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特殊陸戦部隊長の平凡な日々

作者:hyuki
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第1話:ハイジャック事件

 
前書き
"機動6課副部隊長の憂鬱な日々"の続編開始です。 

 
時に新暦79年の春。
所は第1管理世界ミッドチルダの中心都市であるクラナガン。
港湾地区の片隅にその建物は立っていた。

さかのぼること4年前。
次元世界全体を揺るがしかねない大事件であったJS事件に深く関わり、
その解決に大きな役割を果たした機動6課が、当時隊舎として使っていたものだ。

だが、今はとある部隊が隊舎として使っている。
今やちょっとした有名人である、元機動6課部隊長の八神はやてが
当時使っていた部屋には、一人の男が居た。
その男、ゲオルグ・シュミット2佐はその両足を机の上に投げ出し、
スナック菓子をポリポリとかじりながら目の前に浮かんだウィンドウに映る映像を
眺めるという、だらしないことこの上ない格好でいる。

『只今から予定を変更して緊急ニュースをお伝えします。
 今から30分ほど前、クラナガン次元港において次元航行船の
 乗っ取り事件が発生しました。
 乗っ取られたのは・・・』

画面の中の女性アナウンサーが真剣な表情で語っているさまを
ゲオルグはぼんやりと眺めていた。
しかしその眼は真剣そのもので、画面を睨みつけているようにも見える。

《マスター。動かなくていいんですか?》

姿なき声が部屋の中に響くと、ゲオルグはその頭を自らが座る椅子の背もたれに
預け、目線を部屋の天井へと向ける。

「クロノさんからの命令が下りてこないんじゃ動きようがないだろ。
 それに、この程度の事件ならウチが出張ることもないな。
 次元港の警備部隊で十分対応できるさ」

ゲオルグはそう言って再び画面へ目線を戻す。

《そううまくいきますか?》

「今日は早く帰りたいからな。 そう願ってるよ」

《そういえば今日はヴィヴィオさんとトレーニングの約束をしてましたよね》

「そういうこと。 それに最近帰りが遅いからなのはに負担をかけちゃってるし」

《なるほど。 なのはさんが怖いんですね?》

「・・・ま、否定はしないよ」

ゲオルグはそう言うと眉間にしわを寄せた。
不機嫌さを隠そうともしない表情で見つめる画面の中では
次元港の前に立つレポーターが早口で喋っている。

(報道管制は順調・・・か)

先ほどからどの放送局でも乗っ取り事件について報道してはいるが、
その内容は事件の発生状況について概要を説明するばかりで、
管理局側の具体的な対応などについては一切報道していない。
人質救出作戦の実行にあたって犯人側へ作戦の情報を与えないために
報道内容を管理局が規制しているのである。

報道管制がマニュアル通りに行われていることに満足し、
急角度を描いていたゲオルグの眉はわずかにその角度を緩める。

「さて・・と」

ゲオルグは一人きりの部屋で小さく呟くと、足を床に降ろすと背筋を伸ばし、
手元のパネルを操作する。
数秒おいてゲオルグの眼前にウィンドウが現れる。
画面の中では茶色い制服を着た女性が敬礼をしている。
ゲオルグは軽く手を上げて返礼すると、用件を切り出した。

「現地の通信回線と映像の秘匿回線は傍受してるよな。
 どっちもこっちに回してくれ」

女性が硬い表情で頷くと、少ししてゲオルグの前に新たなウィンドウが現れた。
そこには、次元港の片隅にある民間用の次元航行船と突入の準備をしている
次元港警備部隊の隊員たちの姿があった。

「ありがとう、引き続いてそっちでもウォッチしといてくれ」

ゲオルグはそう言って最後にニコッと笑ってから通信を切った。
ウィンドウが閉じるのと同時に、ゲオルグの表情はもとの少し不機嫌にも
見えるものへと変化した。
その眼は次元港の映像に、耳は次元港警備部隊の通信音声に向けられている。

『第1小隊は船体後方から接近。 第2小隊は船体前方の緑地帯で狙撃体制。
 作戦開始時刻は・・・』
 
警備部隊の部隊長の声で隊員たちへと指示が飛ぶ。

(マニュアル通りか・・・。ま、大丈夫だろうけど・・・)

傍受している通信音声を聞いて警備部隊がとろうとしている作戦の大枠を把握した
ゲオルグは、マニュアル通りの対応に安堵しつつも、心の片隅がざわつくのを
感じた。

(まさかこっちの動きが読まれてるなんてことは・・・)

そこまで考えてゲオルグは己の悪い予感を振り払うように首を振る。
が、一度浮かんだ疑念は晴れず、しばらく悩んだ挙句ゲオルグは通信をつないだ。
ゲオルグの前に現れた2つの通信ウィンドウの片方には1人の男性が、
もう片方には同じく1人の女性が映っていた。

