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『曹徳の奮闘記』改訂版

作者:零戦
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第百五話




「負けているのは皆、あんたらが悪いんだッ!!」
「そうだそうだッ!!」
「おめぇらの首を蜀に献上して蜀軍に入れてもらうだッ!!」
「んだんだッ!!」
「だ、黙りなさいッ!! やろうと言うのであれば容赦はしませんわッ!!」
「麗羽さん……」
「下がってなさい雪風さん、この場所では貴女の弓は役に立ちませんわ」

 麗羽は自分の剣を抜いた。麗羽と雪風の周りには殺気立つ味方の筈の仲兵四人が剣を、槍を構えていた。

「その前にこの二人を犯してやろうぜッ!!」
「そうだそうだッ!!」
「それからでも遅くはねぇだッ!!」
「んだんだッ!!」
「黙りなさい下郎ッ!! 私の初めては長門様に捧げる予定ですわッ!!」

 麗羽は斬りかかって一人の仲兵を斬り落としたが、槍兵が麗羽の剣を弾かせた。

「くッ!!」
「やっちまえッ!!」

 仲兵達が二人に襲い掛かろうとした時、一人の仲兵の首が飛んだ。

「そこまでだ屑どもッ!!」
『長門様ッ!!』

 ……何とか間に合ったな。それにしてもよ……。

「早速やらかしてくれたか。さっさと逃げればいいものをなッ!!」

 俺は両足に氣を送り込んで加速し、槍兵を仕留めて槍を投げた。

「ぐぇッ!?」
「兄貴ッ!?」
「一生寝てろッ!!」

 残りの一人には牙突で止めを刺した。

「二人とも大丈夫か?」
「えぇ、助かりましたわ長門様」
「ありがとうございます」
「取りあえず城に戻ろう。もう船は待ってられんな」

 俺は二人を連れて城に戻った。


――玉座――

「今すぐ脱出した方が良いかや?」
「あぁ。麗羽と雪風が襲われたんだ、今すぐ倭国に脱出した方が良い。それに蜀軍も呉まで後十里だ」

 蜀軍とは時間稼ぎのために防衛戦をしていたが、仲兵の士気は低下していたため敗走しやすかった。まぁそれでも恋と星が一騎討ちをして関羽と張飛、張任を負傷させたのは大きかった。
 それでもやがては攻めこまれるのは必然だった。なお、劉ソウ殿配下の部隊はいつでも士気旺盛だった。

「……判ったのじゃ。明日、兵達に全てを話そう」
「ありがとう美羽。それとな、行き先を少し変えさせてくれ」
「どういう事なのじゃ?」
「あぁ、兵達に話す行き先は――」



 そして翌日、美羽は残存の兵を集めた。

「……皆の者、今日まで妾のために忠誠を尽くしてくれた感謝するのじゃ。今日、仲は消滅するッ!!」

 美羽の言葉に兵達はざわめきだす。

「皆の者はすぐに白旗を掲げよ。蜀も降伏した兵に命までは取らぬ」
「袁術様はどうするのですかッ!!」
「妾達はこの地を脱し新たな地へと赴く。その名は高山国じゃッ!!」
「我々も袁術様と同行をしますッ!!」
「そうだそうだッ!!」
「……皆の気持ちは有りがたい。じゃが、皆には故郷があり家族があり妻があり恋人がおる。それを捨ててまで妾達と赴くと言うのか?」
『………』
「……妾達はその気持ちで感謝が一杯なのじゃ。だから我々は此処で別れなければならないのじゃ。皆の者ッ!! 今日までありがとうッ!! そしてさようならなのじゃッ!!」
「袁術様ッ!!」
「袁術様ッ!!」
「袁術様ッ!!」

 美羽の最後の演説に兵達は泣き崩れた。それはかくいう、俺達もだった。そして呉の各所にて白旗が掲げられた。
 美羽達は食料(約三ヶ月分)用意していた大型船に乗り込むが、俺はまだ仕事がある。

「早く沈めろッ!! 蜀軍がやってくるぞッ!!」

 今まで使用していた多くの四斤山砲を海中に投棄していた。これだけは北郷に使わせてたまるかよ。
 ま、それでも船には少数の砲と砲弾があるがな。

「伝令ッ!! 蜀軍が呉に突入してきますッ!!」
「ちぃッ!! 北郷も俺達に総攻撃を命令したなッ!! 海中投棄を急げッ!!」
「王双殿」

 そこへ劉ソウ殿が配下を連れて現れた。

「劉ソウ殿……」
「我等が盾になりましょう。急いで投棄をして下さい」
「しかし……」
「我等は元から船に乗るつもりは有りませぬ。我等の目的は荊州を取り返す事です」
「劉ソウ殿……」

