
「へえ……で、俺らはどう動けばいいんすかね?」

 話しが早くて助かる。
 男と以心伝心なんて嬉しくはないが、この場においてはありがたい。

「前に俺の幼馴染の件で女シメてもらったろ?」
「はぁ、あの怪談で意識失ったとか言う女共っすよね?」

 そうか、怪談を調べたんだから被害に遭った奴らも知っていて不思議じゃないか。
 だが、それ以上は調べなかったようだ。

「実はな、風花――幼馴染が行方不明になっちまったんだわ」
「……! 探させますか?」
「そっちは俺がやる。お前らにやって欲しいのはイジメてた女共居るだろ?」
「はぁ、確かまだ一人居たような……森山だったかな?」
「んじゃあそいつ拉致ってここ連れて来い。今の時間だと……攫えねえから明後日の朝一番でな」

 明日は日曜、ことを成すには少々人が多すぎる。
 …………歯痒いこと極まりないが、完全にことを成すためには時間も重要だ。
 登校間際、欠席しているならば家に訪ねて行って宅配便を装って拉致るのでも構わない。
 そこら辺の手段はコイツに一任して問題ないだろう。
 頭も回るし機転も利くからな。

「了解。でも、まだあるんすよね?」

 本当に気が利く男だ。
 こんな小さなクラブのバーテンやるより、ヤクザか何かに転職した方がのし上がれるだろうに。

「その通り。月学にな、江古田って教師が居るんだ。そいつも拉致れ」

 江古田は一年の時から陰で俺の悪口を言っていたねちっこい教師だった。
 別にその程度で怒るつもりもないし、面と向かって言う度胸もない小物なので見逃していたが……
 今回の件に絡んでいる以上、放置は出来ない。
 風花の行方は知らずとも、邪魔をしたのは確かなのだから。

「はぁ……そっちは簡単そうっすね。けど、何でまた?」

 教師だから出勤しないと言うことはまずない。
 拉致るのも容易だろう。

「そうだな……教職に就く者にあるまじき振る舞いをしたから、その天罰ってのはどうだ?」
「――――ギャハハハハ! そ、そのギャグ最高に受けるっすよ!」
「だろ? 偶には正義の味方やってみたかったんだわ」
「どっちかっつーとダークヒーローじゃないっすか? 仕事人的な」
「主水が好きだったんだがなぁ……まあ冗談はさておき、余計なことをしてくれたんだよ江古田の野郎は」

 風花の両親との間で納得が成されていようとも関係ない。
 そんなもの知ったことではない。
 アイツの父母をどうこうする気はないが、娘が行方不明だってのに騒ぎ立てもしないんだ。
 そんな薄情な連中に遠慮などする必要はない。

「ま、了解です。迅速――且つ、スマートに済ませますよ。明日算段を整えて、明後日パーフェクトに、ね」
「かぁっくいいねえ。期待してるぜ」

 これがS.E.E.S.ならばこのような手段は避難されていただろう。
 だが俺は、はぐれ者で公共の敵《パブリックエネミー》だ。
 やれることは非合法であろうともやる、そこに躊躇いはない。
 誰も守ってくれないが、取れる選択肢が広いのがこの世界。
 そのありがたさを身に染みて知った。

「しかし行方不明……」

 中東行の船へでも乗せられた? 別に中東でなくてもいい、売られた?
 否、馬鹿共にそこまでの度胸はないだろう。
 ヤクザの女として売るにしても、たかだか女子高生にそんな伝手はないはずだ。
 あったとしても、それならそれで報復手段は取れるが……やはりそこまでの度胸が奴らにあるとは思えない。

「となると命の危機――と言う線は薄いな」

 じゃあどこへ? どこぞに監禁……そんな場所を用意出来る賢さがあるように思えない。
 分からないことだらけだ。
 人一人の行方を完全に眩ませるなど、現代社会においては酷く難しい。
 そう言う反社会勢力ならば別だが、悪ぶってるだけの小娘にはハードモードだ。

「まあ、何にしても――――」

 キッチリ借りは返す、俺がやるべきことはそれに尽きる。 
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