「よう。忙しいとこ悪いんだけど、ちょっと頼まれてくれないか?」

ゲオルグが画面の中の2人に向けて声をかけると、男性のほうは黙して頷き
女性のほうはあからさまに嫌そうな顔を見せた。

『どうせまた面倒なことを言い出すつもりなんだろう?』

銀色のロングヘアーを掻き上げながらそう言う女性士官にゲオルグは苦笑していた。
まあそう言うなと彼が返すと、一見子供のようにも見える女性士官は
眉間に寄せたしわを深くする。

『お前はいつもそうだ。私はいつだってお前に振りまわされるばかりではないか』

「お前に負担がかかってるのは悪いと思ってるよ、チンク。
 でも、他にお前の役目を任せられる人材に心当たりがないんでね」

『それを見つけてくるのが部隊長の役目ではないのか?』

「探してはいるからもう少し辛抱してくれって」

頭を掻きながらゲオルグが返すと、画面の中の女性士官・・・チンクの手が
わずかに震えだす。

(あ、やばい・・・爆発するか・・・?)

チンクの怒りに火がついたことを感じたゲオルグは、その爆発に備えて身構えた。

『えっ・・・と、本題には移らないので?』

チンクがその口を開こうとした瞬間、もうひとつのディスプレイの中にいる
男性士官が言葉を挟んできた。

「そうだった。 じゃあ、早速本題に入るな」

男性士官・・・クリーグ3尉の言葉を合図に、ゲオルグはその顔を真剣な表情へと
戻し話し始める。

(おぉ、ナイスタイミング!)

・・・という内心はおくびにも出さずに。

「2人とも、次元航行船の乗っ取り事件の報道は見てるよな?」

ゲオルグの問いかけに対して、2人は黙って頷く。
もっとも、怒りを爆発させ損ねたチンクは不承不承の体ではあったが。

「なら結構。 で、念のためなんだが命令があり次第出動できるように準備を頼む」

ゲオルグがそう言うと、2人とも怪訝な顔をする。

『提督からの指令はまだなんですよね?』

『クリーグの言うとおりだ。 時期尚早ではないのか?』

「命令が出てからじゃ遅い。 命令が出次第即応できる態勢を整えるのも
 俺達、特殊陸戦部隊の仕事のうちだ」

ゲオルグの言葉にクリーグは納得した顔で、チンクはやはり不満げな顔で頷いた。

「では、イーグル・フォックス両分隊は即時出動準備を」

『了解』

2人がそう言って手を上げて敬礼すると、ゲオルグの前のディスプレイは消えた。
ゲオルグが続いて手元のパネルに手を伸ばすと、再び新たなディスプレイがその前に
現れる。
今度は30歳くらいのひげを生やした男性の士官が現れた。

『何か御用でしょうか、部隊長』

「ティルトローターの出動準備を頼む」

『了解です。 ・・・次元港ですか?』

「そうだ。 ま、念のためだけどな」

『わかりました、準備を進めておきます』

男性士官・・・アバーライン3佐が小さく頷くとディスプレイはゲオルグの前から
その姿を消した。

(ふぅ・・・3佐は話が早くて助かるな・・・)

ゲオルグは大きく息を吐くと、再び次元港からの映像に目を向けた。





しばらくして、甲高い電子音とともに1つの通信ウィンドウが
ゲオルグの前に現れた。
その中にはゲオルグにとって友人といえる女性が座っていた。

『おはようゲオルグくん。ひさしぶりやね』

そう言って手を振る画面の中の女性は、機動6課の元部隊長であり、
現在は本局捜査部の上級捜査司令を務める才女、八神はやてその人である。
だが、この有名人をもってしてもゲオルグの態度はゆるぎない。

