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夜の影

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第二章


第二章

「こうした仕事をしていると」
「はい。警察の中でも公にできない犯人を相手にするならば」
 犯人が人間とは必ずしも限らない。これは彼等の中では常識の話であった。
「どうしてもそうなってしまいます」
「その通りです。しかし今度は」
「また悪魔が犯人でしょうか」
「さて」
 役は今の警視正の問いにはすぐには答えはしなかった。まずは一呼吸置いてきたのであった。
「可能性は否定できませんが」
「悪魔ではないのですか?」
「悪魔という種族がこの世に何かしてくる場合は必ず一つのルールがあります」
 彼は全てがわかったような口調で話をはじめてきた。
「そう。それは」
「契約ですね」
「その通りです。悪魔は契約によって動くものです」
 人間との契約においてだ。キリスト教世界の悪魔というものはまず契約をしてそこから動く。言い換えればその契約がなければ何もできはしないのである。
「しかしそれがあるかというと」
「調べてみないとわかりませんね」
「はい。それがなければまた別の存在になります」
 彼は話した。
「それが何であるかが大きな問題になります」
「悪魔でない場合ですか」
 警視正は彼の言葉を聞いてまた考える顔になったのだった。
「だとすればそれは一体」
「私にもそこまではまだわかりませんが」
 役の今の言葉は少しばかり歯切れが悪くなった。
「ですが。まずは調べます」
「御願いできますか」
「では本郷君」
 役は自分の横にいる本郷に顔を向けたうえで声をかけた。彼はまだ食べていた。パンをビールで流し込んでいる最中であった。
「行くか」
「今からですか」
「そうだ。このユトレヒトに出る」
 こう彼に告げたのだった。
「そのうえで調べよう。それでいいな」
「はい。仕事ですからね」
 役の言葉にぶっきらぼうに答えた役だった。
「行きますか」
「では食べ終えてからな」
 とりあえずはこれは最後まで果たさなければということだった。
「街に出よう。それでいいな」
「わかりました。それじゃあ」
「それでは私も」
 警視正も二人が調査に入ると聞いて急いで自分の食事を食べはじめた。
「ご同行させて頂きます」
「警視正がですか」
 本郷は彼の地位を言ってから尋ねた。
「御一緒ですか」
「ははは、何しろ人手不足でして」
 本郷の問いにその禿げ上がった頭の下の顔を明るく笑わせてきた。それまでは深刻な顔であったがそれが一気に明るいものになっていた。
「私もいつも現場にいますよ」
「そうなのですか」
「悪魔や妖怪が相手ですと」
 彼は言う。
「どうしても相手をする人間も限られてしまいますからね」
「そうですね」
 これはよくわかる本郷だった。何しろ彼にしろ役にしろその仕事をしているからだ。同じ仕事をしているからこそわかることであった。
「おかげで俺達はそのおかげで引っ張りだこですから」
「日本だけで仕事をされているわけではないと御聞きしています」
 警視正はまた彼に言ってきた。
「このように日本以外の国でも」
「そうなのですよ。フランスに行ったこともありますし」
 本郷はこのことについて警視正に話をはじめた。
「あとドイツなんかも」
「ドイツにもですか」
「はい、あの国にも行きました」 
 警視正に話す。
「欧州ですと他にはイギリスやスペインや。スウェーデンでも仕事をしてきています」
「本当に色々回られているのですね」
「EUの国は一通り回りましたよ」
 また笑って警視正に話した。
 
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