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夜の影

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第四章


第四章

「じゃあナインチェですか」
「しかしミッフィーという名前もいいですね」
 警視正は少し考えを変えたといった感じで述べてきた。
「それもまた」
「あっ、御気に召されました?」
「はい。日本というとどうしてもあの日本語独特の言葉が思い浮かびますが」
「独特の言葉!?」
 本郷は日本語独特と聞いて目をしばたかせた。そう言われても具体的にはどういったものかわからなかったからだ。それで警視正に対して問うた。
「それはどういったものですか?」
「ですから。あのたおやめぶりといいますか?」
 随分と日本について詳しいということを窺わせる今のたおやめという言葉だった。
「平仮名の柔らかい表現の」
「それですか」
「はい、それを思い浮かべますので」
 こう言うのだった。
「ですからそういった可愛い言葉ははじめて聞きましたが」
「それでも御気に召されましたか」
「はい」
 にこりと笑って本郷に述べた。
「中々いいものですね」
「いや、こちらも日本人として御気に召されて何よりです」
 本郷もミッフィーという名前を気に入った警視正の話を聞いて笑顔になった。
「しかしです」
「何か?」
「また随分と日本語についてお詳しいですね」
 彼は今度はこのことを問うたのだった。
「留学でもされたのですか?」
「実は若い頃研修で日本の警察に派遣されまして」
 穏やかな笑みを浮かべながら本郷に答えてきた。
「それで。日本語について知りました」
「やはりそうでしたか」
「日本語は。正直参りました」
 今度はこう言って苦笑いになった。
「あそこまで厄介な言語はありません」
「それ程までですか」
「欧州ではよく何ヶ国語も使える人間がいますね」
 こうした話もしてきた。
「昔からそうした人間が」
「ええ、聞きますね」
 本郷もそれを認めて頷く。
「実際に。そうした人は結構」
「それは言葉が近いからなのですよ」
「言葉がですか」
「オランダ語にしろです」
 今彼等がいるこの国の言葉である。
「英語やドイツ語と近いのです」
「民族が近いからですね」
 役も話に入って来た。彼等はそのミッフィー、ナインチェの前で話を続けていた。
「だから言語もまた」
「そうです。だからこそです」
 だからだと。警視正も述べた。
「私達はそれぞれの言語を学ぶことは容易なのです」
「そうなのですね」
「イタリア語とフランス語、スペイン語もです」
 警視正は今度はこの三つの言語についても話した。
「この三つの言語の違いは極端に言えば方言のようなものです」
「方言ですか」
「そうです。方言なのです」
 また述べる警視正だった。
「ですから学ぶのはかなり容易なのです。しかし」
「日本語はそうはいかないと」
「先程申し上げたスペインで」
 そのスペインの中の話であった。
「バスク語というものがありますがこれも厄介な言語と言われています」
「バスク語とそれ以外」
 役はまた述べた。
「それだけ異質な言語だと言われていますね、あのバスク語は」
「はい。そして日本語も」
 その日本語もであった。彼等にしてみればまさにそうなのである。
 
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