「はやてか。何の用だよ?」

冷たい口調で言うゲオルグに対して、はやてはにこやかな表情を崩さない。

『ずいぶんつれへんやん。友達に連絡するのに用事がないとあかんの?』

わずかに眉を下げて困ったような表情を作るはやてに、ゲオルグは肩をすくめる。

「一応これでも仕事中なもんでね。しかもテロ事件が発生してるようだし」

『テロ事件が発生してる割にはずいぶんヒマそうやん。
 特殊陸戦部隊の隊長さんが』

ニヤニヤと笑っているはやての言葉に、ゲオルグは苦笑を返す。

「おかげさまで、優秀なスタッフに恵まれてるもんでね」

『知っとるよぉ。 うらやましい話やわ』

「ウチは他の陸戦部隊じゃ対応できない時に投入される部隊だからな。
 それなりの戦力は寄越してもらわないと」

『それも知っとるけど、うらやましいもんはうらやましいねんって』

「はいはい」

ゲオルグは投げやり気味に返事をすると、机の上のカップに手を伸ばす。

「それで、捜査部の方は何もしなくてよろしいんですか?捜査司令どの」

『テロ事件はウチの管轄外やないもん』

はやてはそう言って口をとがらせる。

「管轄外? お節介なはやてらしくないな」

『お節介ってなによ!?』

はやては不機嫌そうに顔をしかめ不平を鳴らす。

『それはまあ置いといて、前にテロ事件が発生した時に現場まで出張って行ったら、
 余計なことをすんなって捜査部長に怒られたんよね・・・』

「はぁ? なんでまた・・・」

『部長曰くテロ事件の現場解決は戦闘部隊の仕事で、捜査部の仕事は
 容疑者が有罪である証拠を集めることなんやて』

そのときのことを思い出し、さらに不機嫌の度を増す画面の中のはやてに向かって
ゲオルグは同情の視線を送る。

『そやから、テロ事件には顔を出しづらいんよ』

はやてはそう言うと自分の椅子の背に身体を預けた。

「それは・・・」

ご愁傷さま、と返そうとしたとき視界の端にある画面の中で動きがあった。
ゲオルグは椅子に預けていた上体を起こし、身を乗り出すようにして
その光景に見入る。

それは映像の中の隊員たちが船体に近づき、突入の指示を待っているときに起きた。
唐突に警備部隊の隊員たちがバタバタと倒れ始めたのである。

(なっ!)

バンと机を叩いて立ちあがったゲオルグが見つめるウィンドウの中では
次々と倒れる隊員たちと、それを間近で見せられ慌てふためき逃げ惑う
その同僚たちが映っていた。
通信回線の方は彼らが上げる悲鳴や叫び声でいっぱいになり
もはや指揮系統は完全に寸断されていた。

(まずいな・・・)

顔をしかめたゲオルグは机の上のコンソールを操作して通信をつなぐ。
それぞれの画面の中ではチンク・クリーグ・アバーラインの3人が
神妙な顔をしていた。

「俺だ。 次元港での乗っ取り事件だが警備部隊の突入作戦が失敗した」

ゲオルグの言葉に3人とも頷く。

『私も見ていた。 出動か?』

「命令はまだだが、すぐにも来るはずだ。 準備は完了しているか?」

『私のところは完了している』

『俺のところもです』

『ティルトロータの出撃準備は完了しています』

3人の回答にゲオルグは頷く。

「了解だ。 別命あるまで現状を維持して待機」

ゲオルグの言葉にチンク達3人は了解と返答した。
ゲオルグははやてが映る画面へと目を向ける。
画面の中のはやては先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情をしていた。

『私も見てたけど、そっちは忙しくなりそうやね』

「まあな。 んなわけで悪いんだけど・・・」

『ええって。 それより気ぃつけて』

「判ってる。 じゃあ、またな」

『うん。またね』

最後にはやてはにっこりと笑って通信を切断した。

一方のゲオルグは更に別の相手との通信回線を開いた。

『ゲオルグくん? どうしたの?』

新たに開いたウィンドウには彼の愛妻・・・高町なのはが
戦闘訓練用のトレーニングウェア姿で立っていた。

「ん? ひょっとして教導中か?」

『うん。 でも少しなら大丈夫だよ。 何かあったの?』

なのははそう言うと不安げな表情を見せる。

「次元港で乗っ取り事件が起きてるのは知ってるか?」

『うん。ニュースで見た程度だけど』

「その件で今日は遅くなるかもしれない」

『出動?』

なのははその顔に表れた不安の色を濃くする。

「命令はまだだけどな」

『そっか・・・気をつけてね』

「判ってる。 それと、いつも苦労をかけて悪いな」

『ううん。じゃあね』

なのはは微笑を浮かべると通信を切った。
ゲオルグはなのはを映し出していた画面のあった場所をしばらくじっと見つめた後、
自らに喝を入れるべく強く息を吐いた。
そして時をおかずに新たな通信ウィンドウがゲオルグの前に開かれる。

『やあ、ゲオルグ。 何の話かはわかっているな?』

ウィンドウの中ではゲオルグの上司であるクロノ・ハラオウン少将が
眉間にしわを寄せていた。

「わかっているつもりです。 次元港の件ですよね?」

『そうだ。 さっきまで次元港の警備司令と交渉していたんだが、
 強行突入が失敗したことで折れた。今すぐ出てくれ』

「了解です。 ミッションルールは?」

『人質は全員無傷で救出。 実行犯は全員生きたまま捕まえてくれ。
 現地の情報は警備司令に聞いてくれればいい。 細かいところは任せる』

「判りました。では」

ゲオルグが敬礼すると画面の中のクロノは小さく頷いてから通信を切った。
通信ウィンドウが閉じると、ゲオルグは再び自らに喝を入れるように
強く、短く息を吐くとチンク達の通信ウィンドウに向き直った。

「聞いてたか?」

短く尋ねると、3人は黙して頷く。
ゲオルグはそれを見て満足げに3人に向かって頷き返す。

「よし、では出動だ。 イーグル・フォックス両分隊は全員5分以内に
 ティルトロータに搭乗。 状況説明は機内で行う。 以上だ」

「了解」

3人は揃って返事をすると通信を切った。
ゲオルグは自分の机を回り込み、自室と廊下を繋ぐドアへと向かう。
廊下には副官のフォッケ3尉が直立不動で待っていた。
ゲオルグが"ついて来い"と合図をすると、フォッケは半歩遅れて続く。