 俺は手を差し出した。劉ソウ殿もそれを読み取ったのか互いに握手をした。

「……さよならは言いません。また会いましょう劉ソウ殿」
「えぇ、また会いましょう。その時は飲みましょう」
「……はいッ!!」
「王双殿……いや長門殿、皆さんと過ごした日々……とても楽しかったです…… 」

 劉ソウ殿はそう言っ馬に乗り込んだ。

「荊州の友よッ!! 荊州が陥落したあの時から今まで私に付いてきてくれてありがとうッ!! 此れが最後の戦いだッ!! 気合いを入れていくぞォッ!!」
『オォォォォォーーーッ!!』

 劉ソウ殿の配下の兵達が雄叫びをあげた。

「全員、我に続けェッ!! 目指すは劉備の頚ただ一つだァッ!!」
『オォォォォーーーッ!!』

 劉ソウ殿はそう言って苦楽を共にしてきた荊州の兵達と共に最後の突撃を敢行した。俺は突撃を敢行する劉ソウ殿に無意識に敬礼をしていた。
 それを見届けた俺は作業を急がせた。

「王双殿、私は此処までです」
「そうか……早く逃げろよ司馬懿」
「はい、また会いましょう」
「おぅ、また会おう」

 司馬懿は予てから離脱宣言をしていたので其ほど問題はなかった。
 司馬懿は女性兵といった格好でその場から去って行った。まぁ司馬懿の事だから上手く逃げれるだろうな。

「大砲の海中投棄完了しましたッ!!」
「よし、お前達も投降していいぞ」
「はい、御世話になりましたッ!!」
「あぁ」

 最後まで作業をしていた兵達は俺にそう言って去って行った。さて、俺も乗り込むか。

「いたぞォッ!!」
「王双だッ!! 引っ捕らえろッ!!」
「副官早くッ!!」
「判っているッ!!」

 後ろから蜀軍が迫っていたが、ギリギリまで警備をしていた高順隊と蒲公英の隊が押さえた。

「蒲公英さん、此処は自分が抑えますッ!! 早く、早く船に乗って下さいッ!!」
「嫌だよ高順さんッ!! 私は貴方と一緒に…… 」

 高順はそう叫ぶが、蒲公英は敵兵を倒しながら叫ぶ。

「聞いて下さいッ!!」
「うぐッ!?」

 高順が蒲公英の腹を殴って蒲公英が倒れた。そこへ翠も駆けつけた。

「行って下さい蒲公英さんッ!! 副官、馬超さん、蒲公英さんを頼みますッ!!」
「高順ッ!!」
「高順さぁぁぁぁぁーーーんッ!! いやあぁぁぁぁぁーーーッ!!」
「行くぞ高順隊に馬岱隊ッ!! 何としてでも蜀軍を船に近づけさせるなァッ!!」
『オォォォォッ!!』

 蒲公英の絶叫に男は振り向かず、男は愛する人を守るために戦場に向かう。しかし、元々戦力が二百名と少ないため多勢に無勢であり二隊は直ぐに壊滅してしまい、高順は蜀兵に囲まれてしまった。

「離して下さい長門さんッ!! 翠お姉様ッ!!」
「高順の気持ちを判れ蒲公英ッ!!」
「翠ッ!! そう言うなッ!!」
「けど……」
「やれやれ。私達に任せてくれませんかな?」
「彦五十狭芹彦命様……稚武彦命様……」

 そう言うなり剣を抜いた彦五十狭芹彦命様と稚武彦命様は駆け出して飛んだ。

『ハアァァァァァッ!!!』
『ウワアァァァァァッ!!!』

 二人はただ飛んで地面に剣を叩きつけただけで蜀兵は吹き飛んだ。

「さ、行きますよ」

 二人は負傷している高順を救出して唖然としている俺達と共に船に乗り込んだ。

「全速で陸地から離れろッ!! 漕ぎまくるんだッ!!」

 蜀兵が矢を放ってくるが、此方も射ち返して凪ぎ払う。そして矢の射程圏外へと抜けた。

「……船団を組む。進路北だ」

 俺はそう言ってゆっくりと溜め息を吐いた。やっと……脱出出来たか。




 
 

 
後書き
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