「俺はイーグルとフォックスを率いて次元港に行く。
 ここにはファルコンを残していくから、指揮はお前に任せる。
 情報収集と隊舎の警備を頼む。 
 ま、要はいつもの通りだ。 いいな、フォッケ?」
 
「心得ています。 任せてください」

フォッケが真剣な表情で頷くと、ゲオルグは立ち止まって振り返り
口元に笑みを浮かべた。

「頼りにしてるよ。 じゃあな」

「はい、お気をつけて」

フォッケはそう言ってゲオルグに向かって敬礼する。
ゲオルグは片手をあげてそれに応えると、フォッケに背を向けて足早に歩きだした。
階段を駆け上がり屋上に出ると、そこには1機の飛行機が待っていた。
その両翼では大きめのプロペラが上に向いて回転していた。
ゲオルグが機体後方に大きく開いた乗降口から機内に入ると、
両側に座っていた20人ほどが一斉にゲオルグの方を見る。

「待たせたな、揃ってるか?」

「イーグル分隊は揃っている」

「フォックス分隊も全員搭乗済みです」

ゲオルグの問いかけに対し、両分隊の分隊長たるチンクとクリーグが答える。

「よしっ、離陸だ!」

「了解です。離陸します」

機体前方にある操縦室からの返答が機内に響くと同時に、
機体はわずかに左右に揺れながら上昇していく。
窓から隊舎の全景が見える程度に高度があがると、プロペラの角度が
前向きに変わり機体が加速し始める。

機体が安定したところで、ゲオルグは隊員たちの顔を見ながら
機体前方へと移動していく。
隊員たちは作戦開始に向けてそれぞれに準備を進めていた。
時折ゲオルグと目が合うと、ほぼ例外なく笑顔を向ける。

(うん、みんな落ちついてるな)

ゲオルグは隊員たちの様子に安心している自分に、わずかな自嘲の混ざった
妙な可笑しさを覚えて苦笑する。

(この精鋭には要らない心配か。我ながら心配性というかなんというか・・・)

隊員たち間を抜けて前方に出たゲオルグが、一番前に座っている2人の分隊長に
目線を送ると、2人は立ち上がってゲオルグの側に寄ってくる。
2人が側に来たことを確認したゲオルグは、1つの通信ウィンドウを開く。
そこには茶色い制服を着た男が立っていた。

「本局テロ対策室直属、特殊陸戦隊の部隊長のシュミット2佐です。
 テロ対策室長のハラオウン少将からの命により、そちらで発生している
 乗っ取り事件の鎮圧にあたることになりました。
 ついては現在の状況について情報を頂きたい」

ゲオルグがそう言うと、画面の中の男は余裕のない表情で頷く。

『自分はミッドチルダ次元港警備司令、ウォルフ2佐です。
 そちらが出動されることは先ほど少将より連絡を受けました。
 必要なら情報だけでなく装備などの援助も可能です。
 必要なものがあれば何でも言ってください』

「ありがとうございます。 必要になれば遠慮なく甘えさせていただきます。
 で、早速で申し訳ありませんがそちらで実行された突入作戦の概要と
 現在の状況を教えて頂けませんか?」

ゲオルグは微笑を浮かべて言う。
一方、ウォルフの表情は硬かった。

『判りました』

ウォルフは一旦言葉を止めて咳払いをすると話をはじめた。

『我々は総勢15名の部隊を2つに分けて次元航行船の前後から挟撃する形で
 船内へ突入する計画でした。
 もちろん、さまざまなセンサや船長と次元港の管制官の交信音声から
 船内および周辺の状況についての情報収集をしたうえでのことです。
 結果、乗っ取り犯は船内にのみ居て、その数は5ないし10との結論を得ました。
 その結果、15名という突入部隊の規模と前後挟撃という作戦を決めたのです』

「管理局のマニュアル通りですね」

『そうです。ですが突入作戦の開始直前に我が方の隊員たちが
 次々と倒れ始め、撤退するのがやっとでした』

ウォルフはそう言うと、申し訳なさそうに目線を落とす。

「何があったんです?」

ゲオルグの問いかけに対しウォルフは首を横に振った。

『正確なところは判りません。ですが、私が思うに狙撃されたのではないかと』

「狙撃・・・ですか? ですが乗っ取り犯が狙撃するとは考えにくいのですが」

『あなたの言うことは判ります。 ですが、部隊を配置につかせる前に
 次元港の敷地内については入念にスキャンしましたし、映像を見て頂ければ
 判ると思いますが乗っ取り犯が立てこもっている次元航行船の中から
 外に向かってなんらかの攻撃をした形跡もないんです。
 遠距離からの狙撃としか考えられません』

強い口調で断定するウォルフの言葉にゲオルグは頷けず、軽く手を上げる。

「待ってください。 魔法攻撃なら隔壁で隔てられていても実行可能ですよね?」

『いえ、隊員たちは魔法攻撃に倒れたんではないです。
 連中は実弾を用いた狙撃によって負傷したんです』

「なんですって!?」

ゲオルグは驚きを隠せず、思わず大声で問い返す。
機内の隊員たちがその声に驚き不安げにゲオルグの方を見ていた。

「少し落ちつけ、ゲオルグ。 あいつらが不安がっているぞ」

チンクは小声でそう言いながら、クイッと隊員たちの方を指さす。
ゲオルグが目を向けると、隊員たちと目があった。

(マズイマズイ。俺がコイツらを不安にさせてどうするよ・・・)

ゲオルグは何度か深呼吸して気分を落ち着けると、画面のなかのウォルフに
目を向けた。

「取り乱して申し訳ない」

『いえ、大丈夫ですよ』

ウォルフは一瞬苦笑するが、すぐに元の表情へと戻る。

「ところで、実弾狙撃を受けたのなら人的被害は・・・?」

『いえ、幸い死者は出ませんでした。 かなりの数が重傷を負いましたがね』

「そう・・・ですか」

『何か気になることでも?』

ウォルフに尋ねられ、ゲオルグは何度か両目を瞬かせる。

「なぜです?」

『死者はいないと私が言ったときに、意外そうな顔をされましたので』

ウォルフの言葉にゲオルグは一瞬目を見開き、次いで苦笑しながら頭をかいた。

「顔に出てましたか・・・。 正直言って、実弾での狙撃を受けて
 一人の死者も出ないというのはかなり意外でして」

『そうですか?』

「ええ。 狙撃にしては精度が悪すぎると思うんですよ。
 まあ、次元港の敷地外からであれば最短でも2000m以上の距離がありますから
 よほど高度な訓練を積んでいなければ難しいとも思いますが」

『なるほど』

ウォルフは感心したように何度か頷いた。
一方ゲオルグは、情報は十分か確認するためにチンクとクリーグに目を向ける。
ゲオルグの視線の意味を理解した2人は無言で首を縦に振った。
ゲオルグはチンクとクリーグに向かって頷き返すと、再び画面の中のウォルフに
向き直った。

「貴重な情報をありがとうございました。 20分ほどで到着しますので
 そちらは次元港内の秩序維持をお願いします」

『了解しました。 我々で協力できることがあればなんでも言ってください』

「ありがとうございます。では」

ゲオルグとウォルフは互いに敬礼を交わし合い、通信を切る。
ゲオルグは大きく息を吐くと2人の分隊長の方に向き直った。

「ということだが、どう思う?」

ゲオルグが尋ねると、腕組みをしたチンクが口火を切った。

「次元港の警備部隊が受けたのは狙撃で間違いないだろうな」

「根拠は?」

チンクの言葉にクリーグが疑問を呈する。

「これだ」

チンクはそう言って新たなウィンドウを開いた。
そこには次元港のターミナルビル屋上に据え付けられたカメラからの
映像が映っていた。
突入に備えて次元航行船の近くで待機していた警備部隊の隊員たちが
次々に倒れていく。

「ははぁん、なるほどね」

ゲオルグは映像を見てチンクの言わんとしていることを理解し、
口元に笑みを浮かべて頷いた。

「解説してもらえませんか?」

だがクリーグは理解できず、降参とばかりに両手を挙げた。

「隊員たちが狙撃を受けた個所を見れば判るのだが、
 狙撃の命中弾による衝撃は全く同じ方向に加わっている。
 近距離からの攻撃でこうはいかない。 実弾による攻撃である以上、
 このような特徴を持つ攻撃方法は狙撃以外にありえない」

わずかに胸を張りつつチンクが説明すると、クリーグは納得したように頷いた。

「あ、なるほど。 そりゃそうだ」

「理解したか? で、問題は狙撃位置なんだが・・・、どう見る?」

ゲオルグは2人に向かって尋ねながら、新しいウインドウに次元港近辺の
地図を映し出した。
3人はそれぞれに考え込みながらその地図を睨みつける。

「映像から判断するに、方向はこちらだな」

チンクはそう言いながら狙撃方向を示す線を地図の上に書き込んだ。
3人は地図の上の線を目で追っていく。
やがて3人の目は地図上のある一点で止まり、お互いの顔を見合わせた。

「ここだな」

そう言ってゲオルグが指差したのは次元港の敷地の側にある倉庫だった。
チンクとクリーグはゲオルグに向かって無言で頷く。

「で、作戦はどうします? 単に降下すれば同じように狙撃を食いますよ」

自分の方を窺いながら尋ねるクリーグの言葉に対し、ゲオルグは目を閉じ、
腕組みをして考え込む。
しばらくして目を開けたゲオルグの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

「こういうのはどうだ?」

ゲオルグは自分の作戦案を2人に向かって説明し始めた。
説明が進むにつれてチンクとクリーグ、それぞれの表情が変化していく。
ゲオルグの説明が終わったとき、2人の表情は対照的だった。

「さすが、分隊長ですねぇ・・・人が悪い」

クリーグは苦笑しながら言う。

「お前は絶対にいい死に方をしないぞ。 断言してもいい」

一方、チンクは嫌なものでも見るかのような目をゲオルグに向けていた。

「だが、いい作戦だな。 認めたくはないが」

最後にチンクはボソっとそう言って立ち上がった。





同じころ、次元港の敷地の側にある古びた倉庫の屋上では、
3人の男が床に座って話しこんでいた。

「マジで当たるとは思わなかったぜ。 ホントにスゲエよ、この銃」

「だな。 管理局に一発食らわせてやれるなんてスッキリするぜ」

「おう。これでヤツラもオレらの要求を聞くしかねえよな?」

ダボっとした服装で長い銃身の狙撃銃を抱く3人は、タバコを吸いながら
高笑いをしていた。
その中でも一際ガタイのいい男が後を振り返りながら、
小柄で痩せた男に声をかけると、彼は乾いた笑い声を発する。

「ははっ、まさか。 本番はこれからだよ」

男の言葉に3人はお互いに顔を見合わせるが、しばらくして
男の方に顔を向けると、揃って大きな笑い声を上げる。

「心配ねえよ、俺たちにかかりゃどんなやつらだって一発だぜ」

3人の中ではリーダー格なのか、ガタイのいい男が威勢のいい声でそう言うと、
他の2人は歓声をあげる。

「威勢がいいのは結構ですが、今度来る連中は警備部隊とは比べ物になりません。
 彼らはこのような事案を専門にしている部隊です。
 油断は大敵だと思いますがね」

男はそう言って注意を促すが、3人の男たちの口からは威勢のいい言葉が
次々に飛び出すばかりだった。

「頼もしい限りですね。 ま、その調子でお願いしますよ。
 あなたがたのお仲間の命もかかっていることですし」

男は3人に背を向けて階段の方へと歩みを向ける。

「おい、どこ行くんだ?」

背中から大きな声で呼び止められると、男は小さく舌打ちする。
その表情からは苛立ちが見て取れた。
が、男は笑顔を作ると3人の男たちの方へと振り返った。

「用を足しに行くんです。 すぐ戻りますよ」

「おう、判った! 早くな!」

背後から追ってくる言葉に片手をあげて応える男の顔は、
苦虫を噛み潰したように歪んでいた。

(バカな連中だ・・・)

階段を降りながら、男は自分の耳にイヤホンを突っ込んだ。
同時に雑音混じりの通信音声が男の耳に飛び込んでくる。

『シャドウよりポート・コマンド。 5分後に降下を開始する。
 降下ポイントはA29』

『ポート・コマンド、了解』

ゲオルグとウォルフの通信を介した会話を聞いて、男はニヤリと笑う。

(いよいよか。 さて、お手並みを拝見させてもらいますよ、シュミット2佐)

男は軽い足取りで階段を下りて行き、1階のフロアにたどり着いた。
そこで一瞬立ち止まり、階段の上に目をやる。

「まあ、この程度であなたがたをどうにかできるとは思ってませんがね。
 彼らにはせいぜい私のデータ収集のために役立ってもらいましょうか・・・」

男は呟くようにそう言うと、足早に倉庫を後にした。





次元港の建物では、警備司令を務めるウォルフ2佐が窓越しに
乗っ取られた次元航行船を眺めていた。

「司令、コンコースの騒ぎは収まりました」

「そうか・・・」

報告に来た警備部隊の女性隊員は、うわのそらで返事をする上司を訝しんだ。
ウォルフの目は次元航行船ではなくその上空に向けられていることに
彼女は気づいた。
そちらに目を向けると、1機の航空機がゆっくりと次元航行船の真上に
近づいてきていた。

「あれはAST-21・・・。 特殊陸戦部隊ですね」

「そうだな・・・」

「私、実際に見るのは初めてなんです」

「私もだよ。 我々の参考になるかは判らんがね」

「そうですね」

2人は窓越しにだんだん大きくなってくる航空機の姿を追う。

「ところで、あんなのんびりと現場に飛んできていいんですか?
 ウチの人たちは狙撃でやられたんですよ」

「私たちは彼らの作戦に口を出す立場にないよ」

「それはそうですけど・・・」

「それにだ」

ウォルフはそこで一呼吸おいて、鼻から大きく息を出す。

「彼らはこの種の鎮圧に関してはプロフェッショナルだよ。
 私たちとは違ってね」

ウォルフはそう言って自嘲気味に鼻で笑う。

「まったく・・・。 次元港という重要施設を警備するものとしては
 手落ちがあったと非難されても文句は言えんな・・・」

ウォルフが独り言のつもりで呟いた最後の言葉は、実際のところ
少し離れて立つ女性隊員の耳に届いていた。
彼女はウォルフの方に一瞬目を向けてから、再び窓の外に見える航空機へと
目を移す。

(ゲオルグ・・・あんたの手腕、しっかりみせてもらうからね)

彼女は航空機に乗り込んでいるであろう弟を思い、その金髪をかきあげた。
彼女の名はエリーゼ・シュミットという。





倉庫の屋上で、男たちは自分たちの頭上を通過していく航空機を眺めていた。

「ありゃあ、管理局の新型輸送機じゃねえか?」

「確かそうだぜ。 試験中だっつう話だったけどな」

「あれがアイツが言ってた本番ってヤツか。 どうするよ?」

3人のうちのひとりが不安げな表情で言う。
だが、リーダー格の男はそんな彼を笑い飛ばした。

「はんっ! 精鋭だろうとなんだろうと、飛行機ってのは降りる瞬間が
 一番弱えんだ。 そこをコイツで狙ってやりゃあ一発だろ」

「でもよ、コイツにあの飛行機を落とすだけのパワーはねえぜ」

ひとりがリーダー格の男に向かって自分の持つ銃を掲げながらそう言うと、
リーダー格の男に睨みつけられる。

「ボケ! 生身の局員がノコノコ降りてきたところを狙い撃ちゃあいいじゃねえか。
 そんくらいは考えろや!」

リーダー格の男は苛立った様子で吸っていたたばこをもみ消す。
その間に航空機は彼らの仲間が乗っ取っている次元航行艦の真上にたどりつくと、
上空でホバリングしながら機体後部の扉を開く。
大きくあいた扉から何本かのロープが投げられ、中から隊員が姿を現す。

「おら! あいつらが降下すんぞ。 しっかり狙えよ」

リーダー格の男が叫ぶようにそう言うと、他の男たちは慌てて屋上の端に伏せ
ロープをつたって降下し始めた隊員たちに狙いを定めた。
彼らが息を止めて引き金を引き絞る。
バシュっ、というサイレンサーで音を消された独特の発射音とともに
撃ちだされた弾丸は正確にロープで降下する隊員の身体を撃ちぬく・・・
はずだった。
だが、スコープの中の隊員は何事もなかったかのように降下し、地面に足を付ける。
その向こう側で彼らの撃った弾が硬い地面を砕いた破片が飛び散った。
まるで、隊員の身体をすり抜けたかのように。

慌てて次を撃とうと準備する彼らの背後で、スタっという音がする。

「おーおー結構いい狙いしてるなぁ。 ありゃ命中コースだ」

聞きなれない声に驚き、3人は後を振り返った。
そこには、真っ黒な衣装を身にまとった金髪の男が立っていた。
ニヤリと笑う男の手には湾曲した刀剣が握られている。

「だ、誰だてめえ!」

突然現れた男から一番近くにいたリーダー格の男は後ずさりながら叫ぶ。

「時空管理局本局特殊陸戦部隊 部隊長のシュミット2等陸佐だ。
 お前らを殺人未遂・質量兵器管理法違反・民間次元航行船運航管理法違反および
 公務執行妨害の容疑で拘束する」

ゲオルグが真剣な表情でそう言うと、リーダー格の男は懐から
一丁の拳銃を取り出した。
男は素早くゲオルグに狙いをつけ、ためらいなく引き金を引いた。

「・・・なめてんじゃねえぞ、コラ」

不機嫌そうに眉を吊り上げたゲオルグがレーベンを振った。
直後、からんという音とともに男が放った弾丸がゲオルグの足元に落ちた。
真っ二つに切り裂かれて。

「なっ・・・!」

男は絶句し、次いでじりじりと足を引きずって下がる。
その顔には怒りと焦燥とわずかな恐怖が混じっていた。

「面倒臭えな、お前らちょっと寝てろ」

ゲオルグは低い声でそう言うと、わずかに腰を落とす。
次の瞬間、ゲオルグの姿は3人の男たちの後ろ側にあった。
ドサっという音とともに、狙撃銃を持った2人は倉庫の屋上に倒れ伏した。
その音につられるようにリーダー格の男が振り返ると、
すでにゲオルグが目の前に居た。

「遅えよ」

ゲオルグは右手で銃の形を作ると、男の額に突き付けた。

「バン!」

ゲオルグの言葉と同時に男は1mほど飛ばされ、他の2人と同じく
屋上に倒れ伏し、意識を失った。

「ふぅ・・・任務完了っと」

3人をバインドで縛ると、ゲオルグはその表情を和らげ大きく息をついた。

「こちらシャドウ01。狙撃犯の拘束を完了。 
 これよりISプログラム4”シルバーカーテン”を解除。
 乗客を救出、乗っ取り犯を拘束せよ」

『イーグル01了解』

『フォックス01了解です』

通信を介したチンクとクリーグの声がゲオルグの耳に届くのと同時に、
次元航行船の上空にいた航空機と地上に降下した隊員たちの姿がかききえ、
次元航行船の近くに着陸していた同じ型の航空機が突然姿を現した。
その後方からは続々と隊員たちが降りてきて、次元航行船を取り囲む。

「うーん、さすがはステラさん謹製。 見事な出来栄えだな」

《そうですね。 あれなら誰も幻影とは気付かないでしょう》

レーベンの声に頷くと、ゲオルグは屋上の端に腰をおろしてタバコに火をつける。

「さて。それじゃあ、我が部隊の手際をとくと確認させていただきますか」

ゲオルグはそう呟くと、大きく煙を吐き出した。
その目線の先には突入を開始する彼の部下たちの姿があった。

『フォックス各員は後部貨物ドアより侵入。 後部客室を押さえる』

『イーグル分隊各員、これより前部客室ドアより突入。
 第1班は操舵室、第2班は前部客室を押さえろ。 行くぞ!』

無線から聞こえてくる声に合わせるように、隊員たちが次元航行船の中へと
入っていく。

『フォックス02以下4名、船体後方の貨物室の制圧を完了しました』

『フォックス01了解。 引き続き貨物室内を探索し、爆発物等の有無を調査せよ』

『フォックス02了解』

『こちらイーグル02。 操舵室にて乗っ取り犯2名を確保。制圧完了』

『了解した。船内各所のセンサーで隠れた乗っ取り犯が居ないか確認して報告』

『イーグル02了解。船内センサーで乗っ取り犯の所在を確認して報告します』

『フォックス06。客室後部の化粧室で乗っ取り犯1名を発見。確保しました』

『フォックス01より06。 確保したままその場で待機。 後で応援を送る』

『フォックス06了解』

「順調順調。 油断すんなよ・・・」

通信回線の音声を聞きながら、ゲオルグは満足げな笑みを浮かべる。

『イーグル02よりイーグル・フォックス各員。船内のセンサーのスキャン結果を
 各自のデバイスに送信します』

ゲオルグは通信を介して飛び込んできた声にすぐさま反応する。

「レーベン」

《了解です、マスター》

ゲオルグの前に小さなウインドウが現れ、次元航行船の船内を現す図と
その上に置かれた10個ほどのマーカーが映し出される。

「10人か・・・意外と多かったな」

ゲオルグは呟くように言う。

「レーベン。ウチの連中の所在を重ねてくれ」

《了解です》

レーベンの返答から間をおかず、乗っ取り犯たちのものとは違う色で、
20個のマーカーが表示される。

「あと少しかな・・・」

再び通信回線からの音声がゲオルグの耳に届く。

『イーグル01よりイーグル各員へ。 客室前部を制圧する。
 センサー情報に注意して行動開始』

チンクの通信が終わると同時に操舵室の後方にあった、味方マーカーが一斉に
客室の中へと入っていく。

『フォックス01よりフォックス分隊各員。 フォックス分隊は客室最後部で待機。
 逃げてくる乗っ取り犯を待ち伏せする』

「よしよし。 同時に突入したら同士撃ちになりかねないからな。上出来だ」

ゲオルグは再び満足げに頷くと、咥えていたタバコをペッと飛ばす。
立ち上がったゲオルグは遠くに見える次元航行船をじっと見つめた。
視界の端にあるウィンドウの中では、乗っ取り犯のマーカーが客室前方から迫る
味方のマーカーに追い立てられるように客室後方へと移動していく。
やがて、客室の最後部に迫ったところで、その動きが止まった。
直後、通信回線を通じてクリーグの声が聞こえてくる。

『フォックス01よりシャドウ01。 すべての乗っ取り犯を確保。
 乗客の確認を開始します』

「シャドウ01、了解」

ゲオルグは通信に答えると、ふうっと息を吐いた。
しばらくして、再び通信が入る。

『イーグル01よりシャドウ01。 乗客は全員無事』

「シャドウ01了解。 ご苦労だった」

チンクへと返答すると、ゲオルグはレーベンに新たな通信ウィンドウを開かせる。
そこにはクロノの姿があった。

「俺です。 次元航行船の制圧を完了。 乗客は全員無事です」

『了解だ。 乗っ取り犯はそっちで引き取っておいてくれ』

「ウチでですか? でも、ウチには捜査機能はありませんよ」

『わかっているよ。 だが、捜査部も今は手いっぱいなんだ。
 初期の取り調べは君らに任せる。 明日には執務官を1人送るから』

「了解しました」

『くれぐれも、情報部仕込みの取り調べはやめてくれよ。 以上だ』

クロノは苦笑しながら最後にそう言って通信を切った。
ゲオルグも同じように苦笑を浮かべていた。

(そりゃフリ・・・じゃないわな、当然)

ゲオルグは真剣な表情に戻ると通信を送る。

「イーグル、フォックス両分隊はティルトロータで帰還しろ。
 乗っ取り犯も連れて帰ってくれ」

『・・・捜査部に引き渡さなくていいので?』

「ハラオウン少将からの指示だ。 構わない」

『了解です。 部隊長はどうされますか?』

「俺はココの警備司令と少し話してから戻る」

『了解しました。 それでは』

通信が終わると、ゲオルグはグッと伸びをして後を振り返った。
彼の眼にバインドで縛られた3人の姿が映る。

「やべっ、コイツらも回収してもらわないと!」

ゲオルグは慌てて通信を繋ぐと、回収に来るように指示を出すのだった。

 
 

 
後書き
こんなお話にしてみましたが、いかがでしょう?
感想を頂けると嬉しいです。 
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